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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
新たな出会い

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24/48

極秘作戦開始です

 帰りは遅くなることなく、まだ陽が昇っているうちに公爵邸に到着。


 定時は過ぎているのでお父様のほうが先に帰宅し、私が一番最後。


 怒っている様子はなく、何もなかったかと無事を確認してくれる。

 魔道具が発動していないことに心底安心していた。


 ブレスレットを外して専用の箱に片付ける。


 「リンシエ。お風呂入る」


 孤児院のことを話すなら誰にも聞かれない場所じゃないとね。

 察してくれたリンシエはすぐさま私を抱き上げ、お父様に一礼してその場を立ち去る。


 私がいつ帰ってきてもいいように湯加減は常に一定。お金に余裕のある家は質の良い魔道具を買えるのだ。


 まずは泡で汚れを落として、綺麗になったら湯船に浸かる。温まりながら髪を洗ってもらう。


 「あのね、リンシエ。材料のことなんだけど。お父様達には内緒で運べないかな?」

 「え……。旦那様達にですか?うーん……それは難しいかと」

 「だよね。公爵家の物を勝手に持ち出すのは良くないし」

 「それは大丈夫だと思います。人助けですし、事後報告でも許してもらえますよ。難しいのは運び出すことです」

 「あ、そっか」


 数十枚なら嵩張りが目立つことがないけど、孤児院に運ぶのは隠せない量。加えて人手もいる。

 人の手だけでは玄関があり、馬車を使うしかない。

 とどのつまり、誰にもバレないのは不可能。


 「ユーリ様。旦那様にお話して協力を仰いだほうがよろしいのでは?」

 「ううん。ダメなの」


 孤児院には管理する貴族がいる。

 大々的にお父様が関わってしまえば、伯爵とのいざこざに発展してしまう。

 仲が良いかはわからないけど、わざわざ不興を買うことはない。


 カッコ良くて優秀で、貴族のお手本でもあるお父様を快く思わない人は絶対にいる。

 悲しいことに人は自分よりも秀でた者に嫉妬し憎む傾向があるのだ。


 ──お父様には敵が多そう。


 攻撃する口実を与えるなんて恩を仇で返すようなもの。

 私はそんなことをしたくない。


 お父様が関わりさえしていなければ、伯爵を論破する自信はある。

 国の信頼を裏切り、平民という理由だけで虐げて。自らの利益(よく)を得るために国民をも脅した。本格的な調査をすれば人を殺した或いは、殺させた証拠が必ず出てくる。


 平民は貴族の私腹を肥やす道具ではない。私達と同じく今を生きる人間。

 お父様の力を借りずとも伯爵の悪行を暴いてみせる。


 とは意気込んでみたものの。問題は材料と料理をこっそりと持ち出せないこと。


 他の使用人にお願いをしても大人数が動いてしまえば不審がられて終わり。すぐにバレる。


 どんなに頑張って考えたところで、最終的にはバレるという結果に終わるので詰んでいた。


 「さ、ユーリ様。食堂に行きましょう」


 お風呂で綺麗になり、家族とお揃いの香油を付けてお腹を満たすためにご飯を食べる。


 これでも前よりは食べられるようになり量が増えた。とは言ってもスプーン三杯分程度だけど。

 それも私が使う小さなスプーン。


 「お父様。物を持ち運びする魔道具ってある?」

 「あるよ。使いたいのか?」

 「……ううん!!」


 ここでうなづいてしまえば用途を聞かれる。

