10‐1
とうとう最終章です。あとちょっとで終わりです。
リズと名乗っていたリリーは、千哉達によって、鷹島という警察のお偉いさんに引き渡されていった。
警察が来るまでに桂香も涼も姿を消した。その前に二人は千哉と話をした。
「お願い。京太郎のこと、頼むわ。」
「分かりました。あの、教えて下さい。彼は…。」
桂香は振り返った。
「……知ってる? 彼がリセットの創始者の一人よ。」
千哉はぎょっとして、桂香を見つめた。
「彼はシャイン・アイズの組織の幹部。先祖が明治維新の時からのメンバーなの。日本は重要なアジア拠点よ。その重要なメンバーだからこそ、組織の異常性を知っていた。」
桂香の両目から涙がはらはらと落ちる。弟の死で彼は考えたの。世界を牛耳って支配している者達から世界を解放しないといけない。それが、自分の使命だと思っていた。
「それで、組織が人々をAIにだけ恋するようにコントロールする計画を立てて実行し始めた時、彼は胸を痛めたの。」
桂香は胸に手を当てた。
「人から愛を奪ってはいけない。人は愛を失ってはいけない。彼はそう考えていた。」
千哉は桂香にポケットティッシュを手渡した。子供がいるので、常に持ち歩いている。
「ありがとう。」
桂香は涙を拭った。それでも、すぐにこぼれ落ちる。
「彼は世界を愛していた。だから、あなた達を影から守っていたの。」
そう言って、桂香は涼と一緒に去って行った。そして、間もなく警察がやってきた。
勇太と貴奈は、千哉と祥二のおかげで何か言われることもなかった。トイレの限界が来ていた貴奈は、寂れた港の一角にある古びたトイレを見つけ、そこに行った。たぶん、普段だったら絶対に行かないような汚さのトイレだった。
行って戻ってきたら警察が来ようとしていたので、二人は慌てて車の中に入ったのである。
京太郎の表の身分は、新進気鋭の若き経営者だった。会社を五つも二十代のうちに立ち上げ、そのうちの二つを三十代になってからも経営しているということだった。表向きの名目だけでなく、実際に彼は経営者でもあったらしい。小さくとも会社のCEOだったのだ。
その会社の経営者が何者かに殺されてしまったというので、世間では衝撃が走った。なんせ、世界中がリセットされた後だったので、みんなロスト・ラヴしてゲームから目が覚めていたものだから、その事件も大きく取り上げられた。
謎の停電よりも大きなニュースになった。しかも、イケメンだったということで、女性のファンも元々いたようだ。ゲームが流行る前までは、彼のインタビュー記事が載っている経済雑誌が異例の販売部数を誇ったという。アイドルグループのグラビア雑誌よりも売れたという話がワイドショーで放送されていた。
さらに、恋人の桂香の存在も話題になった。二人の姿はたびたび写真に撮られていた。彼女のマンションに何者かが侵入した形跡がある上に、住人の桂香本人がいないため、どこに消えたのか話題になっていた。
その上、会社に涼がたびたび姿を現していたらしく、イケメンの弟分の姿がないことも話題となり、さまざまな憶測を呼んでいた。
ウィードームでも、いろんな動画が作られている。勇太はスマホを待機状態にした。
「あーあ。もっともらしく、いろんな情報が流れてるな。」
「うん……。でも、わたし、ショックだった。目の前で生きている人が、死んでいくんだもん。」
勇太が言うと、貴奈がしょんぼり呟いた。それは、勇太も同じだった。少し距離があったとはいえ、豆粒ほど小さくなかったし、声はなんとか聞こえる距離にいたのだ。そう思えば、かなり近くにいたのだと思う。というのも港が小さかったから、どうしても、そんな距離になったのだ。
「でも、彼は目的を達成したんだろ。世界を助けるためだったんだろ。」
「そうだけど、悲しいよ。」
貴奈はあれ以来、落ち込んでいる。実は、桂香と涼はリセットが保護している。
リセットは、シャイン・アイズのやり方に反発をしている者達が、反目して作った組織らしい。
だから、千哉にこれ以上リセットには関わらないように言われて、あれ以来、連絡を取り合っていない。実際に世界中がリセットされたので、学校でリセットをする必要もなくなったのだ。
「なあ、貴奈。そしたらさ、明日、気分転換に映画でも見に行かないか?」
「……映画?」
貴奈は最初は、遊園地がいいとか言い出したが、結局映画でいいことになった。今日は買い物に行くと言い出した。仕方なく彼女に付き合って、目的の店に行くため、裏通りの近道を歩いていると、思いがけない人物に出会った。
物語を楽しんでいただけましたか?
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語




