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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
新しい家族

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運命の出会い【リミック】

 弟の存在が煩わしい。


 それはずっと思っていたこと。


 由緒正しき公爵家に生まれ、自分のすることは正義だと疑わない単細胞。


 癇癪持ちとは少し違う。自分の思い通りにならないことが腹立たしいだけ。


 魔力は多いが魔法をよく暴走させていた。

 才能がないのだ。弟には。


 恐れ多くもテロイ家を敵に回す発言をする者などおらず、見え透いた嘘で機嫌を取るばかり。


 残念なことに弟はそのままの意味として言葉を受け取り、自分は才能に溢れた完璧な天才であると自惚れる。


 他人の顔色を伺うことなく、なぜか次期当主には自分がなるものだと信じて疑わない。


 魔法の才能だけで当主になれるわけでもなく、頭の出来さえそこまで良くはなかった。


 人の上に立つなど夢のまた夢。


 屋敷の中でも外でも好き放題ばかりする弟を、夫して迎えてくれる令嬢は一人だけ。

 同じ公爵位であり、同じ性格をしていたミトン嬢。


 波長が合うらしく顔合わせ初日で婚約が決まった。


 パートナーが出来たことにより荒ぶった性格も多少は落ち着いたものの、自分都合主義までは変わらない。


 18歳になればすぐにでも結婚をさせてテロイ家から追い出した。

 家族に甘い父上には愚弟がいかに愚かで使えない存在かを、冷静に伝えて納得してもらった。


 テロイの名に傷をつけるだけの存在など私にとって家族ではない。


 邪魔者。害虫。


 弟と思いたくもなかった。


 由緒正しき公爵家に生まれながらも、その名を軽んじるだけでなく権力と金で他者を支配しようとする傲慢さ。

 見ていて吐き気がする。


 ──追い出して正解だったな。


 独身時代に遊ぶことも叶わず家庭を持つことになったが、不満を口にすることはない。


 それはそうだ。当然である。婿養子ではあるものの、爵位が変わらないことに気分を悪くすることはない。


 ミトン家は弟を迎え入れることで我がテロイ家の権力や財力を好きに使えると思っているようだが、そんなことあってたまるか。


 横暴が具現化し服を着て歩いているような連中に、1カリンだろうと渡すつもりはない。


 「弟が困っているのに兄として何の支援もしないつもりですか!!」

 「お義兄さん!私達、家族でしょう!?家族は助け合うものです」


 今まで散々、豪遊してきたツケが回ってきた。


 好きな物を好きなだけ。夫人に至っては新作のドレスが出ると誰よりも早く購入しているとか。


 弟は無趣味な分、他人に奢ったりするのが好きだ。

 金持ちアピールをしたいのだろう。


 湯水のごとく湧いて出るものではない。金というものは。


 中でも一番、金をかけるのは溺愛する愛娘ラーシャ。


 自分第一の二人が引くぐらいに娘を愛している。


 欲しい物は何でも買い与え、少しでも気に入った人間がいれば権力を使い従者にまでして。

 より気に入った人間が現れたらすぐにでも入れ替える。


 公爵家で働けるなど名誉なこと。普通なら。


 だが、ミトン家は別。常に顔色を伺いなるべく下を向くか、本心を隠して嘘で塗り固めた言葉を吐き続けるか。


 娘は今年で6歳だと聞いていたが、両親に似てワガママな性格。


 あんな環境で育てばそうなっても不思議ではないが。

 親を反面教師にして全うに育つことも出来た。それをしなかったのは娘の落ち度。


 そもそも。子供を甘やかすことだけが親の務めではない。


 間違いを正さない人間が親であってなるものか。


 「借金をしたわけではないのだろう。自分達でどうにかしろ」


 事業を頑張ればいくらでも金を稼げる。

 コイツらに出来ることは限られているがな。


 仮に借金をしても貸すつもりはなく、自分達でどうにかすればいい。

 最初から人を宛にするような人間には協力する価値もないと気付けばいいものを。


 腐っても公爵家だ。本当にいいものなら、他の家門は協力を惜しまない。


 無能がバカをひけらかすように、権力を振りかざす姿は見ていてイライラする。


 「私はこれで失礼する。二度と呼ばないくれ」

 「たった50万カリンなどはした金だろう!!?」

 「確かに。私にしてみればはした金だな。まぁ最も、はした金と言うなら私に借りる必要はないだろう」

 「俺もテロイ家の人間だ!!金を使う権利がある!!」

 「そんなものはない」


 望みを断ち切ってやると、私の言葉を理解するつもりがないのか黙り込んだ。


 夫婦揃って。

 仮にも公爵家に生まれた人間だぞ。ここまで頭が悪くてどうする。


 「婿養子でミトン家に入ったお前がテロイ家の金を使えるわけがないだろ」


 離婚して戻ってくるなら別だが、その考えにも至らない。

 そもそも離婚歴がある人間は再婚が難しく、よっぽどの理由がない限りは死ぬまで寄り添うもの。


 それが夫婦というものである。


 夫人と死別したところでテロイ家の敷居を股がせるつもりはない。

 どんなに政略結婚だったとしても、長年連れ添えば情は生まれる。

 感情よりも権力や金にしか興味がない弟は葬式に参列することなく出戻ってくるのだろう。


 妻が死んだ。それを理由に。

 人としてやるべきことを怠り、変わらぬ裕福な生活のためになら人の死に目を向けることもない。


 ──恥晒しもいいとこだな。


 ミトンの名を手放し、捨て去った薄情者は世間から後ろ指を差されて生きていくのがお似合いだ。


 「ラーシャの誕生日パーティーを開くんだ!!派手に祝ってやらねば可哀想だろう!!」

 「身の丈に合ったパーティーをすればいい」


 これ以上は話すことはなく、退室しても後ろから金を貸せとしつこい二人に頭痛がしてきた。


 稼ぐ才能がないのであれば、宝石を売ればいいだけのこと。

 他国の珍しい宝石も収集しているのだ。買った値段には及ばなくとも、それなりの額にはなる。


 愛娘のために大規模な誕生日パーティーを開けるだろうに。


 それともなにか。自分の持っている物は一つ足りとも手放したくないと?


