第135話 THE 陰謀
──この物語は、多元宇宙論における別宇宙での地球の物語である。
よって、我々が住む地球関連事項とは一切合切関係は無い。
「──どうやら、うちの‶マー君〟…いや、馬鹿愚息がお宅のご家族方々を拉致った上に、方々多数ご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ない!」
その男は、実に神妙な面持ちで深々と頭を下げる。大罪を犯した実の息子の代わりに、如何なる責任を背負う事も厭わない覚悟の所存であった。
その装いは黒のハイブランドスーツ。年齢不詳の北欧系クソイケメン。
瞳は金色。肩に掛かるほどの長めの黒髪に、鮮やかな青のメッシュ。と、何やらな印象。
「頭を上げてくれミスター‶ワイズマン〟。いずれにせよ、法的措置の不可は元より物理法則の理外、埒外。云わば超自然的存在を罰せられる国家など、何処にも存在し得ないであろう」
そう返すは、今年60歳。生え際が大分後退したブロンドヘアのイングランド系、筋肉質のスリム体型。ハリウッド俳優かの様な顔立ち。民主党所属 第45代アメリカ合衆国大統領。『トム.フレデリック.テイラー.ジュニア』。
「まぁ、其れは其れとして、親の監督不行き届きであった事は否めない。この責任は我が総陣営、全身全霊を以って賭する事をここに誓い宣言するよ テイラー大統領」
そこは、アメリカ合衆国首都 ワシントンDC。ペンシルベニア大通り1600。
──THEホワイトハウス。
その西棟に置かれた大統領執務室での一幕。
楕円形の造りから「オーバルオフィス」とも呼ばれている。
オーバルオフィスは、現職大統領によって装飾類は様々に施され、現在 床の8割程を占める楕円形、アイボリー色のカーペットの縁には、円をなぞる様にこんな言葉が綴られていた。
‶No problem of human destiny is beyond human beings.〟「人間の運命の問題で、人間の力の及ばないところにあるものはない」byジョン・F・ケネディの言葉。
その中央に置かれた向かい合い、白色レザー製超高級ソファーにて、合衆国大統領と語り合うのは、極秘の国境無き国際機関『ギルド』総括代表にして【大賢者王】。
コードネーム‶ワイズマン〟。その正式名は。
──ラファエル・ヘルメス・トリスメギストス・マルアーク。
アフガニスタンでの作戦中、作戦部隊全てが消息を絶ち行方不明。先ほどまで、その解明と対策会議が、各主要政府機関の代表を集め執り行われていたが、あくまで記録上の定例形式的なもの。
その中でヘルメスが語った情報は、ざっくりしたものに留め、その全容は殆どが開示されていなかった。
あの場には各代表の他、その補佐官、情報分析官 諸々、超重要情報を共有するに至らない者が多数在席していたのが理由の一端でもあるが、別大問題の方が大半理由。
すべからく、この場でテイラーと二人のみで語られるのは完全オフレコ。
現時点の段階では、首席補佐官にすら秘匿する極秘中の超極秘情報。その為、一切外部に漏れぬよう‶魔術式〟により完全密室状態となっていた。
「それで、貴方の御子息‶マスティマ ヴェルハディス〟と言ったかね。かの世界にて大戦まで引き起こした大厄災存在。それが今回の消失事件の首謀者だと…?」
「ああ、昔は物静かだったんだけどねぇ…思春期特有なのか、突然の反抗期。極悪不良仲間を大量に引き連れ大暴れ。あれにはかなり参ったねぇ」
「大変だった様だね……。それで昔とは、いったいどれぐらい前の話なんだね?」
「ん? ああ、えっと千年くらい前?」
「………」
「で、フルボッコからのグルグル巻きにして亜空間にぶち込んだんだけど、おそらく、次元転移可能なお友達に救われていたんだろうねぇ。そこから陰でこそこそしていたのが、根はパリピな様で今回派手なお祭り騒ぎ。ご丁寧にボクの動きを封じてね」
「……なるほど。それで私の暗殺を阻止するべく、御大自ら護衛に就いていたのか。裏を返せば、シークレットサービスどころか、ギルドの面々にすら対処できぬ程の脅威に狙われていると云う事か……」
ここ数日前からテイラーは、公務の際や移動中に何度か命を狙われおり、同行するシークレットサービスや、ヘルメスによって未遂で済んでいるが、気が気では無い状況。暗殺犯を取り押さえても速攻自殺か、重度の薬物中毒者。問い詰めても言動は意味不明、素性も身元も不明。故に雇い主は不明。と、不明尽くし。
