第98話 のっぺち たかぁ のとろねや
冒険者’S withイナバチーム。異世界&地球部隊混成レイドパーティは、悍ましき街の中を撤退に向けた市街地戦を繰り広げている。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
{{{{{UAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!}}}}}
一帯は、響き渡る怒号、敵の断末魔の叫び、剣戟、銃撃、魔術による爆破の轟音にて、苛烈な異次元の戦場と化していた。
この道幅約10m、石畳の大通りの先、目標教会建物の敷地までの距離、残り約50m。
その道中に立ち塞がる無数の変異アンデッドたち。建物間の路地や後方からも攻め入られ、包囲されている状態。
人型とは言え、3mを越える巨躯のものが大量。中には5m以上の巨人種が幾種も見られる。
絶望的とも言えるこの悪夢の濁流。しかし、これに相対するは、そんな修羅場を幾度も潜り抜けて来た精鋭中の精鋭。猛者中の猛者のネームド冒険者たち。
「ドルァアッハッハッハッハ!! まっこと、ようけ来ちゅうのう! ざまな悪りことしだらけやきに、こたかし甲斐があるぜよ!!」
「言葉の意味は分からんが、同感の事だろう! SS級『狂嵐竜』リョウガ サカムート!共に暴れようぞ!! ガハハハハハハ!!」
レオバルトとリョウガ。共に2mを超える巨漢であるもの敵は更に大型。プロレスラーと赤子の様な体格差。だが、そんな相手は日常茶飯事であり恐れるに非ず。
「お二人とも、撤退に向けた戦場で豪快に高笑いしながら、仁王立ちで口上を垂れてる場合じゃないでしょう? とっとと動いて下さい! お先に失礼します!!」
「全く、豪胆もそこまでいくと唯の呑気者よね。私も先に失礼! ミゼーア様!ちゃちゃっと往きましょう!」
「ふむ。残りの距離は僅かであるもの、この腐れ亡者どもは邪魔よのう。群の規模が刻々と増大しておるぞ」
脳筋二人が、この立ち塞がる堅牢な壁の壮観模様に、高揚感を抱き戦意を高めている中、リュミエルとメルヴィに呑気扱いされ、ミゼーアは意にも介せずそれをスルー。
その分厚く強固な壁を打ち砕く破城槌が如く、リュミエルが先陣を切る。左腰の鞘に収められた濶剣の柄を右手で握る。
「──閃煌百蓮華 」
その言と同時に、キン…。と、微かな小気味いい金属音。
刹那に、リュミエルの左腰が光輝燦然と輝き、鮮やかな光彩が煌びやかに無数に閃いた。
ドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュ
ドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュ!!
人間の視覚では、剣を抜いたことすら捉えられない抜刀連突。光速の如き剣閃。
この剣技には、研ぎ澄まされ凝縮された魔力が込められており、魔力波に加え速度衝撃波が重ねらている。
立ちはだかる巨体異形らは、叫ぶ間もなく次々と爆散。血に彩られた蓮華の花が咲き乱れていく。
【千輝】リュミエル。この二つ名は、この無数の輝きから繰り出される、神速閃の剣技から称されたものである。
「この濶剣──【アルメルス】。今回新調し、ロールアウトしたてだったのですが、ようやく手に馴染んできましたね」
「ほう、その剣の輝き。──高純度のミスリル、ハイミスリルの最上級にて極希少。魔力を流す事によって、星の輝きを放つとされる【星白銀鉱】製のようであるな。さては、城の宝物庫からでもくすねてきた物かよのう?」
「違いますよ、ミゼーアさん! 人聞きの悪い事をー! ……はぁ全く、この剣は、こつこつと素材を二年も掛けて集め、最近やっと出来上がったばかりの苦労の賜物ですよ」
そんなやり取りを尻目に、続く【颶風の緑鬼】メルヴィ。秀麗な顔立ちが変貌し、鬼の如し凶暴な笑みを浮かべ、細剣の柄を握る。
そのメルヴィに対して、これまた鬼の如し。4m級異形の3体が、大型の星球式鎚矛、戦槌、金砕棒を大きく振り上げる。
「ソースコード ヴィルーダカ。カテゴリー アーマメント。レベル4──【霊将装 俱摩羅】!!」
精霊術高速詠唱にて、周囲の風がメルヴィに集まる。その風は青緑光に発光し身体を包み込み、天衣甲冑姿に具現化した。
その装いは、背の木弓はそのまま、仏教神将形のようであり、天衣の腰の辺りからは、幾重もの鮮やかな色彩、孔雀の飾り尾羽を象ったものを靡かせている。
【俱摩羅】。この御名のサンスクリッド語では「スカンダ」。仏教、増長天八将の一柱。漢字名では、こちらが有名であろう──「韋駄天」。
突如変容したメルヴィにも一切怯まず、巨体異形3体が各巨武器を振り下ろそうする。だが、その背後、周囲の異形らも含めて、時が止まったかのようにフリーズ状態。
その異形らの間を何事も無いかの如く、メルヴィは悠々と通り過ぎる。右手を見れば、いつの間に抜かれたのか細剣を握っていた。
細剣の剣先には、血液らしきドス赤黒い液体が垂れ滴る。更に、腰で靡く飾り羽も同様の滴りが見え、歩く道筋にその雫跡が幾つも垂れ続いていた。
ヴュア!!!
