第111話 ウォーミッション スタート
バン!!──キン!!
「あー、いい加減その臭ぇー肛門口を閉じろ。それ以上クソをまき散らしてーなら便所にでも籠ってろ──邪魔だ」
いつまでもベラベラと語るガリ夫を黙らせる為、トールは何ら付与はせず、シンプルにハンドガン一発を発砲。
勿論これで殺せるとは思ってはいない、ワンチャンやれたらラッキー。現に銃弾はあっさりと腕で弾かれた。
「ほう……この状況を理解できずに無謀にも抗うか。……虚けめ、犬どもの力を過剰に過信し増長したようだな。これほど地球人とは無知にして無能、全く救いよう無き最下劣種であったか」
ウルフ旅団72に対して、敵は凡そ6万の大大大軍勢。圧倒的な戦力差によるあらゆる行動の完全抑止の状況。
その絶望的な状況下にも関わらず、無意味とも言える些末な抵抗。45口径弾丸であろうとガリ夫にとっては正に豆鉄砲。更に優に事欠いての言い回し。
余りにも向こう見ず、無知蒙昧と言わんばかりの愚行に憤るどころかほとほと呆れ果てた様子を見せるガリ夫。
「おい雑種。折角少しでも生き長らえさせようと対話を興じておったが、その恩情を無下にされるとは甚だ心外。よかろう、即座に──」
バン!!バン!!──キン!!キン!!
「はいはい、もういいって。とっとと掛かって来いや便所ハゲ」
ガリ夫の御託はもううんざりだと、最後に言いかけたキメの言葉を、更に頭部目掛けて2発発砲と軽口でインターセプト。ガリ夫は、その2発も顔の前で左腕を左右に振り容易く弾いた。
「……なるほどね」
そう小声で何かを理解したかのように呟くトール。一見、ガリ夫への挑発行為のように見えるが別の意図があるのか?
「…………愚かな」
これまで余裕綽々、揚々と便──もとい、弁垂れていたガリ夫だが、畳みかけるかのようなトールの口撃&物理攻撃合わせの煽りMOD炸裂。
これには、さすがに憤りを露わにし、禍々しい深紅色のオーラが湧き立つ。その業火の如きオーラに、敵軍勢たちも煽られ盛大にイキり出した。
{{{{{{{{BARUBARUBARUBARUGURARARARA}}}}}}}}
⦅⦅⦅⦅⦅⦅⦅HOU!HAU!HAU!GYHOU!GURAHOU!⦆⦆⦆⦆⦆⦆⦆
〘〘〘〘〘〘〘RASSUNGORERAI!RASSUNGORERAI!!〙〙〙〙〙〙〙
ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!
ガチン!ガチン!ガチン!ガチン!ガチン!ガチン!ガチン!ガチン!
ガリッガリリリリ!!ガリ!バキバキキキリリリリ!ギリリリリリリ!!
異形軍勢はドス黒い瘴気オーラを纏わせ「早く喰わせろ!」と、唸り喚き極大混沌合唱。
更に、鋭利で狂暴な牙を火花を散らせ噛み鳴らし、不快極まる大不協和音が一帯に響き渡る。
『『『『『『グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル』』』』』』
ヒュィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!
大狼たち生粋の狩人たる戦闘騎は、ついに解き放たれるかと気炎点火。脳内蓄圧器により高圧縮された怒気を闘気に変換、燃料が供給され戦闘態勢起動。
小気味いいターボファン回転音のような闘気解放ワオン(犬種だけに)を響かせ発進準備オーライ。
「ふん、戦力と語るのも烏滸がましい。その矮小なゴミくずの集まりが獄炎大海原にどう抗うか見物ですね。」
ガリ夫は右腕をゆるりと垂直に掲げ上げ、会戦開始態勢。
「これで容易く片が付くと思いますが──もう、面倒ですのでエルフ以外は殺して構いません。では本陣、右翼、左翼の第一陣から先陣隊 各1千囲い攻撃用意!!」
ドゥルナスからの指示命令では、エルフ以外は余り重要視していない。一部は残すようと言われたものの適当。勢い余って殺してしまったで済む話。エルフさえ手に入れれば、他に意識は向かわないであろうとのガリ夫思考。
戦略に於いては「72の小粒相手に6万を超える戦力は必要無い」と、全軍部隊を揃えたのは、あくまで武威を示す為の絶対的な威力抑制が目的。
「鈎形陣」もしくは「鈎型陣形」と呼ばれる布陣にて、中心本陣第一軍3万。右翼第二軍1万5千。左翼第三軍1万5千。
ホムンクルス、キメラ以外の煉獄既存生体種である「遊兵軍」が各軍に1千ずつ後続に配置。余り端数は省略し総勢6万3千。
地球の軍事戦闘教義における基本ランチェスターの法則。連立方程式に基づいた数式理論では、兵員と装備の物量が大きければ大きいほど戦闘力は向上するものとされる。
それは、複雑な魔術体系のある異世界で於いても、その定義の例外には至らない。魔術は魔力量に依存した「装備の物量」に当てはまるからだ。
ドゥルナス軍 第一から第三各軍部隊から先陣隊を1千ずつ計3千。旅団の約42倍。
ガリ夫は、通路内での前哨戦から旅団の戦力を分析し、この圧倒的な物量の中から制圧可能な凡その戦力を算出。確実性も考慮し余剰戦力も加えてこの数。例えこれを上回ろうとも、即座に連続した増援が可能。その波状攻撃の前では、嵐の大海原に漂う小舟のようなもの。
これを覆すことは絶対的にあり得ない、戦う前からすでに帰趨は決しているとの結論に至っている。
つまりこの戦いは、大規模戦闘に備えたドゥルナス軍の陣形形成を用いた軍事訓練であり、ガリ夫にとっては単なる暇つぶしの余興、鬱憤晴らしの娯楽でしかないとの考えだ。
そうした内心熟考の中、ガリ夫は十分な間を置き、その掲げ上げた右腕が動き出す。
「…………」
それに対してトールは、その状況を無言で見つめ泰然と自然体の構え。唯見つめると言うよりは観察し思考を巡らせている様子。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
敵味方共に放つ強大なオーラ波動が混じり合い渦巻きうねり、辺り一帯の大気と大地が大きく震え鳴動する。
互いの重圧力が激しくぶつかり合う中、ガリ夫の腕が振り下ろされ前方を指し示す。
──Mission3 Final Phase War Mission Start!!
