第92話 起源は意外にもモンゴル!
煉獄に置ける地獄下位領域。地下洞窟に大量に生息する地獄昆蟲。
更に悪魔たちが塒にし、その悪魔らの群を率いる三体の真魔。兇夢の如き地下水路ステージ。
エンジョイ戦闘狂たるトールらパーティは、それらを全て駆除、駆逐。
デビルメイな位に、スタイリッシュに爽快アクション。真・煉獄無双伝を満喫。
人外たちにより、壮絶な地獄絵図と化したこの地下水路。その戦場跡と言えば、各所爆発にて激しく損壊しているものの、悍ましい悪魔たちが全て消滅したのもあって、寧ろ一般的な戦火跡の絵面状況。
地下を塒に徘徊する異形悪魔らの百鬼夜行絵図と、激しいながらも唯の古い建造物の損壊跡。この絵面を比較して、どちらがまともかと聞かれれば、盤上一致のレスポンスが返ってくることだろう。
戦闘前の状況の方が遥かにエグいとは、何とも奇妙な話と言えよう。
近隣周辺にわらわらと屯していた粗方の悪魔はここに集結。それらを一掃した事により、必然的に一帯は一時的なセーフゾーンとなった。
一定間隔で壁に設置されていた灯りの篝火松明は、戦闘範囲のものは全て消失。しかし、ダミアン爆破時の焼夷燃焼の名残が未だ燻ぶり、暗闇には至らず。
至る所に爆破により破砕され崩れた天井、壁の石レンガの瓦礫が山積みになっているものの、通れない程ではない為、トールら一行は、それらを縫うようにわいわい語りながら歩き進む。
「……残りの5.56mmのマガジンは、この1本のみで30発を切ったか。なぁリディ、お前のその亜空間収納に、余分なマガジンはねーのか?」
「ん? ええ、入ってないわよ。作戦開始時にさすがにこんな状況は想定外だったしね。無いなら無いで、後は魔術を使うだけの話」
「お前の場合、そっちがメインウエポンじゃねーか。こっちは後、コルトにナイフ。んで、格闘しかネタがねーし。CQCの方はバケモン相手じゃ、燃料バカ食いで、スタミナ配分が厳しいんだよな。ここは、ファンタジーらしく剣でも欲しいところだがな」
「まぁ、こっちはまだ90発以上あるから1本上げるわ。銃は魔力の節約で使っているだけだし。……それと、中級種以上になると魔術を使ってくるものも出て来るし、銃の弾数なんて、気にしてても意味が無くなるわよ」
「 あー、やっぱそうなるよな……まぁ、ありがたく頂いておくよ。とりあえず、落ち着いてメシが食える場所だ。ここは無防備すぎるからな」
『おとたま、おなかすいたの~!』
『おとたま、メシ―! 早く食べようよー!』
「あー、少しだけ我慢しろ。コーラも用意してやるから。んなわけでリディ、ランチドリンクはコーラでな」
「了解。私も今、飲みたくなっていたところよ」
『コーラ! あれシュワシュワしてて、すごくおいちーの!』
『やった~~~! あれ大好きー!』
などと、やり取りをしながら向かった先は水路の上流側。トアが戦っていた方角。
ある程度進み続けると、瓦礫類は無くなり通常の水路となったが、トアの魔術技による氷結した寒々とした空間が続く。
そこから左側の連絡通路に上がり、もうええやろと、トアはトンっと床を前脚で踏み叩くと、周囲を覆っていた氷結が一斉に粉々に弾け、氷結晶が霧散する。
そして、堰き止められていた水が勢いよく流れ、再び水路の役割を取り戻した。
先を見れば水路側には、上部アーチ型の鉄格子が嵌められ、その先はトンネル状の水路が続いていた。その鉄格子の中央部は拉げ破れており、そこから悪魔たちが流れ込んできたのだと窺える。
連絡通路は、上への十数段程度の階段となっており、鉄格子を境目にその水路トンネルの真上で、右通路階段からも合流できる造りとなっていた。
階段を上ると一定間隔で壁に備えられた篝火松明により、薄暗いが明りが確保されていた。左右には扉の無い吹き抜けの部屋が4部屋。その先には左右へと続くルート通路と、上へと続く階段通路が見える。そこまで凡そ50mの距離。
4部屋あるうちの一室。手前左の部屋の中を見れば、24畳程の長方形の造り。壊れた木箱や樽が所々に散らばる小汚い部屋。
「こんな地下水路で、なんの為の部屋だここ?」
