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モータルワールド~現代チート?海兵隊超兵士の黙示録戦線~【修正版】  作者: うがの輝成
第5章 アビス ウォー 絶界の戦い
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第99話 フロム ビヨンド



 

 賢者ミシェルの範囲殲滅魔術、多連焔滅砲(ネーベルヴェルファー)

 この多連装ロケット砲の如き爆炎魔術により、悍ましき大河は周囲の建物ごと盛大に大爆発。無数の異形が爆炎に蹂躙され、塵と化した。

 その地獄の巨釜を思わせる燃え盛る灼熱劫火を、宙に浮遊しながら高笑いと共に睥睨するミシェル。


「「「「「お嬢ぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」


「あー!!よっしゃ、いくぞぉおおおおおお!!」


「「「「「タイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!ダイバー!バイバー!ジャージャー!ファイボー!ワイパー!!」」」」」


「オーホッホッホッホー!! さぁ、皆さん! わたくしを、もっと称えるのですわよ!!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


「……なんだこれ…?」


 ミシェルは、何やら「お嬢」と呼ばれているようで、彼女のこの大きな戦果に冒険者たちは沸き立ち、どこぞのアイドルライブの如く、大いに爆盛り上がりを見せた。  

 そして、この珍妙な雰囲気も含め、イナバの思考が色々とバグる。

 

「ガハハハハハ!! 後方側は【滅殺の麗公女】ミシェルが本領発揮か!……この戦況は好天模様であるが、しかし、ラビットの言葉が気になるな……」


 流石は、幾多の過酷な戦場を潜り抜けてきたこの陣営。僅かに油断ならぬ種も見受けられるが、それらも十分対処できている。

 膨大な敵の数であろうが、この布陣には有象無象。現状では、脅威と思える状況が想像つかない。

 斥候隊(スカウト)チームリーダー、コールサイン「ラビット」。彼の示す脅威が如何なるものなのか、詳細情報が不明である以上、どうにも判断ができない。



「あら? あの劫火の中を、しぶとく生きてる卑しき輩がいるようですわね」


 浮遊魔術(フローティングギア)にて、損壊し燃え盛る市街地を見据える物騒な二つ名「滅殺の麗公女」破壊と美の象徴、賢者ミシェル。その爆心地に、一体だけ動く個体が彼女の緋色の瞳に映し出された。



 その時、目的教会聖堂へと突き進む、先行チーム上空を何かが飛行していた。その何かとは、バサバサと舞い降りて来る白頭鷲。

 それが、差し出されたミゼーアの左腕に留まる。従魔のようだが、当初、従魔師(テイマー)と思われたのはミゼーアであったようだ。


「ご苦労であった、ナヴィ。それで、上空から何か情報は得られたかのう?」


 白頭鷲の従魔ナヴィ。一定空域を飛行し偵察及び情報収集。つまりは、哨戒機のような役割の従魔である。


「ピーユルルゥピールル……ピュウピピーピュウ、ピールルゥピュウピー」


「ふむふむ。そうか、我が子らの消息はまだ不明か……むう? 得体の知れぬ、妙な輩がおると?……それが、前後左右方面に一体ずつか。あい分かった。もう亜空で休んでおれ」


「ピュルピー!」


 哨戒任務報告を終えたナヴィは一鳴きし、漆黒に渦巻く次元の扉へと消え去った。


「其の得体の知れぬ輩、四体。さて、いったい何物であろうかのう……」



 その存在の様相はすぐ様露わになった。この異形の坩堝(るつぼ)の中に在って更なる異質の変容個体。


「……あれは、いったい何なのですの…? 全く理解ができない奇天烈な姿ですわね……」


 ミシェルの瞳に露わになったその存在は、()()()()()()()()()()は異様異質そのもの。

 米軍チームも含め、盾役隊(タンク)前衛攻撃隊(アタッカー)らの視界にもその奇妙な姿が確認された。


‶それ〟は、燃え盛る炎の中を悠然と歩き、未だ群がる異形らを邪魔な障害物扱い。‶何か〟で切り裂きまくり、血飛沫を飛び散らせながら、歩み向かってくる。



「おいおいおいおい!! 何だあれは!? ──どこの()()()()()()()()()だよ!?」

「「「「「クレイジー……」」」」」

 