「すり潰せ 」
{{{〘〘〘⦅⦅GORUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!⦆⦆⦆〙〙〙}}}
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
ガリ夫の会戦開始号令に、盛大に沸き立ち呼応する異形軍勢。そこから先陣隊3千が異様極まる各動きで駆け出し、轟音と共に土煙を上げ進撃を開始した。
その距離は、まだ約300m程はあるもの、各サイズと数もあってか遠近感が惑わされる。
前に出ていたガリ夫はGO令後に踵を返すと、何事も無かったかのように悠々と本陣の方へと戻っていった。
『やっと敵陣が動きだしたようでございますね。しかし、私もこれほどの数を相手にするのは初の事、如何な陣容で臨みますか? 団長』
「何か色々と考えているようだけど、そろそろ動かないとすり潰されるわよ」
すでに会戦の陣鐘が鳴らされ敵接近のレッドアラートが響く中、旅団大狼戦闘騎たちもスクランブルGO待ち、地面を前脚で掻いている状態。
トールは通信機をONにし、全隊通信チャンネルで全員に聞こえるように語り出す。
「あー、お前らクッソ腹減ってんだろう? 敵游兵軍の中には、珍妙にイジられてねー美味そうなのが結構いんぞー。戦勝祝いも兼ねて今夜のメシは豪勢になりそうだなー」
『『『『『!!!!!!!!』』』』』
これを聞いて大狼たちは、戦意でねじ伏せていた空腹感が一気に雪崩れ込み、狩猟本能が爆発的に叩き起こされた。
──【気焔衝天】LV2効果発動 ‶重ね掛け〟
重複された強化付与により、その闘気オーラは爆炎の如く強大化。爆風を伴い周囲の地面を抉りながら薙ぎ払う。
『『『『『ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!』』』』』
「ハハ、 オーケイ! おーし、大体の戦略は定まった。まずは黒鉄、早速だがお前の背を借りんぞー。リディは弥宵に騎乗」
『『御意!!』』
「イエッサー!……フフ、楽しそうね」
敵先陣が攻め入り接触間近の中、トールは黒鉄の背に悠々と乗り跨り、リディも弥宵に楽し気に騎乗。
「陣形は縦陣のまま、トップは俺が先導し要所で指揮を執る。ウルフ2はそのフォロー。その後列にガルムとトアチーム。朔夜には火器管制っつうか、攻撃指揮を任せる」
『了解!!』
『イエサッサー!!』
「アントンからノルドポールは、2チーム並列でガルムとフェンリル2に続け。最後尾はカレンチーム」
『『『『『イエッサー!!』』』』』
「フェンリル1-1には殿を頼む、この【龍陣】尾の先は獄炎仕様だ──エグイだろ?」
『イエサッサッサー! 頭のおとたまの方がクソエグイのー!』
「やかましい! うんじゃあ、作戦概要は走りながら簡単にすんぞー!