 聞かれたら……私はきっと答えてしまう。


 「魔道具は誰でも使えるように魔力部屋の隣室に保管してあるのよね」

 「テロイ家に盗みに来るバカはいないから鍵もかかってないもんな」

 「在庫の確認も常にしているわけじゃないから、使った後にちゃんと戻せば持ち出されたこともわからない。案外、適当ですよね。我が家は」

 「仕方ないわ。リミックは一度言い出したら聞かないんですもの」


 おお!思わぬ収穫。

 そっかそっか。魔道具は自由に持ち出せるんだ。


 部屋がいっぱいあるのは探検して知っていたけど、全部の部屋を覗いたわけではない。

 よく使う部屋の隣は特に、いつでも見られると思うと後回しにしてしまう。


 どんな魔道具も使い方は一緒。

 魔力のコントロールはまだ下手でも、魔道具に注ぐだけならできる。……できたらいいな。


 料理長達にも明日のことをお願いしておかないと。


 「ごちそうさまでした」


 食べ終わると、すぐさま椅子から降りる。

 ちょっと勢いとカッコつけたせいもありトテンと尻もちをついてしまった。


 慌てて何事もなかったかのように立ち上がる。

 みんな私を見ていない。食事に集中していた。


 今は急いでいるため自分で歩くより抱っこしてもらうほうが早い。

 目配せ一つで瞬時に私の考えを読み取ってくれるリンシエの優秀さは素晴らしかった。

 公爵家で働けるわけだよ。


 「おや、ユーリ様。どうなさいましたか?」


 料理長のエックは20代後半とまだ若く、本来なら料理長に任命される歳ではない。

 あと2~30年先の話。


 公爵家に料理人がいないとか、そんな理由ではなくて。

 単に料理を作る腕がいいだけ。

 若くても実力があれば人の上に立つ。

 女性だろうとその能力を認めて正しく評価する。


 それがこのテロイ家だ。


 「もしや。料理がお口に合いませんでしたか?」

 「そんなことないよ!エックの、みんなの料理はいつも美味しい」

 「それなら良かったです。では、なぜここに?」

 「あ……えっと。その……明日ね。ご飯をいっぱい作ってもらえないかなって」

 「ご飯を?……え?あ、はい。構いませんが……」

 「ほんと!?あのねあのね!いっぱい、いーーっぱい作ってくれる?」

 「どこかにお持ちになるのですか?」

 「…………ううん!違うよ!えっとね、んと……。明日もお出掛けするから、外でご飯を食べるから。だから……」

 「手軽に食べられる物をご用意しておきますね」


 深くは聞いてくることもなくエックは約束をしてくれた。


 手軽に食べられる料理の定番はサンドイッチ。

 焼き立てのパンに肉とサラダを挟んだバーガーもどき。

 肉を串に刺して塩で味付けをした焼き鳥。

 フルーツを一口サイズにカットしたデザート。


 こんなところかな。この世界に米はないのでおにぎりは望めない。


 年に何回かお祭りがあるらしいので、そこで新たな(懐かしの)料理と出会えたらと思う。


 次は材料だ。今のうちに魔道具を使うとバレてしまうので、どんな物があるのかだけ確認しておく。


 「すごいね……」


 案内されたのは部屋ではなく倉庫。しかも布の保管専用。

 色やサイズで仕分けされている割には、持ち出し用の表みたいなのはない。


 ──キッチリしているのかそうでないのか、よくわからないな。


 広大な敷地を持つ公爵家には他にも幾つもの倉庫があり、どれも専用となっていた。


 調味料は一括りにされているけど、決められたスペースにそれぞれ同じ量のストックがある。


 ──布や綿はともかく、針がこんなにあっても意味ないんじゃ?