 その姿に既視感のあるイナバは、驚愕しながらも精一杯のツッコミを入れる。他の米軍兵も同反応だ。


『フウゥゥゥ……フウゥゥゥ……フウゥゥゥ……』


 怖気を伴う荒い呼吸音。サイズは2.5m超え、手に持つは両手持ち型、歪な斧。戦斧ではなく樹木伐採用の(まさかり)タイプ。

 そして、異質なのはその姿そのもの。この場では、次元レベルで場違いの見て()れ。パステルピンクの体色に、デニムのオーバーオール。それは──。


 ──うさぎキャラクターの着ぐるみ。


 首元には大きな黒リボン。何かのマスコットキャラのような可愛げな意匠。だが、コミカルなのはデザインのみで、その戦慄の様相と放つ圧力(プレッシャー)はトラウマ級。

 全身返り血で黒染みだらけ。しかも、生物的で血管のようなものが頭部に浮き出ており、アニメチックな大きな眼は血走り、にこやかな口元は血塗れで獰猛な牙が生えている。


 「バニーマンかよ……」


 ホラー映画化もされている「バニーマン」。元は都市伝説であり、1900年代からアメリカで目撃されるようになった、うさぎの着ぐるみを纏った怪人である。

 ハロウィンの時期になると手に斧を持ち、子供を襲いにくるという。


「なっ、何なんだ! このふざけた奴は!?」


 近接距離にまで歩み来たバニーマンに対し「戦斧でもない、木こりの用具で何ができる!」と、大盾を構える4名の盾役(タンク)隊。


 

 ──ブン!!


 それは、何気ない一振り。樹木でも切るかのような、(まさかり)の大振り横一文字。


 対するは、高ランク冒険者ならではの高級高性能、重装甲冑に大盾。更に幾重もの強化付与(バフ)。完全鉄壁の防御陣形。


「まずい!! それは、受けてはにゃめ!! 躱すにゃらら!!」


 ズバァアアアアアアアアアアアア!!ドオオオオオオオオオオオオオン!!


「「「「「!!!!!!!!!!!」」」」」」


 バニーマンは「そんなものは鉄壁でも何でも無い。ハリボテ、紙屑同然」と、言わんばかりに盾役(タンク)3名を、大盾ごと真横に両断。

 一早く気付いたネイリーの叫びも虚しく、その上半身がぐるぐると回り、ドスりガシャンと石畳に重みのある鈍い音と金属音を響かせた。

 

 辛うじて、生き残ったもう一名。彼の持つ上位希少級(ハイレア)タワーシールドにて、その超兇刃を防げたものの、大きく吹き飛ばされた。


「なんやねん!こいつは!?」


「クソー!! この化け物めぇえ!! よくもイザークをぉおお!!」


 ガイガーが驚愕し呻く脇を抜け、一人のアタッカーの女性冒険者が、号泣し叫びながらバニーマンに剣を振るう。どうやら、犠牲になったタンクの一人と恋仲であったようだ……。


 バニーマンに剣が届く前に、彼女の頭部が左手で無造作に鷲掴みされる。


「てめー!! そいつを放せ!!」と、彼女を助けようと他のアタッカーたちが必死と向かう。


「にゃめにゃら!! おまいら、行くなにゃあ!! ──そいつは“S級以上〟にゃら!!」


 

 グシャ! ブン!!──ドシャアアアアアアアアアアアン!!!

 

 その女性アタッカーの頭部は瞬時に握り潰される。救いに向かった他のアタッカーらは、その血塗れの拳で振られたバックブローに、纏めて薙ぎ払われ、胸元から弾けるように破砕。肉片と血飛沫が大きく飛び散る

 僅かの間に、歴戦の高ランク冒険者6名がこのバニーマンに亡き者にされた。



「S級以上やて!? あの鉄壁だった盾役(タンク)らの惨状。ほんまモンのようやな……こりゃアカン奴やで」


「皆、一旦距離を置くにゃら!! 近づいたらダメにゃらら!!」


 脳筋ガイガーでも流石に理解したようで、触れれば、瞬殺。このニトログリセリンのような爆発物的存在に、ネイリーの指示により距離を取る冒険者たち。


{{{FUNBARARARARARA!!}}}


 ブン!!ドシャ!!ブン!!グチャ!!ブン!!ゴチャ!!


