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6.違和感

回想シーンにて、チラッとまいちゃん登場です。

え?誰だって?

うーん......



 その後、しばらくして


 結局お父さんとお母さんに合流した私たちは、村のすぐ近くまでやって来ていた。


 東側に森、西側に川があり、人口200人余りの村だが、その好立地を活かした商業で切り盛りしている。

 大きさ自体は割とでかい。


 村の住人の顔が見分けられる程度の距離になった所で、私はコートに付いているフードを少し深めに被った。


「それにしても今日は少し冷えるね、お姉ちゃん。わ......わたしなんだが手が冷たくなってきちゃった」


 シスは手を息で温めながら、チラチラとこちらの様子を窺っていた。

 くっ!出来ることなら私もシスと手を繋ぎたい!その手を温めてあげたい!......けど......。

 私は両手をコートのポッケに突っ込み、お母さんの方を見やる。


「お母さん、その......シスと手を繋いであげて?」


「それはいいけど......私でいいの?」


「......」


 私は無言で頷く。

 お母さんは少し困ったような表情を浮かべ、シスは落胆したように俯いたまま何も言わない。


「シス......お母さんと手、繋ぐ?」


 お母さんは誤魔化すように微笑みながらそう問いかけるが、シスは首を縦には振らなかった。


「......ありがとうお母さん。でも、大丈夫だよ......お姉ちゃんなんて知らないっ」


 少し強めの口調でそう吐き捨てると、シスは小走りで村へと入っていってしまった。

 その後ろ姿に思わず手を伸ばしそうになったが、ポッケの中で強く拳を握って耐え凌ぐ。


「シス、本当はお姉ちゃんと手を繋ぎたかったんじゃない?」


「......そんなことないよ」


 胸の痛みを誤魔化すように笑って見せたが、お母さんの悲しそうな表情から察するに、私はうまく笑えていないのだろう。


「不器用な子......一体誰に似たのかしら......」


 額に手を当て、ため息混じりにそう呟く。


 いや、多分これは私の本質がめんどくさい人間性を孕んでいるだけだと思う。

 前の世界にいた時から、根暗陰キャでめんどうな性格でしたよ私は。

 だからそんなにお父さんをいじめてあげないでください。

 お父さんは『ハ、ハハ。全く、誰に似たんダロウナー......』と青ざめながら言っていた。

 さっきお母さんに怒られた事が相当効いているらしい。


 すると、既に村の中へ入り始めていた私たちの前に、三人の子どもが現れる。

 私はフードの先を摘んで、より深く被るように下へ引っ張った。


「見ろよ!また黒女がやってきたぞ!」


「おい黒女!絶対にこっち見んなよ!黒いのがうつるからよ!」


「はぐれ者がこの村に来んなよな〜!」


「「ギャハハハハハハハハハ!!!」」


 悪ガキ感溢れる緑、黄、赤の髪色を持った少年たちが、私を見るなりそう吐き捨て、逃げるように建物の影へ走り去って行った。

 私はあの子ども達を心の中で「信号機キッズ」と呼んでいる。

 だって髪色の並びが同じなんだもん......。

 ちなみに、さっきみたいな差別発言は特段珍しいことでは無く、村に来る度こういう扱いを受けるので今更傷つくことは無い。

 ただ、私の大事な妹を巻き込みたくなくて、なるべく別行動をしようと少し避ける様な態度を取ってしまって、その度にシスの好感度メーターが音を立てて減っていってしまうのが悲しい。

 あのガキンチョども......やっぱり許さん。

 すると、私の頭の上にふわりとした感触がフード越しに伝わってくる。


「お父さん......?」


「セイバーには苦労をかける......その、すまなかっ─」


「うぇちょちょ!何謝ろうとしてるのさ!お父さんは何も悪くないじゃん!」


 私は慌ててお父さんの言葉を遮る。

 同じ黒髪黒目だからこそ、思うところがあるんだろうけど。

 でも、そんな顔しないで欲しい。


「それに、私この髪色も目の色も大好きなんだ。尊敬しているお父さんと一緒だなんて、私ができる唯一の自慢なんだからさっ」


「そ、そうかい....?」


 お父さんの後ろでパァァと小さい花たちが咲き誇った。

 チョロい。

 お父さんは表情こそ顔に出にくいが、そのじつ人並みに感情豊かでクセを掴めばわかりやすい性格をしている。

 すぐ落ち込んだり悲しんだりするけど、その分少しのことで喜びが顔に出たり調子に乗ってしまったりするのだ。

 本人は隠し通せてるつもりらしい。


 ただ、さっき言ったことはほんとだ。

 髪色も目も好きだし、お父さんも尊敬している。

 しかもこの方が前世とのギャップが少なくて、私を私と認めやすかった。


「そうですっ!じゃ、私は私で色々見てくるからね!」


「あ、あぁわかった。シスへの誕生日プレゼンかい?」


「そ、バレないようにしてよね〜。お父さん顔に出やすいんだから」


 む。と言う顔をして表情を固めていたが、それが何分持つだろうか。


「セイバーちゃん、帰りはどうする?」


「お母さんたちは買い物が済んだら先に戻ってて!私はどれくらいかかるか分からないから」


「は〜い、あんまり遅くならないようにね?」


「わかってるって〜」


 二人に手を振りながら小走りで村へ入っていく。

 よし、これから最重要任務【シスの誕プレを入手せよ】スタートだ。

 今一度気を引き締めなければ。

 さっきのこともあるし、お店を回っている最中にシスに会えたらそれとなく声を掛けておこう。





 ◆





「ダメだぁ〜....!」


 道の真ん中で頭を抱えていると、道行く人達から訝しげに見られる。

 時間はかかるだろうと思っていたけど、思った以上に決まらない......!