 錆びてしまわないようによく手入れがされていた。


 月に一度、大掃除の日を設けている。

 新しい年を迎える準備で年の終わりが忙しくなるのは毎年のこと。

 慌てなくていいようにと、少しずつ掃除を終わらせておくと、年の瀬にも余裕ができる。


 計画性のある当主だとこれくらいは当たり前に思いつく。

 ほとんどの貴族がお父様と同じことをしている中で、期待を裏切らないのがミトン公爵。

 計画性がないだけでなくお金にもだらしがない。娘のためなら何でも買い与えてきた。

 外から見たら公爵家としてギリギリ対面は保てているものの、内部に一歩でも足を踏み入れたら破綻寸前であると丸わかり。


 数年もしたら確実に潰れる家門として陰で笑われている。


 ラーシャはヒロインというだけあり、家族だけではなく令息達からも大人気。

 ミトン家を出てちゃんとした家に迎えられたらすぐにでも数多の婚約が舞い込む。


 みんなの話を聞いて想像するしかないラーシャは、とにかく可愛いに尽きる。

 ふわふわした雰囲気。賢くて明るい性格。誰にでも平等。


 ──まるで聖女みたい。


 物語の主役なわけだし、愛される要素が詰め込まれているのか。


 お父様はラーシャをワガママな娘としか思っていなかった。見ようによってはそうなのだろう。


 無限に湧き出る物でもないお金を自分のために使い続けてくれる両親を止めることはなかった。

 原作がどんな風に書かれていたかは、今となっては知る由もない。

 読者から嫌われていない辺り、そういう描写は一切なかったのかも。


 物語になる前の出来事。作者でさえ思い描いていたかもわからない過去。

 作られたキャラが意志を持って動く。そんな非現実的なこと、あるわけがないのに実際に起きているからこそ信じるしかない。


 ここはもう現実世界。読者のために作られた世界とは異なる。

 それぞれが自分の考えを持って動くのは当たり前。


 「確認も終わったことですし、談話室に行きましょうか」

 「う?」

 「夕食の後は皆様、談話室に集まるのが習慣になっていますから。ユーリ様の可愛いお顔を見せないと、何かをしていると悟られてしまいます」


 それは大変だ!せっかく順調に事が進んでいるのに、つまらないミスでバレてしまったら苦労が水の泡。


 勢いよくリンシエに視線を送ると、真剣な表情でコクリとうなづいた。

 私を抱き上げて廊下を走らないよう素早く歩く。


 背筋を伸ばしたまま颯爽と優雅な姿勢はまさに淑女。

 リンシエは侍女である前に貴族。幼い頃から厳しい教育を受けてきた。

 これまで学んだことが体に染み付いている。


 私も今から頑張れば優雅な立ち振る舞いを覚えられるかな。


 淑女は1日にしてならず、だしね。


 家庭教師を雇うより公爵夫人であるお母様に習ったほうがいい気もする。


 「お、ユーリ。来たか。おいで」


 ティアロお兄様が満面の笑みを浮かべて両手を広げる。


 悩んだ末に警戒しながら抱きつかれに行く。


 ここで力加減間違えられてもお父様が助けてくれるはず。


 「今日はお兄様が絵本読んでやるからな」


 なんと。ティアロお兄様は優しくふわりとギュッてした後、膝の上に乗せてくれた。


 予想外の成長についつい嬉しくなる。感激のあまり涙が零れそうになったけど、出なかった。

 感動しているのは事実なんだけどね。


 「ユーリはどれがいい?」


 子供向けの絵本は王子様がお姫様を助ける物語はなく、動物を主役に作られている。

 可愛い動物を可愛く描き、ほのぼのとした日常。


 全てがハッピーエンドなので、途中でハラハラドキドキの展開になっても安心して最後まで読み切れる。


 「小鳥!」


 ヒヨコみたいな小さくてとふっとした色違いの小鳥が、色んな場所に羽ばたき歌を歌う物語。


 ティアロお兄様の読み聞かせは驚くほど上手だった。

 小鳥に合わせて声色を変えたり、作中の雰囲気に合った穏やかな声。

 歌なんてプロレベル。


 思考が止まる。これは夢?

