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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
初めての友達

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11/40

白いもふもふさん

 「どうだユーリ。魔力コントロールは順調か?」

「んーん」


 夕食を摂りながらお父様が聞く。私は首を横に振る。


 家族団欒でもあるこの場では、それぞれがその日、何をしていたかを報告し合う。


 少量ではあるけど肉の入ったスープに舌鼓を打ちながら、みんなの会話に耳を傾ける。


 ちなみに私に食べさせてくれるのはリンシエ。

 お兄様達は食べるペースが違うから、まだ飲み込んでもいないうちから、次から次へと口元に運んでくるのがプレッシャー。

 子育て経験のある両親は私に気を遣ってくれるけど、お兄様二人がズルいと騒ぐためリンシエが手を挙げてくれた。

 リンシエは私の侍女で世話をするのが仕事。お兄様達もリンシエならと納得してくれた。


 精通したプロが作る料理は美味しい。家庭の味とは違う、味に深みがある。

 まだ薄味ではあるものの、物足りなさを感じない。


「ねぇ、リミック。そろそろいいんじゃない?ずっと屋敷の中に篭っていては体に悪いわ」


 お、これはもしや……。外に出ていいよってこと!?


 窓を開けて風通しを良くするのはいいけど、外に出るのはまだ早いと止められていた。


 ようやく立てるようになり、歩くことがまだ危険な私に外出の許可なんて得られるはずもないけどさ。


 ──たった数歩、青空の下を歩きたいよ。


「そうだな。早めに紹介したほうが仲良くなれるだろう」


 はて?外に出るだけではないのだろうか?


 紹介。仲の良い友達とかかな。物語の中心にいる人達だからね。かなり太い人脈を持っていそう。


 どんな人物を紹介してくれるのか。気になって仕方ない。

 期待のこもった視線は熱を含んでいて、すぐさま気付いたお父様は


「明日のお楽しみだ」


 と、微笑む。破壊力抜群。笑顔で人を殺せる。妻子持ちでも人気ありそう。


 食事が終わると各々、好きなことをする時間なんだけど……。誰も自室に戻らない。


 談話室みたいな部屋に集まる。


 ここには暖炉があって、冬には読書をしたり刺繍をしたりと打って付けの場所。


 フカフカカーペットの上に座り、私は声を出す練習をするのだ。

 発声していると奇行なので、静かに絵本を読む。


 とても有難いことに異国の文字でもスラスラ読めて内容や意味が頭に入ってくる。


 憑依したときに神様が生活するのに困らないよう最低限の機能だけは付けてくれたと信じたい。


 絵本を読むのは発声だけでなく、文字も覚えられて一石二鳥。

 ペンは持てなくても風魔法を使えば宙に文字が書けるらしく、魔力コントールを頑張る理由が一つ増えた。


「お嬢様。もうお眠の時間ですよ」


 睡魔に襲われ目を擦ると、おやすみの合図。


 完全にリラックス状態なので立ち上がれず両手を広げて抱っこ待ち。

 ウトウトして、首がコクコクとなる。ガクン!と落ちそうになる前に抱き上げてくれて部屋まで運んでくれる。


 目の前に暗闇が広がり、意識が沈む。






 規則正しい生活を送れているおかげで、朝は決まった時間に起きられる。


 体を起こして手をグーパーと動かす。ぼんやりとしていた頭は次第にクリアになっていく。


 朝の空気。匂い。カーテンの隙間から漏れる日差し。全てが朝であると教えてくれる。


 目覚めはカーテンを開けるまでがセットなので、ベッドの上に座って待機。リンシエが部屋に入ってくると


「ん!!」


 手繋ぎを所望。

 リンシエはいつも蕩けた表情で手を繋いでくれては、窓まで一緒に歩いてくれる。


 私が自分で開けられるように長めの新しいカーテンを取り付けてくれた。

 下の端を握り、その上からリンシエの手がギュッと掴み勢いよくシャーッと音を立てて開けると、一気に日差しが室内を照らす。


 これが朝の始まり。日課である。

 今日は土燿(どよう)なので仕事と学校は休み。

 字は違うけど“燿”の読み方は同じ。音にしてしまえば混乱しないからほんと大助かり。


 着替えと朝食を済ませて、屋敷の裏手へと移動。お母様に抱っこされて。




 はい…………?




 それしか出てこない。


 屋敷だけでも立派すぎるのに、裏庭?広すぎじゃない。屋外パーティー開けるよ!?


 これが金持ちか。


 感心と驚きに半分現実逃避をした。


  「我が呼びかけに応えよ。■■■■」


 最後だけ聞き取れなかった。言語が異なっていたような?


