第88話 88アハトアハト
──GIMBALS〖レーダーに捕捉した目標が接近中〗
「今の戦闘で周辺にいる奴らが、わらわらと動きだしたようだな……前後から来る! お前ら休んでる暇は無ぇぞー!」
『『アイアイサッサッサー!!』』
──ENGAGE
水路の前後の先から次々と現れたのは前方【LE-ⅡS型】の群。後方からはこれまた異形。新種の群が共に数十体。
新種の胴体部は丸々と肥え太った1.8mほど。象のような皮膚の質感、黄色掛かった灰色。トカゲのような手足はとげとげしく、前腕1対、後ろ脚2対の6脚歩行。
尻尾は1mほどだが、伸縮するタイプ。尾の先はヤツメウナギのような円口状になっており、こちらでもお食事ができる形状。
首は長めで、頭部は人種の老婆。ボサボサに乱れた長い白髪。口部は胴体部の首の付け根まで裂けており、それを大きく開き、ワニのような強靭な下顎と鋭利に生え揃った牙がその狂暴性を如実に語っている。
──地獄低位界悪魔目。ヘルイーター網 下級悪魔科 変異ヒトキメラ属
【ロー婆イーター88】型式【LBE-88J】。
『『『『GUAGORAURARARARARAAAA!!!』』』』
【LE-ⅡS型】は知性はあるものの、声帯が獣と同様の為に言語解析は不明。
『爺さまや~~おいじじい~~! 死ねコラ!ハゲコラ!タココラ!ワレコラ!
煮て焼いて食ったろか!ボケがぁあああ!!』
『はぁ~~~!メシじゃぁああ!メシがここにおるで~~!男じゃ女じゃ犬じゃ~~!全部喰ってやる!』
『めーし!めーし!喰うぞ喰うぞ喰うぞ!ケツから木の棒をぶっ刺して丸焼きもええが、生が最高じゃぁぁあ!クソボケぇぇええ!!』
『邪魔じゃい!どけどけクソハゲババァども!あだすが先じゃい!ぬか漬けにして喰ったろかい!』
『茶~カンロ飴~~孫~~猫~~じじい~散歩~~~猫背~~コロコロが付いたカバンで~~~~~皆殺しじゃい!全部骨まで喰ってやる!!』
【LBE-88J型】は非常に食欲旺盛なようで、流暢な言語で何やら物騒な事を喚き叫んでいる。
「……あー、新手の方も一層エグいな……。うんじゃあ、リディとカレンは新手の方を頼む。俺とトアはマスカヘル頭の方をやる!」
「オーケイ! 女同士ってわけね! あなたの銃にも強化付与もしておくわよ!
けどあれ……一応女性ベースだけど性別なんてあるのかしら…?」
『了解おとたま―!アタシはリディとだね!』
『よーし!ボクはおとたまと一緒だね。ボク頑張る!』
「俺らが来た通路に開いた穴からも来そうだから、手際良く迅速に一体一体確実に仕留めていけよ!!」
「『『了解!!』』」
──地下水路ステージ ROUND2 GET READY。
─────FIGHT!!
ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!
開始スターターピストルの如く実弾号砲。ARの5.56mm弾とは思えぬ砲撃音が水路内に盛大に鳴り響き、ラウンド2スタート。
次々と異形悪魔らに命中、着弾した箇所が上半身ごと派手に弾け飛び散る。
同時にカレントアが前後に分かれて疾走する。
トールとリディは、状況を広く見渡せるよう水路脇の通路から、強化付与されたアサルト.ウインドレールガンにて高火力砲撃支援。
カレンは左前脚に黒々と燃え盛る【獄炎刀】。トアは蒼白光閃く【双獄氷剣】を背に展開。
トアに対する【LE-ⅡS】は、その強靭脚力を活かし、水路左右脇の段差上の連絡通路に飛び跳ね散開。ソロ近接攻撃を仕掛ける神狼に包囲攻撃プランで相対。
同時にトアを支援するトールに向けて、別働隊が阻む動きを見せ、高速跳躍にて攻撃を仕掛けて来た。
ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!
