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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
新たな出会い

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27/50

頑張ったのは子供達なのです!

 売れ行きは最高だった。朝の9時から始まって今はお昼前。品物はほとんど売れている。


 意外だったのが、リュックが完売したこと。そこそこ高額でも子供を育てるお母さんからしたら画期的すぎた。

 いっぱい買っても両手が塞がることはないし、子供を抱っこしたまま買い物ができるのも利点。

 クチコミが人を呼んでお客さんが殺到するも、既に在庫はない。次はいつ開催するのかと問われる始末。

 今のとこは未定だと答える。


 エコバックも好評。買った物を必ず買い物カゴに入れなくてはならないルールがあるため、買い忘れやすぐに使いたい物を買いに行くのにカゴは大きすぎる。


 かと言って商品をそのまま手に持っていれば泥棒扱いされるので、邪魔くさくても持って行くしかない。

 そこにエコバックの登場。物によってサイズを変えられるし、汚れても洗える利点。

 コンパクトにしまっておけるので場所も取らない。


 ──布の買い物袋ならありそうなのに、何でなかったんだろう?


「やったぁ!完売だー!!」


 お昼を過ぎた頃には物は一つも残っていない。

 目標金額を大きく上回った。売上は全部、孤児院の資金になる。これで少しは余裕ができた。当分は食べ物に困らないだろう。


「これは何の騒ぎだ?断りもなく私の街で勝手なことをしているのは誰だ?」


 数人の従者を引き連れた貴族。お金持ちアピールを全身でしたいのか、上から下まで高価そうなアクセサリーを身に付ける。


 趣味の悪い服を自分で選んだのだとしたらセンスがない。私が言うのもなんだけど。


 完成されたマネキンコーデを買うような、お洒落にも流行にも疎い私に貴族のお洒落がわかるはずもない。

 一目見て、あれダサッ!!と思うような服でも、貴族からしたら当たり前(おしゃれ)かもしれないし。


 大きな宝石が付いた指輪を全ての指にはめて邪魔ではないのだろうか?

 結婚指輪というわけでもなさそうだし。


 いや、絶対に違う!リンシエがドン引きしていた。

 あれは……個性だね。うん。


 全身金ピカに銀色の縦線が幾つも入っている。胸元にはワンポイントに刺繍まで施されていた。


 ──目が痛いな。


 光をよく反射しているせいで直視できない。

 それを神々しくて目を背けていると勘違いしている貴族は、お酒でも飲んだかのような下卑た笑いで周囲を見渡す。


 お金はあるところにはある。それを体現したかのような存在。


 ぬめりとした目はシムを捉えては、あろあことか蹴り飛ばす。

 何が起きたのか。

 子供の体は勢いよく吹っ飛ぶ。大人の力はそれほどまでに強い。


 庇おうと動いたキリムは従者に抑え付けられ、警備棒で何度も殴られる。

 頭や背中、足に容赦なく振り下ろされた。


「やめなさい!!」


 そうか。この悪趣味な人が孤児院の担当である伯爵。


 ──それだけのお金がありながら、孤児院への寄付を怠るなんて。


 さっきまであんなに元気だったみんなが、どこか怯えたように俯き加減。

 許可なく動くことが許されていない。体は硬直したまま。

 すぐにでも駆け寄って心配したいだろうに。


「貴様か。私の物に勝手なことをした下級貴族とは」

「……………………はい?」


 公爵位が下級?


