赤い糸
なあ、兄弟、聞いてくれるかい? 俺の身に起きた、不幸な出来事を。この世界はやはり、不公平に満ちてるね、だから、兄弟、せめてキミらの力になりたいんだよ、え、何? いや、済まないが、直接の協力は出来ない、何なら俺は、もはや自分すら幸せにする事が出来ないんだからね。でも、勝ち組のヤツらを引きずり降ろす(力)だったら・・・俺にはあるんだよ! だからさ、兄弟、一緒にヤツらに、復讐して、ひと泡吹かせてやろうじゃないか! え、ナニナニ、自身の勝利よりも、ヤツらの失脚の方が好ましい、って? さすがだ、サイコーだよ、それでこそ、俺の兄弟!・・・と、前置きが長くなったね。
とにかく、おさらいをして置こう、始まりは、実に唐突に・・・
時間が止まった。人も車も飛行機さえも、その場に留まり、ピクリとも動かない。
パニックになり掛けた俺の前を、小さな影が走り去った。動かない人々の間を縫うようにして、何やらゴソゴソとやっている。追い掛けて捕まえると、それは意外にも老人だった。
問い詰めると、貧相な老人は、自分は古都坂という名前で、縁切りの神だと云う。何とも胡散臭い話だが、今の世界を目の当たりにしては、それとて信じる他に無い。
「ぢゃ、お主がワシの引き継ぎか?」 老人は勝手に合点すると、俺の手に何やら握らせる。そして短い説明、「懐中時計で時間を止めたら、(コトサカの鋏)で男女・・・もしくは男と男の小指を繋いどる、赤い糸を切ってやるんぢゃ。ホラ、お主にももう見えるじゃろ、人々を繋いどる赤い糸が」 そう云われて改めて目を凝らすと・・・見える見える! 軽く発光する不思議な糸が、絡む事なくあらゆる方向に伸びているのだ。「触ってみい」 老人に云われて、手近の糸に手を伸ばす・・・アレッ!? 指がすり抜けてしまった。「ハハ、それは特殊な鋏でしか切れんのじゃ。ナニ、要は自分の好きにやれば良いんじゃよ、何なら縁結びの野郎(!)の方が、数じゃ圧倒的に多いんじゃからな、負けんように、せいぜい気張りんしゃい♪」って、おいヲイ・・・
云うだけ云うと、老人はフッと消えてしまった。同時に音が戻ってきて、それまでが嘘のよう、再び世界が回り始めた。しかし・・・
夢で無い証拠とばかり、俺の手には、蓋に神代文字の刻まれた懐中時計と、ヒヒイロカネで出来た鋏が残されている。すぐに神器だと気付いたのは、引き継ぎが終わったという証拠だろう。まさかな、俺が(神)になる日が来ようとは、我ながら世も末だ、しかし・・・ああ、縁を切るだけねえ・・・ワンチャン、コレが縁結びだったら、ハーレムだって夢じゃなかったろうに・・・コノウラミ、ど〜〜してくれよう!
自分の幸せが望めない今となっては、俺に残された唯一の楽しみなんて、こんなくらいのものである。
ハセキョーとバンドマンの離婚・・・アレが俺の仕事始めだ。それからは、切って切って・・・それこそシザーハンズも照覧あれ!という剣幕の、切りまくりの日々だ! そう云えばこの間、たまたま鉢合わせた縁結びの野郎に、文句を云われたな、勘弁してくれよ〜、って。ふざけんな、おんなじ神なのに、お前らばっかり感謝されやがって、何なら俺と剛力の指を繋いでみやがれと云ったら、死んでもヤダねと拒否りやがって、縁結びのクセにナマイキな! アッタマ来て、俺は暫く、奴の後にくっついて、結んでいく先から、ちょっきん・ちょっきん・ちょっきんな〜♪と切ってやったっけ! アレは愉快だったな、まあ、すぐに助けに来た仲間らにボコられて、俺は慌てて逃げ出したんだケドね♪
・・・って事でだ、兄弟! もう分かってくれただろ? 俺にも(仲間)が必要だって。ボコられた時、気付いたんだ、残念ながら、縁結びの野郎はちょくちょく見掛けるのに、縁切りにはまだ、一度も会えてないんだよ、さすがに俺だけって事は無いだろうけど、ちょっと不安になってね、で、こっからが重要なんだが、是非ともキミらの協力、リクエストを、新宿駅東改札の伝言板に、ジャンジャン書き込んで欲しいんだ、相合い傘に、別れさせたい名前を添えてね。離婚で世の中、変えてやろうじゃないか! 大丈夫、私、失敗しないので♪ キミらの仇は取ってやるって、何ならキミらは、昔の俺でもあるんだから! 兄弟、もう一度云うぜ、
「拙者はヌシらの味方でござる♪」