メッセージ
次の日の昼、「お腹空いた」と泣きはらした顔で灯が台所に来た。絵子はコーヒーを淹れてから八宝菜を作った。灯は捨てられた猫のように食べた。
絵子は今日も小説を書いた。恋人を亡くした痛みはまだ癒えておらず、その誰にも言えない悲しみと湧き上がる希望を絵子は書いていた。下手くそな文章だったがある一部の層からは支持を受けていた。
そうして三か月が経った。絵子は小説を書くことが中毒のようになっていた。家から出ないことが多くなり、灯との会話もほとんどなくなった。心配した灯は何度もLINEを送ってきたが、絵子はほとんど既読スルーした。とにかく小説が書きたかった。
灯はそんな絵子を心配して絵子の部屋を大きな音でノックして言った。「そんなに小説ばかり書いていたら体に悪いよ。たまには外に出ようよ。今日はすごくいい天気だから函館山に行こうよ。」灯はドアを開けた。
絵子は首を横に振った。灯は絵子の腕をつかんだ。絵子は灯の手を振り払った。絵子と灯の心の距離は離れていった。
冬のある日、絵子が投稿している小説の投稿サイトに三谷という編集者からメッセージがあった。絵子の書いた小説に心を打たれて、函館まで来るという。一週間後、絵子は灯が働いていたカフェで三谷と会った。三谷は絵子の声が出ないことにとても驚いた。「東京に出て来る気はありませんか?」と三谷は言った。絵子はまっすぐにうなずいた。