魔女集会で会いましょう
テンプレですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
人間の子を拾った。正確に言えば使い魔が。
気まぐれに怪我を治療し、食事を与え、知識を与えた。
最初は怯えていたが、今はそれなりに懐かれてしまったらしい。
深夜、人間に与えた部屋からまだ起きている気配があったので覗いてみると、ポロポロと涙を流していた。
魔女に気づいた人間は涙を拭うが止まることはない。
「何を泣いているの」
「ひ、ひとりに、なる…夢を…」
「ふーん。それで、今、あなたはひとりなの?」
「ま、魔女様と使い魔様がいます…」
「えぇ、そうね。ならばもう泣き止みなさい。寝付くまでいてあげるわ。朝になれば美味しい食事があるのよ。悲しいことなんてないじゃない」
理由は分かったが、理解しきれない魔女はバッサリと切り落とす。
一人ではないし、ベッドがあって食事もある。苦しい生活ではないはずだ。泣く理由はなくなったはずなのに何故まだ涙するのか。
「はい。……魔女様はずっと一緒にいてくれますか」
「ずっとは無理ね」
「!?」
「えぇ? 何故まだ泣くのかしら」
「ぼく…ぼく…魔女様とずっと一緒にいたいです…」
「そうは言われてもねぇ」
「すてないで、ください…っ」
「そうは言われてもねぇ…」
本当に気まぐれに世話を少ししただけで、義務などないのだ。
人間の習慣は知っている。真似事もできるだろう。だが根本が違うのだ。思考も習慣も寿命も何もかも。いずれは綻んでしまう。
魔女にとってたかが100年短いものだが、だからといって人間のそれに付き合う義務も理由もない。
だから少年の願いを叶えてやろうという気にはならない。
「ふぇっ…魔女様…まじょさま…っ」
「あー…しばらくは置いてあげるから…早く寝てしまいなさいな」
魔女は基本的には嘘はつかない。力を持つが故に必要ないのだ。
もちろん全く嘘をつかないわけではない。からかうのが好きなのだ。
嘘のような真実、真実のような嘘。雑談では言葉遊びを楽しむ傾向がある。
それでも嘘の中に真実も織り込む。何かを秘匿にしたい場合などは論点をずらして語らないだけ。
だから何が嘘で何が真実か、人間には判断つきにくく、嫌煙されがちだ。
そのくせこちらの力は利用したがるのだから図々しい。
だが魔女は“人間”を嫌ってはいない。正確に言えば関心があまりない。
気に入った人間がいれば、気に食わない人間もいる。それだけだ。
弱くて、図太くて、面白くて、あっという間に死に至る生き物。
愛玩用として飼う仲間もいるが、魔女はその気はない。少年としてはそうしてほしいと訴えるだろうが、気の向かないことをするのが嫌いな魔女はあっさり退けるだろう。
「…そのうち魔女狩りに来るのかしら」
少年を人間の世界に返した数年後を想像した呟きだった。
人間は優秀だった。
人間として生きるのに必要な知識はもちろん、魔術に関することも予想より早く吸収していった。
人間は魔女と共にいたいがために努力した結果なのだが、それが仇となった。
「イヤです! 僕をお傍においてください!」
「1人で生きていけるように育てた意味がなくなるわ。私に無駄なことをさせるつもりなの?」
「無駄じゃありません! 魔女様に育てられました、つまり、お役に立てます!」
「不要よ。そのために育てたんじゃないから。私の傍にいたなら私の性格は分かるわね?」
これ以上の問答は許さないと目を細めれば、少年は肩を落とした。
「…………分かり、ました。納得はできませんが、分かりました。森を、出ます…魔女様の教えを無駄にしません」
「えぇ、それでいいわ。いい子ね」
「…でもっ、必ずまた会いに来ます!」
「来なくていいわ。まぁ、教会に何かうるさく言われたら私のことを話してもいいわよ」
「そんな! 絶対に言いません!」
「…まぁ、好きになさい」
魔女狩りなど脅威ではない。そういう意味も込めたが少年の反応に面倒になって流した。
「じゃあね、もう迷い込んじゃダメよ。迷子の年齢じゃないのだから」
魔法で少年を森の出口へ押しやる。
「また…! また会いましょう!」
了承したはずなのに抵抗する少年は、出る直前にそう叫んだ。
「会えるものならね」
魔女は基本的に森から出ない。
少年ももうこの森には入れない。
それ故の呟きだった。
―――少年には届かないが。
少年を返した数年後、いつものように集会に訪れた魔女は目を見開いた。
「お久しぶりです魔女様! お会いしたかったです!」
あの頃より更に成長した少年―――青年が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ようやく魔女様の元に帰ることができました。今度こそ、ずっと一緒にいてくださいね」
「…本当に、人間って図々しいわね」
呆れ顔の魔女の言葉に、青年は嬉しそうに笑った。
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