 あれも違うこれも違うとお店を回りながら悩み続け、一時間半ほど経過した。

 何が良いか考えすぎて訳も分からなくなり、タコ型の木の彫刻を手に取ったあたりで、これは限界だと感じ店を出たのがついさっきの事である。

 いや、精密で細かいところにも職人魂が感じられて良かったんだよ、あの彫刻。

 これだけ村のあちこちを回っているのにシスには会えないし、お母さんとお父さんに意見を求めようにも、早々に買い物を終えて家に戻っちゃうし!

 いつもちょっかいを掛けてきて喧しい信号機キッズが、珍しく姿を現さないのは不幸中の幸いだったけど......。

 ただ、まだ一つだけお店を残している。

 去年はそこでファーが着いている白いマフラーをシスにプレゼントした。

 今日も着けててくれて嬉しかった。

 良いお店が故に、そこで決まらなかったら絶望的だったので、いくつか候補を決めてから寄りたかったのだが仕方がない。

 プレゼント選びにこれ以上時間もかけられないし、私は最後の砦へ向かうべく、村の東側に向かって歩き出した。


 10分ほどして、村の最東端に位置する小さめのお店へ辿り着く。


「.......シス?」


 ふと。

 シスの匂いがしたような気がして呟きが漏れる。

 だが、辺りを見回してもその姿は見当たらなかった。


「気のせいかな......」


 降る雪の粒が大きくなってきているせいで、真っ白いシスと勘違いした脳が誤作動を起こしたのだろう。

 そう無理やり理由を作って切り替えると、木造のドアへ手をかける。

 カランコロンと子気味いい音を鳴らしながら扉が開かれると、奥のカウンターには店の店主が頬杖をついており、爬虫類が持っているような有鱗目をこちらへ向ける。


「そろそろ来る頃だと思ってたよォお嬢ちゃん」


「こんにちはおじさん」


 店主はヒラリと片腕を上げ、にこやかにこちらに手を振ってくれた。

 その手は肘あたりまで茶色い鱗で覆われており、指先には鋭い爪を携えていた。

 そう、このお店の店主はいわゆる『亜人』である。


「いやぁ、この時期は気温が低くてかなわンね。すぐに眠たくなっちまう」


「今日は特に冷えますからね」


 ガラガラした声でそう嘆きながら大きな欠伸をすると、それに合わせて細長い尻尾がぺたんぺたんと床を叩く。

 私は入口の前でフードを脱ぎ、体に着いた雪を払う。

 店内は程よく暖かく、机の上や木製のマネキン等のあちこちに装飾品や雑貨が並べられていた。

 相変わらずいいセンスをしたお店だ、これなら目当てのものもすぐ見つかるだろう。


「この時期ってことは.....妹の誕生日かい?」


「はい、もう毎年お世話になってますね」


「今年も良いの揃えてるよォ。ま、ゆっくり見ていきな、どうせ他に客もいないんだ」


 このお店は他のお客さんがいなくて、刺すような目に晒されることが無いので居心地がいい。

 オマケに店の人から冷遇されることもないし、お言葉に甘えてゆっくり見させてもらうとしよう。


「こんなにいいお店なのに......」


 小さい店の中を歩きながらそう呟く。

 万年筆から指輪に小刀、マフラーやコート等、統一性は無いものの、そのどれもがキラキラしていて惹き付けられるデザインをしていた。


「店主がこのなりじゃねェ、人も寄り付かんサ」


「私はかっこいいと思うけどなぁ、目とか爪とか」


 思ったことを素直に口にすると、店主は一度キョトンとし、すぐにケラケラと吹き出した。


「はっ!馬鹿ほざいてないで商品を見なァ」


 それもそうだ、シスへの誕生日プレゼントは100点を超える逸品を選び抜かなければならない。

 だが、既に一時間半も動き続けているせいか、集中力が散漫になってしまう。


「おじさん、何かおすすめとかイチオシありますか?」


