夫婦の新しい形
ロイ・レザボア殿下は、私のことを見つけると微笑んだ。
アシェル様が、私のことを引き寄せる。
「アシェル様……」
「やはり、そうだったか――だが、君は誰にも譲らない」
「挨拶を」
「ああ」
アシェル様が、私をエスコートしてロイ殿下の前に歩み出た。
ロイ殿下は、私のことをじっと見て、それからアシェル様に鋭い視線を向けた。
向こうは王族であり、私よりも身分が高い。
頭を下げていると、声がかかった。
「久しぶりだな。フィリア」
「ご無沙汰しております。ロイ・レザボア殿下」
「――はじめまして、アシェル・ベルアメール殿。少し話をさせてもらっても?」
「ええ、もちろんです」
二人は私のことを置いて行ってしまった。
私のそばは、イディアル兄様とカイン兄様二人が寄り添う。
「意外と……仲良く歓談しているな。決闘しないのかな」
「ロイ殿下も頭が悪いお方ではないからな」
隣国の王族に対して兄様は二人とも不敬だ。
アシェル様は、不機嫌さを表に出すこともなく大人の対応をしているように見える。
――でも彼は、いざとなったら絶対に敵わない相手にでも決闘を挑んでしまうような人なのだ。
私だけはしっかりしなくては、と見つめているとアシェル様とロイ殿下の間に国王陛下が乱入した。
国王陛下が、ロイ殿下とアシェル様双方に笑いかける。
二人とも、微妙な表情をしている。また、何かに巻き込まれてしまったのだろうか。
結局のところ、この場にいる人間の中で国王陛下が一番食えないのだろう。
「――さて、全面戦争になったら俺が先陣を切るつもりだったが」
「カイン兄様!?」
「……隣国を追い詰めるための手はずはすでに組んでいたが」
「イディアル兄様まで!?」
「ハニートラップ要員を用意していたのに、無駄になりそうね」
「ランディス子爵令嬢!?」
この国のことを思っているのだろうけれど、みんなして……。
「ほら、話が終わったみたいよ。いってらっしゃいな。とどめを刺しておしまいなさい」
ランディス子爵令嬢に背中を押され、歩み出る。
アシェル様が、こちらに視線を向け、よそ行きの笑みを消して口の端を緩めた。
ああ、本当に――大好きだ。
「アシェル様、寂しかったです」
アシェル様の腕に抱きついて、上目遣いに見る。
これは、ランディス子爵令嬢と決めた作戦なのである。
「早く二人きり人なりたいです」
「――フィリア」
アシェル様が、私の様子を見て苦笑した。
「――君、顔が真っ赤だ」
「わかってます!」
「無理する必要はない。もちろん、俺を選んでくれるのはうれしいが」
「……そうです。私はアシェル様の妻です。大好きです!」
「隣国との交易は、これからますます盛んになるだろう。誤解も解けたようだし――妻もこう言っておりますので御前を離れる許しをいただけますでしょうか」
「ああ、これからのベルアメール夫妻の活躍を楽しみにしている」
結局のところ、私の羞恥心は無駄打ちに終わったようだ。
「あの……ロイ・レザボア殿下とのお話しは」
「そんなもの、パーティーの前に徹底的にこちらに有利に完璧に残酷に終わらせているに決まっているだろう」
アシェル様は、腹黒宰相らしい笑みを浮かべた。
そうだった、一緒にいるときは優しくて少し頼りないくらいで私に過保護なアシェル様であるが、巷では冷酷腹黒宰相と呼ばれているのだ。
――あとから聞いた話に寄れば、アシェル様、ランディス子爵令嬢、カイン兄様、イディアル兄様、しかも国王陛下までがありとあらゆる手段を使い、すでに隣国との話を内々に終わらせていたという。
まったくもって、私の羞恥心を返してほしい。
「さて、二人きりになろうか?」
私の色を身につけたアシェル様が、口の端をつり上げて笑った。
「大好きです、アシェル様」
「ああ、俺も好きだよ。フィリア……」
多分これから先、私たちは今みたいに何度も気持ちを交わすのだろう。
これから先、ベルアメール夫妻は、仲がよい夫婦の代名詞になるに違いない。
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