第91話 ハァァァアンア!ビバビバッ!!
地下水路ステージ 中ボス戦。トールVSダミアン。
地球人類と下級悪魔のユニーク種同士の戦い。
ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド!!
『M27 IAR』対悪魔の聖属性+リディの強化付与による 超音速弾と、ダミアンの右腕からにょき出る『マウザーM213』 20mm砲弾。一発でも直撃すれば、致命確実の兇撃。至近距離、数メートル範囲での殴り合いのような壮絶な撃ち合い。
互いに最小限の動きで紙一重で躱し、その残像たる幻影のみを撃ち貫き続ける。
外れた兇弾は水路床、周囲の壁を爆砕。その破片が激しく飛散し飛び交い、鼓膜を容赦なく叩きつける爆轟音が一帯に響き渡る。
細かく弾け飛ぶ破片は、完全に躱しきる事は不可能。だが【剛体術】による耐性強化で傷を負うには至らない。
トールの脳内では、緻密に計算された最適の回避路が弾き出される。一瞬でも遅れれば刹那に消えゆく儚き境界線。その生と死を分かつ曖昧な道程を、躊躇なく雷速で踏み抜いて往く。
『あなた本当に人間ですかー!? ってか、全く眼で見ていませんねー!! どうなってるんですかー!? 変態ですかー!? 卑猥ですねー!!』
「うっせ! てめーがどの口で言う!? あ!ケツの穴か! 存在自体が放送禁止の猥褻物が、少しは自主規制しろや腐れカス!!」
人間の場合、視覚情報から誘発電位が生じ、判断、選択、反応運動実行に至るまで平均0.035~0.038秒。対して、マウザーの弾速は1050m/s。人間の反射速度の約3倍。
例え0秒反射だったとしても、撃たれてから動作ではすでに遅い。
加えて、人間の視覚は高解像度カメラのようなものだが、あくまで平面的。つまりは二次元映像。立体的に見えてもトリックアートのように陰影によって錯覚し、簡単に騙されやすい。この薄暗い明暗の中では尚更だ。
この瞬時に正確で緻密な情報を得るに、視覚は邪魔をする以外の何ものでもない。僅かでも、回避の為の時間概念を要する思考さえも足枷になる。
よってそれらは排除。脳内に俯瞰三次元モデル管制映像を展開。そして、これまで得た各データを基に『気』の信号を感知。超感覚にての反応運動。
『気』は有機生命から放出される特異素粒子の霊素波動。物質では無い為、その質量はゼロにて、運動抵抗値もゼロ。その速度はプランクの定義に置ける最高速。
プランク時間の秒速30万km/s。アインシュタインが呈する『特殊相対性理論』の基本原理。
──つまりは、光速。
その感知反応により相手の所作の先読み。視るのは動作では無く、それに至る意識波長信号。
『きーっ! 一々とこのクソ雑魚がぁぁ!! クソ 焼け死ね!!』
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
ここぞとダミアンは、M35の火炎放射。焼夷液体を撒き散らし、周囲を焦熱地獄に変えてゆく。──だが。
「フフ、それはさせないわよ。──【狂風謳歌】」
スーパー管制司令塔ファンタジスタ、リディが風精霊術発動。即座に迎撃防衛。
『何んで~~~~~!? 火がぁぁ!? クッソ!あの女の仕業か! コンニャロー! こいつも絶対にぶち殺す!!』
延焼が広がる前に、魔術強風が炎周りの酸素濃度を制御し、薙ぎ伏せる。燃焼三原則の一つ、酸素供給が断たれ鎮火していく。
「サンキュー、リディ! 後はこいつを仕留めるだけ! ──‶楽勝〟でな!」
『はぁあああああん!? クソ雑魚が何イキたっことぶっこいてんですかー!? ナメないでください! フフフハハハン!そんな事は無理ゲーですよー! 頭は大丈夫ですかー!?』
すでに、各情報データは全て揃った。後は詰みの一手を打つだけ。高動体見切りスキルで見定め、トールの動きを注視する中でそんな手はあり得ない! と、ダミアンは鼻息を荒げイキリ嘲笑う。
「てめーの弱点は、まるっとお見通しだよ!」
『あ”ぁ”ぁああああん!? 何がぁああんあ!?』
「ハハハハハハ! それは──そのよ~く見える眼だよ!きっしょいその眼!」
『はぁぁあああああん!? あんだってぇぇえええ!? 聞こえねぇなぁああ!』
自慢の高視力スキルが弱点だと告げられ、ダミアンが動揺し難聴化する中、トールは残忍な笑みを浮かべ、その詰みの一手を満を持して投じる。
───ウエポンライト オン。ストロボハイライト照射。
ダミアンは、小刻みに明滅を繰り返す強い光に、視覚が惑わされ混乱する。
