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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
新たな出会い

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一雫の星【セインレッツェル】

 面白い催しがあると聞いた。それは王都に近いハルテの街で行われる。

 信頼のおける従者と共にどんな催しなのかを見に行った。

 人が多く集まる広場で開催されていて、シートの上に何やら商品が並べられている。


 ──露店販売か?


 気になってもっと近くで見たくなった。

 足を一歩、踏み出した後に振り向く。当たり前のように私の侍従でもあるエレフォルと目が合う。


 「君は待っててくれ。あ、退屈だろうから街を見てくるといい」

 「え?」

 「確かここって大通りを抜ける近くに、ベンチが設置されてたよね?そこで待ってるから」

 「あ……はい。かしこまりました」


 私達はどう見ても親子や兄弟ではない。

 エレフォルが傍にいたら、いかにも身分がありますと周りに宣伝するようなもの。

 こんなにも楽しい雰囲気を壊す真似はしたくない。


 半ば強制的に街を歩きに行かせて、私は見慣れない商品を見に行く。

 本人も素直に了承してくれたし、双方の同意はあったということで。


 動物のぬいぐるみや食器、小物入れはわかるとして、細長い布袋と日付けが書かれたこの紙は一体……?


 「これは何ですか?」


 ひと際小さな灰色の髪をした少女に訪ねた。

 大きくてパッチリとした目は少しの驚きを含んでいる。


 「あの?」

 「え、あ!ごめんなさい。これはカレンダー。1年の暦を記載した物です」

 「へぇー」


 面白いな。画期的というわけではないけど、あったら便利。

 同じことを繰り返すだけの日々では燿日の感覚がなくなる。かろうじて朝と夜の区別がつくだけ。


 誰でも思い付きそうなのに誰も思い付かなかった。このカレンダーは歴史を変えるかもしれない。


 次に注目したのは長細い布袋。


 「それは財布と言って、お金を入れる布袋です」


 少女は実演して見せてくれた。

 スナップボタンに引っ掛けられた輪っかを外すと、中は仕切られていて紙幣と硬貨を別々に入れられる仕組み。


 これは便利だ。一つの袋にまとめて入れておくより、中が見やすくて取り出しやすく、何より紙幣が汚れないのがいい。


 買いたいけど柄が派手だ。女の子向けすぎて、私が持つにはちょっと……。


 「男の子にはこっちの無地の財布がいいかもしれませんね」


 悩んでいると別の財布を勧めてくれた。


 ──この子。客をよく見てるな。


 「いいね。これも買うよ」

 「ありがとうございます!」


 緊張感のない笑顔は純粋そのもの。

 心臓が一瞬、はねた気がした。


 魔法で攻撃されたわけでもない。痛みだってなかった。

 心臓は正常。私という命が生きるために動いている。


 その後は驚きの連続だった。上質な紙で作られたカレンダーが、たった100カリンと破格の値段。

 紙と鉛筆さえあれば誰でも作れる物だが、この絵は違う。価値がありすぎる。

 名だたる画家の絵を見てきた私でも、こんなにも繊細で美しく描かれた絵は初めて。


 ──まだ日の目を見ていない画家の卵が描いたものかも。


 例え落書きだとしても一流の画家が描いた絵には必ずサインがある。自らの名前を世に広めるために。

 それがないということは、まだ画家になれていないのか。


 この催しで販売して、評判が良ければデビューするのかもしれないな。


 「そんな大層なものじゃないので。ほんと。二つで600カリンですよ」

 「これは価値ある物なんだけどな」


 生憎と、手持ちに硬貨はない。千カリンを少女に渡してエレフォルとの待ち合わせ場所に向かう。


 あんなに私を一人にすることに難色を示していたエレフォルだけど、好奇心旺盛。平民街は特に目を引く物が多い。

 フラフラしてるんだろうな。


 私が命令して引き離さないと自分の趣味に時間を割くことさえしない。

 結婚したいと嘆く割には仕事一筋。本気で彼女を作るつもりはあるのだろうか。

 いや、ないな。あの様子では。


 「お釣り忘れてるよ」


 走ってきた少女は私の手にお釣りを握らせた。


 とても小さな手。ふにふにして柔らかい。


 「お金を扱う仕事は信用第一!!1カリンでも誤差があったらいけないの」


 幼いのにしっかりしていた。真剣な眼差しに突き返すことが出来ない。

 他にも動物が描かれた厚めの紙もくれた。


 ふっくらとした犬は可愛くて、実在するとしたらもふもふの毛並みに頬が緩むこと間違いなし。


 「やっぱりカレンダーをもう一つ欲しいな。あとぬいぐるみも。色違いの小鳥を三個」


 友人にもカレンダーをあげたくなった。彼が気に入れば普及して、孤児院の収入も増える。

 小鳥は単に少女に似て可愛かったから。三匹買って、あげると戸惑いながらも受け取ってくれた。


 強引に押し付けた自覚はあるものの、受け取ってくれたことか嬉しくて笑みが零れたんだ。

 そしたら、笑ってくれたから。どうしようもなく心が満たされた。




 エレフォルはまだ待ち合わせ場所にはいなかった。


 時間を潰すべくカレンダーをじっくりと眺める。

 数字は全て立体的で遠くからでも見やすい。季節の花を描くことで、数字を覚えていない子供にも何月かわかるようになっている。

 予定を書き込める枠の大きさも良い。


 作った人もそうだが、特にアイデアを考えた人がすごすぎる。

 どんなタイミングで思いついたのか。とても興味深い。是非とも会って話をしたいが、無理だろうな。


 少なくとも私なら客と会わせることはしない。相手が貴族かもしれない人間なら尚更。

 権力で脅して、今後の技術やアイデアを奪われる可能性かあるからだ。


 カレンダーに限った話ではない。この財布も、私は買わなかったがリュックサック。あれは肩に背負い荷物を運ぶ。

 手で持つより負担が少なく、何より両手が自由に使えるのは利点。

 布の買い物袋もそうだ。軽いのに丈夫。汚れてもすぐに洗える。サイズは一定ではなく、買う物によって使い分けられて使い勝手がいい。


 あれらは間違いなく歴史を作る代物。


 眼鏡と同じく発明権を与えたほうがいい。


 頭に浮かぶのは少女。まさかあの子が……?