 傲慢だな。


 「……こっちか」


 屋敷に足を踏み入れた瞬間から、覚えのない魔力を微かに感じる。


 ──私の知らない貴族。何者かを確認しなければ。


 三階の廊下を真っ直ぐ進んだ突き当たりの一室。


 誰かが誤って入れないように南京錠が掛けられていた。


 真新しく頑丈ではあるが、私にとっては紙切れも同然。

 南京錠に触れれば音を立てて壊れる。


 扉を開けた先にいたのは……。

 埃まみれの床に倒れ、小さな体を丸めながら咳き込む少女。


 真っ暗な部屋。窓もない。

 ここは魔力封じの部屋。

 貴族の屋敷には必ず作ることが義務付けられている。


 この部屋は生まれながらに魔力が多かったり、急激に魔力が増えて制御しきれない子供の安全を考慮された、子供を守るための部屋。


 そんな部屋に閉じ込めていたのか?幼い子供を。

 体格的にまだ2〜3歳か?


 しかも掃除すらされていない。カビ臭く、かなりの異臭が漂う。


 少女は風呂に入れられることなく、髪や体は適当に拭くだけで済まされている可能性が高い。


 意図的に作られた非道な環境。


 貴族の風上にも置けないな。


 少女はかなり弱っているが今ならまだ助けられる。


 抱き上げると、その軽さに驚いた。


 私には息子が二人いるが、この歳頃はもっと重たかったはず。


 男の子と女の子では違うかもそれないが、それはあまりにも……。


 そう。空っぽに思えたんだ。


 「あ、兄上……これは……」

 「黙れ!!言い訳など聞くつもりはない!!そこを退け、愚弟が!!」


 少女を抱き上げたまま声を荒らげたことにハッとしたが、どうやら私の声は聞こえていなかった。


 咳は止まったようだが呼吸が浅い。顔色もかなり悪くなってきた。


 安心と同時に弱っていることがわかり、すぐにでも処置をしなければ。


 「リミック様」


 先を急ぐ私の前にピンク色の髪を綺麗に巻き上げたラーシャが道を塞いだ。


 こんなに近くて見るのは初めてだな。


 たまにパーティーで目にするが遠目からで、言葉を交わしたいと思ったことすらない。


 同世代の子息達に囲まれて、まるで自分のものだと主張するかのような態度は気分を悪くした。


 「私をテロイ家に連れて行ってくれるのですよね?」

 「は?なぜ私が君を?」

 「え、いや……だって」

 「そこを退け。誰の道を塞いでいるのか、わかっているのか」


 遠慮することなく威圧すれば、真っ青になりながら呼吸が乱れる。

 加減をしているとはいえ、立っていられるとは、父親には似ずに才能があるようだ。


 魔力を飛ばした威圧は魔力で防ぐことは出来るが、正確にコントロール出来なければ自分と相手の魔力で大きなダメージを負うことになる。


 誕生日パーティーを開くと言っていたな。ということはまだ6歳にはなっていない。

 魔法が覚醒していない状態でこれなら将来は有望。


 こんな家じゃなければ王太子の婚約者にも選ばれただろうに。

 身分があろうとも問題のある家門はそれだけで選択肢から除外される。


 甘やかされて育った公女が今更、公爵位より低い階級で満足するはずがない。

 いくら金があろうとも侯爵に落ちれば人々の見る目は変わる。


 故に言い出さないのだろう。懇意にしている家門に、養子にしてくれと。


 ラーシャは愛らしい容姿から家族だけではなく、多くの人間に慕われ愛されている。


 成長すればほとんどの貴族が婚約を望む。


 ……が。ミトン家にいれば難しいだろ。なにせあの親が家族になるのだ。

 どれだけ愛があろうとも躊躇う。


 「私のことが可哀想ではないのですか!?」

 「どこがだ?ぬくぬくと愛情を与えられ育ってきた人間が、この子を前にしてよくそんなことが言えるな」

 「だって……それは。知らな、かったから」

 「知らなければ許されるほど、事は小さくないぞ」

 「リ、リミッ……」

 「私の邪魔をしたいなら」

 「ひっ……!!」


 炎の壁を作った。

 人体以外を燃やすことのない炎は、どんなに火力を上げても屋敷に燃え広がることはない。


 どれだけ才能を秘めていようとも魔力差が大きければ私の炎を消すことは不可能。


 炎の熱でさえ凄まじい熱さを感じるのだ。もしも直接、一瞬だろうと触れてしまえば全身が焼かれ丸焦げ。


 「心配しなくても時間が経てば消える」

 「リミック様!!」


 叫ぶ声は無視した。


 優先すべきはこの子。


 いきなり外の空気に触れさせるのは体に毒。私のコートに包み、急ぎではあるが少女の負担にならないスピードで屋敷に戻る。


 少女を目にした御者は驚き動揺しながらも、深くを聞いてこない。

 優先順位をよくわかっている。


 なるべく平坦な道で馬車を揺らさないよう御者に言えば、大きくうなづき細心の注意を払う。


 愚弟に呼ばれたところで何かと理由を付けて遠ざけていたが、今日だけは来て良かったと心の底から思える。


 理不尽に奪われそうだった命を救えたのだがら。

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