 それは、異形ら相手にも同様。敵と判断したバニーマンに襲い掛かる大小キモ異形らが、触れた瞬間、爆発するかのように(まさかり)で屠られている。

 だが、それは一部であって、異形らの群は冒険者らにも容赦なく刃を向けて来る。     

 それらを、他冒険者たちとイナバチームが対処しながら、バニーマンの動向にも気を向けねばならない。


 冒険者&米軍兵レイドパーティVS異形の大群VSバニーマンの三つ巴戦。

 戦場は混沌と激化していく──。


「こげんば、まずかたい!! お嬢!!」


「ええ! このうさぎの化け物には、生半可な術では効果は無さそうですわね。ドーレス! 少々時間を稼いでくださいまし!!」


 ドーレスの危機感募る一声に、ミシェルは即座に反応。これまでの高飛車キャラが裏返り、将棋で言う飛車駒から成る龍王(ガチモード)


「おう! 分かったったい!! ワシもその生半可な術式しか使えんたい! 早よ、しちゃりぃ!!」


「分かってますわよ!──術式メインルーチン起動展開。インタプリタ プログラム実行」


 急かすドーレスに多少苛立ちながらも、ミシェルは大杖を身体の前で両手で持ち、瞳を閉じ全集中。術式詠唱(ギアコール)を始める。

 

 ミシェルの前方上空に、赤紫系色の幾重もの魔法陣が複雑に動く中、ドーレスは、バニーマンの足止めに土精霊魔術を行使する。


「──銅牆鉄壁(アイザンマウアー)!!」


 術名と共に石畳がゴゴゴと振動。直後にバニーマンを囲う分厚い鋼鉄の壁が聳え建ち、その進撃を止める。


「こげんと、少しは足止めができるかろうもん。ばってん、余り持ちそうに無かとね……」


 ドオン!!ドオン!!ドオン!!と、その強固な壁を盛大にぶち破ろうとする大音響と地響き。その音に、冒険者たちに言い様の無い戦慄と緊張感が駆け巡る。


「プロトコルコード デーモン グリモワール。顕現ソースコード ネビロス。カテゴリーデストロイ。 レベル4──」


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 足止めも僅か、バニーマンはついにその鋼鉄製の強壁をぶち破り、何事も無かったかのように悠然と歩き始めた。



「──荊棘の(アイゼルネ)焦鋼乙女(.ユングフラウ)!!」


 同時にミシェルの詠唱(コール)も完成。詰みの一手を打つべく、小範囲の対強敵用、暗黒魔術(デーモンサバス)を発動。


 バニーマンは、そんな()()()()など意にも介せず、肉片血塗れの左手をペロペロと、二つの意味で冒険者らを舐めくさっている。


 その周囲の石畳がドット絵(ピクセルアート)のように分解、再構築。現れたのは3mほど。禍々しく黒々と、無数の鋲による棘だらけの鋼鉄製の乙女像が顕現された。

 その正中線上に、朱色光の縦線が入り重く開く。内部壁面は赤々と焼けた溶鉱炉状態。更に無数の鋼針が内部に向け、鋭く突き尖っていた。


 それは、中世欧州で刑罰、拷問に用いられた鉄の乙女(アイアンメイデン)の灼熱地獄版仕様。

 

 ガシャン!!


 それが、バニーマンを挟み包み閉じ込めた。この時、(まさかり)を手放し、頭部だけ外にはみ出し、首だけ分断されコロりコロりと石畳に転がった。

 灼熱針乙女の内部では、首から下の胴体部が焼けた鋼針でめった刺し。体内と表面から燃やし焼かれドロドロに溶けだし、やがて蒸発、塵と化した。



「やったか!?」


 あーそれは、言ってはいけない。バトル物の物語上でこの言葉が発せられて、やれた試しが皆無。


 それを、証明するかの如く、転がるバニーマンの頭部首元から、うにょうにょモリモリと血肉、臓物、筋肉筋が湧き出し、再び元のバニーマンの身体が再生。

 それから、何事も無かったかのように(まさかり)を拾い上げる。


「「「「「「……………」」」」」」


 その悍ましき光景を驚愕の表情で押し黙り、見守る事しかできないレイドパーティ。


 ダダダ!!ダダダ!!ダダダ!!ダダダ!!ダダダ!!ダダダ!!ダダダ!!

