祖父母の思い出なのです
ついにきてしまった。おじい様の誕生日。
昨日は最終チェックでみんな大忙し。
5月は日差しがまだ暑くはなく、風が冷たい。
薄手の白い上着に袖を通して、会場となる中庭には主役以外が集まっていた。
身内だけの小規模ではあるけど、親戚の家門は招待されているので私からしてみれば大規模である。
中でも目を引くのが……ラーシャ。黄色のドレスを可愛く着こなして。髪も結われていた。
ヒロインだけあって可愛すぎる。
ただ……。あのドレスは褒められたものではない。
黄色はおばあ様の瞳の色であり、おじい様が世界で一番好きな色なのだ。
二人が集まる日には、女性は黄色いドレスを着ないのが暗黙の了解になっている。
ドレス選びのときにお母様にそう言われた。
毎年、参加しているラーシャなら知っているはずなのに。
しかも。ラーシャの中には物語の全てを知っている憑依者がいる。
つまり、黄色いドレスを着る意味を理解しているということ。
仮に!知らなかったと仮定して。おじい様の息子でもあるリードルアなら、そのことを知らないわけがない。
それを踏まえてラーシャは黄色いドレスを着てきた。神経が太いどころではない。
しかもあのドレス。有名店の新作。値段も簡単に手を出せる金額ではなかった。
あれを買えるならお金の無心はしないと思う。ついに借金したのかな?
お母様が店に手を回したはずたから買えるはずもないのに。
入手方法は考えないようにしよう。
周りからの視線の意味にも気付かず、注目を集めていることに上機嫌。
愛する娘が一目置かれていることに両親も鼻が高そうだ。
私はラーシャが近づいてこないように家族が盾になって隠してくれている。
「待たせてすまなかったな」
「時間通りですよ。ご無沙汰しております。父上」
おじい様の髪色は灰色なんだよね?白に近い明るい灰色。んーとあれだ!灰白色って言うんだっけ。
乱れることなくオールバックに整えられた髪型。お父様と似た顔立ちではあるけど、渋さがある。
ダンディなイケメン。
おばあ様は立っているだけで気品溢れる上品さが漂う。濃すぎない桜色の髪が更に引き立てる。
二人とも背筋が曲がることなく真っ直ぐだ。
「おじい様!!お誕生日おめでとうございます」
いの一番にラーシャが駆け出す。プレゼントを持って。
「おお、ラーシャ。久しぶりだな」
満面の笑みは破壊力抜群。なるほど。お父様のお父さんだ。
「開けてもいいか?」
「はい!」
受け取ったプレゼントの包みを丁寧に外して蓋を開けた。
会場の空気が凍りつく。
懐中時計は趣味が良い。身に付けられるように鎖まで同封されている。
おじい様が金属アレルギーでなければ、もっと喜んでくれた。
「ありがとう、ラーシャ。嬉しいよ」
得意げなラーシャは、困惑し引きつった笑顔が見えていなかった。
「お、おじい様!」
「ニカル?もしやニカルか?」
身内の誕生日会でさえ出席を拒み続けていたニカルが目の前にいる。
おじい様からしたら、それだけで最高のプレゼント。
「これ、異国の本です。面白いと評判なんです」
「おお。読書の時間が楽しみだな」
他の子供達もわらわらと集まっていく。
「ユーリは行かないのか?」
「最後でいいの。横入りして渡されたプレゼントは、受け取るおじい様も嫌だと思うから」
中身26歳が子供を押し退けるなんて大人気ない真似、出来るわけもない。
大人しくお父様の後ろに隠れていると、そっと背中を押されて前に出された。
残る子供は私だけ。何をあげるのかと、みんな気になっている。
「この子がリミックの新しい娘か」
「初めまして、ユーリ・テロイです」
テロイと名乗ればラーシャが睨んでくる。
「あの……私はみんなみたいに高価なプレゼントじゃないけど」
「これは絵か」
筒状に丸めた紙にリボンを掛けたプレゼントを渡す。
