第90話 まだまだだね!
地下水路ステージ。ラウンド3 三局面中ボス戦。カレンVSキメヨ。
背後の方では、トールとダミアンが至近距離にて激しく高火力の砲撃戦。
ドッカンドッカン爆轟音が響き渡る中、カレン側でも【LBE-J88】【ロー婆イーター88】特異個体ネームドユニーク種【キメヨ】との熾烈な剣戟の戦いが行われていた。
神狼モード、カレンは漆黒の炎を纏う【獄炎刀メガデス】。対するキメヨは老婆型上半身両腕、黒々とした極瘴気を纏った兇悪ドでかい二刀出刃包丁を振るう。
この瘴気とは、多くの生命に毒、疫病、遺伝子異常を引き起こす放射能汚染のような悪質な物質気体。
加えて嫉妬、強欲、怒り、恨み、悲しみ、恐怖、絶望など様々な負の念の精神集合体。身体的にも精神的にも、多大な悪影響を及ぼす兇悪な地獄領域のエネルギー。
嘗て人であったこの悪魔たちは、この瘴気による遺伝子異常と、負の念によって悍ましく強靭に変異。禍々しく生まれ変わった兇夢が具現化した存在。
キメヨは、その濃密な瘴気波動を腕の出刃包丁に纏わせている。
獄黒炎と獄極瘴気。黒と黒の鍔迫り合い。獄燃焼と獄波動のぶつかり合い。
これまで、母親とトアとの戦闘訓練以外では防がれる事は無く、触れれば全て斬り伏せ獄炎で焼き尽くし、一切合切塵にしていた炎魔剣。
それをキメヨの巨大出刃包丁は真正面から受け止め、憤怒の鬼面顔で悉く猛襲、斬り返してくる。それは刃に纏った瘴気オーラが成せる悪魔の業。
キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!!
互いに超高速。爆風、嵐のように激しく弾き合う獄刀同士。振るわれる獄炎刀に連なる焔の軌跡は黒龍の如し。二刀出刃包丁の凶刃から連なる極瘴気の軌跡は、二頭の厄災猛毒大蛇の如し。
黒龍と二頭の毒大蛇が、のたうち絡み、うねり合う。カレンとキメヨの周囲は、獄炎と瘴気が入り混じった、黒々とした暗黒領域と化していく……。
『ワーオ! いっちょめいっちょめ! ワーオ! いっちょめいっちょめ! ワーオ!
ひっ!がっ!しっ! 村なんちゃら! いっちょめいっちょめ! アイ~ン!!』
『なにこいつー!? すごく変なのー! なんなんだキミはー!?』
『ん!? なんだねチミはってか?ぅあ? そぉわです! わだすが変なキメヨです!変なキメヨ~だか~ら、変なキメヨ~! 変なキメヨっ!だから、変なキメヨっ!!フン!フン!フン!フン!ぅわはははははははは!!だっふんだ!!』
『きめぇよ!!』
そんな某伝説的コント風なやり取りをしながら、瞬時の攻防。刹那の剣技。紙一重の命の奪い合いを息もつかせず、瞬く間に繰り広げている。
鬼面老婆頭部の眼は、老眼の為に視力がかなり衰えているものの、上半身胸部から腹部にかけての、しわくちゃ乳房型3対6眼。それらが全て独立、触手のように蠢きギロギロとガン見し、脅威的な動体視力を発揮している。
その中央の大きく縦に裂けた口部は大分空腹のようで、わちゃわちゃ動き、涎がダラダラのデロンデロン状態。
キメヨの各剣技は基本技であるもの、人ならざる悪魔の膂力から振るわれる二刀超速連続技。常人であれば反応すら叶わず、一瞬で細切れにされていたであろう。
例え達人でも一度受けに入れば、体力が尽きるまで暴風雨の如き兇刃が吹き荒れ、反撃に至るまでも無く、無残な憂いを味わう事になるであろう。
そこからキメヨは、更に速度を上げて繰り出す剣技。二刀出刃大包丁を左右交互に袈裟斬りから、膂力に任せた叩き伏せるかのような縦の真向斬り、左右一文字斬り、下から逆袈裟斬り、右刀真向と左刀一文字合わせの十文字斬り。
からの速度衝撃波を発するほどの渾身の音速突き。──悪魔の二刀流奥義。
『──スター バスト. ストリップぅぅぅううう!! ぅあ?』