だが、大賢者王を舐めプしてもらっては困る。それはまるっとお見通し。
「ああ、まぁそれなんだけど、問題はその暗殺の手の出所。ボクらギルドの対極組織──【暗黒政府】の存在なんだよねぇ。マー君、いや愚息は、この連中と繋がっている様で、全く困ったもんだよぉ」
「暗黒政府……。各国々の闇世界を全て統括し、各紛争の火種を植え付け、表政府や経済にも大きく影響を与える裏国際政府機関か……。大統領就任の引継ぎの際、前大統領からも「暗黙厳守とするべし」と、代々からの不文律の言伝を受けていたが……もしや、先ほどの対策会議の中にも其の手の者が?」
「確実にね。ぶっちゃけると地球人じゃなく‶異星人〟だよ。それも複数いたはず。暗殺未遂犯の方もそれ関係だねぇ」
「は!?」
サクッと爆撃発言を投下され、大統領とは思えぬ顔芸を披露するテイラー。
「厳密に言えば、その異星人の本体ではなくAI搭載の擬態か遠隔操作の分身個体。完全に地球人のDNAを基に造られているから、判別が付かないんだよねぇ。因みに、よく知られる宇宙人タイプは人造生態機械。それらの製造者であり本体は──‶ミ=ゴ〟。クトゥルフ神話所以の‶暗黒星ユゴス人〟だよ」
「………」
畳み掛ける様に語られる驚愕の事実に、言葉を失い顔芸選手権中のテイラー。
更にヘルメスは、重ねてダメ押しで語り続ける。
「彼らは、大戦前から一部の‶権力者〟、暗黒政府の母体となる俗に云われる『秘密結社』の類と接触し、技術提供を餌に取り入っていた様なんだよねぇ。その一つが貴方も知る‶エリア51〟。地球製‶超航空機〟開発やステルス機開発もその一端だったはずだよねぇ」
「ああ、最極秘で当時の政府と‶地球外知的生命〟とのコンタクトから始まり、技術提供など協力的な友好関係を築いていたのは、裏で私も認知するところ。
‶ロズウェル事件〟にて一部、表沙汰になってしまったが、実際には更なる深部である‶闇政府〟との繋がりであったか……」
ロズウェル事件は、1947年にニューメキシコ州ロズウェル付近で墜落したUFOが米軍によって回収されたとして明るみとなった事件。
「それと、大戦中1943年の‶フィラデルフィア計画〟。その計画内の【フィラデルフィア実験】。あの件はフィクション映画の題材にもされていたよねぇ」
「ああ、あの映画なら私も観たよ。うろ覚えだが、乗員二人が未来にタイムスリップと言った話だったかな?」
「真相を語れば、あの計画はミ=ゴが指揮するグレイ監修下、異世界と地球を繋ぐ【ゲート】展開実験だよ。場所はフィラデルフィア海軍基地ドック。この実験にて、駆逐艦エルドリッジが360キロ離れたノーフォックのドックへ瞬間移動とされたのは、‶異世界転移〟から帰還した際のポイントの誤差によるものだよ。あれで結構大騒ぎになって、計画は一旦中止となったんだけどね」
「…… もしや、現在に於いても度々発生する【ゲート】の原因元は、それなのか!?」
「だねぇ。で、20年後に計画が再開。それの第二次実験が同州、フィラデルフィアから北西ルートで138km。コロンビア群‶セントラリア〟。表向きの政府発表では坑内火災で退去勧告とされていたが、実際には、住民諸共 町一つが転移消失。
再び現れる事は無く、何処かの異世界に未だに取り残されたままだよ……」
「……セントラリア消失の件は、原因不明の超自然現象として私も知り得ていたが、非公表の真相はそう云う事であったか……」
「更に問題なのが、セントラリア消失は1962年。この翌年に貴方も含め、世界中にも周知される重大事件が発生していたのはご存知だよねぇ?」
「翌年…つまり1963年の重大事件……‶ケネディ大統領暗殺事件〟か!!」
「その通り。彼が暗殺された理由は、その真相をメディア発表しようとしたからだよ。同時に彼は【暗黒政府】を公表し潰すつもりだったようなんだよねぇ」
「そうであったのか……」
「だが、それは大統領と言えど、触れてはならぬ人外領域。その【ゲート】に踏み込もうとした結果が、それだったんだよ。あの当時、ジョンもボクに一言相談してくれれば、救えたかもしれないんだけどねぇ。今でもそれは悔やまれるよ」
「………」
「しかし、その後処理から撤収と隠蔽まで、何ともな手際の良さ。暗殺犯の‶オズワルド〟は、速攻逮捕。そのオズワルドも二日後に情報隠滅の為だろう、大大的にTV中継の最中に‶ジャック・ルビー〟により殺害。それでオズワルドの正体というのがミ=ゴが造り出し、射撃MODを付け加えたほぼ人間と変わらない‶人造人間〟」
