第1章-1「 森での邂逅」
頭が割れるように痛い。
僕は薄っすらと目を開けた。視界に入ったのは見慣れない青い空と、頭上を覆う緑の葉っぱたち。鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる。
「ここは…?」
体を起こそうとして、激痛が右足を駆け抜けた。
「痛っ!」
見ると、足首が腫れ上がっている。どうやら捻挫しているらしい。周りを見回すと、僕は深い森の中にいた。木々が鬱蒼と茂り、どこか幻想的な雰囲気を漂わせている。
僕の記憶は曖昧だった。確か学校から帰る途中で…それから先が思い出せない。なぜここにいるのかも分からない。
足の痛みで動けずにいると、どこからか足音が聞こえてきた。枯葉を踏む軽やかな音。
「誰か…助けて」
声を絞り出すと、足音が近づいてきた。
「あ、人がいる!」
明るい声と共に、金髪の少年が木陰から現れた。碧色の瞳は無邪気に輝いていて、まるで子犬のような人懐っこさを感じる。
「大丈夫?怪我してる?」
彼は迷わず僕に駆け寄ってきた。
「足を捻挫しちゃって…動けないんだ」
「それは大変!」
少年は心配そうに眉をひそめた。彼の髪は少しぼさぼさで、まるで風と戯れながら歩いてきたみたいだった。
「君、この辺りの人じゃないよね?その制服…」
彼が指差したのは、僕が着ている学生服だった。確かに、彼が着ているのは見たことのないデザインの制服だ。深い紺色に金の縁取りが施されている。
「僕はフール。君は?」
「僕は…」
名前を言いかけて、ふと疑問が浮かんだ。フール?変わった名前だ。
「僕は田中太郎です」
「タナカタロウ…面白い名前だね!」
フールは屈託なく笑った。その笑顔を見ていると、なぜか安心感が湧いてくる。
「ねえ、学園まで送ってあげる。君、制服着てるし転校生かな?」
「学園?」
「アルカナ学園だよ。この森を抜けたところにあるんだ」
フールは僕の腕を支えて立ち上がらせてくれた。
「重くない?」
「全然!僕、意外と力持ちなんだ」
歩きながら、フールは道端の花を摘んだり、木の枝に止まったリスに手を振ったりしていた。どこか浮世離れしているけれど、その純粋さが心地よい。
「フールって、本名?」
「うん!みんなそう呼ぶよ。君のタロウも変わってるけど、いい名前だと思う」
変わってるのはどっちだろう、と僕は心の中で苦笑した。
「あ、そうそう!」
フールが突然立ち止まった。
「君、記憶はちゃんとある?さっきから何だか困惑してるみたいだけど」
その質問に、僕ははっとした。確かに記憶が曖昧だ。自分の名前と基本的なことは覚えているけれど、なぜここにいるのか、どうやって来たのかが全く思い出せない。
「実は…よく覚えてないんだ」
「そっか」
フールは特に驚いた様子もなく、優しく微笑んだ。
「大丈夫。きっと思い出すよ。新しい場所、新しい出会い…何か始まる予感がする!」
彼のポジティブさに、僕も少し元気が出てきた。
森を抜けると、石造りの大きな門が見えてきた。その向こうに、まるで中世のお城のような美しい建物が建っている。
「あれがアルカナ学園だよ」
フールが誇らしげに指差した時、門の前に一人の少女が立っているのが見えた。