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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
初対面

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閑話【sideなし】

 リミックの弟、リファラが屋敷を尋ねてきた。


 何もない普通の日。ちなみに火燿日だ。

 普段なら仕事に出掛けているが、今日は日燿日に休日出勤をしたためこの日に休みを当てた。


 リミックの部屋で向かい合いながら、リファラは出された紅茶に口をつける。


 「リードルアの娘を養子にしたというのは本当ですか?」

 「あぁ。それがどうした」


 リミックは末弟が嫌いだ。大嫌いである。その事実を隠そうともしていない。

 リファラも大嫌いだ。


 権力と金で相手を思い通りに動かそうとする典型的な貴族。

 6歳になり覚醒したら使用人への暴言暴力も増えた。

 その度にリファラが末弟を取り押さえて魔力部屋へと押し込む。


 リミックが長兄として役目を果たそうすれば、確実に末弟の命が消え去るからだ。

 いくら嫌いでも実の弟を殺したとなれば、この先の未来でリミックの立場が危うくなる。

 尊敬している兄に危ない橋を渡らせたくない弟なりの気遣い。


 男三兄弟で育ち、生まれた子供も息子が二人。女の子に多少なりとも憧れがあったとしても、よりによって末弟の娘を選ばなくても良かった。


 「あまり言いふらすなよ」


 リミックは養子に迎えた娘が虐待を受けていたことを明かす。

 その理由が単に自分と同じ髪色をしているからであることも。


 末弟がリミックにコンプレックスを抱いていることは見ていればわかる。

 本人はそれを隠すように横柄な態度を取り続けた。

 テロイ家のみに受け継がれる治癒魔法。それを自分ではなく完璧な兄が持ち、周りからの信頼を一人占め。

 世界は自分を中心に回っていると思い込むような人間からしたら耐え難い。


 「バカもここまでくると清々しいな」


 リファラは頭を抱えた。


 くだらなずきる理由にため息さえ出ない。


 何の罪もない幼子を兄に見立てて暴力を振るうなど。

 目も当てられない愚行。


 血の繋がった弟とは思いたくはない。


 「兄さん」


 リファラには聞かなくてはならないことがある。


 なぜ、娘を引き取ったのか。


 リミックには神殿に預ける選択肢がなかったように見受けられる。


 ──なぜ?


 疑問しかない。この世で一番嫌いな男の娘をテロイ家に迎え入れるなど。


 理解が追いつかなかった。


 「失礼します!リミック様、リファラ様」


 ノックの後に返事も待たずに、執事長のテンラスが部屋に駆け込む。


 いつも冷静なテンラスの表情は険しい。


 「申し訳ございません。少し目を離していたら、ニカル様がお部屋からいなくなっていまして」

 「ニカルが部屋を出た!?」


 二人同時に立ち上がる。


 ニカルは生まれ持っての痣のせいであまり外に出ることはない。

 リファラがリミックに会いに行く日は一緒について来る。

 第二の家として落ち着くのだろう。


 「屋敷を出た形跡は」

 「それはありません」

 「ならいい」


 リミックは静かに目を閉じた。

 屋敷内で魔力を持っている人間は少ない。魔力感知に長けているリミックはすぐさま移動を始めた。





 ❁❁❁




 

