試練を与えられちゃいました
「い、いいんですか!!?」
桜花先輩の提案は家なきの子の私にとって渡りに船だった。しかもこんな豪華な住まいに住めるなんて!
私はつい目を輝かせてしまった。だが......
「待て待て。桜花。そういうわけにはいかんだろ」
水を差したのは律先輩だった。頭が痛いのか手で顔を覆っていた。
「あら? どうして?」
桜花先輩が不思議そうに聞くと、律先輩はため息をついた。
「ここは一般生徒向けの寮じゃない。生徒会所属生徒向けの青峰寮だぞ? ただの一般生徒を入れるわけにはいかん」
「いいじゃない? だって部屋は余ってるでしょう?」
「そういうわけにはいかん。青峰生徒会は青峰女学院の中でも特別な実績と、特殊技能をもっていることを証明して初めて入れるものだ。特に今年は桜花が生徒会長になった。神居家としても、桜花個人に対しても、近づきたいと考える人間は多い。そんな中、なんの実績もない転校生を、その生徒会専用の寮に泊めたとあってみろ。同じように行き倒れのふりをして、寮に転がり込んでくるやつが増えるのは目に見えている。生徒会副会長として、また桜花の護衛として、そんなことを許すわけにはいかん」
「そうなの? それは困ったわ?」
桜花先輩は顔に手を当てて考え込んだ。その姿すら美しい。一つ一つの動作が絵になる人だ。
「藤原と言ったな。私の方からも一般向け寮にお願いしてみよう。それで今回は許してくれるか?」
律先輩は悪い人ではない。だからそんな人に申し訳なさそうな顔をさせてしまっているのが、どうにも心苦しかった。だから、私は肩を落として、
「わかりました。残念ですけど......」
「そうだわ! 実績を作ればいいじゃない!」
桜花先輩が突然、ピコンと頭上に電球が灯ったように、ひらめいたという顔をして言い放った。
それに律先輩があんぐりと口を開けている。
「ちょ......ちょっと待て。簡単に実績と言うが、特別な実績だぞ? 剣道大会全国一位とか、数学オリンピック優勝とかそういうレベルだ。すぐに作れるものじゃない。それをこんな......」
律先輩が横目でちらっと私を見た。絶対に失礼なことを考えている顔だ。
言いづらそうにしている律先輩がこほんと咳ばらいを一つ。
「とにかく、何か圧倒的なものがないとだめだ。藤原。何か特技とか誇れる経歴みたいなのはあるのか?」
そう言われても思いつくものがない。むしろやらかした方が多いのだ。
「え......えと......人よりもいっぱい食べますよ?」
「あら素敵ね」
「ただの大飯ぐらいじゃないか」
生徒会長と副会長でまったく違う感想が返ってきた。桜花先輩のことはますます好きになった。
「律......」
桜花先輩は律先輩に向き直って、困ったような顔をした。
「う......なんだ?」
それに対して律先輩は明らかに動揺したような顔になった。それはそうだろう。桜花先輩の困り顔はそれだけで、すべて差し出しそうになってしまう破壊力があった。
「お願い。茜を生徒会に入れてあげて......」
「う......だから実績が必要なわけで、私の一存では......」
「お願い、どうにかして?」
桜花先輩だけに頼ませるわけにはいかない!
私も桜花先輩の隣に立ち、手を結んだ。
「お願いします! 私なんでもします! 暖かい布団と美味しい食事と、ゲームとお菓子さえあればあとは何も言いません!」
「多いな、欲求......」
おっと、つい欲が漏れ出てしまった。
とはいえ律先輩は桜花先輩と私のうるうるとした瞳に明らかに気圧されていた。そして数瞬の後には何か諦めたかのようにため息をついた。
「はあ、わかった......」
律先輩は私に向き直った。
「藤原。お前には今から実績を作ってもらう」
「はあ、と言われても私、スポーツも勉強も苦手ですよ?」
「だろうな。なんとなくそんな気はした」
なんだろう? とても失礼なことを言われている気がする。
私が首を傾げていると、律先輩はポケットから携帯を取り出して、どこかへかけ始めた。