更に高暗視力を備えた悪魔にとっては、視神経にダメージを負わせるほどの赫灼たる照射光。
『なっ!? 何だその点滅の光は!? ギャァアアアアアア! 眼がぁあああああ!!クソ! こいつが見えなっ! およよよよっ!?』
ドン!!と、透かさず撃たれた超音速の弾丸が向かった先は、ダミアン本体では無くその足元。通路と水路を隔てる段差の角。その部分が爆砕。
突如足場を破壊され、ダミアンは大きくバランスを崩し、水路下へと落ち始める。
「─── 雷鷹火爪」
ここで発動。【M.A.Tシステム 五ノ型】。ダミアンとの水路反対側床を、爆蹴り震脚からの離陸発射。
超速ジャイロ回転、錐もみ飛行。瞬時にダミアンの許へと近接する戦術兵器。
刹那の瞬間、そこから急上昇。落下中のダミアンの顎へと、強烈な気剄力を込めた爆蹴りで身体ごと放ち打ち上げる。この際、同時にケツ穴──もとい、円口型口部が破砕。肉片が飛び散る。
『ぶるぁああああああああああああ!!』
何が起きたか理解が覚束ないまま、上空に打ち上げられたダミアンを追い、トールも垂直錐もみ上昇飛行。そこからアクセル回転を利かせた破城槌の如き、後ろ回し蹴り。垂直から今度は水平方向にダミアンは、砲弾のようにぶっ飛ぶ。その方向はトールら一行が通ってきた通路。
『あぼべらぱがへばしゅくぁswでfrgthyふじこちゃんjおっぱlp!!!』
ド派手にバウンドし転がりまくり、通路数十メートル先で何とか止まる。トールは、くるりんぱと着陸。強烈なダメージを負い、ヒクヒクモゾモゾと蠢くダミアンを、その通路出入口付近で遠目で見定めながら──。
「距離はこんなもんでいいか。今更だけど、これまで俺が撃った弾が当たらずに助かったよ……その背中のキモタンクには、たっぷり可燃性の液体が入ってそうだからな。近距離で爆発とか危ねー危ねー……」
『ぐぶrybyヴぉヴぉばほばぁlxlp!!!』
「何言ってるか分かんねーけど、とりあえずは、お疲れさ~ん。 じゃあな~~!」
そう軽い口調で別れを告げ、カレン、リディがいる側へとのんびり歩きノールック。右腕を横に、M27の銃口だけをダミアンに向ける。
ドン!!───ドオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
断罪の弾丸が放たれ、ダミアンに直撃。その背の生体タンクごと大きく撃ち抜かれて引火。トールの背後の通路出入口から、盛大に吹き出す爆炎爆風。
「クリア」
地下水路ステージ。三局面 中ボス戦2局戦目 ダミアン撃破。
──NEW! アップグレードファイル ダウンロード完了。インストールしますか? YES/NO?
──YES ──インストール完了。
──NEW!──パッチファイルネーム Thor Ver.15.0。
──新バージョン内容。【M.A.T システム】至高の型使用時の身体負荷の軽減。全能力機能向上。
追加MOD 七ノ型が使用可能になりました──。
「あー、何かレベルアップしたみてーだな」
中ボス戦三局目。カレンVSキメヨ。
トリの最終戦もすでに終盤の大詰め。この乱痴気騒ぎイベントも、いよいよ終幕を下ろす時を迎えていた。
『あんだってぇぇええ!? ぅあ?』
異形の悪魔に対峙する神狼。カレンの周囲をひらひらと無数に舞い踊る、黒き桜の花びらのようなアゲハ蝶。
『──獄桜蝶!』
その翅は黒一色では無く、幾何学模様の赤い光が淡く明滅を繰り返す。それが、明ごとにパチパチと火花を散らせた。
恐ろしくも壮美に描かれたこの幻想画。それを讃美し、喝采の拍手を贈るかのように火華で奏でる黒き桜蝶たち。
宴もたけなわ。宵の口も落としどころの頃合い。盛り上げ役の舞台演者にはそろそろご退場願おうか。
その締めの演舞芸は、華やかと優雅に舞い散る黒桜の彩りで、盛大な喝采と共に飾り立ててあげよう。
『──獄桜蝶。夜桜烟景 華ノ舞』
カレンがキメの技名を告げると獄桜蝶たちは、キメヨの許へと一斉に花吹雪の如く舞飛び立つ。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
『ぅあっ?ぅあっ? 何んだねチミたちはぁあ!? ぅわ?』
演者を称賛し送り出す拍手の如く、獄桜蝶が打ち鳴らす火花が爆ぜ散る。こんなもの全て斬り伏せてやると、キメヨは大出刃包丁を振るう。
バン!!ボッ!!と、獄桜蝶を1羽斬ったところで爆発炸裂。更に黒炎燃焼が発生。それが次々とキメヨに襲い掛かる。
バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!!バン!バン!
