序章
―――暗い――仄い――黒い――クライ――
気がつくとソコにいて、
気がつくと底にいた。
どこからか声がする。
――――イデ
なんだろう?
耳を澄ましてみる。
『――――オイデ』
振り向くと―――何も見えない空間で振り向くというのもなにかおかしい気もするが少なくとも感覚的に――――真っ白な手が手招きしていた。
その手の主はローブでもかぶっているのか腕から先は闇に溶けていた。
『なにか俺に用かい?』
『―――――オイデ』
―手繰り寄せられるかのように、俺は歩み寄る。
その手に触れるほど近づき―――
俺は思わず凝視してしまう―――
だってそれは――――
人の手というにはあまりにも―――――
剥き出しすぎだった――――――
『―――――イラッシャイ』
上から聞こえた声に顔を上げようとしたが、それは叶わなかった。
そして――――
首が落ちる音を聞いた―――。
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「……………なんだってんだ…」
目も開けずに呟いてみる。
感覚的にはまだちゃんと首から下も有るようだし、目を開いてもそれが間違いでないと証明されただけであって。
「夢かよ………笑えもしねぇ…」
つまりはそういうことで、そうでしかないのである。
だが待てよ?
それにしては妙に生々しく、それこそまるで『経験』したように鮮明に覚えているが…………。
「………アホくさ、飯でも作るか。」
ちょいと夢診断でもしようかとしたが、さっさと思考を放棄。
モソモソと布団から這い出る。
こちとら一応学生の身なのだ。
悪夢を見たとか、寝覚めが悪い程度では学校を休む理由にはちと足りないのである。
ま、夢診断なんてするだけの知識が無いからでもあるのだが。
キッチンに入ってとりあえず冷蔵庫を開ける。
………マズいな、今日は買い出しに行かなきゃ明日からは飯抜きになってしまう。
そんなことを思いながら卵とバターを片手にフライパンを探す。
『ピンポーン♪』
ん?
誰だこんなに早くに?
千夏………にしちゃまだ早いハズだが?
『ピンポーンピンポーンピンポーン♪』
勧誘か何かと判断、飯の方を優先させると決定。
今日の朝食はオムレツだ。
つか、それしか材料ないし。
『ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン♪』
粘るなぁ………まぁ相手も仕事だしなぁ。
『ピンポーンピンポーンピンポーン♪…………ピピピピピピピピピピンポーン♪』
ついに連打し始めやがった。
『―――――!!』
ガチャリ
あん?
玄関が開いた?
鍵はかけてるはずだぞ?
「入るわよ!?」
と、掛け声一番。
乱入者がダダダッと階段を駆け上がっていく音がする。
しょうがないので料理を中断。
後を追うと、俺の部屋のドアが開いていた。
中から声が聞こえる。
「―――な………じゃあ、まさか本当に……?」
「何が本当になんだ?」
「のわっ!?」
見慣れた後ろ姿に声をかけると、何故かえらく驚かれた。
失敬だな。
「アンタ、生きてたの!?」
「いきなり殺してくれるなよ。」
まぁ、死んだ夢は見たがな。
この乱入者は甘坂 千夏。
隣に住んでるいわゆる幼馴染だ。
ってか
「お前、悲鳴ぐらいかわいくあげろよな。なんだよ『のわっ』って。」
「・・・よかったぁ。」
おや?
おかしいな、普段なら2,3言いかえすぐらいはしてくるはずだが?
「おい、なんかあったのか?」
ちょいと心配になりもう一言かけてみる。
「・・・なんでもないわよ。」
と、今度は反応が返ってくる。
「本当になんでもないわ。」
と、繰り返しながらいつもの調子を取り戻す。
ふむ、本当に大丈夫らしい。
まあなんであんなに焦ってたかは気になるが、本人がなんでもないと言い張るんだから答えは聞き出せないだろう。
それよりか・・・
「俺は今からメシなんだが、お前メシは食ったか?」
「食べてない・・・」
普段より30分も早い時間であるし、そうだろうと思った。
「ついでだから食ってけよ、オムレツしかないけど。」
「ん、そうする。悪いわね。」
「うし、んじゃ先にリビングに行っててくれ。ついでだから着替えて行く。」
「あいよー、・・・ってその前に。」
?
笑顔で俺に寄ってくる千夏。
右手はグーの形。
そのグーは俺のボディに吸い込まれ
「ぐぇ・・・・」
「可愛くない悲鳴でごめんあそばせ?」
と言い残し颯爽と去っていった。
てめぇ、聞こえてたんじゃねぇかよ・・・・。
「ほんと・・・冗談じゃねー・・・」