 私の勘はよく当たるとはいえ、今回ばかりは外れているだろう。

 だってあの子はどう見ても……。体が小さいだけで私よりも歳上かもしれないし、決めつけは良くないか。


 その後、少女……ユーリは再び私の目の前に現れた。

 小さな足を懸命に動かしてトテトテと歩きながら。


 なぜだろう?ユーリの顔を見ていると心が落ち着くのは。


 色白で細くて小さい。可愛くて目が離せない存在。

 隣にいてくれるとポカポカと温かくなる。


 ユーリが半分こしてくれたドーナツはどこにでも売っていて価格も安くて人気。

 素朴な味わい。


 毎日毎日、私のために用意される高級なお菓子とは違う美味しさ。


 視線だけをユーリに向けると、ほっぺたが落ちるくらい美味しそうにドーナツを頬張る。

 無意識に足をブラブラ揺らす姿に、侍女であろう女性は口元を抑えて目を輝かせながら感激していた。


 「ユーリは貴族だよね?」

 「うん。そう……だよ」

 「嫌じゃないの?平民と一緒に何かをするなんて」

 「え?何で?そんなことないよ。貴族や平民と身分があるだけで、私達は同じ人間だもん。嫌なことも、嫌いになることだって一つもないよ」


 それは……。その言葉は……。


 「セインは平民が嫌い?」

 「好きだよ。でもね。そうじゃない大人が周りに多すぎる」


 身分を持って生まれた。それだけの理由で人は人を蔑み見下す。

 子供はまだいいほうだ。指摘すれば間違いを正してくれる。でも、大人はそうじゃない。

 そうやって生きてきたからこそ、間違っているのは私のほうだと否定する。


 「貴族が偉いのは身分じゃないんだよ。顔も知らないご先祖様が努力して、その名に恥じない働きをしたからで、その家に生まれただけで偉いなんてことはないと思ってる」


 モヤモヤが晴れた。視界が開ける。

 ユーリの小さな手が私の背中を押してくれた。踏み出す勇気をくれる。


 誰かがやってくれるのを待つだけでは何も変わらない。自分で動かなくては。


 幼くとも大人のようにしっかりとした考えを持つユーリのおかけで、躊躇いが吹き飛んだ。


 何かを変えるためには私が変わらなくてはいけない。


 「迎えが来たみたいだ」


 建物の陰からこちらの様子を伺うエレフォルと目が合う。

 声をかけないのは私の意志を尊重してくれている。


 「そうだ。ユーリは今年でいくつ?」


 期待を込めた質問。ユーリは即答することなく、少し間を置く。


 4歳だと答えたとき、後ろの侍女は悲しそうな顔をしていたんだ。

 その理由を聞いたら困らせてしまうかもしれないから、グッと飲み込んでそのまま別れた。


 「遅くなってしまい、申し訳ございません」

 「ううん、遅くないよ」


 謝る割に慌てた様子はない。いつもそうだ。何が起きても冷静沈着。取り乱した姿を見たことは一度としてない。

 変わらない無表情に感情がないのかと疑ったこともある。


 そんなエレフォルが一度だけ、感情を顕にしたときがあった。私の魔力が暴走して魔法のコントロールが効かなくなったとき。

 荒れ狂う落雷の中に飛び込んでは助けようとしてくれた。

 大臣達は我が身可愛さに一目散に逃げて、残ったのは家族と父上の避難命令を無視した家臣のみ。

 そのときに受けた雷のせいで利き腕に大きな傷を負わせてしまった。


 自分の命を優先しても良かったあの状況で、臆することなく助けに来てくれたエレフォルには感謝しかない。

 あの日から私にとって良い大人の代表になったのがエレフォルであるということ、いつか本人に言えたらと思う。


 「今回は命令だから従いましたが、平和な国とはいえお一人での行動は控えて下さい」


 心配してくれている、というには声が淡々としている。

