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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
新たな出会い

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いっばい売るのです!

 やってきた。バザー当日。天気は晴れ。風もなくバザー日和である。


 伯爵が邪魔することを危惧していたけど、意外なことに孤児院に顔を出すことはなかった。


 シムを折檻したことで怯えて暮らしていると思ったのだろうか。

 何にせよ、伯爵がいないことで作業がスムーズに進んだので、その点は良かったな。


 ここ数日。出掛ける報告をしてもすんなり許可をくれるだけでなく、街で何をしているのか聞かれることもない。

 主にノルアお兄様とティアロお兄様が学園のことを話してくれる。


 16歳になるのが待ち遠しいくらいに楽しい学園生活。

 授業は歴史、算術、魔物学。社交術に女子は刺繍が必須。

 ダンスの授業もあるのだとか。誰とでも踊れるようにと毎回、パートナーは代わる。基礎さえしっかりできていれば恥をかくことも、パートナーに恥をかかせることもない。


 通常・必須科目とは別に芸術コースと騎士コースというものがあり、その分野を極めたい生徒が集まって研鑽に務める。

 

 ──部活みたいなものか。


 カレンダーはみんなと孤児院で作った。定規代わりに薄い板で線を引き、予定が書き込みやすいように1日の枠を大きめを取る。

 上部には季節の花を描き、土耀と日耀の日付けは青と赤でわかりやすく書く。

 国民なら誰でも知っている王族の誕生日と建国日だけは予め書き込んでおいた。


 その他には家族や友達の誕生日。記念日。自由に書き込めば、カレンダーを確認するだけで予定がわかる。


 薄く切り込みを入れることで月替わりにはカレンダーを簡単に破れるようにもした。

 子供がいたずらしないように、手の届かない場所に掛けてもらえたら。


 今回は時間がなかったから壁掛けだけにしたけど、卓上や日めくりも作りたいな。


 ぬいぐるみも種類が増えた。定番の動物でもある猫と犬、兎と小鳥。意外にも存在した狐や狸、よく工事現場の看板に描かれるモグラを更に可愛くデフォルメした合計七種類を用意。