 目を丸くして驚くのは私だけ。


 いつもの乱暴……元気な姿からは想像もできないような優しい歌声。

 思わぬ才能。聞き惚れてしまう。


 物語は終わり絵本が閉じられた。


 終わって……しまったのか。


 誰よりも近くで聞いていた私の心臓は興奮状態にあり、心拍数は激上がり。

 感動のあまり体が熱くなってきた。


 ゆっくりと立ち上がっては振り向き、目の前にあるティアロお兄様の胸を力強くバシバシと叩く。


 「しゅごーね!!きれー!!てーさい!!」


 あまりに興奮しすぎて語彙力を失った。うん、これは仕方ない。私は子供なのだから。


 目をキラキラと輝かせて素直な気持ちを伝える。

 飾り気取った言葉では言いたいことの半分も伝わらないだろう。


 幼児化してしまうのは……


 「はは、兄様は天才か」


 嬉しそうに笑っては、ほっぺたをむにむにされる。

 いつもは嫌がるけど今日だけはされるがまま。


 あんな綺麗な歌声を聞かせてもらったんだ。この手を払うなんて失礼。


 それに……。どうやらこれは、ティアロお兄様の照れ隠し。

 ほんのりと耳が赤い。褒められ慣れていないのかも。


 兄弟だと常に比べられて、片方が優秀ならもう一人も期待され続ける。

 プレッシャーの中、テロイの名に恥じないように努力を怠ることもなく。


 頑張っているんだ。ひたむきに前を向いて。時には挫折して心が折れかけても、上を向ける強さ。


 「ユーリ。ティアロの歌の才能は母上の遺伝なんだよ」


 なんと素敵な遺伝。

 ノルアお兄様はお父様から剣術の才能を受け継いでいるとか。


 はて?お父様は騎士ではなかったはず。文官じゃなかった?

 剣を振るう必要はあるのだろうか。


 強ければ命を狙われても太刀打ちできるし悪いことはない。

 敵も多いみたいだし、自分を守れる術があると周りも安心する。


 「ティアロお兄様。子守歌歌ってくれる?」

 「もちろん!」


 今日はこのままティアロお兄様と寝る。

 落ちないようにしがみついていると、何やら危険を察知。ヤバいと思ったときには遅かった。


 加減されることのない力で抱きしめられては、苦しくなりヘルプを求める。


 「やめろバカ!」

 「あぁ!ごめんねユーリ」


 オロオロと情けなく落ち込む姿は子供みたい。


 「ん、大丈夫」


 一種の愛情表現でもある抱擁を本気で嫌がっているわけではない。


 明日のためにも私は早く寝ないといけないので、このまま連れて行ってもらう。

 甘えたさんになればティアロお兄様の頬が緩みまくる。


 みんなからおやすみのキスをもらい、夜が深くなる前にベッドの中でぬくぬく。


 寝相は悪くないのに私を潰さないようにとベッドの端で横になるティアロお兄様の腕の中に潜り込み目を閉じた。


 ──しまった!!


 完全に眠る寸前、まだやるべきことがあったのを思い出す。


 さっきまでの眠気は吹き飛び、もぞもぞと腕の中から脱出。


 「うん?どした?」

 「んとね。えと……お兄様。ごめんね。やっぱり今日は一人で寝る」

 「え!!?なんっ……。やっぱり怒ってる!?」

 「違うの!」


 バザーで売るためのリュックを作らないといけないからな。

 作れるかどうかはまだ定かではないけど。

 難しいようならナップサックに変更してもいい。


 まだ一つの街しか見ていないけどリュックのように背負う鞄はこの世界にはないはず。


 かなり画期的なアイテムだし、受け入れられるかは当日になってみないとわからない。

 使い勝手は良く実用的なんだけどね。


 「明日!明日は絶対、一緒に……」


 本当のことはまだ言えない。せめてバザーが終わったあとじゃないと。


 沈黙を選ぶことは嘘をつくこと。

 自らの意志で騙すことに後ろめたさを感じる。


 ──これは悪いことなんだ。


 黙り、落ち込んで俯く私に伸ばされた手はそっと頭を撫でた。


 「明日は一緒に寝てくれるんだろ?」

 「うん!!」


 見慣れているとはいえ、真っ暗な廊下は不気味。先が見えない。

 闇の中に足を踏み入れるかのように、恐ろしかった。

 一人で歩くなんて怖くて、ティアロお兄様に部屋まで送ってもらった。


 「ありがとう。ティアロお兄様。大好き!」

 「俺もユーリのこと大好きだぞ」


 お互いにギューッと抱きしめ合って、明日も学校があるからとすぐに部屋まで戻って行く。


 「よし。頑張ろう!!」


 部屋の電気は点けられないから月明かりで机に向かう。


 友達と行った手作りショップでの記憶を懸命に思い出す。

 既に完成された品が売られていたとはいえ、 作り方も簡単だと説明をしてくれたような気がする。


 こんなことならもっとちゃんと聞いておけば良かった。

 いや、せめて一度でも作っておけば。


 何事も経験値は大切だ。記憶するだけでは知識として不充分。

 今回のことで身に染みて理解させられた。


 精神年齢と実年齢は別物。子供の体でどこまで起きていられるか。

 眠ってしまう前に記憶を掘り起こさなくては。

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