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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
新たな出会い

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25/48

準備は大変ですが楽しいのです

 「うぅ、眠い」


 夜中、睡魔と戦いながらも何とか記憶を掘り起こした結果、恐らくこれで作れるだろうと曖昧で微妙な情報を書き出せた。

 細かい所は早々に諦めて、必要なパーツは揃っているはず。

 作り出したら記憶はもっと鮮明に浮かぶだろう。


 「まぁ!ユーリ様!大丈夫ですか!?」


 起こしに来てくれたリンシエは私の顔を見るやいなや驚く。


 しばしばする目を擦り、カクカクとなる首を支えてもらいながら抱っこをしてもらう。


 四時間は寝たので徹夜をしたわけではないのに、子供の体では耐えられないようだ。

 瞼がくっついてしまえば私

 夢の中。


 目を覚ますため冷たい水を用意してもらい、それで顔を洗うと気が引き締まる。

 シャキッとしたところで1日の源、朝ご飯だ。


 よく噛んで食べる。これから戦いにでも行くかのような気持ち。

 トロンとしていた目はキリッとしている。背筋も伸ばす。


 右手で持つフォークを落とさないようにしっかりと持つ。


 「お父様。今日も街に行きます」

 「あぁ。わかった」


 およ?今日はやけにすんなりと許可が降りた。

 そうか。昨日は魔道具が発動するようなことが何もなかったから、今日も何もないと信じてくれているんだ。


 安心してもらうために魔道具はつける。仕事中や授業中にずっと心配させるのも忍びない。


 ご飯も食べ終えて、家族三人を見送り、お母様に「行ってきます」を言い出掛ける。


 材料とご飯は既にリンシエが魔道具の中に保管し馬車に積んでくれていた。

 優雅に微笑みながら手を振ってくれるお母様に手を振り返す。


 道のりは昨日と同じ。門の所までは馬車で行き、街は徒歩。

 普通の貴族は馬車を降りることなく、そのまま乗っているため私はかなり特殊。

 だからなのだろう。昨日の男性が私を平民だと決め付けていたのは。


 近くに馬車は停まっていない。身なりはちょっとだけ良く、裕福な家庭の子供が正義感ぶっている、という感覚だったのか。


 正義感ぶったつもりはない。親がいないことを悪であると信じて疑わない男性に怒りを感じただけ。

 理不尽や横暴を許してしまえば、他の人もまた同じことを思う。



 孤児は見下し蔑んでいいものだと。

 親のいない子供には何を言ってもいいのだと。



 そんな世界を私は認めたくない。認めてはいけないんだ。絶対に。


 「わぁ!ユーリ様だ」

 「おはよう」


 孤児院につくと子供達がすぐさま抱きついてきた。

 みんな小さいとはいえ、勢いがよすぎたため足元がよろける。倒れてしまう前に駆け寄ってきたシムが後ろから支えてくれた。


 「ありがとう」

 「い、いえ。チビ達が失礼しました」

 「待って!シム、どうしたの。その顔」


 昨日はなかった痛々しい痣が頬に残っていた。


 口を開いては、ハッとしてすぐに口を閉ざす。不自然なほど泳ぐ視線。


 「シム兄ちゃん。伯爵様に殴られたんだよ」


 なぜ?と聞くまでもない。私がシムを助けてしまったから。


 恥をかかされた男性が伯爵に告げ口でもしたのだろう。

 王都に入るまで時間がかかっても手紙なら30分とかからない。

 検閲はするものの中身を確認するわけでもなく、危険物でなければそのまま通る。確実に伯爵の手に渡るのだ。


 知り合いでもない平民からの手紙は読まずに捨てるのが普通の貴族。

 でも、伯爵はこの街の住人からなら必ず目を通す。孤児院に関する情報を見逃さないようにするため。


 孤児院を監視しているのは街人。伯爵の手の者ではない。

 全員ではなく報酬に目が眩んだ一部の人間だけ。


