8‐3
勇太と祥二が部屋でくつろごうとした所で、貴奈から電話があり……。
事件が動き出します。
とりあえず勇太は、両親に祥二のことをチンピラな不良グループに絡まれて、カツアゲされそうになっていた所、助けてくれた人として紹介することにした。
祥二が借りているアパートが水漏れして、今、住めないため、急遽、泊まる所を捜しているという設定を祥二が考えた。
「本当はこの近くの友人のアパートに泊まるはずだったんですが、ボヤ騒ぎが数日前に起きたので、消化剤や煙の臭いがするから来ない方がいいって言われてしまって。」
実際に数日前に割と近所のアパートで起きたボヤ騒ぎだった。それをわざと話に盛り込んだのだ。そのため、母の美子は具体的な祥二の説明にすっかり信用したようだ。
「ほとんど見ず知らずの関係なのに、たまたま歩いていたら勇太君と会いまして。本当に申し訳ありません。」
祥二が頭を下げると、昌義も丁寧な青年だと思ったらしい。ごく平凡な顔立ちの祥二だが、かえってそれが良かったようだ。
「いいよ、ちょっとちらかっているけど、気にしないで。」
「それよりも、好きな料理とかある? どうせだったら、晩御飯、好きなものにしようと思って。」
美子が笑顔で祥二尋ねる。
「いえ、急に来たんですから、お気遣いなく。」
「いいの、いいの、遠慮しないで。」
「どうせだったら、好きなものを言ったら?」
勇太も横から口をはさむ。
「そうしたらいいよ。」
昌義も頷いたため、仕方なく祥二は頭を速やかに巡らせ献立を考えた。割と手軽にできて、万人受けする料理だ。材料も普段から家にある材料でできるもの。カレーにしようかと思ったが、カレーは案外家庭によって大きく違い、難しいかもしれない。それで、カレー粉を入れない料理を口にした。
「……じゃ、シチューとか。」
祥二は恐る恐る口にした。
「シチュー、いいわね。」
「うん、いいんじゃ。」
「父さんは何でもいいよ。」
ちょうど、材料もあるわね、などと言いながら、冷蔵庫を確認している美子に祥二が声をかけた。
「……あのう、お手伝いしましょうか? 自炊しているので、ジャガイモくらいはむけますし。」
近田家の三人は祥二を見つめた。
「えー、祥二さん、料理できるんですか⁉」
「こら、失礼よ!」
思わず勇太が叫ぶと、すかさず母の美子から注意が飛ぶ。
「だから、高校卒業してからずっと自炊だし。」
「ほう、えらいな。」
昌義が感心して呟いた。
「じゃあ、手伝ってもらおうかしら。」
美子が上機嫌に手を叩いた。
「ほら、勇太、あんたも手伝いなさい。」
「えぇー! なんで俺まで!」
「自炊できて損はない。」
「その通りよ! 来なさい!」
そんなんで、祥二はすごく簡単に近田家になじんだ。
祥二と両親の紹介がスムーズだったので、ほっとしながら、勇太は祥二を部屋に招いた。
「ちらかってますけど。リセットされてロスト・ラヴするまで、家がゴミ屋敷になってて。あれに気がつかないで生活できてたなんて、信じられない。」
「ああ、そうだな。みんな、ほとんど同じようなものだ。」
そんな話をしている時だった。勇太のスマホがなった。
「あれ、貴奈だ。どうしたんだろう?」
勇太は首を捻りながら、電話に出た。
「どうしたんだよ。」
「……あのね。どうしよう。」
貴奈の声が震えている。貴奈の異変に勇太は祥二の方を見た。祥二が小声でスピーカーにしろ、というのでその通りにした。
「…ショウガナイわね。ユウタくん。それと、チカクニ、リセットのダレかがいるんでしょ。タカナちゃんはあずかた。AM0時までに来ないと、タカナちゃんがどなるか、ワカラナイわよ。」
この声はリズだ。とっさにどうして、リズが関係するのか分からなかった勇太だったが、リズがスパイかもしれないのだと思い出した。
「来ないとって、俺が行けばいいのか?」
勇太が聞くとリズは笑った。
「ユウタくんだけが来てもイミない。リセットのアタマ、二つ来ないトネ。ヤマギシふうふ、来ないトネ。」
その後は、日本語で言うのが面倒になったのか、英語で何かまくしたてた。
物語を楽しんでいただけましたか?
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語