某ソードアートな二刀流ユニークソードスキルのような技名だが、何やら微妙に違い、意味もおかしなものになっている。
しかし、この悪魔の奥義に対するのは神狼。カレンは一刀ながらも神速で捌き、受け流す。そこから回転翼のように超高速スクリュー回転。獄炎輪の盾と化し、暴風雨の如き兇刃を全て弾き返す。
キメの音速突きを大きく弾かれたキメヨは、後方に勢いよく滑り下がる。歪に膨れた下半身胴体部から生える刺々しい、トカゲ型の6脚の爪を立て、ガリガリと踏ん張り止まる。
カレンの獄炎回転翼も停止。くるりと華麗に床に着地。一旦仕切り直しの状況の立ち位置。だが、瞬時にカレンが動く。
『ぃよぉぉーし!次行ってみよぉー!!──ᚷᛖᛜᚾᚲᚨᚢ!!』
ここで、神狼魔術の詠唱。すると、獄炎刀メガデスが分散。無数の獄炎の黒アゲハ蝶と化し、カレンの周囲を舞い飛ぶ黒桜模様。畏怖を伴い、描かれる荘厳な神狼幻想画。
『あんだってぇええええ!? ぅあ?』
「……フフフ、こちらはフォローのは必要は無さそうね」
そして、この後方。トールを挟んで更にその先でも1体1で激闘。
神狼トアVS特異種真魔のグリゴリー。
ウィィィイイイイイイイイイイイイイイン!!パン!!バフッ!!ガキン!!
ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!
バリバリバリバリバリ!!ガリガリガリガリガリ!!ウィィィイン!!ウィィィイイイン!!パン!!バフッ!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!バリバリ!!
トアの双獄氷剣メタリカと、グリゴリーの極瘴気を纏った右腕チェインソー&左手シミター5本爪。激しく弾き合い、回転と排気爆音。歪な剣戟の鈍い音が入り混じった、盛大な不協和音の協奏曲。
『フハっ!フハっ!フハハハハハハハハハ!!吾輩のこの右腕【魔鎖鋸】と左手の【魔爪】。珍妙なる犬よ! これがお前を血の惨劇の館に誘う、地獄への導き手の二つの名だ!! 篤と吟味せよ!!』
『犬じゃないよ!ボクは護廷十三隊、十番隊隊長、日番谷トア獅狼だよ! 背の双両剣は、氷雪系最強の‶ワン魄刀〟。【ひょろりん丸】だ!!』
バカ正直にこの相手に、真面目に名乗る必要は無いと思ったトアは、適当に思いついた某死神の文字った名前と武器名を連ねる。
『ほう、良き名乗り上げだ!フハっ!フハっ!フハハハハハハハハ!!いいだろう。‶ヒツガヤ トアシロウ〟とやら!確と足掻くがいい! お前を微塵に切り刻んで、蝋人形にして喰らってやろう!』
『……いや、切り刻んだら蝋人形にできないんじゃないの…? そして、食べるのに人形にする意味あるのかな……?』
『…フ、フハっ!笑止! 吾輩の崇高なる言葉の意味が分からぬとは、やはりただの畜生風情か! フハっ!フハっ!フハハハハハハハハハハハハハ!!』
『……こいつアホだね』
「ん? トアの方でも大笑いする声が……。トールも何故かすごく笑っているようだし、いったい何が……」
激しい銃砲撃に爆音、剣戟の金属音が打ち鳴らされる中に、何故か高らかな笑い声が混じっている珍事に、リディが疑問を抱きつつ各戦闘は続く。
獄氷剣は、腕で剣を振るうのとは違い、背に航空機の翼のような形態の為、細かで柔軟な振り回しができず、身体全体を使った大振りとなり隙ができやすい。
対する俊敏性の高い、変幻自在に動ける生物。増して、剣技を行使する相手には大きく後れを取ってしまう。
それに対応し補う為の、隙を埋める高速回転技であった。──と、思われたが否だ。
その高い俊敏性は勿論、縦横無尽の神速高機動力は神狼の真骨頂。そして、双獄氷剣はただ背中に引っ付けているわけでは無い。