 それぞれ尻尾や耳、羽、お腹がもふもふで手触り最高。


 小物入れは通常の物とは別に紙専用の入れ物も作ってくれていた。

 平民は新しく家族が生まれたとき神殿にいき、子供を名前を伝える。そのときに神官が、神の御加護がありますようにとわ金と銀が美しく混ざり合った魔道具で紙に名前を書く。

 生まれてきてくれた子供の名前。生きているときは幸せに、死後はその魂が天に昇るように。

 名を書いた紙は汚すことも破損することもなく、大切に保管しなくてはならない。


 A5サイズとやや小さめなので入れ物自体もそこまで大きくはなかった。


 シムは勝手に作ったことを気にして謝ったけど、謝ることは何もない。

 仮に私が元からこの世界に生きている貴族だったとして。平民の習慣を何も知らない。彼らだからこそ通ずるものがあるのだ。


 物は物でしかないと言うけれど。心を込めて作れば魂だって宿る。ボロボロになっても無情にも捨てるのではなく、たった一言だけでも感謝の想いを伝えたらきっと喜ぶ。

 私はそう信じている。


 「よし。小物入れも500カリンで売るから、こっちにまとめて」


 人が集まる広場に商品を並べて、バザー開催。

 露店販売を行うのに偉い人の許可はいらない。貴族街なら申請をして、何を売るのか書類を提出しなければならないとか。


 貴族が相手なら商人は直接、屋敷に出向いて商品を売るので路上に店を開くことはないのだ。


 大方予想通り、安いぬいぐるみが売れていく。

 手に持った感触がたまらないよね。

 ワンコインで買えるお手軽さだし。


 「これは何ですか?」


 綺麗な顔をした男の子が私の目の前にしゃがむ。

 キラキラと輝くオレンジ色の瞳。柔らかい微笑みに後光が差す。

 ふんわりとした髪。毛先にウェーブがかかっていて、ふわふわ感が増している。

 薄い青色は水色とも違っていて、鮮やかさが目立つ。雲のない青空。


 「あの?」

 「え、あ!ごめんなさい。これはカレンダー。1年の暦を記載した物です」

 「へぇー」


 興味深そうにパラパラとめくる。

 顎に手を当てて悩んでは


 「これをくれるかな。それと……これは?」

 「それは財布と言って、お金を入れる布袋です」


 使い方を実演すると男の子は感心したように財布を手に取った。

 簡素な作りだけど丈夫で、紙幣と硬貨が別々に入れられることに驚きの息をつく。


 「男の子にはこっちの無地の財布がいいかもしれませんね」


 彩度の低い青や緑といった落ち着いた色。


 ドキドキしながら男の子に手渡した。


 「いいね。これも買うよ」

 「ありがとうございます!」


 ネックだった財布が売れたことにより、ようやく私の緊張は解れた。だらしないと自覚している、ふにゃりとした笑顔でお礼を述べる。


 「ところで。カレンダーはいくら?値段がないけど」


 失念していた。

 値段……値段か。


 「100カリンです」

 「え?そんなに安くていいんですか?」


 有名人が載っていたら高額だけど、こういうシンプルなやつなら均一店で大量に売られている。


 この世界でも簡単に作れるし妥当な値段。

 皺にならないように丸めて軽く紐でくくる。本当は筒とかあったらいいんだけど、誰でも気兼ねなく買えるバザーの品が高級感溢れていたら意味がない。


 「この紙は薄いけど上質。土耀と日耀は色鉛筆でわかりやすく色付けまでされて。平民が一本でも持っていることが珍しいのに」


 そうだったのか。二色どころか、十二色揃っていたな。

 おかげで花も色が塗れた。


 「それに描かれている花。繊細で美しい。トップクラスの画家が描いたものだろう?」


 違います。4歳児(中身26歳)の素人が描いた絵です。ごめんなさい。


 ──大絶賛されると言い出しずらいんだけど。


 「そんな大層なものじゃないので。ほんと。二つで600カリンですよ」

 「これは価値ある物なんだけどな」


 言いながらも千カリンを出した。お釣りを用意している間に男の子は商品を持って行ってしまう。


 慌てて追いかけた。短い足を懸命に動かして、追いつくと店からそこそこ離れていた。

 私と男の子。歳はそんなに変わらないはずなのに。歩幅が違うだけで、同じ子供が大きく見える。


 たった十メートルにも満たない距離とはいえ、私なりに全力で走っては息を切らさなかったことはすごいことだ。

 体力はつき、確実に成長していると自信がついた。


 「お釣り忘れてるよ」

 「君はとても丁寧に商品の説明をしてくれた。そのお礼ってことで」

 「それは当たり前のことだから。これが貴方の厚意だったとしても私は応えられない。それに!お金を扱う仕事は信用第一!!1カリンでも誤差があったらいけないの」


 男の子の手にお釣りを返して、落とさないように握らせた。


 「今日は買ってくれてありがとう。それとこれも」


 買ってくれた人にはイラストカードを渡す。

 文字が読めなければ「ありがとうございます」と書いても伝わらない。

 だったらいっそ、誰でもわかりやすく絵にしてしまおうということだ。


 絵柄はランダム。可愛い動物が丁寧なお辞儀で感謝を伝える。


 大手珈琲屋で店員さんがカップにメッセージを書いてくれたときは本当に嬉しかった。

 ちょっとしたサービス。ちょっとした気配り。


 お金を払って購入してくれるからこそ、売る私達は買ってくれたことへの感謝を忘れてはいけないのだ。


 持ち場を離れた私をハラハラと見守るリンシエの元に戻り、私も売り子として頑張る。


 「やっぱりカレンダーをもう一つ欲しいな。あとぬいぐるみも。色違いの小鳥を三個」


 返したお釣りが速攻で戻ってきた。小鳥と一緒に。


 「君に似て可愛いからあげる」

 「ま、待って!」

 「これは正真正銘、私が買った物だよ?持ち主が君にあげると言った。受け取ってくれなければ、この子達は行き場を失くしてしまうね」


 可愛らしい笑顔で悪魔みたいなことを言う。


 小鳥のつぶらな瞳が潤んでいるようにも見えて、男の子に突き返せない。

 私に残された選択肢は一つだけ。


 「大切にします」


 受け取ると嬉しそうに笑うから。私もつい笑顔を返した。


 喋り方も佇まいも上品だったな。私と同じ貴族かな?

 でも、近くに従者はいないようだし裕福な平民?


 お釣りをいらないなんてカッコ良いことを言えるのは、お金に余裕がある人だけ。


 いつか働いて稼げるようになったら同じことをしたいけど、お金に誤差が出るのは良くないと言った私がしていいはずがない。

 あの子のように別の物を買ってプレゼントする手はありだな。


 全体がふっくらとして丸みを帯びた小鳥に視線が釘付けになっていると、大ショックを受ける事実が浮かんでしまった。


 「リンシエ。もしかして私、太ってる?」


 鏡で見る姿は私の想像で、ご飯やおやつを食べるようになった本当の私は、たぷたぷの肉団子なのでは。


 ──私に似てというのは、そういう意味だったのか……!!


 「いいえ、全く。むしろもっと肉を付けるべきです」

 「で、でも……。さっきの子は私と小鳥が似てるって」

 「ユーリ様。可愛いところが似ているんですよ」

 「他にもぬいぐるみあるのに」

 「色ではありませんか?ユーリ様の髪色と同じ白。瞳の青。お洋服の緑。どれもユーリ様を表していますよ」

 「そっか……。そっか!」


 リンシエがわかりやすく説明してくれたおかげで、沈みかけた気分が持ち堪えた。


 売り物と混同しないように小鳥は後ろに並べて見守っていてもらう。

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