「な!? 彼がホムンクルス!? では、ルビーの方も!?」
「いや、ルビーの方は、反社組織の純粋な人間だったけど薬物中毒にて洗脳し操作。ご丁寧に癌細胞を注入され、その後に肺癌による肺閉塞症にて病死。ってな訳で、事件真相は完全に闇に葬り去られたって寸法なんだよねぇ」
「………」
「おまけに様々な憶測、陰謀論を流布。オズワルドを即時に消さなかったのも、TV中継中のその殺害も、世間一般へ多様な推測を建てられるよう餌をばら撒いたんだろう、情報を攪乱させる為のこの用意周到な徹底ぶり。全く御見それだねぇ」
「……なるほど。その様な組織と御子息が繋がっていると……しかも敵対関係。
そんな貴方と友人であり協力関係でもある、世界最大の軍事力を統べる合衆国大統領である私が、当然邪魔となった訳か……」
「まぁ、そんなところだねぇ。すでに標的確定だから一蓮托生、逃れられない状況なんで、誠に心苦しい部分なんだよ、ごめんね ごめんねぇ~~~~~~!!」
「………」
U字な工事風に「こいつ、真面目に謝罪する気あんのかよ?」と疑問のテイラー。
「まぁその代わり、直のご家族共々、がっつり守らせてもらうよー!ご家族の方々には‶勇者級〟の護衛を数名就かせてるんで安心していいよ」
「その面では、実に感謝するよ ワイズマン。しかし、それでは‶煉獄〟に転移させられた兵士たちは……」
「ああ、その点で、救出の為の下準備に少々時間が必要でねぇ。今回の件に関して転移は想定外だったが、予めある程度の情報を得ていてねぇ。それで消失した作戦部隊の中に、一応うちの手のもんを3名ぶち込んでいたから持ち堪えられると思うが、多少の犠牲は覚悟してもらうよ」
「それは致し方が無かろうからな。それと3名? 以前より我が合衆国軍に組み込まれていた‶ギルドの戦士〟か……。と言うと、あの‶ハイエルフの王女〟も?」
「ああ、‶リディ〟の事だねぇ。当然! あの娘は【勇者】兼【大賢者】の特性を持つハイブリッドな超ユニーク存在。うちの馬鹿息子も、腹の中に溶岩を詰め込まれた様な、おもろ状況に陥るだろうねぇ!うひゃひゃひゃひゃ!!と、言うかテイラー君!」
「むっ!? なんですかな、ミスター?」
「お宅のところにも、何やらエグそうなのが、消失した作戦部隊の中に紛れているじゃないですかアハン? まさか、ボクにも内緒の大隠し玉を置いていたとはねぇ。明らかな人外存在。確かその異名は──【雷神】だったかなぁアハン?」
「ああ、まぁ……存じていたかミスター…面目ない。海兵隊武装偵察部隊フォースリーコン所属‶トオル・クガ・クレイン〟上級曹長。彼については、何も意図せず偶然にも入隊していたイレギュラーな存在。こちらとしても全くの未知数。とりあえずは、動向を黙認しつつ、精査要対象であったもので……」
両手の人指し指を合わせ、モジモジクルクル回しながら、申し訳なさげのテイラー‶THE合衆国大統領〟。
「言い訳がましい御託云々は結構。御身を含め、ご家族護衛の報酬として、彼はこちらの陣営でもらい受けるんで、 よろしいデ・ス・ネ。ア~ハン?」
「そんな御無体な……ハイ、すいません。よろしくどうぞ!」
いずれ、トールを直属手元に迎え入れるつもりであったが、えげつないオーラを放つヘルメスに、当然 拒否は無理ゲー。脅迫とも取れるが、愛する実の家族と天秤に掛ける事は出来ず、已む無く承諾するテイラーであったそうな。
「ん~~~、なんか同じところをぐるぐる回ってるような気がするでやんす……」
それは、煉獄地下迷宮にてトールたち幻浪旅団の痕跡を追うミ=ゴ。黒鉄と弥宵が仕掛けた隠蔽用影忍術にて堂々巡りの真最中。
「そう言えば、セクター40の方にも‶家畜〟が放り込まれた様でやんすねぇ。
あのエリアは、過去に協力していた地球人側のゲート展開実験で、偶然【混沌門】が開いちまって、町一つが転移に至ったって事でやんしたねぇ」
と、云う訳だ。
ここまで拝読ありがとうございますm(__)m
作中にある「セントラリア」は、実際に存在しておりまして、ホラゲーの「サイレントヒル」のモデル地でもあります。
実際に1962年に発生した坑内火災の影響で、ほとんどの住民が退去し、ゴーストタウンと化しました。 火災は今もなお鎮火されずに燃え続けており、100年以上続く可能性があると言われています。なので住民の方々はご無事で、異世界などには転移などしておりませんので、あしからず(-ω-)/