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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
初めての友達

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20/41

閑話

 それは王宮に行った日の夜の出来事。


 お風呂も食事も終えて、いつものように談話室で過ごして眠くなった。

 リンシエに部屋まで運んでもらい、あとは寝るだけ。


 ……なんかいる。白い毛玉が。ベッドの上に。


 抱き枕だろうか?普通の枕かも。クッションみたいにもふもふしてそう。


 今日の私は頑張ったからご褒美的な。


 「ん?」


 枕?が動いたような。毛玉が浮いた。

 後ずさると毛玉はクルリと回る。


 「あ……。アネモス」


 毛玉の中に藍色の宝石……じゃなかった。瞳が覗く。


 はて?アネモスはこんなに小さかったかな?

 私の記憶が正しければ建物の中に入れるサイズではなかった。

 ベッドの上にちょこんと座れるほど小さいなんて。アネモスの子供かな。

 うん。きっとそうだ。


【ユーリ】


 頭の中で聞こえる声。穏やかでゆったりとしている。

 長い年月を生きた声みたい。


【私は其方に従属したアネモスで間違いない】


 ……めっちゃ流暢に喋るじゃん!

 聞き入ってしまい驚くのが遅れてしまった。


 「あにぇは、おす、なんだね」

【嫌だったか?】


 声がしょんぼりした。え、可愛いな。

 態度にこそ表れていないものの雰囲気は落ち込んでいる。


 「ううん。いやじゃないよ」


 ドラゴンは雄のイメージだけど、こんな愛くるしい姿だからかな。性別のことは深く考えないようにしていた。


 体が小さくなると優雅に飛べないのか、パタパタって効果音がよく似合いそう。

 羽はゆったりと動いているので、忙しな(せわし)さはないけど。


  私よりも大きかったはずのアネモスはすっぽりと腕の中に収まった。

 綺麗だった瞳がきゅるんとした上目遣いで見上げてくる。


 ──小動物みたいで可愛い。


 思わずギュとしてしまう。最高の手触り。完璧なフィット感。

 もふともぎゅが相まった弾力。

 動かなければぬいぐるみそのもの。


 「ユーリ!入るぞ!!」


 慌ただしいお父様は返事も聞くことなく扉を開けた。珍しく息を切らせている。

 それだけで走ってきたのだと推理が成り立つ。


 貴族は優雅なイメージだから全力疾走とは縁遠いはずなのに。


 「■■■■!!」


 まただ。お父様の言葉が聞き取れない。


 鋭い目つきはアネモスだけを捉えていた。もしかして今のも、この前のも。アネモスの名前を呼んだ?


 真名は特別で誰にも知られてはいけないさら言語を変えているのか。

 外国語だと勉強したら意味を理解してしまうから、もっと難しく人間には絶対理解されることのない言語となると……魔物語?


 ──今度、時間があるときにでもお父様に聞いてみよう。


 人前で真名を口にしてもいいように、私も言語を学んでおく必要がある。


 「なぜここにいるんだ」

【ユーリの傍にいたいと願うのは悪いことか?】

 「悪くはないが……。青龍への嫉妬か。はぁ。その姿は?」

【ユーリと眠るために小さくなったまでだ】


 お父様の様子から察するに、これまでにアネモスが小さくなったことはない。

 初めて見る形態なのにアネモスだと認識したのは魔力を感じ取ったからではないだろうか?


 お互いの利のためとはいえ契約を結んだことにより、魔力で繋がっていても不思議ではない。

 手にはアネモスの魔法陣が刻まれているわけだし。


 「おとーさま。あにぇ、いっしょ、だめ?」

 「ユーリが望むなら構わないが……」


 アネモスごと抱き上げ待てはベッドに寝かせてくれる。


 血も繋がらない、もっと言えば大嫌いな弟の娘なのに優しくしてくれるだけでなく、温かくも接してくれるんだ。

 こうして頭を撫でてくれる手だって。


 「この子は魔力がかなり強い。あまり地上にいるのは良くないことだ。一緒に寝るのは月に一~二回にしてくれ」


 だから普段は人間が立ち入れない遥か上空にいるのか。

 可愛い姿をしていても魔物で、しかも最上位。


 強い生物はただいるだけで世界に影響を与える恐れがある。

 魔力を貰いに地上に降りて来るときも、影響が出ないように魔力を最小限に留めてくれていた。


 ──気遣い屋さんなんだな。


 魔力が欲しいというのも理由なんだろうけど、それならテロイ家の当主がいたら事足りる。他の人間気をかける必要はない。

 にも関わらず、そこまで考えてくれるのは人間が好きだから。


 「ん!!」


 私のワガママで家族を困らせたくはない。

 今日のアネモスは甘えたい気分で、だからきっと私の部屋に潜り込んで……。どうやって入ったのかは考えない。

 魔法があるし最上位魔物。できないことはないんだよね、きっと。うん。そうだ。


 「我慢させてすまない。おやすみ、ユーリ」

 「お、おやしゅみ」


 愛おしそうな目。それは懐かしい、遠い日の記憶。

 両親が、祖父祖母が、月影優里(わたし)に向けてくれていた眼差し。


 言葉だけではない。態度や視線が私を愛しているを伝えてくれていた。

 もう戻ることはできない。時間は進み時は流れた。

 思い出すだけとなってしまった温かく大切な、生涯忘れることのない優しい世界(かこ)


