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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
初対面

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46/55

お帰りなのです

 「おじい様の娘になるってことは、今日から私はラーシャ・テロイになるわけですね」


 心底嬉しそうに手を叩いては、すっかりミトン家を見限っていた。

 育ててもらった恩を忘れて、テロイの名前を得ることしか頭にない。


 「ラーシャ。お前は優しい子だ」

 「それほどでもあります。私みたいに、卑しい人間とさえ言葉を交わしてあげる貴族なんているはずないですもん」


 胸を張って言い切った。


 じぃじは残念そうに目を伏せた。


 「だが。今日のお前はまるで別人だ。ニカルを呪われた子などと、なぜそのようなことを」

 「だって事実でしょう?あんな気持ち悪い痣、呪われているとしか思えないわ」

 「もういい。黙れ」


 リファラ叔父さんの肩に手を置いて後ろに下がらせた父様の顔に感情はない。


 外にいるのに息苦しさを覚える。


 鈍感なミトン家は何も気付いていない。


 「客人が帰るそうだ。外につまみ出せ」


 門を指差しながら言った。


 待機していた数人がすぐさま命令に従う。


 「離せ!何をする!?兄上!!これはどういうことですか!!!!」

 「あんまりですわ!!」

 「リファラ兄様!早く兄上を止めて下さい!!」

 「お前の娘が俺の息子に暴言を吐いたばかりだというのに、よくも助けを求められるな」


 怒ったら一人称も口調も変わるんだ。

 リファラ叔父さんの言葉の意味が理解出来ないのは、ニカルへの呪われている発言を暴言ではなく本当のこと、として蔑んでいるから。


 「父上!!あの二人をどうにかして下さい!!早く!!私ほど親孝行の息子はいないでしょう!!」

 「リードルア。帰って頭を冷やせ」


 怒鳴るでもなく諭す言い方。


 親に見捨てられたと思い込んだリードルアは使用人の手を払い、私に向かって攻撃魔法を飛ばす。


 お兄ちゃん達が難なく防いでくれたおかげで私は無傷。


 子供に魔法を防がれたことが悔しかったのか、顔を真っ赤にさせながら体を震わせる。

 視線の先にいるのが私で、私にだけ殺意を向けているのは、私なら簡単にどうにでも出来るとタカをくくっていた。


 なんて小物感溢れる卑怯者。


 ここで私が魔法を使えばややこしいことになりそうで、大人しく守られていることを決めた瞬間。

 空から大きな影が降り立つ。


 アネモスだ。


 アネモスはラーシャ達の襟をまとめて咥え、空高くへと放り投げた。

 飛んで行った方角にはミトン家の屋敷がある。

 一応、大怪我をしないように風魔法で守られていたし大丈夫だよね?


 何の前触れもなく現れたアネモスに招待客は息を飲む。

 慣れているお兄ちゃん達はともかく、他の人は圧倒的な魔力量に指一本も動かせない。


 「ホワイトドラゴン。助けてくれたの?ありがとう」


 僅かな私の揺れた感情を感じて、人の多い地上に舞い降りた。


 アネモスは羽根を頬にスリスリしてくれる。

 はわぁー。この手触り最高。まさに天国。ずっとこうしていたい。


 「久しいな。ホワイトドラゴン」


 声をかけたじぃじを一瞥して、久しぶりの再会を喜ぶかのように目を細めた。


 「お前が魔力を貰う以外で地上に下りてくるのは初めてだな」

 「■■■■。いつまでユーリに触れているつもりだ?」


 こっちはこっちで怒りのメーターは上がりっぱなし。

 もうラーシャ達はいないのに。


 アネモスは父様の言葉を無視するように、もっと私に擦り寄る。


 「ほう。ホワイトドラゴンがこんなにも誰かを気に入るのも初めてだな」


 感心するじぃじは笑顔ではあるものの、瞳の奥には影のようなものが映っていた。


 じぃじも怒ってる?


 そうか!アネモスが地上にいることはあまりよろしくない。

 会えて嬉しくても、世界に影響を与えて変えてしまうかもしれない危険を伴う。

 名残惜しくもいるべき場所に帰さなくてはならない。


 心を鬼にしているんだ。


 「ホワイトドラゴン。ありがとう、助けてくれて。でもね。もう戻らないとダメだよ」


 最後に目いっぱい羽根をギューッと抱きしめた。


【ユーリ。困ったらいつでも私を呼ぶといい。すぐに助けに来よう】

 「うん!ありがとう!!」


 大きな体を曲げて顔を近づけてくるアネモスの頬に唇を押し当てた。


 後ろで数人の巨大な魔力が渦巻いていることに私は気付かず、空へと羽ばたくアネモスに手を振る。笑顔で。


 次に会えるのは魔力をあげるときか、それとも。一緒に寝るときかな。

 あの羽毛布団の寝心地の良さ。体験してしまったらどんな高級な布団でも敵わない。


 「はいはい。パーティーを再開しましょう」


 何やら不穏な空気をリセットするように母様が二回手を叩く。


 「ユーリだってじぃじの誕生日をお祝いしたいわよね?」

 「うん!」


 そのためにみんな集まってくれたし、準備もしてくれた。


 年に一度の特別な日を嫌な気分で終えるのは誰だって嫌だ。


 誕生日とは生まれてきたことを大切な人達が祝福してくれる記念日なのだから。


 ラーシャの発言は楽しい雰囲気を台無しにした。

 無邪気な子供と違って、善悪の区別がつきながらも、ニカルを陥れようとする悪意。


 これまでの人物像と大きくかけ離れすぎて、本物のラーシャかと疑い出す始末。


 「覚醒したことにより性格が変わったのだろう。珍しいことではない」


 え、そうなの?


 これまでにも内気だった子息が、覚醒して魔法を使えるようになった途端に家門を継ぐに相応しくなったとか、大人しかった令嬢が階級の低い令嬢や子息に嫌がらせをするようになったとか。


 変わり方は人それぞれではあるけど、責任感が芽生えたり自分は特別になったと勘違いする人は少なくない。


 前者はいいけど、後者は人としてダメでは?

 仲良く手を取り合うんじゃなくて要は魔法を使っていじめるってことでしょ。


 私なら絶対にそんな危険なことはしない。

 だってそうでしょう?魔法なんて一歩間違えれば相手を殺してしまう凶器。

 正しく使わなければ暴力と同じ。


 「父様。私ね。魔法は正しく使うよ。誰かを傷つけたりしない。約束する」

 「心配しなくてもユーリはちゃんと、正しい心を持って生きているよ」


 意思表明は大事だ。


 これでもし私が間違っても、父様が正しく導いてくれるはず。


 私は私に出来ることを精一杯やって、誰かを助け守りたい。

 傷だって癒せるようになってみせる。


 そう固く誓ったのは肌寒い風が吹く昼下がりのこと。

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