「まぁおそらく、この水路建造時の資材置き場や作業ミーティング。他に食事休憩場所や、仮眠用に設けられた部屋だと思うわよ……管理指揮者たち用にね。作業自体は、奴隷辺りに強制。食事は一日一度。睡眠は適当に地べた。碌な休憩なんか与えないと思うわ」
「お前らのいた世界では、まだそんなカビの生えた風習があんのかよ……。
んで、他の部屋はどんな……あー、こっちは何かおかしな用途で使っていたようだな。それとあれって──」
右側の手前側の部屋には、至る所に破損し錆びた剣、斧、盾などの装備類に、黒染みと人骨らしきものが多数散乱している。
そして部屋の端には、細かな意匠で装飾された1mほどサイズ。曲線が掛かった蓋付きの箱が置かれていた。RPGでもお馴染みの形状。いわゆる宝箱だが──。
「あー、ずいぶんと黒染みだらけのトレジャーボックスだな……。一応、ステルス機能があるようだが……」
「そうね。周囲の気の流れに同調させ、気配ごと擬態化させているようだけど……。年期が入り過ぎて、もう隠しきれないようね」
「【シェイプシフター】の一種だったか? RPG風に言えば【ミミック】か。マジでこんなもんがいるんだな……カレン頼む。軽く弱火でな」
『了解なのー!』
トールの感知網から外れたのはいいが、周囲の状況と捕食の際の血の染みが主張し過ぎて、バレバレ擬態の【ミミック】。余り知能は良くないようだ。
【シェイプシフター】は、日本では余り聞きなじみ無いが、世界の古今東西に分布する色々な姿に変化する妖怪である。
その代表として、RPGではお馴染みの宝箱モンスター【ミミック】が存在する。本来【ミミック】とは「模倣者」「擬態者」の意味。宝箱型の名称が固定一般化されたのはゲームの影響であろう。
まだ動きは見せていないが、ミミックに向けてカレンは、ガキン!と牙を一鳴らし、大きく開口すると。
『──焔哮弾』
放たれた神狼咆哮弾。出力抑えめ、赤々と燃えるサッカーボールサイズの火炎弾。放置していたら後で何が起きるか分からんので、とりあえず燃やす。
『PYAEKIRIRIEEEEEEEEEEEEEYYYYYY!!!』
身動き一つせぬ敵など、ただの射撃訓練用の的。直撃を受け炎上。焼夷火炎で焼かれ、耳に不快極まる甲高い金切りの叫声を上げ、その姿が露わになる。
宝箱蓋型の口部が開けば、無数の細く長い鋭い牙と触手に似た6本もの舌が、クラッカーのように弾け飛び出し、激しくバタつかせてうねる。
箱の下部からは、昆虫のような腹部と脚が8脚が生え出し、わちゃわちゃ。
宝箱部分を床、壁にガンガンと打ち付け粉砕、暴れのたうち回る。そして燃え尽き、黒々とした歪に転がる、何だかよく分からない具合の焼き屍。
『『「「……………」」』』
その悍ましい阿鼻叫喚の絶命ぶりに一同は絶句。無言でその部屋を後にする。
「あー、隣の部屋は……て、こっちもかよ! しかも3箱っ!」
透かさず、今度はトアが自分の出番だと言わんばかりに速攻動き出す。
カレンと同様に牙をガキン!と鳴らし開口。
その先に普通車ハンドルサイズ、樹枝付角盤型の雪結晶が現れ回転する。
『──氷哮重奏弾』
ヒュィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
トアの放った神狼咆哮弾は、12.7mm六角柱型の氷の弾丸。
3体のミミックに、高速回転する雪結晶から、ガトリング砲が如く斉射。
『KYPEEAAAAAREREYYYYYYYYYYYYY!!!』
『PYARIRIEEEYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!』
『KYORIRIEEEYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!』
『「「……………」」』
「もう、何だかぐっちゃぐちゃだな……まぁ、二人ともナイスキル」
『やった~~! 撫でて撫でてー!』
『わ~~い! もっと褒めて褒めてー!』
モザイク案件の無残な絵面が出来上がり氷結。勢い余って壁まで破壊し、隣りの部屋と開通。そして、カレンとトアへの労いのなでなで報酬。
その部屋を後にし、次は4部屋目の反対側の部屋を覗けば何も無し!
