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蝉の声

死者は再び元いた場所に還った。

涼しくなるかと思われたが残暑はまだ厳しい

ただ少なくとも朝と夕、そして夜間は暑さが引いた感覚がある

蒸し暑さも寝苦しさも和らいだ気がする

さして聞こえなかった蝉の声が遠くから聞こえてくる

いつの間にかどこかで鳴っていた風鈴の音は聴こえなくなった

涼しげな音色は寂しげな音として感じられた

やがては消えゆく儚げな命の灯のような


夕の時間

いつものアスファルトだらけの路面から土が無造作に敷き詰められた山の中へ

ヒートアイランドの牢獄から抜け出し自然と呼ばれるエリアに足を踏み入れる


少し涼しく感じる

凛としたひぐらしの高い声

立ち並ぶ木々の中で声は籠り少し反響して聴こえる

頭上から落ちてくるひぐらしの大合唱

それは心の中に溶け込んでいく

脚を止めて立ち止まる

目を伏せて暫くは耳を研いでそれだけに集中した

疲れた心に触れられ撫でられている気分がする

少し大きく息を吸って静かに吐いてみる

人の世の纏わり付く悪しきモノからもたらされる疲労が足元に向かって落ちていく感覚

多少は鬱なる気分が地に流され霧消したような気がする


暑い時期の終わり

やがては涼しくなり、そして寒い時代に入る

秋には短命なるカゲロウの姿もまた見られるだろうか?

姿を現し、そしてすぐに消えていく


私の寿命はあとどれぐらい?

一体あと何度ひぐらしの声を聴けるだろうか?

何度世代が変わったカゲロウ達と出会えるだろうか?

先は誰にも分からない

今はただこの地に立って、すぐに去っていくモノ達の声を聴き、姿を見つめ続けるだけ




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