 「ごめんね。ごめんね、シム」


 私のせいで罪のないシムが傷つけられた。

 こんなにもハッキリと痕になるなんて、どんな力で殴ったのか。


 懺悔と後悔を秘めながら謝罪を繰り返す。


 痛かっただろう。理不尽に殴られて。

 泣いたらきっと、もっと痛めつけられるか他の子供が標的にされてしまう。必死に堪えて、平気なふりをした。


 痛み(きず)を治さなくては。


 自然と体は動く。


 お父様は私に治癒魔法をかけてくれた。つまり他の人にも使えるということだ。


 問題は私にも同じ才能があるかどうか。今の時点では、無意識にしか使ったことのない治癒魔法。


 魔力のコントロールはまだ下手っぴだけど、誰かを助けたいと強く願う今なら成功する確信がある。


 「ユーリ様。いけません」


 一点集中。手に魔力を集めると、リンシエが悲しく首を横に振った。


 魔法は6歳から。前例はあくまでも王家の血筋と正当な血統のみで、ただの貴族が易々と覆していいものではない。

 私にはアネモスとブロンテーの魔法が扱えるとはいえ、それを知っているのはほんの一部。彼らには知り得ないこと。


 噂は正しく広がるとも限らない。必ずどこかで捻じ曲がってしまうもの。

 リンシエが危惧しているのもまさにそこ。


 ──治す力を持ちながら治せないなんて。


 「魔道具は!?あるよね?屋敷に」

 「……いいえ」


 一縷の望みは絶たれた。

 お父様が治癒魔法を使えるのであれば、魔道具の必要性はない。


 私のせいで怪我を負わせてしまったのに、責任を取れないことが悔しかった。

 言葉だけの謝罪に何の意味があるのか。


 「あ、あのユーリ様。大丈夫ですから。こんな傷、1週間もすれば治ります」


 シムには私を責める権利がある。余計なことをして出しゃばらなければ、あんな酷い怪我を終わされることもなかった。


 責めるどころか気に病まないように気遣ってくれる。


 優しいんだな。みんな。


 涙を拭いた。優しさにそぐわぬように。

 笑顔を作った。優しさを受け入れるように。


 「まずは朝ご飯を食べよう!いっぱい持ってきたの」


 手で食べられる軽食が並ぶ。デザートにとクレープまで。


 少し冷めてしまったけど味は保証する。


 テーブルを埋め尽くす量に子供達のお腹が一斉に鳴った。涎を垂らす子もいる。


 「ユーリ様。これは一体……。いけません。このようなこと。貴重な食料を我々のような平民に分け与えるなど」


 貴重と言うほどではない。まだまだ余裕はあるし。

 確認の意味も込めてリンシエを見るとコクリと頷く。


 「大丈夫です。遠慮しないでどんどん食べて下さい」

 「わーい!!」

 「やったぁ!!」

 「待って!!」


 各自が好きな物に手を伸ばし、食べる寸前にストップをかけた。


 作者が日本人と言えど、ここは私が生きた世界ではない。

 習慣となっていた挨拶がなくて当然。

 教会ならお祈りはするかもしれないけど。


 「ご飯を食べる前には、いただきますって言うんだよ」

 「「いただきます?」」

 「そう。お肉も野菜も元は命。私達は生きるためにその命を食させてもらう。命を頂くことへの感謝。食材を育ててくれた人、運んでくれた人、調理してくれた人への感謝を表すの」


 という説明を家族にもすると大袈裟なまでに褒められた。

 不当な扱いで死にかけていたにも関わらず、命への造詣の深さ。


 姿形は変わっても生きていた命であったと思い出す。


 人間がこうして生きられるのは自然の恵みのおかげ。それらは決して当たり前ではない。

 感謝を忘れるなんて以ての外。どんな状況下になろうとも、生きるとは食べること。


 「「いただきます!!」」


 伝わって良かった。


 「ユーリ様は幼いのに聡明でいらっしゃいますね」


 院長は驚きと困惑を混ぜたような表情で、まじまじと私を見つめる。

 声は至って普通。貴族なら子の歳でも教養があると思ってくれていたらいいな。


 いや、ちょっと待って。院長の目、キラキラしてない?