 お父様の体から赤い魔力が溢れる。ユラユラと幻想的。

 あの段階に上り詰めるのは元からある才能だけでは不可能で、いかにサボらず努力をしていたかを物語っている。


 並の貴族はほとんどが挫折して成長を望まない。現状を維持。


 空から巨大な影が近づいてきた。考えなしに見上げると、翼を広げた大きな生き物がゆっくりと降り立つ。


「紹介するよ。この子はホワイトドラゴン。我がテロイ家の守護者だ」


 ………………ドラゴン!?えっ!!?そん、違っ……え!!!!???


 私の知るドラゴンと違いすぎるよ。


 鱗がなくて全身真っ白。触らずとも、見るだけでわかる。すっごいもふもふ。


 どちらかと言えば鳥と言われたほうがまだ納得する。


 フィクションの世界だし何でもありなんだろうけど。


 藍色の瞳は大粒の宝石のように綺麗。


「大丈夫よ、ユーリ」


 初めて見る巨大な生き物に、体は自然と震えてしまう。

 綺麗な瞳は冷たく私を見下ろす。品定めでもするかのように。


「ユーリ。ほら、こうして触ってみ」


 ティアロお兄様が閉じられた羽を撫でた。触っても嫌がることはなく、広げていた翼を閉じてその場に座り込む。


 ──触っていいってことかな?


 敵意はない。威嚇をしてくる気配もなかった。

 お母様に抱っこをされたまま、短い手を懸命に伸ばしてホワイトドラゴンの体に触れた。


 驚きの感触。手触り。もっふもふ。


「あらあら。降りたいの?」


 もぞもぞと腕の中で動いていると察してくれたお母様は降ろししてくれた。


 大きくてもふもふの毛並みに飛びついては、顔を埋める。

 ここで窒息死したい。


 今この瞬間、子供で良かった。

 はしゃいで、心地良さを堪能しても歳相応にしか見えない。

 ドン引きされることだってないしね。


「ユーリ。ホワイトドラゴンに挨拶してあげて。名前、言えるかい?」

「ん!」


 大きくうなづいた。

 名残惜しいさを感じながらも、また後でもふらせてもらえばいい。


 喉に手を当てて調子を確認する。


 よし。大丈夫。……多分。


「ユー……リ・テロ、イです」


 初対面の人に良き印象を持ってもらうには笑顔が大事。

 まだよく表情筋を動かせないから、ほっぺたを引っ張った。

 不格好ではあるけど、私なりの精一杯。


 笑顔は友好の印だ。


 ホワイトドラゴンはそっと額をくっつけた。

 こんなすぐ近くに大きな瞳があるのに、怖さはない。


 温かい何かと一緒に声が頭の中に流れ込んでくる。


「アネモス?」


 オウム返しのように聞き返すと私の体が光った。黄金に眩く。


 一瞬のこととはいえ、普通ではなく異常であると悟るには時間はいらなかった。


 お父様は驚きながらも小さくため息をついては頭を撫でてくれる。


「ユーリ。今、名前を口にしなかった?」

「う?」


 名前……。さっきのか。

 あれは不可抗力だと思う。不意に頭の中で声が聞こえたら、どんな人間でもつい口に出す。


 それが悪いこと、やってはいけないことだとしたら、ちゃんと謝るべきだ。


「ご、ごめ…んな……」

「すまない。謝らせたいわけではないんだ。そうだな。ユーリには難しいと思っていたが、ちゃんと説明しておかないといけないか」


 小説のタイトルからして、主人公が溺愛されるだけの日常を綴っていたと思っていたけど、どうやら違うらしい。

 色々な設定が組み込まれていて、むしろ読んでいない私のほうが謝るべきというか。


 元はネットで連載されていた作品で、本を買う前にそっちで読むことも出来たけど、私は紙をめくって読むのが好き。

 小説にしろ漫画にしろ。


 時代の流れに乗りたくないわけではない。スマホ一台あればいつでもどこでもどんな作品でも読めるとはいえ。

 休みの日に時間をかけて最後まで読み切る。

 それこそが読書の醍醐味。


 そうやって育ってきたのだから、習慣ではなく文化を大切にするのは当たり前。

 劇的な本好きってわけでもないから、無料で読める漫画アプリは使わせてもらっている。そこでしか読めない作品もあるわけだし。


「すまない。今日はもう帰ってもらえると助かるんだが」


 バサッと翼を広げた。大空へと羽ばたいていく。


 ──もふもふが……。


 こんなに早くお別れをするのなら、遠慮なくもっと毛並みを堪能させてもらえば良かった。


 しょんぼりと肩を落としていると、より詳しくこの世界のことを教えてもらくため、いつもの談話室へと向かう。


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