頑張ったらご褒美があるのです!
孤児院は無事に救われ、街の人は両手を挙げて大喜び。悪い貴族、孤児院を担当していた伯爵が捕まったからだ。
ここだけでなく、普通に犯罪に手を染めていたので余罪はいくらでも出てくるのではないだろうか?
そして私は、街を探検中である。
街に来た当初の目的でもある観光のために。
まだ全部は回れていない。時間はまだあるし、後片付けはシム達がやってくれるからと。
お父様から軍資金(お小遣い)を貰ったことだし、いざ観光へ。
初めて来たときよりも街は活気に溢れ、皆が活き活きしている。
やはり伯爵の存在は恐怖となり、生きることが息苦しかった。
──そうでもない人もいたようだけど。
伯爵側についていた彼らはこれから、肩身の狭い思いをしながら生きていく。
不自由からの解放。誰も彼も屈託のない笑顔を浮かべている。
「あれ?さっきの」
「あ、君は……」
カレンダーを最初に買ってくれた男の子。
大通りを抜ける前の脇道に設置されたベンチに座ってはボーッとしていた。
柔らかい笑顔は可愛らしい顔をより強調し、美しさに磨きをかける。
綺麗すぎるその顔は世の女性が自信を失くしそう。
「一人?」
「うん。今はね」
ほんの少しだけ笑顔が崩れた。相手を困らせていると自覚しているような。
「私はユーリ。貴方の名前を聞いたら困らせる?」
この子はお忍びで遊びに来た貴族子息。
相手に名前を尋ねるときは自分から名乗るのが礼儀。名字を名乗れない無礼は許してほしい。
「セイン。私はセインだ。よろしくね、ユーリ」
無論、私も名字を聞いたりはしない。ここにいるのは貴族ではなくて、ただのセイン。
「ねぇユーリ。あの催しは君が考えたの?」
「私は提案しただけ」
お隣を失礼して座ろうと試みるも、微妙にベンチが高いため座れそうになかった。
これは大人向けだからであって、子供の私がよじ登ることすら出来なくても不思議ではない!
「ユーリは小さいね」
リンシエにお願いするよりも先に、セインが軽々しく抱き上げて座らせてくれた。
「ごめんね。勝手に触っちゃって」
「ううん!大丈夫。気にしてない」
歳下の扱いに随分と手馴れているな。弟か妹でもいるのだろうか?
「リンシエ。あそこのドーナツ買ってきてくれる?」
「はい、すぐに」
屋台も馴染みのある食べ物が多い。
タイミングが良かったのか、買ってきてくれたドーナツは揚げたて。手が汚れないように紙ナプキンも外付けされている。
無難なプレーンを半分に割ってセインに差し出すと、目をパチパチさせた。
嫌い……だったかな?
「これはユーリのお金で買った物だよ?」
「いいの!私まだ一個は食べられないから。セインが半分食べてくれると助かるの」
「そういうことなら喜んで」
平民が作った物だからと不快感を示すことなく、ドーナツを口に運ぶ。食べているだけなのに優雅さが見て取れる。
体に染み付いているのかも。意識しなくても自然にそうなるように。
思い返してみれば家族もみんな、どれだけ会話に集中していようと上品さは保たれている。
お肉を切る仕草も口に運ぶ瞬間も。
それだけではない。歩き方も姿勢も、指の動きでさえ洗練された美しさを放つ。
紳士淑女としての厳しい教育をやり遂げた証拠。
私もお母様のような立派な淑女になりたい。まずは無意識に曲がってしまう背中を、伸ばすところから始めよう。
出来ることからコツコツと。習慣になってしまえば自然と作法は身に付く。
「美味しいね」
素朴な味。しっとりとしていて、どこか懐かしい。
甘すぎず、お皿に盛られていたら次へと手が伸びる。
コーヒーが飲みたいな。ミルクでもいい。
セットにしたら、もっと売れるだろうに。
大通りに並ぶ店を観察してわかったことは、他の物と一緒に売らないということ。
ドーナツはドーナツだけ。野菜とフルーツの店も分かれている。
お肉は豚と鳥の二種しかないようだけど、それすら同じ店では買えない。
──今度、提案してみようかな?