「当然こっちを狙ってくるよなぁ。だが、走り込みが足りねーよ!」
その動きに冷静に対処。聖属性+リディの強化付与にて、えげつない破壊力を得た射撃ならぬ砲撃弾。襲い掛かる爪撃と反対側通路の悪魔らを迎撃。その威力は凄まじく、一体一体が装甲車級【LE-ⅡS】らを複数同時に紙屑同然に飛散させ、勢い余って床や壁を激しく破砕。
まるで、大戦時に最高の対戦車砲としてドイツで活躍した、8.8cmFlak。
細かく破砕した石レンガの破片が他の【LE-ⅡS】に襲い掛かり、群の進撃に大きな混乱を齎し、ど派手にトアをサポートする。
『おとたま、ありがとー!これで目の前だけに集中できるよ!』
『『『グアララララアアアア!!』』』
疾走するトアに向け跳躍し、右腕を振り上げその大きな5本爪を上段から振り下ろす最前の【LE-ⅡS】。
その瞬間トアは身体を右に捻りその爪撃を躱す。弓矢を引くかの如く十分バネを利かせ、一気に戻す反動で半時計回りの超速スピン回転。その1体は腕を含めて胴体が【双獄氷剣 メタリカ】に無数にスライス。
『──気円──もとい獄氷円斬!!』
その勢いのまま回転は加速。ヘリのローターのように揚力と推力が得られ、空中を飛び交う蒼白光の兇悪な円盤包丁と化す。
即背後にいた数体も左右蛇行、スライス状に斬り刻み氷結。その肉塊が粉砕。
結晶粒子がダイヤモンドダストのようにキラキラと舞い散り、狂気の絵図から幻想的な絵像に描き変えていく。
「ハハハハ!すげーなそれ、クリリンのアレみてーだな!ハハハハハ!!」
「ん? ……何か後ろの方で笑い声が? 何故に…?」
一般の人間であれば、SAN値が一気に持ってかれるほどの悪夢の絵図。そんな状況下で背後の方から、何故か楽し気な笑い声。どこにお笑い要素があるのかと疑問困惑するリディ。
振り返りたいところではあるが、今は前方で【ロー婆イーター LBE-88J】と戦うカレンの支援に集中。包囲の為に背後に回り込もうとする個体を随時アサルトウインドレールガン88にて爆砕中。なので、そんな珍事を気にしている場合ではない。
『──黒龍演舞』
カレンは左前脚から顕現【獄炎刀 メガデス】を縦横無尽、華麗な演舞芸のように舞い振るう。斬撃から連なる黒炎の軌跡は、龍のように荒ぶり恐ろしくも壮美に描かれる。
『じじいぃぃぃぃ!!!』
『孫にお小遣いぃぃぃ!!!』
『コロコロかばぁぁぁぁん!!!』
LBE-88Jの群は、その大きく割れ広げた顎で喰らいつこうとするが即斬。
黒く燃え上がり、次々と珍妙な断末魔の叫びを上げ瞬殺されていく。更に、わらわらと後から行列を連ねるLBE-88Jの群。
『──昇黒龍斬&獄炎爆轟波』
カレンは身体を捻りながら【獄炎刀】を足元に流れる水流ごと斬り上げ回転上昇。LBE-88Jらを巻き上げ螺旋上昇回転斬り。
その際に獄炎の高温燃焼が水流に触れた瞬間、急激に気化し、水蒸気爆発。
目下、前方向に夕方スーパーのタイムセール時のご婦人方々の如く、群がり連なるLBE-88Jを、その爆発衝撃波で一掃。
これは、先ほどリディがG爺蟲の大群駆除時に見せた、高温燃焼が水とで発生する爆発反応を応用したもの。
水は熱せられて水蒸気と化した場合、その体積は1700倍となる。油による燃焼でなくとも、それは大きな爆発現象を起こす。
因みに、これを密閉した空間内で発生させた場合は『全体反応型水蒸気爆発』。
カレンが行使したものは『界面接触型水蒸気爆発』と言う。
「魔術によるものでは無く、武器の特性を活かし、足元を流れる自然物の利用。科学理論を用いた低コストでの大きな結果。爆破衝撃波の方向まで制御し、尚且つ動きの無駄も少なくなっているわ。しっかりと学んでいるみたいね。優秀な生徒だわ」
カレンの範囲攻撃と同時にトアの方では、殺戮円盤【獄氷円斬】にてLE-ⅡSを次々とスライスしながら軌道を縦回転に切り替える。水路に流れる水に獄氷の刃が触れた瞬間、進む前方向の水流が一気に凍結。獄氷の川と化した。
この現象により、後から続くLE-ⅡSらの脚が氷結。その俊敏性もあって勢いのまま、胴体と凍結した両脚が分断。膝から上の身体が、脚を失い大いに前に転げまくる。それを【双獄氷剣】による無慈悲に暴走する車輪刃で、ぶった斬りながら殲滅していくトア。
「ハハハハ!マジすげーなトア!カレンもえげつねーし、派手なのは温存って言ったけど、それはスタミナの温存って意味だから、これは有りか!」
やはり双子と言うべきか。似たような発想思考を持っており、効果は真逆であるが、共に足元を流れる自然物の有効利用に至ったようだ。
「戦闘時に大笑いし過ぎね。SAN値が全損してるのかしら?」
もはや、支援の必要が無い無双乱舞状態のカレンとトアに、トールは高見の漫遊気分での見物。その緊張感の無さに、リディは正気度を懸念しだす。
警戒MAXのデフコン2レベルながらも、この状況を高揚高らかにエンジョイしているトール。
それはある種、この頼もしき仲間、家族たちへの信頼の証。これまで感じていた、自らの異常な力による孤独感から解放された、多大なる歓喜の喝采と言えよう。
「おーいリディ! 俺らが来た通路脇の穴から、また何か来たぞー! ……あーこれさっきのガスマスクの…仕込み銃を使う奴らだから被弾に気を付けろよー!」
「了解!……SAN値はまだ大丈夫のようね……精神状態がよく分からないわ…ワイズマンみたいね」
その直後にトールとリディを挟む中央付近。一行が通ってきた通路から次々とガスマスクフェイス『LE-ⅢG』が右前腕部から銃口を剥き出し、構えながら現れた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
「だぁー!クソっ!いきなり撃ってきやがった!!忠告なんかするわけねーか!!」
ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!