「あぁ?......そうだなァ」


 この人のセンスなら間違いないだろうと助けを求める。

 店主は一度考えるような素振りを見せた後、鋭い爪でとある場所を指さした。


「それとかどうだい?」


「えーっと......あっ」


 そこにあったのは、水色の宝石が一つ埋め込まれたネックレスだった。

 青く澄んだ海に光が差し込んだような煌めきを持つ宝石は、私の頭の中にシスの姿を容易く想像させた。


「あんたの妹には似合うんじゃねぇか?」


「.....うん....うん!いい....いいよこれ!凄く良い!」


「まぁ少し値は張るが」


「これで足りる?」


 私はカウンターに金と銀のコインをジャラァッと並べる。

 持ってけ有金全部だ。

 店主は即決する私に少し呆れていた。


「半分で十分だ......ったく、妹狂いもここまで来ると怖ェな」


 フスーッと鼻息を荒くしている私にお釣りを渡すと、その後綺麗な箱に梱包までしてもらった。

 贔屓にしてくれている常連へのサービスだそうだ。


「ありがとうっ!おじさん!」


「まいどォ〜」


 私は大切にコートのポッケに木箱を仕舞い、スキップしだしそうなのを我慢しながら店の出口に向かう。


「ちょっと待った」


「?」


 急な呼びかけに足を止めて振り返ると、店主はいつになく真剣な面持ちをしていた。


「......どうしたの?」


「いや、まぁなんだ、お嬢ちゃんに限って心配いらねェとは思うが」


「うん?」


「今日は森には近づくなよ」


「え......う、うん」


 さも当たり前のことを言うもんだから、少し拍子抜けした。

 今日に限らず、森に近づくことは普段から禁止されているのだ。

 お母さんとお父さんからもよくそう言われるので、わざわざ忠告を受けるようなことでは無いが......。


「でも、それっていつもの事でしょ?」


「あぁ、そうだが......今日はやけに森が静かだからな」


「あー、そういうの分かるんでしたっけ」


 店主は爬虫類系の亜人だからか森や洞窟などの気配に敏感だそうで、時折そういった事を教えてくれる。

 このお店が村の中で一番森に近いと言うこともあるのだろうけど。


「大丈夫ですよ、私もシスもダメって言われたことをするような子じゃありませんから」


「....ま、それもそうさナ」


 でも、こちらを心配してくれている気持ちはありがたい。

 素直に感謝の気持ち伝えてから、今度こそ店を後にしよう。

 そう思ったところで、ほんのちょっとした疑問が浮かんだので聞いてみることにした。


「そういえば、私の妹って今日このお店に来ました?」


「いいやァ?今日の客はあんただけだったが」


「ですよね」


 外の風が少し強くなってきたのか、お店の扉がカタカタ揺れている。

 窓の外に目をやると、雪の勢いが増しており斜めの角度で降り注いでいた。


「どうしたァ?......おい、体調でも悪いのかァ?」


「え?」


 その言葉を聞いてハッとすると、頬から汗が一筋だけ伝っていた。


「あぁいや、店の前で少し妹の気配を感じたというか......少し気になって」


 汗を手の甲で拭いながらそう伝える。

 さすがに妹のいい匂いがしてとは言えなかった。


「あぁ、それと関係しているかは分からねェが」


 すると、店主は何か思い出したような表情を浮かべながら口を開く。


「店の前が少し騒がしかったような気がするなァ、一瞬だったもんで誰かは分からねぇが、子どもの声......と言われるとそうだったかもしれねェ」


「あ......そ、そうなん...ですね」


「あぁ?どうしたお嬢ちゃん」


 自分でも訳が分からないほどか細い声が出た。体調でも悪いのか......?

