おじいちゃん、日記をつけ始める
妻に先立たれ、気落ちしていた男性が日常生活を取り戻していくお話。
妻は生前、「最期はあなたに手を握っていてもらいたいわ」と言っていて、私のほうが年上で大抵は男性のほうが先に逝くことが多いのだから、残念ながら、それは叶えてあげられないだろうな、と思っていた。
そういった意味では、妻の希望通りに看取ることができたので良かったとは思う。
だが、葬儀が終わると、気が塞ぎがちになり、何もする気になれなかった。
さぞ、妻もあの世で心配していることだろう。
このままではいけないと心を奮い立たせ、まずは気持ちの整理をするためにも、日記をつけてみることにした。
今まで日記など、つけたこともないので、何をどのように書けばいいのか、さっぱりわからない。
とりあえず思うままに書いてみよう。
誰が見るわけでもあるまいし。
妻との出会いは会社である。
私の3つ下の後輩で、いわゆる社内恋愛だ。
会社は社内恋愛を禁止しているわけではなかったが、周りにひやかされるのは目に見えたので、付き合っていることは隠していた。
秘密の恋はいいスパイスになったように思う。
あの頃は携帯などなかったので、社内で小さく折りたたんだメモでのやりとりでデートの約束や待ち合わせ場所など決めたりしていた。
仕事中に誠に不謹慎ではあるのだが、バレないようにそっと渡すのはスリリングでもあり、それもまた楽しかった。
電話するときもあるにはあったが、週6日勤務の時代で、唯一のお休みである日曜日にデートしていたこともあり、あまり電話での思い出はない。
相手の親が最初に出て、緊張したり、気まずい思いをしたりといったようなことはなかったので良かったと思う。
初めてのデートは映画を観に行ったんだったか?!
初デートの為、緊張していて、何を観たかも忘れてたしまった。
ただ、妻が水色のワンピースを着ていたのは覚えている。
会社での地味な制服姿とは雰囲気も違い、とても可愛かった。
いや、私にとって、君はいくつになっても可愛かったよ。
あぁ、ダメだな。
やはり君がいなくて寂しいよ。
…もう今日はここまでにしよう。
妻存命のときは、ほのぼのとした雰囲気の漂う仲良し夫婦でした。
最愛の妻を看取ったあと、慣れない独り身生活を頑張るおじいちゃんの日常のお話。
まだまだ続きます。
次話投稿は、12/2(土)AM10:00の予定です。