リボンを解いて広げると、目を見開いて無言。
「おじい様はほとんど領地にいると聞いたので。家族の絵を描いたんです。これなら遠く離れていても、いつでも会えるから」
お父様にお願いして見せてもらったのは、おじい様とおばあ様の肖像画。
真剣ににらめっこしながら描き移し、家族団欒をしている絵を描いてみた。
「これをユーリが描いた?」
「いらなかったら捨ててもいいので」
「捨てる?こんな芸術作品を!?」
わぁー、孫大好きおじいちゃんだ。
お世辞でもべた褒めしてもらえるなんて嬉しいな。
この分なら部屋にでも飾ってくれそうだ。
「あと、もう一つプレゼントがあって」
ワゴンに乗って唯一、クローシュが被せられた料理。リンシエに抱っこしてもらい、私が持ち上げる。
「おじい様は甘い物が好きだと聞いたので。マドレーヌを作ったんです」
祖父母と暮らしていたとき、私が今時の子供ということもありハイカラなお菓子……洋菓子を作ってくれた。
スマホを使いこなして動画でレシピを観ては、ケーキやマカロン。タルトにアップルパイ。その他にも色々と。おじいちゃんの腕がめきめき上がっていった。懐かしいな。
私はおばあちゃんが作るふかし芋や牛乳寒天、大学いもも好き。
二人が作るお菓子は友達の間でも大人気。
私もよく一緒に作った。
記憶は思い出。私の人生に刻まれている。
ちなみに私はスイートポテトが得意だ。甘さは控えめ。
さつまいもがあるなら作りたいけど、果たしてあるかどうか。
馴染みの食材ばかりだし、探せばあるかもしれない。
希望は捨てないでおこう。
「は?ユーリの手作りだと?」
いち早く反応したのはお父様。
目力強っ!怖っ!
眉間に皺が寄りすぎている。
ああいうのを悪人面と言う。
「ユーリ!お兄様達はまだ手作りお菓子なんて貰ったことないぞ!!」
うん。今回初めて作ったからね。
若干涙目のお兄様。そんなにお菓子好きだったとは。
あんまり食べてるイメージなかったんだよね。
デザートはデザートであり、お菓子とはまた違う。
「まぁ!貴族令嬢が厨房に立って料理するなんて!嫌だわ、はしたない。常識がなってないのね」
「ラーシャの言う通りだ!貴族が使用人の真似事なんぞしよって。公爵家の品位が疑われる!!」
そ、そうか。身分がハッキリと分かれているこの世界では、貴族は貴族らしくが求められる。
手作りは心がこもっているとはいえ、素人が作ったお菓子よりプロが作ったほうが安心で安全。
おじい様がお腹でも壊して倒れてしまったら大変。
言い方はともかく指摘してくれて助かった。
クローシュをもう一度被せて、なかったことにする。
これは後で私が食べよう。
数もそんなにないからご飯代わりにでも。
「ユーリの手作りか」
おじい様は嫌悪感を示すことなくマドレーヌを食べた。
「これは美味い。これまでに食べてきたマドレーヌの中で一番だ。こんなにも素晴らしいプレゼントを貰えて、私は幸せ者だな」
「絵は……完璧じゃないです。肖像画を見て描いたから、おじい様のカッコ良さや、おばあ様の美しさが描けてません」
「あら。嬉しいことを言ってくれるわね」
目を細めて微笑むおばあ様は、リンシエから私を受け取っては頭を撫でる。
三人の息子を育てただけあって、子供の扱いが上手い。
安心して身を委ねられる。
「おじい様!」
「ん?どうした」
「あの……ありがとうございます、生まれてきてくれて。私と出会ってくれて!」
幾つもの奇跡が重なって生まれた必然。
私は感謝したい。奇跡にではなく、生まれてきてくれたおじい様に。
「ユーリ」
「は、はい」
声が震えていた。怒らせてしまっただろうか?
4歳児が生意気なことを言ったと、癇に障ったのかも。
はわわわと私も小刻みに震えながら涙目になっていると、おじい様はえらく真剣な表情で
「私達の娘になるつもりはないか?」