「ユーリは貴族だよね?」
「うん。そう……だよ」
「嫌じゃないの?平民と一緒に何かをするなんて」
「え?何で?そんなことないよ。貴族や平民と身分があるだけで、私達は同じ人間だもん。嫌なことも、嫌いになることだって一つもないよ」
私が生きていた元の世界は全員が同じ身分。国に携わる人は偉かったりするけど、身分までもが違うわけではない。
平等性はあまり感じられなかったけど。
「セインは平民が嫌い?」
「好きだよ。でもね。そうじゃない大人が周りに多すぎる」
下級貴族でも、貴族として生まれたことを自慢して平民との身分に差をつける。
「貴族が偉いのは身分じゃないんだよ。顔も知らないご先祖様が努力して、その名に恥じない働きをしたからで、その家に生まれただけで偉いなんてことはないと思ってる」
私もテロイ家の娘になったのだから、自らの行いや発言には責任を持つつもりだ。
「そうだよね。うん!そうだよ!!ユーリの言う通りだ」
「セ、セイン?」
「同じ人間同士で差別をするなんて愚かだ!ありがとう、ユーリ!決心がついたよ」
「え、あ……うん。どういたしまして?」
なんて愛らしい笑顔。裏表がなく純粋無垢。
晴れやかさは心を軽くしている。
鼻歌でも歌いそうな雰囲気。
「迎えが来たみたいだ」
ベンチから降りたセインは大通りとは真逆に進む。
「そうだ。ユーリは今年でいくつ?」
今年で?えーー、何歳だろ。
悲しいことに自分の誕生日を知らないからな。
まだ4歳なのか、もう4歳なのか。
悩んでも仕方ない。今の歳を答えた。
「そっか。ありがとう。じゃあね、ユーリ」
「うん。バイバイ」
歳を聞かれた理由もわからないままセインと別れて、私達も広場へと戻る。
シートは綺麗に折り畳まれ、風で飛ばされないように紐で縛られていた。
孤児院に帰る前に忘れ物がないかをチェック。ゴミも落ちていない。
お金もしっかりとキリムが抱きしめている。
「よし、じゃあ帰ろう!」
「「はーい」」
大通りと言っても広がって歩くと通行の邪魔になるので、横二列ではぐれないよう互いに手を繋ぐ。
私はリンシエとだけどね。
最後尾からみんなを見守る。
もしもお金を強奪しようとする輩がいたら、リンシエがどうにかしてくれる。大怪我をさせない程度に。
了解するまでに間があったけど、私はリンシエを信じている。相手が悪人でもやり過ぎは良くない。
孤児院に帰り着くと、みんなが一斉に大はしゃぎ。
「私の作った猫さんが売れた!可愛いって!」
「シム兄の食器が最初に完売してたね」
「買い替えどきだっただけだろ」
素直に喜ばないシムのほっぺたをムニッと伸ばした。
みるみる赤くなる。下の子達に変な顔を晒している恥ずかしさからだろう。
「嬉しかったら嬉しいって言っていいんだよ?もう痛いことをする人はいないんだから」
「ん……。嬉しい。すっごく。ユーリ様がすごいって認められたから」
「…………私?」
「そうだよ!」
「ユーリ様が考えてくれたから、成功したんだもん」
それは言い過ぎ。
作って売る。それ自体は誰もがやっていること。大人が、という点を除けば。
今回のバザーも大人はいたし子供だけで商売をしたわけではない。
最初はぎこちなくても、数をこなしていくと緊張も何もかもが解けていった。
子供本来の無邪気な笑顔。
噛み噛みだった商品説明もすっかりお手の物。
どこの店でも働けるほど接客が板についた。
「みんな。今日は本当にお疲れ様」
「「串肉だぁぁ!!」」
私が観光をしている間、キリムが頑張ったみんなにご褒美だと串肉を買ってくれていた。
その名の通り、お肉を串に刺した、まぁ……焼き鳥だね。
一本100カリンとお手頃価格ではあるけど、ずっと貧乏をしていた孤児院にはごちそう。
鳥と豚なら豚のほうが高級らしい。
五センチほどの正方形肉が串に六個も刺さっている。
焼き立て熱々。はふはふしながらかじっては、美味さを噛み締める。
うんうん。自分達で働いたお金で食べるご飯は美味しいよね。格別だ。
口周りをソースで汚しながら、ぱんぱんになるまで詰め込む姿はさながらリス。
──みんな可愛いなぁ。
つい笑みが零れる。
綻んでしまう頬を手で抑えてもニンマリは収まらない。
もう。こんなに頑張っているのに引き締まらないなんて。
このほっぺたが悪いんだ。マシュマロみたいにもちもちしてるから。
「「(ユーリ様。可愛すぎるっ!!)」」