 頭が混乱する。

 確かに私は身分を明かしていない。リンシエが私をお嬢様と呼び、魔法を使ったから私を貴族令嬢と認識しただけ。

 家名を名乗らなければテロイ家だとわかるも者はいない。なにせテロイ家には息子二人しかいないのだから。

 養女に迎えたと噂が広まっていても、それが私であると彼らは知らない。


 だとしても。なぜ下級貴族と断言するのか。

 答えは簡単だった。


 私が馬車を使っていないから。


 貴族とは。滅多なことがないと自分の足では歩かない。特に平民が住む街では。

 伯爵のようにこれ見よがしに家紋の入った馬車を、道のど真ん中に止めるのはよくあること。

 用事があるわけでもないのにただ止まる。


 ──通行の邪魔だなぁ。


 せめてさ。脇道に止めるとか、配慮すべきことはあるだろうに。

 しかもだよ。扉を開けっぱなしにして余計に道を塞ぐなんて。


「貧乏人が貧乏人と慣れ合うなんてお笑いぐさだな」


 目立たない地味な恰好。御者を雇うお金もない。イコール貧乏ってわけ。


 背後のリンシエが怒りに燃えているのがよくわかる。

 水魔法を伯爵の顔面にぶつける勢い。手加減なんてしないだろう。


「ふん。はした金だが、小汚いガキ共にしてはよく稼いだな」


 売上金を奪っては紙幣を数え、硬貨と麻袋に入れる。


「何をしているの?それはこの子達が一生懸命作って売ったお金よ。貴方みたいな人が触れていいものではないわ。返しなさい!!」

「口の利き方には気を付けろガキ!私は伯爵であるぞ!!」

「貴方こそ気を付けなさい!こちらのお方は……」

「リンシエ」


 首を横に振った。

 身分に身分で対抗するのは好ましくない。自分のほうが位が高いことを自慢するのは下品。

 高貴な存在はそもそも、身分一つであんなにも偉ぶったりしないものだ。

 それしか自慢できるものがないと言っているようなもの。


 人の上に立つべき者は下の者の気持ちを理解しなくてはならない。上辺だけでなく言葉の本質さえも、ちゃんと考えて。


 貴族だから、孤児だから。そんな理由で見下すのは愚か者。


「貴様が私と同じ貴族だとして。対等ではないのだぞ。下の人間は上の人間に意見することなど許されない。わかったな?」

「これは一体何の騒ぎだ?」


 おや?この声は……。


 誰もが条件反射で振り向く。

 聞き間違えることのないその声の主はお父……。お父様、だよね?


 そこにいたのは朝と同じ格好の上に羽織を羽織ったお父様が、数人の若い男女を従えていた。

 誰もが凛々しい顔立ち。目元がキリっとしている。何事にも動じなさそうな雰囲気。


 軽く吹いた風が羽織を揺らす。


 黒地に赤い刺繍。繊細で美しい刺繍が表すは、お父様の魔法でもある炎とアネモスの風。

 胸元にはテロイ家の家紋も刺繍されており、お父様と数人の貴族が羽織っているということは制服のようなものか。

 羽織りだけを統一するとかお洒落すぎない?


 しかもなぜか眼鏡まで掛けて。目が悪いわけでもないだろうに。

 分厚くないフレーム。知的さをアップさせる。似合っててカッコ良いな。うん、すっごくカッコ良い!!


 カッコ良すぎるカッコ良さに私は大興奮。


「これはこれは!テロイ公爵。お久しぶりです」


 まさかと思うけど伯爵の服、お父様を真似してるとか……ないよね。だって、ねぇ?

