プロローグ「魔法なき筋肉に栄光はない」
この世界では、魔法がすべてだった。
貴族は魔力を血に宿し、王家はそれを統べる資格を持つと信じられている。魔法を使えぬ者は“無能”と見なされ、剣か労働か、命を削る道しか与えられなかった。
だが──それでも拳は語る。
そして、筋肉は嘘をつかない。
スラム街「鉄屑区」。その一角でひときわ異彩を放つ男がいた。
ガルド・ストラグル。
鋼のように隆起した筋肉、巨体に刻まれた無数の傷跡。男は生まれてから一度も魔法を使ったことがない。だが、その拳ひとつで、この街の秩序を保ってきた。
「……てめぇら、またガキからメシ奪ったのか?」
低く、唸るような声が路地裏に響いた。
五人のチンピラが、尻餅をついて震える。目の前には、鉄柱のような腕をゆっくりと振り上げるガルドの姿。
次の瞬間。
ドゴォォォン!!
拳が地面に叩き込まれ、地面が陥没した。衝撃波が走り、チンピラたちは白目を剥いて吹き飛ぶ。
「俺の街で、弱ぇもんイジメんな。今度やったら、地面の下までぶん殴るぞ」
彼はいつも通りだった。ただ、拳で語り、守るべき者を守る。
この時までは、筋肉こそが己の武器だと信じて疑わなかった──
まさかその肉体に、「世界を変える魔法」が眠っていたなど、知る由もなく。