 いや、今日はすこぶる快調なはずだ。

 その筈なのに、手は妙な力が入って震えているし、足はしっかりと床を踏んでいるのに不安感があった。

 天気が一層崩れていく。

 木の隙間から入り込んでくる冷たい風が、蔑むように高い音で鳴き、扉はガタガタと、愚かな人間を見て嘲笑うように揺れる。


「い、いえ、大丈夫......です」


 強ばる体を無理やり動かして出口へ向かった。

 今はただ、無性にシスに会いたい。

 そうだ、帰りはちゃんと手を繋ごう。

 拒まれるかもしれないけど、それでも何とか手を握って帰るんだ。

 お店の扉を開けると、外は雪と風が強くなっていた。


「さぶっ......」


「雪ィ、おさまるまで居てもいいんだぜ?」


「いえ、まだ出歩けない程じゃないので。ありがとうございます」


 どこまでも親切な店主に会釈すると、雪の降る村へ足を踏み出す。


「早くシスを見つけて帰ろう」


 誰に言うでもなくそう呟き、村の中の方へ移動を開始した。


 流れる景色の中、大人たちは既に家に篭もっているのか姿は無かった。その代わりに、子どもたちが外に出てきていて、降り注ぐ雪に少し興奮しているようだった。


「シス....どこ....?」


 子どもの姿が増えたのは良いが、そこにシスの姿は一向に見当たらない。

 だが、それで別に問題は無いはずだ。

 村に着いてから既に2時間以上経っているし、雪が強くなってきたとあらばきっと一人で家に帰っている。

 村に居ないということは家に帰ったということだ。

 これまでだってシスが一人で村に行ったり帰って来たりするということはあった。

 しっかり者のシスだからこそ、それが許されていたのだ。

 だから、こんなに必死になって探す必要は無い。

 今からでも家に向かえば、そこにシスが居るはずなんだから。


「シスー!一緒に帰ろー!シスー!!」


 そんな考えとは裏腹に、私はまだシスを探し続けており、あまつさえ大きな声で名前を呼ぶ始末。

 流れる景色がだんだんと早くなり、それに応じて呼吸と鼓動が乱れていく。

 これだけ村を駆け回って探しても見当たらないんだ、もう村に居ないのは確実だ。

 ならもう帰ろうよ、寒いし、走って疲れたし。

 家に居るはずのシスに会いたいし。

 なんて、頭では分かっているのにまだ体は風を切っている。

 言いようのない感情に、衝動に駆られる。

 いつの間にかギリと歯を噛みしめていた。

 普段なら綺麗に思い、人並みにはしゃいでしまう雪ですら、今は煩わしい。

 私の邪魔をしているようにしか思えない。

 完全に合理的な思考を失っている。

 なんで、なにを私は苛立ってるんだ。


 有り得ない、現実的じゃない、そんなことを考えるのはやめろ。


 シスは真面目で良い子だ、言いつけはきちんと守るし、ルールに従順で堅実で、されど柔軟に物事を考えることが出来る。


 だから、だからある筈ないだろう。






─────シスが森に入ってしまうなんて






 村で一度もシスを見なかったのは?


 ただの偶然だ


 いつもなら絡んでくる悪ガキたちが、一度見たっきり姿を見せなかったのは?


 それも偶然だし、この件とは関係ない


 森に近い最東端で、シスの匂いがしたのは?


 あれは気のせいだったはずだ


 店主の言葉は?


 あれも本人が気のせいだって言っていたじゃないか!


 違う


 ────自分で気のせいってことにしたんだろ?




「───────シス.......!」




 一際大きな風が吹き、つられて風の行先を見やる。

 その風は、色褪せた森の中へ吸い込まれて行った。

 村中を走り回っていた私は、いつの間にか一周してさっき居た店の近くまで戻って来ていたらしい。

 泣きそうになっているのか、喉がつんのめり呼吸が整わない。

 思わず膝に手をついて止まってしまう。



「ハァ....ハァ....ッ大丈夫....考えすぎだって....ハハ」



 何とか呼吸を整え、少し落ち着いたところでゆっくり歩き始めると、村の外側を囲む木の柵に手をかけて森の方を見つめる。

 東側に広がる枯木色のパレットに白い雪が流れていく。

 確信に至らない違和感が、私を柵の内側へと閉じ込め続ける。

 どこまでも白く、どこまでも儚げで。

 少し遠くにキラキラと、サラサラと輝きを放つ、ダイヤモンドダストのようなものを見つけて──



「────────────ぁ」



 一瞬、時が止まったような感覚。


 体の体温が無くなってしまったような。


 なぜなら、見覚えがあった。


 その輝きは、見覚えしか無かった。


 それは今朝の道中に見た確かな光の粒。


 "シスの魔力"