 曇ることのない少年のような瞳。

 純粋すぎる瞳は眩しい。

 感心というよりかは感動。


 さっきまで見上げていた院長の顔が目の前にある。


 「ユーリ様のようなお方は見たことがありません」


 膝を付き胸に手を当てた。

 痩せこけて血色の悪い顔はなぜかツヤツヤしていて、とても栄養が足りていない大人には見えない。

 どうしたの急に。そんな少年の眼差しを向けないで!?


 「平民の街に足を運んでくれるお貴族様のほとんどがその……」


 言葉は濁された。何を言いたいのかわかるので、聞き返すことはしない。

 同じ貴族で、しかも子供である私に悪口を聞かせてはいけないと、咄嗟の判断。


 何もわかってませんよとアピールするために、ニコーッと笑う。


 私は子供です。子供は難しいことはまだよくわからないのですよ。だから、安心してね。


 「貴族らしいお方が多いのです」


 おお。その言い方なら悪い意味だけで捉えることはない。

 “らしい”を追求しなければ院長を困らせることはないので、ここはもう聞き役に徹する。


 「こんなにも他者のことを考え、食事一つにも深く感謝を捧げるお方がいたことに、このキリム、感銘を受けました」


 それは私が特殊というか、作者都合というか。


 披露したウンチクは両親の受け売り。

 言葉の意味なんて考えたことも、ましてや興味を持ったこともなかった。

 周りがするから、自然と真似をしていただけ。


 食に関わった全ての人への感謝だと教えられたときから、心の底から感謝を込めて「いただきます」と言うようにった。

 大切なことだからこそ当たり前に思うのではなく、習慣として広まって欲しい。


 今日明日、すぐに国民が食事に手を合わせるなんて無理だ。

 平民なら説明したら食の有難みを理解してくれるだろうけど、ミトン……一部の貴族は下々の者は上に尽くして当然。仕事を与えてやっている。そんな感覚でしかない。


 人と人の出会いも繋がりも、尊いものなのに。

 目には見えない絆を軽んじていると、いつか繋がっている縁は途切れて、誰にも助けてもらえなくなる。


 貴族に生まれたから偉いのではなく、役目を果たすからこそ価値が証明されるのだ。


 ──そのことに気付ける日がきたらいいな。


 私には祈ることしかできないから。


 「院長も食べて下さい。次の土燿にバザーを開催します。時間はあまりないですが、頑張ってもらうためにも体力をつけてもらわないと」


 目に浮かんだ涙を拭ってはニカッとワイルドに笑った。

 食べられなくて痩せているから優しい雰囲気に包まれていたけど、本当はガタイの良い職人みたいだったのかもしれない。


 サンドイッチを食べる一口も大きくムキムキに戻った姿をより見たくなった。


 「ふぅ、お腹いっぱい」

 「こんなに食べたの久しぶり」

 「みんな。食べたら、ごちそうさまだよ」

 「「ごちそうさま!!」」


 素直に受け入れてくれる子供達にほっこりする。

 食べ切れなかった分は昼や夜に回す。同じ味ばかりで飽きてしまうのではと気掛かりだったけど、何も心配はいらなかった。

 美味しい料理をまた食べられることに喜びを感じている。


 「ねぇねぇユーリ様。何したらいい?」

 「窓に置いてあるようなぬいぐるみをいっぱい作って欲しいの。綿をいっぱい使っていいから、体の一部をもふもふにしてさ」

 「もふもふ?」

 「そう。もふもふ。お願いしていい?」

 「いいよ!!」

 「頑張って作るね」

 「無地のワンピースも作れる?」

 「刺繍はしないの?」

 「今回は無地でいこうと思ってる」


 そのまま着てもいいし、好きな柄を刺繍してくれてもいい。唯一無二や友達とお揃いにしたら気分も上がる。


 不思議そうに首を傾げながらも私からの注文は受けてくれた。

 目玉商品ではないけど、売れ筋になる予感。

 シンプルに無地だけで作るのがポイント。


 「この食器も手作りなんだよね?これも作って欲しいの」

 「それはシム兄ちゃんの手作りなんだよ」

 「そう。一番器用なの」

 「や、やめろ!器用じゃない。食器が買えないから作っただけ」


 顔も耳も真っ赤にして背を向けてしまった。

 前に回り込んで顔を覗き込む。目が合い、へらぁっと笑えばよく熟れたいちごのように赤く、沸騰したヤカンのように湯気が出た。


 ──シムが風邪を引いてしまった!?