 シュイン!!シュイン!!シュイン!!シュイン!!シュイン!!

 ザシュ!!ドン!!ドシュ!!ザシュ!!ドン!!ドシュ!!ザシュ!!


「グレネード!!」


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 この間も、当然異形らは呆然とする間を与えてくれるはずも無く、路地の間、

建物壁、屋根から続々と攻め入って来る。

 それらを銃撃、魔力矢、剣、戦斧、戦槌、槍、魔術に「洞窟内では使えなかったがここでなら」と、M67破片手榴弾(アップル)も使い、必死と戦う冒険者たちと米軍チーム。


「リロード!! だー! クソ!! イナバ中尉!! いつまで続くんだこれ!? 大量にあった弾薬も、もう長くはもたないぞ!!」

「俺に聞くな! ジョブスCWO(上級准尉)5! 分かるわけが無いだろ!! お前たち、弾薬補給用の兵站チームが共にいたのは幸いだったが、さすがに限りが見えてきたか……」


 イナバに苦言する海兵隊インディアチーム、()()の指揮官‶ジョブス〟に、そう陰りを落とす心許ない呻きを漏らす。


 海兵隊のインディアチームは、アフガン作戦での臨時で編成された弾薬補給部隊である。加えて、犠牲になった指揮官、隊員たちの辛うじて残った分も掻き集めて、何とか継戦を維持している状態。

 認識票(ドッグタグ)は、魔物に仲間らと共に喰われ回収できなかったが、申し訳無さと已む無くの状況に、複雑の思いであったのは言うまでもなかろう。

 

 ブシャアアアア!!ズシャアアアアア!!ブアアアアアアアア!!


{{{{GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!}}}}


「「「うわあああああああああああああああ!!」」」


 事の異変は、更に別方向から襲い掛かり、東側の路地奥から盛大に何かを切り裂く音に、異形らの断末魔の叫び。続く冒険者たちの叫声が響き渡った。


 ドシャドシャドシャドシャドシャドシャ!!!


「ぬあっ!? 今度は何やねん!? 何か飛んできよっ──」


 ガイガーの言葉は言い切る前に、それを理解し続くに至らなかった。──それは、異形らも含めた仲間たちのこと切れた頭部や、上半身の肉塊であったからだ。


「あれは、何なのですの……」


「あげなもんは、知らんばい……もう、ちゃっちゃくちゃら(めちゃくちゃ)たい」

「あの、うさぎの化け物とは別に、これもヤバイにゃらら……他の異形らとは仲間と言う訳ではないにゃらね」


「地獄から救われたと思ったら、まだ渦中か……こいつも()()()()()()()()()のようだな」


 異世界出身の冒険者たちにとっては、未知の異形であるが、地球側チームではどこぞで見たような輩の詰め合わせ。


 姿を現した‶それ〟は、身の丈はバニーマンと同サイズ。脂肪を蓄えた筋骨隆々、力士体形。茶色のワークパンツにトレッキングシューズ。

 上半身は傷痕だらけの裸の上に、血塗れ革製エプロン。革製作業グローブの手に持つは、でかい(なた)のような肉切り大包丁。


 ボサボサの乱髪に顔全体を覆うマスクを被っている。だが、そのマスクは、人の顔の皮を剥いで作られた悍ましいもの。


「今度は極太マッチョな肉屋のスラッシャーホラー系に、レザーフェイスの合わせタイプかよ……」


 これまで攻め込んできた異形らを、邪魔な障害物を掻き分けるかのように切り刻み進んできた事から、敵の敵であることは理解したが、敵の敵もまた敵であった。


「わたくしの完全滅殺魔術を受け、首だけの状態から再生……そして、これも通常のアンデッドとは異なる、枠外彼方(フロム ビヨンド)の存在ですわね──おそらく」

「おそらく? このえげつない化け物らはいったい何なんにゃら……?」



「──真の不死者(イモータル)。ランクは規格外(EX)級。勇者と同格ですわ」



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