剣自体は硬質の為に、鳥類の翼のような柔軟性は無いものの、垂直、水平、前後、傾斜を左右別々に複雑超速で可動。航空機で言うテーパー翼、前進翼、後退翼型に臨機応変に展開できる超可変翼。
ガキィィィン!!と、トアとグリゴリーは大きく弾け合って一旦の距離を置く。そこに、トアの更なる追加武器が加えられた。
否、元々備えらた標準装備武器。【狼爪】と呼ばれる犬種が持つ爪。それが前脚に4本、両前脚で計8本。鋭利に曲刀のように伸び、蒼白く淡い光を放っている。
『──神狼爪』
神狼の狼爪は、膨大な魔力が込められた神話級神剣に並ぶ性能強度を誇る。因みに牙は、キモく非常に汚い不味そうな相手には使用は却下。そして、更に──。
『──双獄氷剣 第二形態 ──堕天X氷翼』
すると、トアの背の魔紋から新たに1対の双獄氷剣が顕現。2対のクロス状4翼剣、後方に推進噴射口。そこから可変。前翼1対はV字に立て、後翼は水平状。更に纏う蒼白光のオーラを強め、後脚を曲げ準備、発射離陸態勢。
それに対してグリゴリーは、魔鎖鋸を回転数レッドゾーン。盛大な爆音と派手な火花を散らし、左手魔爪を後方に引き、わちゃわちゃキモく動かしながら迎撃態勢を執る。
『魔力エネルギー充填開始。セーフティリミッター解除。レティクルオープン。
──標的ロックオン。エネルギー規定値充填完了。オールグリーン。カウント開始5・4・3・2・1』
『何をブツブツと!フハっ!フハハハハハハハ!!そんな苔脅し、吾輩の魔鎖鋸と魔爪が一切合切全て切り刻み、蠟人形にっぬわ!!』
グリゴリーが何やら言い切る前に聞こえる、カウント『ゼロ!!』の言葉。
ドオオン!!とトアは十分バネを利かせ、水路床を爆蹴りカタパルトで発射離陸。
4翼のバーニアからは、アフターアイスバーナーを噴射。そこから砲弾のようにジャイロ回転。放たれた特攻砲撃。それにグリゴリーは慌てて魔鎖鋸を振るう。
『──ヤマ=トア波動砲斬!!』
ウィィイイイイイイイイン!!バリバリバリバリバリバリバリバリ!!バキ!!
バキ!バキ!ハンマバキ!!バキバキ!!グラップラーバキバキバキバキバキ!!
トアは超音速で車輪状、スピン、ジャイロと、複雑に球体状超回転。ローリングボムの砲弾。音速を超えたことにより、速度衝撃波発生と上乗せ絶対零度の魔力波動。
これに負けじと、振り下ろした魔鎖鋸の濃厚瘴気の強化を衝撃波動で搔き分け、獄氷4翼剣、8狼爪の12刃で一瞬で微塵切り。
続けざまに振るった魔爪も同じく容易く粉砕。同時に周囲の水路床、連絡通路とその脇の壁は、衝撃波によって大きく抉れて破砕。そして氷結。
『フハ!? やめっあばっ!! ぐぼっほ!!くぁwせdrftgyふじこlp!! ひでぶあべし!!』
その凶悪ローリングの猛威は留まらず、グリゴリーの全開瘴気オーラ防御の必死の抵抗も虚しく、刹那に腕から細切れ胴体に達した。無残にドス黒い血を撒き散らし、爆砕木端微塵。飛散し氷結。塵と化した凍結結晶が儚気に散り行く。
この技は、トールらの使う銃弾を参考にし、トア独自でこの場で編み出した応用技。12刃の剣技による斬撃。獄氷技の為に熱エネルギーは無いながらも、爆発的な波動の高破壊力。
斬、打、突の三大物理攻撃要素に加えて、速度+魔力による不可視の波動衝撃波の合わせ技。その破壊力は大戦時の最大砲弾、大和級戦艦主砲46cm砲弾に匹敵する絶大な威力。運動エネルギーは444,132,000[J]と、4億超えのえげつなさ。
例えネームドユニーク種の悪魔であろうと肉体を持ち、物理攻撃が利く以上、この範囲殲滅級技には耐えるに至らず、憂き無残なこの結果。
『まだまだだね!ゴリゴリー!』
トアは、珍妙なやり取りもそこそこに、ネームドユニーク種グリゴリーをゴリゴリと一蹴。
某なんちゃらの王子様のようなキメ台詞をいれつつ、中ボス戦一局を早々に終わせた。