 おでこに手を当ててみても熱はない。咳もしていないし、急にいっぱい食べたから体が驚いたのかな。

 しばらく横になっていたほうがいいね。


 体調不良のときは安静にしているのが一番。


 床に寝るのは良くない。ベッドは……。上かな。


 孤児院の階段は段差がやや高く、私には巨大な壁が永遠と続いているように見える。


 上れる気がしない。あんなに足は上がらないし。

 体全体を使ってよじ登れば何とか……。


 想像してみると無理だった。

 腕の力を使って体を持ち上げ、上半身が階段に乗るまではいけたんだけど。どう頑張っても足が乗らない。ジタバタして助けを待つだけ。


 大人しく抱っこしてもらうのが得策。


 「だ、大丈夫!!元気だから!ほら!!」


 勢いよく走り回る。周りの子や院長……キリムも微笑ましい表情なので信じることにした。


 「それで!!俺は食器を作ればいいんだな!?」


 元気なことをアピールするために大声を出さなくてもいいのに。


 「そうなんだけど……。ねぇシム。容器の底に動物を彫れたりできる?」

 「できるよ。簡単」


 なんと頼もしい。ちょっとドヤ顔で胸を叩くシムが男らしかった。


 どんな動物がいるかまだ把握してないため、とりあえず口頭で子供に人気があり、この世界にいそうな名前を挙げていく。


 絵本に出てくる動物は確実にいる。ライオンはどうだろう?


 「らいおん?聞いたことはあるけど見たことはない」

 「猫みたいなんだけどね。ぐわぁ!って感じ」

 「……??」


 顔をしかめられた。おもいっきり。

 リンシエだけ口元を手で覆って目を輝かせている。

 その反応はなんだろう。バカにされている感じはしないけど、こう……。うん。ものすごく幼児扱いされている気分。


 ──実際、幼児だけども!


 「そうだ!絵を描くから紙とペン、貸してもらっていい?」


 紙は普通に普及していた。鉛筆を手渡されたときには我が目を疑いつつも、ここはフィクションだからと自らを納得させた。


 鉛筆の発祥は海外だったはず。ならば異世界にあったとしても不思議ではない。

 この芯を削っているのはシムだな。


 「確かこんな感じ」


 最後に見たのは中学生のときに行った写生大会。私はライオンを描いた。今みたいに。


 完成すると意外にも描けたことに自分でもビックリ。

 というかこれ、月影優里(わたし)の画力そのままじゃない!?


 ──4歳でこれはアウトでは?


 絵を描くのは得意だった。友達が持っているゲームや漫画、おもちゃを欲しいと思ったことはない。

 お金のかからない遊び、お絵描きが特に好き。スーパーのチラシの裏や捨てるだけの広告紙の裏に見たものを模写する。時には想像で描いたりもして。


 プロになれるレベルではないけど、コンクールでは必ず金賞を貰っていた。

 町内会のお祭りや交通安全のポスターも描いて欲しいと頼まれることもしばしば。

 美術部からの勧誘を何度断ったことか。


 両親の生命保険はあったけど贅沢をするためのお金ではなく、将来の困ったときや育ててくれた祖父母のお葬式代に宛てたかった。


 私を引き取りたくはないけど、お金だけは奪い取ろうとする親戚を蹴散らしてくれたのが友達の弁護士ママ。

 女帝とまで恐れられる法の番人が娘の友達というだけで、無料で助けてくれるなんて誰が想像しただろうか。


 ──人に恵まれすぎていたなぁ。


 優しくしてくれた人達に私は恩を返せていただろうか?