 広場のほうで魔法が発動したのは目にしたはず。


 巨大な竜巻とそれを覆い壊した炎。

 遠くにいた私でさえ指が震えるほどの恐怖を感じた。人と異なる魔力の流れ。神獣ではない。最上位魔物か。


 「セインレッツェル様。貴方はアスタミイル帝国の皇太子なのですから」

 「うん。わかってるよ」


 正体を隠すために発動していた魔道具の時間が切れた。青い髪は元のブラウンへと戻る。


 「何か良いことでもありましたか?」

 「実はね……。いや、何でもない」


 言っていいものか迷い口を閉ざす。


 ユーリの瞳の中には“一雫の星”が刻まれていた。


 魔法陣とは異なる印。万物に愛される特別な子の証。

 一説には神の加護と女神の寵愛を受けたとされる。


 国によって言い伝えは違う。私が聞いたのはキラキラと輝く雫が星が散りばめられていると。


 ゼリフラ国では呼び方が違っていたはず。確か……“ニュクスの光”

 夜を照らす光という意味が込められていた。


 ──御伽噺だとばかり思っていたのに実在したなんて……。


 どこの国でもそうだが、御伽噺というのは大体、事実を元に作られ受け継がれる。

 遙か昔には実在したかもしれない存在。


 魔法を使ったときにだけ瞳に現れる。よくよく見ないとわからないし、この国の人間は……家族は気付いているのか?


 …………なぜ私は、ユーリが魔法を使えると思うんだ?魔法の覚醒は6歳から。まだ2年もあるのに。


 確証なんてないのに、あの竜巻を引き起こしたのがユーリであると直感していた。


 最上位魔物の魔力。風を司るのはホワイトドラゴン。


 魔物の魔法を使う条件は二つ。契約するか、魔物が服従のどちらか。

 後者はとても珍しい例。世界の膨大な過去を遡っても、魔物が人間に服従したのは二回。

 以降も何度かそういう噂は流れたものの、どれも偽物ばかり。

 見栄を張る者、自分は特別だと謳い注目を浴びたい者、人を欺く者。多くの人間が嘘をついた。


 「エレフォル。お願いがあるんだ」

 「何でしょう?」

 「“アレ”には4歳から6歳を対象にした子息令嬢を呼んでくれ」

 「殿下と同じ6歳だけではなく?」

 「うん。全員だよ」

 「かしこまりました」


 ユーリが“一雫の星”であるとバレてしまえば、欲を満たすための道具にされてしまう。

 権力に溺れた大人は他人の痛みを知ろうともしない。


 守れるだろうか?小さくて、簡単に壊れてしまうあの女の子を。


 皇太子や皇帝の力で及ぶかどうか。

 ユーリの笑顔を曇らせてしまうなら、私はいくらでも非道になれるだろう。


 目を閉じると浮かんでくる笑顔。脳裏に焼き付く。

 胸が高鳴る。この気持ちは……。


 吸い込まれてしまう。宝石のように美しく輝くその瞳に。

 星が散りばめられた瞳ではなく、ユーリ本来の瞳を見たい。


 空をそのまま映したかのような色は鮮やか。一点の曇りもなく、見つめられていると心が浄化される。


 「それとね。今いる大臣達を追い出してほしいんだ」


 常日頃から平民を見下すだけでなく、生まれたことを否定する。

 醜悪な笑みは下品でしかない。


 平民には生きる価値がないなどと口走り、私達にも同意を求める。

 性格が歪んでいても能力があるから、簡単には追い出せなかった。

 彼らが抜ける穴は大きく、せめて次が育つまではと先延ばしまでして。


 「方法は問わない。私が皇帝になる前に、膿を取り除くんだ」

 「セインレッツェル様のご命令とあらば」


 胸に手を当て一礼したエレフォルの目つきは鋭い。

 どんな大仕事だろうと、信頼して任せられる大人が傍にいてくれるのは安心する。

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