 柵を飛び越える。

 着地と同時に地面を弾くように蹴り、その光の粒子、シスが残した痕跡に向かって体を跳ね飛ばす。

 そうして、すぐ目の前までやってきてようやく気づいた。

 胸騒ぎを、嫌な予感を、焦燥を、苛立ちを、違和感を放置した結果が、最悪な形になって正体を現したことに。


「うそ────────」


 シスの魔漏れしたであろう魔力は、その場にある分だけではなく一定距離感で滞空しており、そのまま森の奥まで続いていた。

 考えなくても分かってしまう。


 シスは今、森の中に居る可能性が高い。


「────────ッ!!」


 全身に魔力を込める、特に脚。

 紫の雷光が躰を迸り、私を中心に薄く積もっていた雪が解けていく。

 村の中での魔術は禁じられているが、柵を飛び超えたならもう関係ない。

 考え無しに追いかけてよいものか、まずは人を呼ぶべきでは、お父さんとお母さんに知らせなければ。

 タスクが多すぎる。

 一人の体で全てやるには時間が足りない、そんな時間はかけられない。

 ならば選択肢は一つ。

 脚に力を込め地面を蹴る───────


「お嬢ちゃん!!!」


「────────!」


 突如として、聞き馴染みのある嗄れた声に呼ばれて振り向く。

 そこには先程のお店の店主が追いかけてきていた。


「様子がおかしかったから店の前を見張ってて正解だったぜェ......森へ入るのかァ......?」


「ごめんおじさん、説明する時間も余裕もなくて、でも止めないで」


 焦りが込み上げる、一刻も早く向かわなければならないのに。

 すると、高い位置から長細い何かが、私の方へ落っこちてくる。


「わっ....と」


「とめやしねェよ......ただ、丸腰で森に入るような自殺志願者は見過ごせねェからなァ」


「おじさん......」


 それは鞘の形からも分かるように、およそ前腕くらいの長さをした短剣だった。


「お嬢ちゃんの両親にも俺が伝えといていいなァ?村の人間もすぐ向かわせる、亜人の言うことに聞く耳を持つかは分からねェが」


「あ......ありがとう!凄く、助かる!!」


 ありがたい、本当にありがたい。

 胸に熱いものが込み上げてくるが、まだそのときでは無いと切り替える。

 私は受け取った短剣を腰に下げ、森の方へ向き直す。


「じゃあ、他のことは任せます」


「あぁ、命大事になァ」


「うん!」


 再度強く踏み込み、今度こそ森の方へ向かって駆ける。

 人の善意に触れ、少し冷静になれたからか先程より視野が広く感じる。

 冷たい雪が体に触れ、籠った熱をスっと奪って行く。

 焦りや後悔はあれど、その感情は足を引っ張る重荷にしかならないので、心の奥に閉じ込める。

 そうして、なるべく最高速度を維持しながらシスの魔力の残穢を追従していく。


 まだ、まだ続く。

 木の間隔が広い森で良かったが、間を縫うように走って来たせいで既に方向感覚は分からなくなっていた。

 だが、目的地にたどり着ければ帰りの事なんてどうでもいい、そこは店主に任せてある。

 忙しなく過ぎる景色の中を黒い風のように駆け抜ける。


「──────────ッ」


 すると、突如としてシスの匂いが強い場所にやってきた。

 地面を数メートル抉りながら無理やり急ブレーキをかける。

 辺りを見回すとそこら中にシスの魔力が漂っており、それは目的地が近いことを示していた。


「シス!!居たら返事をして!!」


 腹の底から声を張る、どこに居ようと聞こえるような声で名前を叫ぶ。

 それはある種の懇願のような、縋るような絶叫だった。

 森に木霊する。

 やまびこのように幾度か響いた後、声が木々に吸い込まれたように訪れる静寂。

 その中で極限まで耳を澄ませる。

 自分の血流の音すら煩く感じるまで研ぎ澄ます。

 雪が地面に落ちる音すら聞き逃さない。



「──────────────」



「──────────────」



「──────────────」



「───────ぉね─ちゃ──」




 ──────────捉えた。




 確かなシスの声、まだ無事だ。

 爆裂するような音と共に、地面の雪と土を舞い上がらせながら声のする方へ疾走する。

 負担は大きいが一歩目から最高速度、3秒と経たないうちにシスの姿を確認することが出来た。


「お姉....ちゃん....!」


「シス!!!!」


 そこには、一本の太い木の下で例の悪ガキが身体を震わせながら身を寄せあっており、それを庇うような形でシスが立ち塞がっていた。

 周りには3匹の猛獣が白い牙を剥き出しにしながら様子を伺っており、今にも飛びかりそうな形相をしている。

 しなやかな体躯に鋭い爪と牙、頭から灰を被ったような色をしたそれは、いわゆる狼だった。

 だが、両手を広げて白い膜のような物を展開し続けているシスのおかげで、猛獣は未だ間合いにすら入り込めていない状態。


「魔力防壁......」


 一体どれほどこの状態を保っていたのだろうか、シスの顔は辛そうに歪み、冬だというのにも関わらずその額からは汗がとめどなく溢れていた。

 立っているのも既に限界なのか膝は震えており、魔力で作った防御膜はチカチカと不安定に点滅している。

 そして、その隙を森の狩人が見逃すはずもなく、一口で人の頭蓋を噛み砕ける程、顎を大きく開いて飛びかかっていた。

 だが、動きだすが早いとあらば私は既に風と成り、その行く末に回り込む。

 素早い狼とあれど地から足を離したが運の尽き、一度開始してしまった運動を今更取り止めることは出来ず、放物線を描きながら向かってくる体躯は物理法則の奴隷と化していた。

 目の前に迫る私の存在に気づいたソイツは足をバタつかせるも、虚しく空を切る。

 剣は使わない、妹に生物の流血は見せたくない、これ以上怖い思いをさせてなるものか。

 ならば、使うは私が持つ他の何か。


 魔力を通す神経のベクトルをカチッと一つ追加する。


 ゆっくりと、暖かく、濃厚で、"意味"を持った魔力を右の手掌に集約させる。




 固有魔術"反発"




「───────ハァァァッ!!!」


 エネルギーが爆ぜる音とともに灰色の体躯が左方向へ吹き飛び、受け身も取れぬまま大木へぶつかった。

 "反発"の意を持った魔力源をオオカミの左頬へ打ち込んだのだ、当分動けまい。

 私たちを囲うように位置していた狼は吹き飛ばされた一匹の方へ集まり、グルグルと牙をむき出しにしてこちらへの警戒心を一層に高めていた。

 威嚇しながらこちらの様子を伺う二匹、今のでびっくりして逃げてくれるとありがたいんだけど......。

 10秒ほど睨み合いが続いたが、突如として狼たちの動きに変化が見られた。

 先程まで身を低くした臨戦態勢だったが、周囲の状況を把握するように姿勢を高くし、耳をピンと立てる。

 すると、尻尾を捲りながら素早くその場を去っていった。

 ヘロヘロでまだ動くのも辛そうな一匹でさえ、身を引きずりながら一刻も早くこの場から去ろうと、木々に身をぶつけながら森の奥へ消えていく。

 野生の勘......のようなものだろうか?