と、細剣を鋭く振り払う。同時に飾り羽が孔雀の如く、扇状に勢いよく典麗壮美に開かれた。
その絢爛な血払いにより舞い散る赤黒い霧雨の中、メルヴィの背後には、その優美さとは相反した無縁とも思える惨劇の絵図。
異形体らは武器ごと粉々に粉砕。微塵切りにされた肉片と大量の血液が周囲の石畳に広がった。
孔雀の尾羽に似たその薄く鮮やかな色彩の鱗状のものは、一枚一枚が鋭利な刃であり、伸縮自在。縮まれば直剣、伸びれば多節の連結剣、鞭剣のようなエグイ造り。
それが12本。細剣と合わせ十三刀流。
「壮美な装いながらも、えげつない御業よのう。其れは、エルフの上位戦士の中でも選ばれし者だけが、会得を許された秘伝の精霊武装術。──【霊闘衣】。其れを行使に至ったとは驚嘆。天晴れな成長を遂げたな、メルヴィ!」
「ぐふぅ! ミゼーア様のその御言葉! 何たるあり難き幸せ! この術を会得し、使いこなせるまでの辛労辛苦、実に報われまするるぅ!!」
ミゼーアの言葉により、戦意爆上がりのメルヴィ。羅刹の如し笑みで見据えるは、大小様々な異形荒れ狂う大海原。
風の精霊の恩恵を受け漕ぎ出す、順風満帆の船出旅ならぬ、狂風荒れる颶風満帆の出陣、向かうは大海戦場。【霊闘衣アイギス】別発音では【イージス】。
敵艦船は無数。これに対する空母打撃群。その先陣を切った高性能、光速ミサイル巡洋艦【千輝】リュミエル。それに続く疾風迅雷、ミサイル駆逐艦【颶風の緑鬼】メルヴィ。
「さぁ、吹き荒れなさい風霊剣【ウェンティ】。この狂乱の海を穿て!」
渦巻く旋風を帯びた細剣。それと、波打ち揺らめく十二兇刃を纏い、機動展開。全方位防衛迎撃態勢。
「メルヴィさん、それ怖いですね! 僕を巻き込まないでくださいね!」
「グフフゥ。それはこの子たち【孔雀鱗剣】に言ってちょうだい! あなたもキラキラと眩しすぎるんじゃないの! 王子殿下殿!」
大波小波、濁流荒れるかのように、前方の巨体ら含め、建物壁、屋根などから跳び掛かる小型異形らの暴威。
リュミエルが光彩輝く度に。メルヴィが揺らめき、その姿が一瞬虚ろになる度に、いずれの狂波も血肉弾け飛び、穿たれ、千切り微塵に切り裂かれ、赤黒い蓮華の花が咲き乱れていく。
互いに打ち消そうと、決して混ざるごとなき大嵐同士。悍ましき凶風高波と、無数の光が散りばめられた絢爛、狂乱暴風雨。
リュミエルとメルヴィ。突き進む光彩煌く突風は、モーゼの如く異形らの海を割っていく。
聖書に記されていたモーゼの海割りは、後の研究で当時の地域、地形からの検証により一定時間、ある方向からの風速28m以上の強風で、実際に起こり得る現象と明らかになっている。
現在二人は、少々様相が異なるが、正に暴風にてその現象を体現していたのだ。
「ふむ。こちらに来る波は、すこぶる閑静。これでは働き甲斐が烏有よのう」
「ミゼーア様。彼らが討ち漏らした木っ端らは、我らが処理しますので、そのまま物見に興じられよ! では、阿狼!」
「おう! 吽狼! 月影、灯影! お前たちはミゼーア様の護衛を!」
『『ガルッ!! 承知!!』』
ミゼーアの親衛隊、大狼型狼顔の獣人。大矛を携えた「阿狼」と大曲刀の「吽狼」は、リュミエルとメルヴィの両脇から抜けてきた異形らに剛腕剣技にて対処。
黒毛の大狼「月影」「灯影」は、鈍色の鋭く伸びた【狼爪】と【狼牙】にて、両脇上空からミゼーアを狙う露払いに勤しむ。
「おうの、いやっちやー。こうべちゅう間に、ざまに乗り遅れたぜよ……」
「むう…? そうだな……? ここまでの敵の数は久しぶりだからな。ついつい気が高ぶり過ぎたな……」
「レオバルトよ。まぁ、おまんは、前切りがやきに、のっぺちたかぁ、敵の数がのとろねや、こっぽり戦況に注視しとーせ。ワシは、リュミエルとメルヴィの喰い残しをしのべちゅうぜよ」
「……ああ、まぁよく分からんが、分かった……」
リョウガの方言語に苦笑を零し、解読に難儀しながらも、この空母打撃群の総指揮旗艦であるレオバルトは、後方側の各戦闘機のドッグファイトに目を向ける。
魔術師隊の爆撃魔術により、大通り後方の周囲建物は幾つも損壊炎上し、赤々と照らすライトアップに黒々とした黒煙が、色濃く立ち昇っていた。