『ぬわ!? こなクソぉ! ワーオ!いっちょめいっちょめ!ワーオ!!』
ババンバ!バン!バン!バン!
『ハァ! ビバノンノン!!』
キメヨが出刃包丁を振るうごとに、爆発と連なる焔。それが連鎖し重なる爆風と黒燃焼が、しわくちゃ乳房型6眼による、高速動体見切りスキルを阻害する。
視界が塞がれ処理しきれなくなったキメヨは、その獄桜の花吹雪をもろに浴び始める。続く無数の爆破の猛吹雪。
ババババババババババババババババババババババババババババン!!!
ババンバ!バン!バン!バン!
『ハァァァアンア!ビバビバッ!! ダメだこりゃぁぁあAAAAAA!!!!』
これは、黒い蝶の形をした簡易的な単純知能を持った、自律誘導方式の炸裂焼夷弾。これによるピンポイント対象物へのクラスター爆撃。
キメヨは、極瘴気オーラで防御を固めるも、連鎖爆風と燃焼が耐性を削り続け全損。その矢継ぎ早に続くナパーム爆撃の猛威は、曝け出された肉体部分に容赦無く、無慈悲に降り注ぐ。
これに対処するすべを無くしたキメヨは、某エンディング風&コント落ち風の断末魔の叫びを上げ無残に爆散。更に終焉の焔により微塵残らず消滅。
『クリアーなの!』
と、カレンは雄々しく威風堂々と誇り立ち、キメドヤ顔で快勝を告げる。
因みに神情報によると、このキメヨは地球での生前時、今は亡き伝説的な御方に大変な影響を受けてアレなキャラとなった。
それとは別に、その性分は悪辣。数々の悪行三昧、鬼畜の如き所業を繰り返し、お縄を頂戴に至り情状酌量の余地も無く死刑。死後に悍ましい拷問の果てに悪魔化したド悪。
しかしこの数年後に、虚しく次元の狭間を漂うその愚かな魂が、高位の神となった‶シムラ神〟の目に留まり「だ~いじょう~ぶだ~~」と救済の光に照らされた。
その御方神にがっつりと、あり難いお叱りを受けたところで号泣し改心。容姿も改め、忠誠を誓い弟子入りした。因果体まで悪に浸食された悪魔が改心したのは異例な事。これには、他の神々を非常に驚かせたと言う。
その後、更に‶イカリヤ神〟と‶ナカモト神〟の新たな教えも受け、キメヨは偉大な御方々三神の眷属となり、日々厳しい修行に励んでいるとの事であった。
閑話休題。
──地下水路ステージ MIDDLE BOSS BATTLE ALL CLEAR !
──CONGRATULATION!!
トアの勝利を皮切りに三局面が、ほぼ同時に全て圧倒的。文字通りの爆発的な大盛り上がりで快勝に終わった。
「ハハハハハ! 皆キメは爆発かよ! ド派手でいいねぇ!アハハハハハハハハハ!
ウケる!」
「アハハハじゃないわよ。あなた、戦闘中にちょっと笑いすぎじゃない? 楽しむのはいいけど緊迫感が台無しで、こっちの気が削がれるわ。死ねばいいのに」
「うっせ! 楽しんだもん勝ちって、よく言うだろうが。 んな事より、お前らよくやった! マジですげーわ!」
『わぁ~~~~い! やったぁ~~~~~! もっと褒めて褒めて!感動しておとたまー!!』
『おとたま撫でて撫でて―!ボクもがんばったよー!』
「あー、うっせ! 分かった分かったから、顔を舐めるな腕を甘噛むな! ぃよーしゃしゃしゃしゃしゃしゃ!!!」
『『キャハハハハハハハハハハ!!』』
「つうか、遅くなったがメシにすっかー。 どっか休めるとこに移動すんぞー!」
『『やった~~~~~!!メシ~~~!!』』
「……煉獄でこんなにエンジョイしてる者たちは、中々いないわよね……。これを視てる、この世界の創造神はどう思っているのかしら……?」
煉獄は、際限無く苦罰という名の試練を与え、精神が尽き果てるまで削り奪い、その根源たる魂の存在意義を問う、極苛烈な世界。
全ての行為が容認され、それを唯監視するだけの運営管理者たる神。
その代表取締役たる主神は、この稀な異質な地球人の動向に興味を抱く。
そして、他の運営スタッフを集め、あーだこーだ喧々諤々と論じながら娯楽然と楽しんでいた事は、誰も知る由も無い高次元の話だ。