 それはまるで地震が来るのを事前に察知する動物のような、根源的恐怖心から来る行動のように思えた。


 だが、何はともあれ危機は去った。

 私は振り返るとシスの元へ駆け寄る。


「シス!あぁ、良かった......シスゥ!」


 フラりと倒れかけたシスの肩を両手で支え、ゆっくりと地面へ座らせる。

 この華奢な体で、どれだけの時間を耐え続けたのだろうか。

 疲労は見えるがシスに怪我は無い。後ろの悪ガキ三人も一応怪我はなさそうだった。

 目線を向けた際に軽く怯えたような声を出されたが仕方がない。

 シスがこんな目にあった原因は十中八九コイツらだと私の勘が告げている、少し目付きが悪くくなってしまった私を誰が責められようか。

 ともかくシスに怪我がなくて良かった......本当に良かった......。


「シス......ごめんね遅くなって......怖かったよね......」


 へたりとその場に座り込んでいるシスの手を持ち上げ、その甲を優しく撫でる。

 安心から気が抜けたのか、ふわりとシスの魔力が周囲に漂った。


「ううん......大丈夫。来てくれるって思ってたから、私......頑張れた」


 息も絶え絶えで、未だに額から汗は流れ続けており、包み込んでいる手は僅かに震えていた。

 満身創痍を体現した彼女はそれでもゆっくりと顔を上げ、こんな私に笑顔を向けてくれる。


「ありがとね、お姉─ち─ゃ──────」


 だが。


 ヒュッと言う音とともにシスが呼吸を止める。

 作りかけていた笑顔が、その過程で強ばる。

 青い瞳がゆっくりと揺れ動き、視線は私の背後を見たまま張り付いたように動かない。

 後ろの悪ガキ達は既に気を失っていた。



 オカシイ



 雪は不自然なほどピタリとヤんでいる



 風は呼吸をトめており



 森は活動を停止したように静まり還ル



 ミミ鳴りがすルほどの静寂



 ここ一体の空気が凍りつキ



 これではまるデ、時間が止まっテしまったようだ



 体はまだ動かナい



 時間が止まってイルのなら仕方なイ



 デモ、ならナゼ......?



 ゆっくりト、私たちの影を大きな影が一つ、ノミコム






「──────────ァ゛─────」






 背後






 地獄の底で、煮えきった溶岩から泡沫が湧き上がった様な、一音の██。


 その不気味な██に鼓膜を揺さぶられ、時間が止まっていないことに気づく。


 それと同時に、時間が止まっていてくれればどれだけ良かったか、とも思う。


 もはや脳はまともに機能しておらず、本能のみが私の体をゆっくり振り向かせた。


 視界の端から、じわじわと、受け入れ難い非現実(げんじつ)が姿を現す。





 それは大きな岩だ





 墨に落とした針金のような毛を纏い、二足で佇んでいるのは見上げる程の黒岩。


 左腕と思しき部分は何故か欠損しており、その切断面からは爛れ腐った紫黒の体液がボトリと、確かな重量を持って滴り続けている。


 しかし、右腕は大木のように太く、当たり前のように体躯からぶら下がり、その機能を維持していた。


 生きているのか、死んでいるのか分からないほどの闇を蓄えた瞳からは紫苑の膿が溢れている。


 幾多の命を貪ってきたであろう牙は、一本一本が大人の親指ほどあるだろうか。




 ソレはきっと飢えていた。




 手負い、それでいて飢えた獣......否────




 ──────────"魔獣"




 明らかに放魔性物質に侵されきっていたソレは、呼吸の必要があるのかさえ分からないまま、軽く空気を取り込み─




「──────ガ────ァ゛─ア゛─ァ゛ァ゛──ア゛──!!!」




 骨の髄まで響く、具体的な"死"をイメージさせる咆吼。


 心臓が本来のリズムを忘れ、今すぐ逃げ出したいと叫ぶように、肋骨という鉄格子を強く不規則に叩く。


 歪む?

 沈む?

 崩れる?