何処から沸いたのか、余りにも多い敵の勢力。爆撃延焼による足止めは多少効果は有るが、疎らながらも炎を纏いながら、異形の濁流は流れ込んでくる。
「クソ!! こいつらパワーが上がってきてないか!? 圧されてるぞ!!」
「こっちは目一杯、強化を乗せてやがんのに、敵の中にも付与術師がいるのか!? アンデッドじゃねーのかよ!?」
{BURUAAAAAAAA!!!}
ブン!!ドオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「「「うわああああああああああああああああああ!!」」」
大盾持ちの盾役らが敵攻勢の増強に圧され始め、苦言を漏らす中、巨体種の大戦槌の轟音唸る高速大振りの一撃。手持ち小中盾の盾役ら数人が大きく吹き飛ばされた。
その者らは、腕があらぬ方向に曲がり、肋骨を含めた複数箇所の骨折、内臓損傷にて吐血等、大ダメージを負ってしまった。この戦況下では致命傷に近しいと思えたが──。
「範囲上位治癒回復!!」
「助かった!! あんがとよ!!」
透かさず、控えていた高ランク回復役によって治癒され、礼を添えて即座に戦場復帰する小中盾持ち、攻撃兼盾役たち。
「ド阿呆どもが!! 単純にレベルの高いやつらが、後から来よっただけやろ! 強化付与が無かったら、おどれら即死やったやんけ!! もう少し頭を使ってよく見ろや! ボケハゲ!!」
盾隊の開いた穴を埋めるべく、フォローに入ったガイガーが一喝しながら、その大戦槌持ちの巨体種を下から掬い上げるように左籠手大爪で切り裂く。そこから上空で切り返し、への字斬り。言うなれば「逆燕返し」で屠る。
「ここを決戦の場として慢心や驕りは捨てるにゃら! 脳筋腐れバカのガイガーにあんなこと言われたら、おまいらお終いにゃらよ!」
「やかましい! 聞こえとるで! シバき倒すど!このハゲ猫!!」
「おそらく、A級の敵が混ざってるにゃらら!! 硬いし速いし、膂力がパないにゃら!! 前線は後退しつつ大盾隊は全力防御! 小中盾隊は、敵攻撃を受け流し! そこから各関節部位を狙い攻撃! その鈍化した敵らを攻撃隊が仕留めるにゃらら!! 」
「「「「おう!!!!」」」」
ガイガーのツッコミを尻目に、幼な可愛げな見た目とは違い、情報分析にも優れ、冷静適格に指揮するネイリー。
武技も鮮やかで、一部抜けて来た敏捷型の異形らを、二刀湾曲刀で残像を伴う、高速回転袈裟斬り&一文字斬りで対処していく。
A級であれば、ガイガーとネイリーと同等。通常なら苦戦するところであるが、 大盛り強化と魔術支援によって何とか対応している状況。
「「「徹甲焦熱連弾!!」」」
魔術師隊の術式詠唱により、建物屋根程の高さに幾つもの朱色の魔法陣が展開。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
そこから、敵の群後方、夥しい数の蠢く異形の大河に向け、赤黄色に燃え滾る30mm口径溶岩、焼夷炸裂弾を連射&斉射。更に──。
「さぁ、卑しき者たちよ! 全て灰燼に帰し、燃え尽きなさい。──多連焔滅砲」
ボシュボシュボシュボシュボシュボシュボシュボシュボシュボシュ!!
宙に浮遊し、大杖を掲げ上げたミシェルによる範囲殲滅魔術。一際大きい多重魔法陣から、多連装大溶岩弾が続々と発射。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
地を揺るがし、鼓膜をつんざく連続した爆轟音。群の奥で幾つもの赫灼とした爆発の光が混ざり合い、激しい爆炎が迸る。その衝撃と爆風の余波が、ミシェルの縦巻きロールを優雅に靡かせている。
「ウフフ、オーホッホッホー!! その醜い姿も、これでずいぶんと美しくなりましたわよ!」
「ブォホホホ!! かー!全くミシェルは、なんば派手やけんね。眩しかばい! 」
「マジか……。迫撃砲に、ガトリング砲。‶アヴェンジャー〟ってGAU-8か…? そんで‶ネーベルヴェルファー〟って、ナチスの多連装ロケット砲かよ……。名称がカブり過ぎだろ」
何やら大喜びのドワーフ、ドーレス。魔術師やミシェルが行使する魔術の効果と名称。地球の兵器との嵌りすぎる共通性に、思考が混乱イナバ。