 「ユーリ様。今日は旦那様のお客様が来ているそうですよ」


 仲良く手を繋いで屋敷内を歩きながら、リンシエがリミックの予定を伝えた。


 時間になっても出掛けなかった謎が解けた。

 いつもならノルエとティアロと出掛けるのに、今日は朝食を終えてもゆっくりとくつろいでいて、不思議に思っていたのだ。


 出社時間が変わることは優里にとってさほど珍しいことではなく、そうなのだろう深くは考えることは無かった。


 「う?誰?」


 魔法部屋に見知らぬ男の子がいた。隅っこで本を読んでいる。


 群青色の髪は落ち着いた色合いで、前髪は顔を隠すように長い。

 髪の隙間から目が合う。深緑の瞳は鮮やかで美しい。


 柔らかい髪が開けていた窓から吹く風に揺れる。


 赤黒い火傷にも似た痣。


 リンシエの驚きはユーリとは別物。


 屋敷に訪れずたニカルはいつも魔力封じの部屋に進んで入る。そして、用事を終わらせたリファラと帰るのがいつもの流れ。


 ニカルが自分を嫌っていることを周りは知っているため、なるべく部屋には人が近づかないようにしていた。


 まさかニカルが魔法部屋にいるとは予想外。


 「ごめ……ごめんなさい!!醜いものを見せてしまって」


 挨拶よりも先に謝罪が飛んできた。


 ニカルはただ怯える。顔を隠すように両手で覆いながら。


 困惑するユーリにリンシエが説明した。

 リミックの弟の息子ニカルのことを。


 「醜くないよ」


 優しく手を掴み下ろすと、今度はハッキリとニカルの顔が映る。


 泣いていた。藍色の瞳から大粒の涙ばかりが零れる。


 「これは痣?痛くない?」


 そっと触れる寸前で手は止まる。

 代わりに涙を拭った。


 ニカルは戸惑うしかない。


 見知らぬ女の子が何のためらいもなく自分に触れたことに。


 「僕のこと気持ち悪くないの?」


 絞り出されたか細い声。

 涙を流す瞳は大きく揺れていた。


 動揺。恐怖。


 あらゆる感情がニカルに襲いかかる。


 「え?何で?」


 キョトンとしながら答えた。


 「どうしてそんなこと言うの?誰かに言われたの?」


 ニカルは考えた。覚えている限り、記憶を掘り起こして。


 次に溢れる涙はさっきまでのものとは違う。


 家族も使用人も、誰も!ニカルを否定することはなかった。ただの一度も。


 いつも笑顔で優しく受け入れてくれたいた。

 ニカルはそれを拒絶してきた。鏡に映る自分が、存在を肯定させない。


 生まれてきたことが間違いだったと囁く。


 でも……。そんなことはなかった。


 温かい家族。愛しさが溢れる居場所。


 態度だけではない。言葉でもちゃんと「愛している」を伝えてくれていたのだ。


 「みん、な…僕のこと、大切に、想って……」


 なぜ、もっと早くに気付けなかったのか。そのチャンスはいくらでもあったはずなのに。


 酷いことをした。愛してくれていた家族に。

 ずっと見守ってくれていた使用人達に。


 好意的な言葉の、ありもしない裏側を勝手に想像しては一人で傷つく。


 なぜなら、自分はこんなにも醜いから。愛されるわけがないのだ。


 そうやって線を引いて生きてきた。


 「ニカル。泣かないで」


 小さな手が懸命に頭を撫でる。


 そんな愛らしいユーリに感動するリンシエの姿を二人は見ていない。


 目を擦るように涙を拭いたニカルは小さく笑う。

 緊張しているようにぎこちなく。


 さっきまでの恐怖心は取り除かれて、俯くことはなくなった。


 「ニカル。一緒に遊ぼ」

 「う、うん」

 「お絵描きしますか?それとも絵本を?」

 「んとね。かくれんぼする」


 ずっと部屋に篭もりっぱなしも良くないので、屋敷の中だけではあるが出られるように遊びを提案した。


 かくれんぼなら隠れてじっとするだけ。人に迷惑をかけない。


 「かくれんぼ?とは?」


 存在しない遊びだった。


 ユーリは簡単に説明する。


 一方が見つからないように隠れて、もう一方が探す。

 時間までに見つからなかったら隠れた側の勝ち。

 完全なる子供の遊びである。


 範囲は屋敷内のみ。庭にも出てはいけない。


 制限時間は1時間。


 「なるほど!わかりました。では私が、お二人を探しますね」

 「ゆっくり十まで数えてね」


 魔法部屋を出て扉を閉める。

 リンシエの数える声が聞こえたので、二人は手を繋いだまま移動を始めた。


 広い屋敷には数多くの部屋がある。

 どこも鍵がかかっていないので入り放題。


 「ユーリ様?と……ニカル様!?どうされました」


 厨房に行けば料理人達が目を丸くして驚く。

 ユーリが来ることは珍しくないが、遠目からしか見たことのないニカルが目の前いる。

 しかもユーリと手を繋いで。


 状況の把握が出来ない。


 「今ね。リンシエから隠れてるの。ここに来ても内緒だよ?」


 持ち前の愛らしさで二パッと笑うと、料理人達は激しくうなづいた。


 邪魔にならないように厨房の隅で座り込む。

 ここなら入り口からも死角になっているので、中まで入ってこないと二人を見つけられない。


 いい隠れ場所を見つけたとクスクス笑うユーリと、そんなユーリに見とれるニカル。


 厨房の一角から、ほわんとした優しく温かい空気が漂う。

 心が浄化されるとはまさにこのこと。


 「ユーリ」


 時間まで隠れ切れると自信満々だったユーリの名前を呼んだのはリミック。その後ろにはリファラがいる。


 「何をしているんだ。こんな所で」

 「かくれんぼ。リンシエに見つかったらダメなの」

 「そうか。それもう手遅れだな」

 「ユーリ様とニカル様。見つけました」


 この二人が険しい顔で廊下を歩いていれば何事かと、探すのを中断して訳を聞くのは当然。

 部屋にいるはずのニカルがいないと聞き、今はユーリと一緒であると伝えれば、リファラは心底安心したような息をついた。


 そのまま一緒に厨房へと移動し、二人を見つけてしまったというわけだ。


 「お、おと……ごめ、んなさい」

 「あ、あの!ニカルを部屋から連れ出したのは私です。だから、ニカルを怒らないで」


 庇うように一歩前に出た小さな女の子。


 灰色の髪。それはテロイの血筋で特別を意味する。


 スカイブルーの綺麗な瞳に不安な色が表れていた。


 「怒っていないよ。心配していただけだ」


 この子が末弟の娘。想像していた子供と違う。

 自分本位な両親を持つ子供とは思えない。


 ニカルを守ろうとする姿勢も、すぐさま非を認め謝ったことも、末弟ではなくリミックに似ている。


 リファラは混乱していた。


 この子があの、出来の悪い弟の娘?