 分からない


 周囲の事象を都合のいいように書き換えてしまう程の圧力、存在感。


 壊れた正常性バイアスが、目の前の存在から目を背けさせてくれない。


 ジュウジュウと、香ばしい音を立てながら恐怖が網膜を透過し、脳髄にじっくり焼き付いていく。


 あぁ、いっそ意識を飛ばしてしまえたらどれだけ楽だろうか。


 そんなささやかな願いも、聞き入れられる事は無く。


 恐怖に震えていた膝が限界を迎え、ガクンと崩れてしまう。



「あ──────────」



 体が重力に従って沈んでいく。

 突然の動きを眼前で見ていたバケモノは、それを戦闘開始の合図とでも捉えたのだろうか。

 低い風切り音がしたと思ったら、意識より先に体が吹き飛ばされていた。

 天地が逆転した視界の中で振り抜かれた黒い右腕を捉え、あの大木の横薙ぎを受けたことを悟る。

 ろくに受け身も取れず、そのまま地面へドシャリと落ちる様は、まるでボロ雑巾のようだ。

 木へ衝突しなかっただけでも不幸中の幸いだろうか。


「────ヅ──ァ゛──ハァッ──!!!」


 防御はしたのか、どれくらい飛ばされたのか。

 あまりの衝撃に全身が麻痺し、どこが痛いのかもどこを怪我をしたのかさえ分からない。

 ただ確かなことは、今も尚呼吸が再開できない事だけである。


「ゥ.......ウゥ........ッ......」


 あのバケモノは飢えている。

 より新鮮で、より旨みのある血肉を......そして何より"魔力"を求めている。

 私という邪魔な石ころを排除したのは、その後ろで未だに動けないでいる獲物を屠るが為。

 煌びやかな魔力を漂わせている小さな白兎は、飢えたバケモノの目にはさぞかし美味しそうに見えたのだろう。

 不躾にもヨダレを垂らしながら、薄汚い牙を隠そうともせずニタリと笑みを浮かべていた。



「ぁ........ぉ......ぉね.........た...すけ........」



 聞こえる。



 既に満身創痍で立ち上がることもできない、恐怖でまともに声も出ていないシスの声が。

 絶望的状況、一寸先の死を目前にして、最後に振り絞ってあげた声が私を呼ぶ声だったのだと知る。

 たった一撃でボロボロになった不甲斐ない私に、最後の希望を見出してくれている。


 助けを求められている。


 ならば、ならば立たなければ。


 私は彼女の、お姉ちゃんなんだから


 必ず、必ず守らなければ。


 彼女は私の、たった一人の妹なんだから!



 ドクンと、心に宿した青い炎が脈動する。



「────ぅぅうぉらぁあぁああぁあああ!!!」


 めいっぱい。

 肺に残っていた空気を無理やり押し出し、一人ぽっちの鯨波を上げる。

 意図せずとも体は立ち上がってくれた。

 息を吐ききったことで自然と呼吸が再開できるようになる。

 体は......まだ壊れていない。

 あれほどの衝撃、骨まで砕けたと思ったが恐怖からくる脱力が消力(シャオリー)の効果でも生み出したのだろうか。

 四肢も体躯も残っている。

 あのバケモノの注意を引くにはさっきの叫びで十分だったようだ。


「まってよ......私をさしおいて......随分つれないじゃんね......」


「ァ゛......?」


 黒い巨体が完全にこちらを向き直す。

 ターゲットが切り替わった証拠だ。


「私だって.......それなりに魔力(イイモノ)持ってるんだよ?」


 自分を騙すように軽口を叩きながら、羽織っていたコートを優しく木の影へ。

 巨大な黒影は、未だにこちらを警戒しながら様子を伺っている。

 さすがに、命のやり取りをしてきた場数が違うのだろう、こんな私に対しても迂闊に飛び込んでは来ない。

 だが、今はそれがありがたい。


「お姉.....ちゃん.....?」


 私の様子がいつもと違うことに気づいたシスは、少し困惑しているようだった。

 殺気から解放され、少しは気が楽になっただろうか。

 出来れば逃げて欲しいところだけど、まだ動けそうにないよね。


 私は心を落ち着かせるように、一度大きく息を吐く。


「フゥゥ............」


 さぁ......ここからが正念場だ、気張れよ友星 星葉(セイバー・フレンスタ)

 正直、私にもどうなるか分からない。

 だけど選択肢は多くない。

 やるしかない、ならやるだけだ。

 お父さんの言葉を思い出す。

『泥臭くたっていい、惨めだっていい。僅かでも可能性があるのなら、可能な限り、精一杯を』


「今が、その時だよね......お父さん」


 誰に聞こえるでもなく、自分に言い聞かせるように呟くと、近場に落っこちてあったなるべく太くて真っ直ぐな木の棒を拾い上げる。

 うん、これなら長さも丁度いいかな。

 離れしてしまわないようにギュッと右手に握り込むと、もう懐かしさを感じるあのルーティンを行う。



 静かに目を閉じる



 ひとつ大きく深呼吸



 集中、私と世界の境界が曖昧になりジワァと広がっていく



 包み込む、世界に溶けだした私の意識を今一度ギュウと包み込む



 視覚と聴覚、運動感覚、魔力神経以外の情報を切り捨て、それらに全神経を注ぐ



 ゆっくり目を開く



 VRゴーグルが無くとも、私のプライドは未だにセイバーフォックスの(アカウント)に在る。


 呼び起こせ、元世界ランカーの意地を。


 魔力を通す神経のベクトルをカチカチカチッと追加、私の魔力神経を総動員させる。


 特別大サービス大盤振る舞いのありったけだ。





 固有魔術【反発】×身体強化





「スゥゥ─────────────────









 ──────────出力最大」








 バチンッ








 ァ────────────────








「ア゛ぁ゛──ア゛─ァ゛─あ゛─ア゛──あ゛────!!!」


 こういう時、視界が点滅すると言うがようやくその理屈が理解出来た。

 あまりの痛みで気を失ったと思えば、またそれを超える痛みで意識を叩き起される。

 それが繰り返される結果がこれか。

 心も意思も既に折れ、粉微塵となり吹き飛んだ。


 だがやめるなとめるな維持を意地をイジをイジヲイじィジいジヲいジいじぃヲじ意ジをい地ィ持意ジィいイィァアァアァァアア──────


 目的すら曖昧になり始めたが、とにかく止まるなという思いだけが私の体に鞭を打つ。

 何度も、何度も、何度も何度も、ブレーカーが落ちる度に無理やり上げるを繰り返す。

 脳が焼ききれるような感覚と、身体中の神経に毒針を通しているような錯覚。

 だが止めるな負けるな落ちるな崩れるな!