 あんな痛々しい服とお父様の羽織じゃ天と地ほどの差がある。

 二人が並ぶと余計に悪目立ち。


 さっきまでの横暴さはどこへやら。腰を低くしヘラヘラと笑いながら両手を揉み合わせる。

 典型的なごますり男。


「それで?何があったんだ」

「実はですね。私が提案したこのイベントにケチをつける下級貴族がいましてですね」

「リミック様。街人から商品をお借りしてきました」


 物珍しい財布とリュック、カレンダーを順番に手に取る。


「良い品だな」

「そうでしょう!これは我がイヤール伯爵家の職人が手掛けた物でございます」

「違う!!それは全部、孤児院のみんなで作った物だよ!」

「このガキ!!貴様のような貧乏人がテロイ公爵の視界に入るなど!!身の程を弁えろ!!」


 あぁ……お父様の目が殺人鬼の如く鋭くなった。

 リンシエなんて伯爵の失言や暴言に対して悪い笑みを浮かべている。


「伯爵。お前の職人が作ったということはアイデアもお前が?」

「ええ!もちろです!!」

「嘘つき!!それはユーリ様が考えたものだもん!!」

「だそうだが?」

「公爵ともあろうお方が、たかが孤児の言うことを信じるのですか?同じ貴族である私の言葉こそ正しい!そうでしょう?」


 喋れば喋るほどお父様からの信頼が失われているな。

 私も口を挟みたいけどお父様が目で合図を送ってくる。もう少し我慢、と。


 お口チャックした状態で不毛な会話を見守る。


「そうか。では、これはどういう用途で作った?」


 三つのうちから財布を選ぶ。


「え?あ……えっと……そう!小物入れです。はい」

「なぜ細長くしたんだ?」

「それは、その……。おい!さっさと答えろ!!」

「伯爵。私はお前に聞いたんだ。子供達は関係ない」


 怒り狂った視線から守るように、数人が子供達と伯爵の間に立つ。


「あ……っ、物を多く入れるためです」


 全然違う。そもそもそれは財布だし。

 見当違いのことばかり述べる伯爵に怒りを覚えて、ほっぺたを膨らませた。


 怯えるように宙を彷徨う視線が下がることはなく、当然のことながら私を見ることもない。


「これは?」


 次はリュックだ。


 両肩に背負う文化がないため、異様な形をした袋という認識にしかならないだろう。

 大きくて頑丈な布袋と説明した瞬間、お父様が呆れたようにため息をついたのを私は見逃していない。


「最後のこれは」

「暦を書いた紙でごさまいます」

「見ればわかる。どういう目的で作ったのかを聞いている」


 声のトーンが一気に下がった。

 お父様の態度から察するに伯爵が嘘をついていると確信を持っている。

 いつ本当のことを言うのか。

 それとも、どこまで嘘を突き通すのか楽しんでいるのかも。


 大量に流れる汗をハンカチで拭っても追いつかない。

 晴天とはいえ程よく風も吹いているから暑いわけでもなかった。にも関わらず伯爵は暑さにやられたかのように汗が止まることはなく顔色も悪い。

 唇も震えていた。


 お父様のほうが少しだけ背が高いだけなのに、背筋が伸びているため、ずっと大きく見えた。


「もういい。先程、金がどうこうと聞こえたが?」

「ああ!それはですね!このイベントも商品もアイデアは全て!!この私が考えたというのにコイツらが売上を全額持っていこうとしたもので」

「違う!!バサーはユーリ様が俺達のために考えてくれたんだ!!」

「黙れガキ!!大人の会話に口を挟むな!!これだから親のいない子供は」


 そろそろ喋ってもいいかな?まだかな?我慢の限界なんだけど。


 伯爵は施しでも与えるかのように硬貨をバラまいた。地べたを這いつくばって拾えと言わんばかりに。


 ──お父様。まだですか?


 タイミングが掴めないでいると、お父様が優しく微笑みかけてくれる。

 お、許可が出た。


「伯爵の言ったことは事実無根。バサーの開催と商品アイデアを提案したのは私ですが、作り売ったのは彼らです。そもそも、伯爵が月に定められた金額を寄付していないのが事の発端」

「ほう。それは興味深い」

「騙されてはなりません!!こんな下級貴族の言葉など信じるに値しない!!」

「お前の言う下級貴族とは私の娘なわけだが」

「…………へ?」


 私を抱き上げてくれたお父様は穏やか。とても仕事中にしていい表情ではない。

 部下であろう人達も、つい見てはいけないものを見たかのように目を逸らす。


 漂う空気が緊張している。ポカポカ陽気が寒さへと変わった。

 伯爵もシム達でさえ顔面蒼白。

 特に伯爵は酸素を欲するように口をパクパクとさせる。


 ──見下してきた子供がまさか、媚びを売っていた相手の娘とは夢にも思わないよね。

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