殺風景だが、まぁ良しとしよう。
「はい、ここで決まり~~。遅くなったが 休憩~~~。メシにすんぞー!」
『やった~~~~!メシ~~~~~~~!』
『すごくおなかすいたの~~!』
「はぁ……ようやくね」
念の為、部屋の入口はリディの土精霊術による岩壁で封鎖。
手元の時計で午後14時を回り、遅めだがようやくの昼食休憩。
リディが亜空間収納からゴソゴソ、ガチャガチャとランチセットを取り出す。
用意されたのは、メガサイズのバーガーとポテト&コーラのセットメニュー。
これは今朝、トールがあーだこーだ言いながら、リディの精霊魔術の協力の基、時間短縮でバンズから拵え、ホカホカの出来立て状態で、亜空間に収納保管されていたものだ。
例のリゾート施設の厨房倉庫には材料が揃っていたので、スパイスを利かしたビーフパティも手作り。ポテトは冷凍のものを揚げただけ。
カレンとトアは神狼形態の為、トレー類の容器に乗せて差し出す。
まずは散々歩きまくり、連戦、戦闘後の乾いた喉をビリビリとひりつかせる、キンキンに冷えたコーラで潤すこの背徳感。トア以外は、火照った身体をクーリング。
『『「「ぷはぁあ~~~~~~~!! く~~~~~~!!」」』』
これから、まだ続くかも知れぬ戦闘前に、強炭酸飲料を飲むのはどうかと思えるが、そんな事は知るか! と、構わずガブ飲み。
そして、見た目的にも食欲を大いにそそられる『THEジャンクフードの帝王』を豪快に頬張る。
「うっは! このバーガー、マジうま! このパティ、うま味が濃縮されジュワっと 肉厚でジューシー 且つスパイシー! うまし! 我ながらグッジョブ!」
『『んま~~~~~~~~~~~~い!!』』
「ホント……これは美味しいわねぇ。バンズも焼き立てで香ばしく、ピクルスの酸味。チェダーチーズもいいアクセントで、味に深みとコクが増しているわ。有名人気店のものにも負けないわよ。お店を開けるレベルね。パティはあなた、色々と拘って作ってたみたいだけど、かなりいい出来栄えね」
「だろ! 作り方とか焼き方は、死んだばぁさんから教わったもんだよ。肉は、最高グレードの「プライム」品質のを使ってるから、売りに出したら結構な値段になるぞ。 それと、モンゴル人には感謝だな」
米国の牛枝肉格付は、米国農務省の格付検査官により等級分けの実地がなされ、肉質等級は牛の種類、性別、成熟度、脂肪交雑などで決定される。
因みに最上級は「プライム」として、その下には順に「コマーシャル」「チョイス」「ユーティリティ」「セレクト」「カッター」「スタンダード」「キャナー」の8等級に分けられる。
更に肉質格付として、脂肪交雑の種類が10段階に分けられ、最上級は「アバンダント」。今回使用したのはややサシは抑えめ、3段階目の「スライトリーアバンダント」を使用。
意外にも、ハンバーグ自体は馬肉を使用したモンゴルが起源。そこからロシアへ伝わり、ハンバーガーの起源はロシアなどの説があるが、発祥はドイツ料理とされ、移民したドイツ人によって伝わったアメリカを代表する国民食。
挽肉にも拘りが感じられ脂肪分は20%が主流。トールもこの割合仕様で調理。
「焼き方は、高温で一気に焼いて表面に焦げ目を付け、うま味を肉の中に閉じ込める事がポイントだ。中火、弱火でだと肉汁が外に溢れ、うま味が逃げてしまう。その後は、焼き時間と同じくらいで、アルミホイルに包んで保温し寝かすと、うま味が凝縮されたジューシーハンバーグが完成するって訳だ」
「なるほどねぇ、理にかなっているわ。……このソース、ただのケチャップじゃないわね。この香り……何か色々と加えられているようね。これは美味しいわ!」
『こんな食べ物も初めてだけど、においも初めてで、すごくおいしいお肉料理だよ! おとたまー!』
『うん! すごくいいにおい! たまらん味なのー!!』
「ああ、それは割と簡単だったよ。調味料は揃ってたからな。ケチャップに粉末だしと香辛料に「ポルチーニ茸」のパウダーを混ぜて作ったもんだよ。ピクルスもあるし、冷凍保存でチェダーチーズもあったしで、揃いすぎだよ。まぁ卵が無かったのがアレだがな」
ポルチーニ茸は「松茸」「トリュフ」と並ぶ世界三大キノコの一つに挙げられる。「香りの女王」と称される特有の香りと歯ごたえが魅力で、秋のイタリア料理の味覚に欠かせない代表的な食材だ。
「……なるほどね。まさか、煉獄の悪魔たちが蔓延るこんな地下空間で、アメリカ名店級のバーガーが出来立ての状態。ポテトとコーラ付きで食べられるとはね。ご機嫌なサバイバルランチだわ」
「だな。あの施設の食糧庫には感謝万歳だよ。最悪の場合は、あの汚ねー地下水を濾過しながら啜り、悪魔らと同様に、あの奇天烈なドブネズミを食い漁ってたところだからな。それはゾッとするわな……」
この非常に幸運な状況。なんせ、神獣である神狼に、高位精霊の加護持ちのハイエルフ。トールに置いても地球の偉大なる神の恩寵を授けられた特異存在。
そんな面々が揃ったのだ。その激運っぷりは超が付く程えげつないものであろう。
「つうか、じぃさんから学んだサバイバルレシピより、まさか、ばぁさんから教わった家庭用レシピが役に立つとはなぁ……」
『『うまし~~~~~~~~!!!』』