 既に折れた、決意も信念もバッキバキに折れている。


 だから......今やめてしまえばもう一度この地獄に飛び込む勇気は無い.......!


 もう少し......だから......ァ.......!


 血管に高熱のガラス片が流れている。

 バチバチと、身体中を紫電が駆け巡る。

 皮膚下で紫色に透けて光る魔力神経の走行が見えるほど。

 お父さんに口うるさく禁じられていた訳だ。


 だけど、それももうおしまい。


「................................................フゥゥゥゥ」


 吐き出した熱い空気は、白息となって空に解ける。

 未だに痺れるような痛みは残存している。

 だが、気を失う程ではなくなった。

 自棄になりかけていた思考がスッと戻ってくる。

 むしろ先程より冴えているような気さえする。

 体は適応した。

 ならば、あとはそれに見合った武器がいる。


 先程拾っておいた木の棒。

 その木目から、手掌をバイパスにして私の魔力を流し込み、隙間を魔力で補強し強固な棒にする。

 それでは足りないと思い、反対の手を使って棒の周りに反発の魔力を纏わせた。


 あぁ、懐かしいなぁ。

 淡く輝く光を纏った私の光剣。

 それは赤色でも青色でもない、紫。

 もう一本作ることが出来れば良かったのだが、既に目の前のバケモノはそんな隙を与えてくれそうに無い。

 だが、幸いにも私の腰には店主から借りたもう一本の刃があった。

 金属の擦れる音を立てながら、銀の刃を引き抜く。

 逆に、よくもまぁここまで傍観してくれていたものだ、舐められている様で癪に障るが、こちらとしてはありがたい。

 両手にしっかりと武器を握る。


「どうかな、少しは美味しそうになったでしょ......?」


「ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ガァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛!!!」


「ハハハ!お気に召したようで!」


 一度大きな唸り声をあげると、暴力と破壊を体に宿した黒影がゆっくりとこちらへ近づいて来る。

 熱い視線を一身に受けながらも、私は未だ自然体のまま動かない。


「だ......だめッ!お姉ちゃんだけでも......逃げて!」


 シスがヨタヨタと四つ這いになりながら私に向かって叫ぶ。

 そんなシスの優しさに思わず笑みがこぼれ、されど首を横に振った。


「シス、違うよ。こういう時に欲しいのは、もっと頑張ろうって思える言葉なんだ」


「お姉......ちゃん......?」


「シスの望みとあらば、どんな無理難題もこなすよ」


 シスは一瞬理解し難いような表情を浮かべたが、その後決心したように口を強く結んで────


「─────────なら」


 過去の記憶が脳裏に浮かぶ。

 笑顔が眩しい金髪の少女。

 それはまるで、都合のいい白昼夢のようで───


『なら......必ず勝ってきて』


「なら......そんなカイブツやっつけて...私を助けて...ッ!」


「ふ、ふふっ」


 思わずくしゃりとはにかむ。

 それと同時に"また"嘘のように体が軽くなる。

 あぁ、あの時もこんな感じだったっけ。

 土壇場とか、少しハイになってる時とか、似合わないキザなセリフなんか言っちゃってさ。

 冷静になってから恥ずかしくなるのはいつもの事である。


 彼女の影に、白き狐を幻視する。

 最速にして最強、しなやかな体躯を宿し、重力を嘲笑うように空を舞い踊る白狐。

 かつての姿が、蘇り重なる。


「ゥ゛カ゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ァ!」


 既に目の前にまで迫っていたソイツは、力の差を見せつけるように立ち上がり咆哮する。

 近くで見ると圧巻だなぁ......勝てる気がしない。


「いやぁごめんね、おまたせ」


 だが、誰もが諦める高難度だからこそ、やり甲斐があるというものだ。


 軽口も程々に、少し身を低くしてどんな初動に対しても対応できる姿勢を作る。


「じゃあ、はじめよっか」


 普段は挑発なんてしない民度の良いゲーマーなんだけど、今はなんだかこう気分がいい。

 自分がどこまでやれるのか試したいだなんて思ってしまっている。


 私は初めてビーツセイバーをプレイした時の高揚感を思い出していた。


 ゆっくりと剣先をバケモノに突きつけ、雪で火傷できるほどの冷たい瞳で対象を射抜く。


 ありったけの侮辱と侮蔑を込めて。



()れるもんなら、()ってみなよ」



 不覚にも、その頬は三日月のように吊り上がっていた。




長々と書かせて頂きましたが、ここに来てようやくまともな戦闘シーンです!


長かった.....長かったよねぇ!?(土下座)


金髪少女....?誰だ.....?

となった方は是非一話へウェルカムカモーン!


まいちゃん「回想でしか出番がない、解せぬ」


尚、戦闘シーン初挑戦ということで描写や表現に違和感を感じる方もいらっしゃるとは思いますが、どうかご容赦を......お情けを.....。


また、イイネかコメントで私の身長が1cm伸びるそうです。

目指せ夢の200cm。





次回 魔獣



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