 「これがライオン。カッコ良い」

 「これはー?」

 「魔物だ!」


 ついでに動物園のアイドル、パンダやコアラも描いてみたけど案の定、存じ上げないか。

 熊はいて、ゴリラは魔物でいるらしい。


 「ユーリ様」

 「なぁに?」

 「どこで動物を見たのですか?」


 ──…………しまったぁぁーー!


 外に出たのがつい最近の私がその姿を知っているなんておかしい。絵本にも登場してないし。

 疑問を抱いて当然!!


 失敗してから失敗に気付くなんて、どう誤魔化せばいいのやら。


 動物は基本、野生で生息しているらしく決められたエリアにしかいない。

 サファリパークみたいなものか。


 ペットとして飼うのは禁止されていないものの、犬や猫といった人を襲わない動物に限る。


 ──犬は訓練次第で人を襲うのでは?


 「ゆ……夢で見たの」


 我ながら苦しい言い訳。


 別の世界からきた元は死んだ人間です、とは言えないし。

 最善がこれしか浮かばなかった。


 「まぁ!そうだったんですね!」


 あ、信じてくれるんだ。


 魔法の世界だからね!予知夢……的なアレでゴリ押しできるのか。


 「ですが底に彫ると見えなくなるのでは?」

 「全部食べたら見えるよ」

 「あ、そっか」


 食べるだけじゃなく食べた後もちょっとした楽しみがあったらいいよね。


 「細かい作業になるけど、花も彫れたりする?」

 「花。花かぁ……」

 「動物も可愛いけど、身近にある花のほうが喜ばれるかもしれないから」

 「彫れるけど、あんまりわかんないからな」


 この辺にはあまり花は咲いていない。雑草はよく目にするけど。


 「シム。寄付で貰った花の図鑑がある。それを見て一緒に頑張ろう」


 本棚から図鑑を取り出したキリムは、男の子でも喜びそうな花を探す。


 子供は好奇心旺盛だ。初めて見るものに興味を示す。そのまま好きになってくれたら良いけど、そう上手くはいかない。

 興味と好きは別物なのだ。


 「ユーリ様は天才ですか?」

 「違うよ」


 これは先人のアイデアであり私は使わせてもらってるだけ。

 誰が発案者かはわからないけど、心の中で感謝をする。


 「小物入れも作れる?小さめの木箱で、ちょっとした宝物を入れたりするの」

 「シム兄ならあっという間だぜ」

 「全部俺かよ!!」

 「へへ」

 「たく。手伝えよ」

 「あ、あとね!可能ならでいいんだけど、リュックを作ってくれると嬉しいかなって」


 完成図と頑張って思い出した作るために必要な材料のパーツを見せた。

 数人の女の子が覗き込み、黙々と作業を始めること20分。 頭の中で思い描いていた立体的なリュックが完成。


 待って。この子達、すごくない?


 通常の二~三倍は速く、こんな雑で穴だらけの情報でよく作り上げたよね。

 実物だって見たわけじゃないのに。

 私も一緒に作って、四苦八苦しながらも完成させるつもりが。


 ミシンではなく手縫い。周りの音なんて聞こえていないかのような集中力。


 「ユーリ様。これでは違いましたか?」

 「完璧だよ!!すごい!!」


 私には大きすぎるため試せないけど、順番に背負った子供達は感動の嵐に包まれる。

 中に重たい物を入れても片方の腕だけに負担がいくわけでもなく、動いやすいと大絶賛。

 両手が自由になるメリットは大きい。


 子供用と大人用の二種類を販売予定。数は……そうだな。三個ずつが妥当かも。


 未知の物を受け入れてくれるほど大人は柔軟ではない。子供のワクワク心はくすぐるけど、大人用のリュックは5千カリンで売るからな。売れるかどうか現段階では微妙なところ。


