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サジタリウス未来商会と「無数の選択肢」

瀬戸翔という若い男性がいた。

彼は大学を卒業したばかりの22歳で、就職活動を終えたものの、その選択に疑問を感じていた。


「これでよかったんだろうか……」


内定を得た会社は堅実な中堅企業だったが、幼い頃から夢見ていた「冒険的な人生」とはほど遠い。

もっとリスクを取って挑戦するべきだったのではないか、別の道もあったのではないか――そんな後悔に囚われていた。


「結局、何が正しいのかなんて分からないまま選んじまった……」


そんな思いを抱えながら、夜の街を歩いていた翔は、奇妙な屋台を見つけた。


それは、薄暗い路地裏にぽつんと灯りをともしている屋台だった。

古びた木製の看板には、手書きでこう書かれている。


「サジタリウス未来商会」


「未来商会……?」


翔はその言葉に引かれるように屋台へ足を運んだ。


屋台の奥には、白髪交じりの髪と長い顎ひげをたくわえた初老の男が座っていた。

その男は、翔を見てにっこり微笑み、声をかけた。


「いらっしゃいませ、瀬戸翔さん。今日はどんな未来をお求めですか?」


「俺の名前を知ってるんですか?」


「もちろんです。そして、あなたが心の中で求めているものも分かっていますよ」


男――ドクトル・サジタリウスは懐から奇妙な装置を取り出した。


それは、手のひらサイズのスクリーンがついた小型の機械だった。

スクリーンには無数の点が連なり、網目状に広がるグラフのようなものが表示されている。


「これは『選択肢の地図』です」


「選択肢の地図?」


「ええ。この装置を使えば、あなたが人生で選ばなかった選択肢が、どのような未来をもたらすのかを視覚的に確認することができます。過去の選択を後悔している人にぴったりの商品です」


翔は目を丸くした。


「そんなことが……本当にできるんですか?」


「もちろん。ただし注意してください。この地図に示される未来は、あくまで『可能性』です。それが絶対にそうなるとは限りません」


翔はしばらく考えたが、自分の選択が正しかったのか確かめたいという欲求に勝てず、装置を購入した。


自宅に帰った翔は早速装置を使ってみた。


装置を手に取り、内定を得た会社を選んだ瞬間を思い浮かべる。


すると、スクリーンに無数の線が広がり、それぞれの線の先に異なる場面が映し出された。


ある線の先には、別の企業に就職し、海外で働く翔の姿があった。

そこでは新しい文化や言語に触れ、刺激的な日々を送っていたが、孤独そうな表情も垣間見えた。


別の線には、フリーランスとして活動し、自分の好きな仕事をしている翔が映っていた。

だが、その生活は不安定で、常に収入の心配をしている様子だった。


さらに別の線では、冒険を選ばず、地元の小さな会社で平穏な生活を送る翔が映っていた。

そこには穏やかだが、どこか物足りなさを感じる空気が漂っていた。


翔は装置を使い続け、人生のあらゆる選択肢の結果を眺めた。


選んだ会社に入社した自分、違う企業を選んだ自分、起業した自分、全く別の道に進んだ自分――

どれも良い面と悪い面があり、完璧な未来など一つもなかった。


「どの選択をしても、後悔はつきまとうのか……」


翔は少し疲れを感じながら装置を置いた。


数日後、再びサジタリウスの屋台を訪れた翔は、問いかけた。


「ドクトル・サジタリウス、この装置は確かに役立ちました。でも、どの道も完全に正解ってわけじゃないんですね」


サジタリウスは静かに頷いた。


「その通りです。人生における選択肢には、絶対的な正解など存在しません。ただ、どの道を選ぶかではなく、選んだ道をどう生きるかが重要なのです」


「でも、選ばなかった道が気になってしまうんです……」


「選ばなかった道を見つめることで、今の道をより良くするヒントが得られることもありますよ。あなたがこの地図をどう活用するか、それが未来を決める鍵です」


翔はその言葉をじっと考えた後、装置を握りしめて屋台を後にした。


その日から、翔は選ばなかった道を見つめるのではなく、今の道をどう充実させるかを考え始めた。


入社前の準備を整え、会社での仕事に向けてできるだけ前向きな姿勢で臨むようにした。


ある時、彼は友人との会話でこんなことを呟いた。


「選んだ道が正しいかじゃなくて、自分で正しい道にしていけばいいんだな」


友人たちはその言葉に納得し、頷いた。


サジタリウスは新たな客を迎える準備をしながら、どこか満足げに微笑んでいた。


【完】

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