全騎 微速前進!!」
『『『『『ウォン!!!!』』』』』
この三方向から押し寄せる異形大津波の第一波。正面第一先陣隊に向け、緩やかに駆け出る戦闘騎たち。その陣容は黒鉄に騎乗するトールを頭部とした龍が如し。
兵を隊ごと縦一列としたこの陣形。「縦陣」「長蛇の陣」「ライン オブ バトル]
などの呼び名があるが、この陣容に名付けるなら──。
──狼龍の陣
トール騎は布陣を先導しながら、大まかな初手作戦概要を魔力通信機にて隊全体に早口、手短、簡潔に説明した。
この間にリディは、トールと自分のアサルトライフルに強化付与を施しアサルトレールガンと化す。
「──と言う流れだ。兎に角敵は数が多い、継戦維持のため魔術は極力低燃費のものを使用。でかいのは後に温存だ。いいな?」
『『『『『イエッサー!!』』』』』
魔力通話により大狼たちの言語化された明快な呼応。いつの間にか米軍式になっている。
{{{{{GYRUAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!}}}}}}
悍ましい雄叫びと共に、真正面 第一先陣隊との接触寸前、その距離10m程。
「会敵! フォーメンション右斜線陣!《《ドッグ》》ファイト開始!」
ここで陣変形、各チームが左側に段階的にズレ、右斜めに傾く陣形。
(|→/)な構図。
この陣形は「雁行の陣」または「斜線陣」英語圏では「エシュロン隊形」と呼ばれる。
陣形形成直後、大狼たちの顎が大きく開くとその僅か前方に各属性、色とりどりの魔法陣を展開。
『左列隊、各三連 【餓狼哮弾】!【餓狼哮刃】!』
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
火器管制官 朔夜指揮により、左列側に並ぶチームから炎、氷、岩 金属弾に風刃連射撃。連続したガトリングのように聞こえるが、各三連射で魔力節約。
制限ながらも全てジャイロ回転。強化により音速を超え、えげつない破壊力でキメラたちを木っ端微塵に薙ぎ払う。凡そ4分の1を削ったところで。
「右方向転換! 敵左翼に向かい狼龍!!」
第一先陣隊には、まだ多数の残存しているもの、再び狼龍陣に戻り右側の敵左翼、第三先陣隊へと突撃。
その最後尾、殿を務めるカレンの許に、第一先陣隊 複数のキメラらが左背後から襲い掛かるも。
『──【火神焔鎌】』
カレンの紅尾が激しく燃え上がり、その劫火は高く聳え火焔の大鎌と化した。
──シュン!
と、横薙ぎ一閃。
ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
カレンに襲い掛かろうとした複数のキメラを瞬時に両断。その爆炎衝撃波の勢いは止まらず後方も巻き込む。その焼夷燃焼が広がり阿鼻叫喚の地獄絵図。
これにより第一隊は半数まで焼け死に、その数は1000から500以下まで減った。
この狼龍、獄炎纏う尾の先端に触れようとすれば、劫火の焔でその身は全て焼き尽くされよう。
「ハハ、ナイスケツ持ちだカレン! 次は敵左翼をぶち抜くぞ!」
ヒュィィン…… ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!
グシャ!!ブシャ!!ドシュ!!ベシャ!!
トールとリディが持つアサルトレールガンM27IARとMk18の単射撃。狙うはキメラではなくホムンクルス。
次々と白濁色のホムンクルスは、頭部から胸元下に掛けて弾け飛ぶ。勢い余って後方連なるキメラたちまで貫き、肉片を飛び散らせる。すると、他のキメラらの攻勢の動きに揺らぎが生じた。
『何たる慧眼! 団長殿のおっしゃった通り、アレらは各指揮系統の頭でございましたね!敵勢が乱れております!』
朔夜が感嘆する中その乱れに乗じ、黒鉄騎と弥宵騎の狼爪で混乱したキメラたちを切り刻み、左翼第三先陣を一気に突き崩す。この間に後列の大狼騎たちは周囲に各咆哮弾をばら撒き、蹴散らしながら突破した。
全騎通過後はカレンの紅尾 火焔大鎌で斬り燃やし、残存の追撃を遮断する。
『いやはや、これ程の数を無傷にして最小限にて容易く突破できるとは、何たる知略と手腕でござるか! 団長殿には某、誠に感服したでござる!』
「あー、戦はまだ始まったばかりだ黒鉄。褒めんのは全部終わってからにしてくれ」
これだけの数の軍勢、例え異形の集団であろうと陣形まで形成している。だが、ガリ夫一体だけで6万全てを緻密に統制することは不可能。それらを機能させるための指揮系統が存在するはず。
トールはこの点に着目し、俯瞰状況管制を展開。それは一目瞭然であった。
キメラ種は様々な生物の合成体。それら各々の自我が存在すれば、一つの生体としてまともに成り立つとはまず考えられない。
それらを機能させるために共通本能だけを残し、命令に忠実なAIのような単純知能プログラムが施されていると想像できる。
それに対してホムンクルスは単体生命。ガリ夫のように人種同等の高い知性を持ち、明確な言語を用いてる。現に各キメラ部隊を忙しく指揮していたのが見られた。
ならば、それら指揮系統を破壊すれば、部隊としての機能は容易く崩壊するであろう。加えて、リディを無傷で捕らえると云う足枷までご丁寧にぶら下げている。
そして、数に対抗するならこの陣営の超速脚を活かした高機動戦──と、超高速解析。
「何を思案していると思ったら、敵勢の動きを観察、瞬時に情報分析を行い作戦プランを練っていたのね……貴方の戦闘IQは一体どれほどの数値になる事かしら……」
「あー、見てればお前もすぐ分かっただろう?──よーし、全部隊に達す!
戦況の穴を常に見極めろ! あったら許可は要らねー、各自の判断で躊躇なくぶち込め! それだけの知略をお前たちは持ち得ているはずだよなー!」
『『『『『アイ、イエッサー!!』』』』』
「オーケイ!!」