  ぬいぐるみは100カリンとお手頃で売れ筋間違いなし。


 「財布もお願いしていい?どうしても欲しいの」


 ファスナーやスナップボタンだっけ?あれらを取り付けることなく、布で作る簡易的な物。

 ぺったんこ財布だから金具部分を洋服ボタンで代用できるはず。

 両端をきちんと縫い付けていたらお札が落ちる心配もない。

 スナップボタンの部分に洋服ボタンを付けて、輪っかにした紐を引っ掛けたら完成。


 サイズはお札より数センチ大きく作る。ピッタリだと入れるのも出すのも苦労するからね。


 「お金を入れる物をお金で買うの?」


 矛盾した考えに頭を悩ませていた。

 巾着袋があれば事足りるし、わざわざ買わなくても家で作れるので売れ残ることは覚悟している。


 お父様にお願いしたら立派な皮の財布が出来上がるけど、私は彼らが作った物が欲しいのだ。


 とにもかくにも素早く完成された財布は私の理想。

 お札と小銭が別々に入れられる。

 花柄で可愛く仕上がった。


 「可愛いですね。これなら売れますよ」

 「だといいんだけどね。リンシエは欲しい?財布」

 「もちろんです。プレゼントにも最適だと思いますよ」


 想像してみた。リボンを解き包みを開けて、この財布が出てきた瞬間を。


 すごく嬉しかった。天に掲げて子供のようにはしゃぐ。

 みんなに見てもらいたくて屋敷中を走り回って。

 すぐに使いたいからその日の買い物は私が行くだろう。


 「ユーリ様の発想は本当に素晴らしいです!」

 「そんなことないよ」


 前世の記憶があるだけで、ズルしているようなもの。

 私の考えではない。故に、褒められるのは違うんだよね。


 「私も手伝うから土燿まで頑張ろう」

 「こうして材料や食事を分けてもらってその上、ユーリ様にお手伝いして頂くわけには……」

 「言い出しっぺは私だから」


 家庭科技術が非常に残念な私に針仕事の手伝いは無理でも何かしらは手伝えるはずなんだ。


 主に針を使うし、削るためのナイフなんて持たせてはもらえないだろう。

 あれ?手伝えることなくない?


 みんなに手間だけを押し付けて私は高みの見物なんて。


 な、何か!私にもできることは……。


 そうだ!値段!

 商品には値段がいる。識字率は低くても数字なら読めるはず。

 野菜や雑貨を売る店には値札が立てられていたし。常連客なら商品の値段は覚えているかもしれないけど、日によって変わる場合もある。

 だから毎日、値札を用意しているのだ。


 今回のバザーで売るのは五点。

 ぬいぐるみが100カリン。

 食器と財布が500カリン。

 小物入れも500カリンにしたいけど……。今のとこは保留ということで。

 ワンピースは1000カリン。

 リュックが5千カリン。子供用は2千カリン。

 エコバックはサイズによって値段を変える。100~500カリンってとこかな。


 リンシエが密かに他の街も調査してくれていた。私には高いかも?と思うこの値段は妥当。

 これらが全部売れたら、孤児院にちょっとだけ余裕が生まれる。

 高望みして希望を抱いているとガッカリするかもしれないので、目標は5千~1万。


 他にも売れる物があったらいいけど、負担は増やしたくないしな。


 頭を捻って考えていると、視界に入る情報とこれまでの記憶から、あることが思い付いた。


 あった。私にも作れる物が。


 「みんな。土耀まで時間はないけど、無理はしちゃダメだよ」


 みんなのスピードなら余裕で間に合う。

 ご飯を食べてゆっくり休む時間を取ってもだ。


 土耀がくるまで3日しかない。焦る気持ちもあるのだろう。ソワソワしていた。

 やりたいことが初めて見つかったみたいだった。


 「大事なのは速さじゃなくて丁寧さ。買ってくれる人のことを思いながら心を込めて作ったら、売る側と買う側。作られた物もきっと喜ぶから」


 材料は今日持ってきた分で足りるはず。

 食器の木材は森の木を必要な分だけ切る。多く取りすぎると森の生体が崩れるかもしれないので、取りすぎないというのがルール。


 平民街の森には魔物がいないので、木材だけではなく木の実や山菜採りに子供達が駆り出されるときもある。

 お金がないときの生命線。だからこそ、皆がルールを守るのだ。


 ──私も今度、探索してみようかな。


 虫がいたら速攻で帰るけど。

 