『LE-ⅢG』らは、トールとリディの姿を確認すると否や即発砲。これにトールは即回避行動に入り、段差下の水路側へと側宙しながら空中で牽制射撃。着地と同時に的を絞らせないよう、爆速移動回避。この間にも撃ちまくる。
「レベル2【霊甲 風月鏡花】」
リディは、これには冷静に対処。風精霊術による二層円形盾を展開。LE-ⅢGの銃撃を即座に防御。
一昨日のトールとの格闘時使用では不可視であったが、現在のものは淡い緑色光サークルが二層、可視できる状態だ。
そして、これまで快心の無双ぶりを披露していた、カレンとトアの戦況にも変化が起きた。それは、双子の比喩を絶する、圧倒的な乱舞攻撃を防いだものが現れたのだ。
カレンの方には、爆発衝撃波の中をお構い無しで爆走、爆炎を纏い向かってくる一体。それを斬り伏せようとしたが獄炎刀の回転袈裟斬りが難なく弾かれた。
トアの方には、獄氷の川を避け高速で跳び交い、横の壁を真横の状態で疾走する一体。超速回転するトアの獄氷円斬を、その右腕の剣のようなもので斬り伏せ叩き落とし、凶刃回転が止められる。
片や獄氷の川。片や気化蒸発。すでに水の流れが無くなった水路床に、双子は大音響の甲高い金属音と共に奏で弾かれ、後方に滑りながらも倒れ込む事無く何とか立ち止まった。
『『何こいつ!?強い!!』』
カレン側には『LBE-88J』の変異種。胴体部分は一際大きく、他では長い首に老婆の頭部であったものが、ニ本角が額から生えた鬼面老婆の上半身。乳房の乳頭部分は大きなギョロついた眼、それが3対縦に並び6眼。
加えて胸の中央から腹部に掛けて縦に大きく割れた口部となっており、細く鋭く尖った牙が無数に複数層で生え並び、わちゃわちゃ空咀嚼。
そして、老婆型上半身、その両腕は前腕部からドス黒い瘴気を纏ったでかい出刃包丁の形状。二刀流、狂気の兇鬼の凶器仕様。
──【ロー婆イーター88】特異個体 ネームドユニーク種【キメヨ】
トア側には『LE-ⅡS』の特異個体。サイズは約3mの巨躯。両肩から錆びた鉄の鎖を襷掛け。マスカヘル形状の頭頂部には、多数の鋲のような角。
左手は同種と同じ5本曲刀爪だが、右腕は前腕部から歪に伸び、濃厚な瘴気を纏い血に塗れたチェインソー。デスメタルな殺人鬼仕様。
その生体化したチェインソーは、2ストロークガソリンエンジンタイプと同種。動力は体内の液体瘴気。右肩の辺りに排気口。
バリバリ、ウォンウォンと生体エンジンをふかし、そこから害悪な廃瘴気ガス黒煙を排気させる。同時にソーチェーンを緩急回転変化付け、繰り返し煽ってくる。
──【レッサーイビル2型】特異個体 ネームドユニーク種【グリゴリー】
更に、状況は3倍上乗せの激化。後から沸いたガスマスクフェイス。右腕がグロスフスMG42銃口バレルの『LE-ⅢG』小隊を、トールとリディが銃撃戦で数を削る中、最後尾にこれまた特異個体種。
サイズは2.5m。細身の同種量産型よりマッチョボディ。頭部の旧ドイツ軍ヘル型から一本角。背中には生体化したタンク状のもの。
極太右腕前話部から剝きだし突出した砲身、20mmリヴォルバーカノン。大戦時の旧ドイツ航空機搭載『マウザーMG 213』。
背中から伸びる生体パイプが繋がった左腕前腕部。そこからにょき出た円筒先からは、炎をめらつかせる1930年ナチスドイツで開発された『M35火炎放射器』の噴射口。
右腕は20mm機関砲、左腕は火炎放射器、歩く生体虐殺兵器のご登場。悪魔の如きなどと比喩では無く、名目定義上でも正真正銘の悪魔生物兵器。
──【レッサーイビル3型】特異個体 ネームドユニーク種【ダミアン】
「あー、感知はしてたが、こいつらついに動き出したか」
「これは、少々厄介そうね」