 私の部屋は電気を消しても真っ暗にならないように小さな明かりが備え付けられた。


 電気スタンドだね、これは。

 不思議なことに紐もスイッチもない。

 どういう仕組みで動いているのか。お父様が手をかざすと、ふんわりと明かりを灯す。

 目に優しい色合い。朝には消えているので私が寝入った頃に家族の誰かが消してくれているのだろう。


 「あにぇ。あったかい」


 さっきまで私の腕の中にいたのに、今では体を大きくして全身で私を包んでくれている。


 ──これが本当の羽毛布団。



 「あにぇ。だーしゅき」


 誤って羽根をむしり取らないよう気を付ける。


【大好き?】


 言語は理解しているけど言葉の意味は理解していない感じかな。

 高度な知能を持ちながらもテロイ家の当主とだけしか交流のなかったからこその壁。


 意味を知りたがるその瞳は純粋そのもの。

 理解しようとしてくれている。私達、人間を。


 「んとね。すき……。ずっといっしょに、いたいってことだよ」


 アネモスは黙った。何かを考えるように。

 沈黙が場を制す。


【ずっと一緒、か】


 目を細めた。まるで微笑むかのように。

 慈しむ声はアネモスに勘違いをさせてしまったと、理解をしてしまう。


 「あのね、あにぇ。ずっとは、ずっとじゃなくて。えと……」

【人間の短い一生を終えるまで、だろう?】


 勘違いなんてしていなかった。

 魔力を貰い続ける限り生き続けられるアネモスと、何十年としか生きられない人間とでは時間の流れが異なる。


 私達にとっての10年はアネモスにとって1日にも満たないのかもしれない。

 瞬きの間に終わっていく命。出会えてもすぐに訪れる別れ。

 幾度となく繰り返してきた。

 最初のうちは悲しんでいたのだろうか?今ではもう代替わりするなとに慣れて、名前を覚えることもしなくなったのだとしたら?


 それはとても


 「さみしい」

【寂しい?】

 「あにぇがね。わかれをなれちゃってたら、すごくさみいしよ」

【ユーリ。テロイ家の当主が新しく代わるとき、私の名前は記憶から抹消される。だから、気にする必要はない】


 平然と声色一つ変えることなく告げられた。


 「やだ!!」

【ユーリ?】

 「あにぇとあえたのに、わすえうなんて、やぁの!!」


 会えるのに、呼ぶための名前を忘れるなんて、そんな悲しいことはない。

 アネモスにとっては一瞬の月日でも、私達の何十年はとても長くて壮大。積み重ねた歴史。宝物だ。


 たかが名前と割り切れるものでもない。

 魔力を渡すだけの関わりだったとしても、その瞬間は確かに触れ合い、愛おしい時間。


【私ではない。初代当主がそう契約したのだ】


 全てはアネモスを守るために。

 万が一にも真名を知られないようにするには、記憶を消すしか方法がなかった。


 そんなにも優しい心を持ったテロイ家だったから、アネモスは契約を結んだ。


 「わ、わた……しは、あにぇのこと、わしゅえないもん」


 絶対に。約束するから。


 大きなアネモスを抱きしめるように手を広げた。

 苦しく締め付けられる痛みが胸を襲う。泣いてしまわないように我慢するけど、昂った感情は制御できないまま結局は涙が溢れた。


 出来事を記憶したまま名前を忘れるなんて。


 契約をしなくてはいけないほどに、当時のテロイ家当主が困っていたとも思えない。


 守護者。つまりは守る者。

 何から?こんなにも繁栄して力の強い家門が守ってもらうことはない。


 守る対象が別だとしたら?

 家族ではなく目の前にいる、この白くて優しい魔物を他の人間から守るためにテロイ家の守護者にしたのなら納得はいく。


 アネモスが私に流してくれている魔力から、今ではない時代の映像が流れ込んでくる。


 灰色の髪と灰色の瞳を持つその男性は、穏やかな声で静かに告げた。

 それは契約ではなく約束。


 テロイの名がこの世から消えない限り、邪な人間からアネモスの存在を守り続けると。

 自らの記憶さえも失う覚悟で。


 約束は対等の証。アネモスは受け入れた。

 初めての感情、愛おしさを巡らせながら。


 太陽に近づきすぎて焼けた羽を優しく癒してくれるその人には悪意はなかった。

 威厳さえもなく、警戒するのがバカらしく思えるほどに人の良い笑みだけを浮かべて。


 ──まるで優しさが具現化したような人。


【ユーリが私を忘れることはない。絶対に】


 もふもふの頬を擦り寄せてくるアネモスに心を撃ち抜かれながらも、涙腺が崩壊した今、どんなに頑張っても涙は止まらない。


 泣いて泣いて泣き疲れて。泣きながら私は眠っていた。

 アネモスの羽根を握り締めたまま……。





 その日は夢を視た。

 多くの人がホワイトドラゴンと触れ合う。

 この人達が歴代の当主であるすぐにわかった。

 髪色も瞳の色も違うけど。身に纏う雰囲気(オーラ)が同じ。


 別れの挨拶をしているのか。それぞれがアネモスにハグをして感謝を伝えた。


 守ってくれていたことに沢山の「ありがとう」を届け、アネモスもまたその想いに応えるように一人一人と額を合わせる。


 泣いてしまいそうな悲しい笑顔を浮かべては、名残惜しそうに離れていく。


 ずっと呼んでいた■■■■の名前を口にしなくなった。

 当主達は金色の粒子となり天へと還っていく。

 最後の一人。お父様と■■■■だけがその場に残されていた。



 翌朝。目が覚めた私は夢のことなんて全然覚えていなくて。

 無性にアネモスを抱きしめたくなったから小さい体と大して強くもない力で、アネモスを抱きしめた。

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