 「じゃあみんな。今日はもう帰るね」


 あまり長居して、また伯爵に子供達が暴力を振るわれたら嫌だ。

 来るときだって目立たないように魔道具で髪色を変えた。

 昨日の騒動でかなり注目を浴びてしまったのだ。変装して街に馴染まなくては。

 門を超えるときにだけ本来の姿に戻っていたらいい。


 人目を気にしながら孤児院を出て、見送ってくれるみんなに手を振って帰路につく。


 「リンシエ」


 馬車に揺られながら、膝に乗せてくれているリンシエを見上げる。

 いつもみたいに柔らかい笑みを浮かべて


 「どうしました、ユーリ様」

 「色鉛筆ってある?」


 私が作る物には赤と青の色がいる。黒一色だと見づらいしね。


 「色鉛筆、ですか」

 「ないならいいの!」


 鉛筆があるならと期待したけど、ちょっとハイカラな物はないかな?


 となると。別の方法を考えないとね。

 色分けしたいからペンキでもいいんだけど。先端が細くてペンのように持てる物が一緒にあったら。


 習字は苦手ではないけど得意でもない。筆で上手く書ける自信がないので、探し出さなくては。


 「ありますよ」

 「あるの!?」

 「はい」


 優しい世界だな。


 欲しいと思う物が全部あるわけじゃないだろうけど。

 助かるな。色鉛筆があるのは。


 「ユーリ様。何をお考えですか?」

 「まだ内緒」


 窓の外に視線を移せば景色は変わる。

 温かい公爵邸へと帰ってきたのだ。


 今日は私が一番に帰りたようで、出迎えてくれたお母様にギューッとしがみついた。


 その日の夜。お父様からA2サイズの紙を大量に貰い12枚ずつに分ける。

 上に均一の穴を開けてもらい糸を通して縫い綴った。

 切れないようキツく頑丈に。


 手際の良いリンシエに惚れ惚れしていると、何に使うのか真剣に考えては私に答えを求めるようなことはしない。


 重ねた紙は背に穴を開けて糸で綴る和綴じが一般的。

 私がお願いしたように上を綴るのは初。しかも紙は普段使いよりも柔らかいのを選び、サイズも大きく持ち運びには不便。


 ──馴染みがないからピンとはこないよね。


 私が作るのはカレンダーである。


 家族との会話、公爵邸や孤児院を見て壁掛けや卓上のカレンダーがないことに気が付いた。


 不思議なんだよね。普段は目につく所に掛けているだけなのに、新しい年のカレンダーがないと間違い探しのような違和感を覚える。

 落ち着かないんだ。あるべき物が、あるべき場所にないのが。


 「ありがとう、リンシエ。寝る前に仕事させてごめんね」

 「仕事をするのが私の仕事ですよ」


 夜遅くまで付き合わせてしまったのに、文句一つもなかった。


 「ユーリ様。今日はもうお休みになって下さいね」

 「うん。今からティアロお兄様の部屋に行くの」


 書き込むのは明日から。

 この時間から作業を始めると床で寝る自信しかない。

 色鉛筆と紙をまとめて置いておき、今か今かと待ち構えているティアロお兄様の部屋に移動した。


 「遅くなってごめんなさい」

 「ユーリの時間をどう使おうがユーリの自由だ。何も謝ることはないよ。さてと。子守り歌を歌って欲しいんだったな」

 「絵本のやつがいい。小鳥さんの」


 ティアロお兄様の歌声は透き通っている。心地良い声は脳を刺激するかのように睡魔にゆっくりと侵食されていく。


 歌詞の一部分に「目を閉じて」とフレーズがある。

 まるで暗示だった。聞いた瞬間に瞼は閉じられ夢の中へ……。

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