 「ここにいては仕事の邪魔になる。部屋に戻ろう」

 「ん!行こ、ニカル」

 「うん」


 どちらからでもなく、自然に手を繋ぐ二人を引き裂いたのは言うまでもなくリミック。


 ユーリを抱き上げた。


 別にニカルの顔が原因ではない。ユーリが男と手を繋ぐのが許せないだけ。


 過去には王太子に対しても不遜に近い態度を取っては、ユーリとの距離を取らせた。


 ニカルが女の子であったのなら、リミックは邪魔をしなかっただろう。


 「兄さん。今日はもうこれで失礼するよ」

 「昼食は食べていかないのか」

 「うん。遠慮しておく。じゃあ、またね」


 この目で見てわかった。リミックがなぜ、末弟の娘を引き取ったのか。


 愛らしい。

 雲のようにふわふわしていて、しっかりしているのにどこかあどけない態度。

 控えめな笑顔にリファラの胸は射抜かれた。


 こんなにも可愛い娘ならば、何をしてでも、誰が相手でも守りきるだろう。


 その日の夜。ニカルは醜い自分に怯えることなく、両親に本心を伝えた。


 「僕のことずっとずっと、愛してくれてありがとう。僕も父さんと母さんのこと、大好きだよ」


 隠された想い。


 息子の心境の変化に戸惑いつつも、両親は抱きしめた。生まれてきてくれた、愛しい我が子を。


 ニカルが変わったのはユーリのおかげであると、確信を持っていた。

 無邪気で愛らしい天使がニカルの心を開いてくれたと。



 更に2日後。ユーリから遊びに来ないかとお誘いの手紙をもらった。


 嬉しそうに、破れないようにそっと封を開ける姿は微笑ましい。


 卑屈にならないように、ニカルは前髪を切った。周りがどう思おうとも、大切な人達は自分を嫌っていない。愛してくれているのだと、それさえ知っていれば上を向いて生きていけた。


 後ろから囁いてくる声に耳を傾けることなく、背筋を伸ばして堂々と胸を張る。


 以前よりよもハッキリと目が合うことにユーリは嬉しそうだった。


 ユーリが笑ってくれると、ニカルの胸に温かさが灯る。


 「これ、ニカルにあげる」


 渡されたのは仮面。たまに主催される仮面舞踏会で付けるような物。


 試しに付けてみると、気にしていた痣が綺麗に隠れる。


 ニカルが痣のことを思い悩んでいるとこを知ったユーリは、リミックに相談して仮面を作ってもらった。


 テロイ家には様々な分野に特化した優秀な技術者が何人もいて、注文の品を作るのにそこまで時間を要さない。


 理想通りの物が出来上がりユーリは大満足。


 「あのねニカル。私はニカルの味方だよ。世界中の全員がニカルを否定しても、私は絶対にニカルの敵にはならない。約束する」


 付けた仮面を外したユーリは、子供とは思えない笑みを浮かべていた。


 後光が差す。綺麗すぎて目を逸らしたくなる。


 歳下の可愛い女の子だったはずなのに。


 「ニカルが自分で自分を嫌いだとしても、私はニカルが大好きだよ」

 「ううん。もう嫌いじゃない」


 ユーリが気付かせてくれた。自分のことを嫌いにならなくていいと。

 殻に閉じこもるのではなく、青空の下で生きて愛する人達と過ごす時間を大切にするべきでだと教えてくれたのだ。


 そして、もう一つ。確かなことは……。


 ユーリに対して愛情ではない愛が芽生えた。

 好意を持った。


 好きに……なってしまう。特別(はれもの)扱いするわけでもなく、一人の人間として接し、固く閉ざした扉を無理やりこじ開けるのではなく向こう側から優しく声をかけてくれた、小さくて優しい女の子を。


 「それとね。もし嫌じゃなかったら私と会うときは素顔を見せてほしいな」

 「うん。いいよ」


 ユーリがニカルのためにくれた仮面。


 醜いから隠すのではなく、弱い自分と決別するためにニカルは毎日、仮面を付けるようになった。


 外に出て、出会う人から好奇の目を向けられることもあるが、そんなことも気にならないほどにニカルは今日も、強く生きる。

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