妻の色の盛装
――このパーティーで一番注目を浴びたのは誰か。
もちろん、私の夫、アシェル様だ。
「素敵です」
「恥ずかしいな」
アシェル様は少しだけ頬を染めた。
彼は黒い三揃いのスーツだが、ベストは空色でポケットチーフは淡いピンク色だ。
つまり、私の色なのである。
「ロイ・レザボア殿下は――俺が君のことを蔑ろにしたという噂を信じたのだろう」
「そうでしょうか……」
「信じたというより信じたかったのかもしれないな。君はとても可愛らしいから……諦めきれない気持ちはわかる」
「でも、私が好きなのはアシェル様だけですよ」
アシェル様が、今度こそ頬を染めた。
本当に可愛らしい人だ。
一緒に過ごせば過ごすほど、彼が可愛い人だと思い知らさせるようだ。
「さあ、参りましょう」
「あ……ああ」
アシェル様は私に腕を差し出してきた。
恥ずかしいけれど……いつも私以上に余裕そうなアシェル様が頬を染めているのを見ると、なぜか気持ちが落ち着いてくる。
そんなことを思っていると、強く引き寄せられる。
見上げれば、濃いグリーンの目を細めてアシェル様が見下ろしてきた。
「君の色をまとうのは気恥ずかしいが……君が喜んでくれるならいつだって着るだろう」
「ふふ、ではいつも着ることになりますね」
アシェル様の色のドレスをもう着ないと思ったけれど……こんなにも嬉しいのなら、似合わないことなんて気にせず着れば良かったのだ。
――きっと、アシェル様は喜んでくれただろう。
「おばあさんになったら、髪も白くなりますし、アシェル様の色が似合うようになりますね」
「はは……それより先に俺の髪が白くなるだろう」
アシェル様が私を引き寄せた。
「君を誰にも渡したくない。君より価値があるものを俺は知らない」
「私も――ずっと、一緒にいたいです」
頬にアシェル様の手が触れる。
彼のことを尊敬しているし愛している。
微笑みかけると、他の人には見せない笑みを浮かべる彼のことが大好きだ。
――そのとき、歓迎を表す音楽が流れ始めた。いつもより少しばかり怒ったように、騒々しく。
「お兄様!」
私たちを守るように、カイルお兄様とイディアルお兄様が立った。
父も母がいなくなってしまったときから、いつだってお兄様たちはこうして私を守ってくれた。
けれど、守られているばかりは嫌なのだ。
視線の先に、ランディス子爵令嬢がいた。
彼女は今日はドレスではなく文官の制服に身を包んでいた。
それでも彼女は美しい。きっと、会場の誰よりも。
艶やかな口紅を塗った唇が弧を描いた。
音を立てずに彼女の唇が紡いだ言葉は『やっておしまいなさい』だった。




