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モータルワールド~現代チート?海兵隊超兵士の黙示録戦線~【修正版】  作者: うがの輝成
第5章 アビス ウォー 絶界の戦い
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第109話 スクランブル イエーガー



 トール指揮の下、地下監獄エリアにてわーわーブリーフィングを行っていた頃。

 

 その奥地の敵拠点、謎施設内。幾つものモニターが並ぶ8畳ほどのルーム内にて、背の低い歪な何者かが、ゲーミングチェアかのような椅子に座り、何やらもぞもぞと蠢いていた。


 各モニターには、奇妙な生物画像やその合成3Dモデル画像。古代語交じりのDNA情報、何等かの周波映像。生体研究と思われる各種映像が映し出されていた。

 この部屋は、その何者かのバイオデジタルラボのようだ。モニター群の中、左脇の24インチサイズの小モニターには、トールと大狼らのわいわい映像が映し出されていた。


 しかし、その何者かはそれには全く気付いていない。メイン大モニターの映像に夢中のようで不気味に呼吸を荒げている。モニターからは激しい嬌声が響いていた。

 そのメインモニターに映っているものは、バイオ研究とは全くの別次元の映像。

 

 それは──地球のアダルトなんちゃら動画。周囲には何やらなティッシュが散乱している。


「はぁ~、まんずヴェルハディス様は正に神だべや~! オラにこんな至高なものをお与え下さって、全くありがてぇべや~」


 その何者かとは異世界(ヒュペルボリア)にてとち狂い、盛大なやらかしの報いを受け、死後に煉獄送りされたドゥルナスであった。 


 ウイイイン。と、突如背後でSFじみた自動扉が開いた。


「ドゥルナス様。 侵入者が素体らを解放し徒党を組んで、こちらの区画に進んでいる模様ですが如何に対処しましょうか? 一応、防衛隊を待機させ迎撃態勢を整えております」


 ドゥルナス憩いの一時(ひととき)の最中、そんなものは只の排泄行為と我関せず、必要事項のみを淡々と告げる異形の人型生物。

 

 体長は190cm前後で直立状態。細身の全身青み掛かった乳白色。肋骨から肩に掛けて太くゴツゴツと浮き出た骨格は鎧のような形状。

 上腕部から手に掛けて金属のように硬質化されており、鋭利で歪な形状をしている。

 頭部は流線形ヘルメットのような形状で、幾つもの眼を覗かせており、その各眼が別々に不規則に動き、常に周囲を忙しく見回している。

 鼻は無く、口部は赤々とした歯茎がむき出し、人種の歯に似ているが不自然に長い。その人型異形生物は、ドゥルナス側近の【人造生命体(ホムンクルス)】。

 

「バガがぁああ!! いぎなす(いきなり)入ってくんなって何べん言わせんのや

『ガリ夫』! ノックすろつったべやぁあぶっうおおがあお!!」


 何やらな行為中、突然入室して来たオカンに見られた中高生かのようにドゥルナスは慌てふためく。

「ガリ夫」と呼ばれるホムンクルスに憤りながらも動画を緊急オフ。わたわたとパンツを履く途中、派手にすっ転んで傍のデスクに頭部を激しく強打。 


「あでででで……」と、頭部を抱え激痛に藻掻くドゥルナス。


 その様相は奇妙奇天烈。黄金ならぬ、暗黒比率の歪顔。下っ腹は丸々と肥え太っているが脚は細い。左腕二本、右腕一本の三本腕もあれだが、着ている衣服も珍妙。

 全身赤を基調とし、タイトなパッツンパンツ。革製の靴はつま先がクルンと上向き。派手で目立つ意匠の上着。

 歪な頭部はてっぺんが禿げ、雑草色の長い襟足の落武者ヘアー。その上にツインテールのような角先に毛糸のボンボンが付いた帽子を被っている。所謂ジョーカー道化(ピエロ)衣装。


「はぁ……自動ですので、ノックする前に勝手に開いてしまい……何度も言っておりますがドアロックをすれば済む話かと」


 然もありなんである。


「……くっ、ば、バガがぁ! うるせぇ、くづ(くち)答えすんなっつの!! ぬっさ(てめー)ぷったづげっつぉ(ぶん殴るぞ)ー!!──ったく、んなごどより侵入者だっつったが?」


「ええ、こちらで一早く警報(アラート)が鳴っていたはずですが、お気づきなりませんでしたか? 私方には【素体収容区画】にて、騒ぎを聞きつけた者からの報告でしたが、まさか拠点外部の『栽培用プラント』への連絡通路出入口から侵入されるとは……術式施錠はされていたはずが」


「はあっ? なんだがピーピーうるせぇがら、すぐ消すたげんともあれがや!?」


 どうやら、修道院が建てられていた地下自然ドームは、素材栽培用プラントエリア。トールらの進入ルートは全くの想定外であり、警戒体制も手薄の模様。

 だが正規、裏ルートに関係無くドゥルナスに取っては初の侵入者。その警報に気づくも、はてさて何の事やら?と、真正のアホんだら。   


「つうが、あの辺の通路に今日造ったばっかの『クサ太郎』を放し飼いにしてだべや! あいづは、いったい何してだのや?」

「まぁ状況的に、すでに撃破されたと見て間違いはないでしょう。あれには、部外者に対して攻撃プログラムが施されてましたからね」


「なぬや!? ばぁあ、ただ臭ぇだげで全く使えねぇべっちゃ! あの‶地球人〟つったべがや? それの兵隊さんだっつうがら、ワンコロだづと合成したげんとも、まんずダメダメだべっちゃあ」


「兵士と言っても非常に脆弱でありましたからね。ヴェルハディス様の術式により、地球なる異世界から素体を入手できましたが使えぬ人種。まだ犬どもだけの方が遥かにましなようですね」


「あの地球人だづ…やっぱ【魔力回路(マナサーキット)】が無ぇどダメだべだや。代わりに【瘴気呪詛】を使ってみだげんとも、ワンコロだづとの同調率が甘ぐなってすまったべがや……」

「瘴気呪詛……。なるほど、皮膚が爛れていったのはそのせいでしたか。あの辺りは、上の聖域の影響がまだ強いですから、呪われた生体にとっては最悪の場所かと。容易に屠られたのは、その弱体化が原因かと思われます」


「マジがや…んなごど、知ゃあねがったべっちゃ……。んで、その侵入者って何者だべだがや?」

「ええ現在、外は‶裏返り中〟おそらく非難の為に入り込んで来た者らかと。この拠点は修道院側の聖域効果とは別に、ヴェルハディス様の術式による亜空間化で裏返りを断絶している状態。そして、その者らの姿なら、そこの監視映像にすでに映ってますけど……全く視ておられなかったようで」


 何やらな動画に全集中、汚水の呼吸をしていたドゥルナスは、左手側の小モニターに映し出されていた「ウルフ旅団」の行軍映像の事など、ノー眼中で露知らずであった。


「あいや、きづがねがったや(気付かなかった)……。誰や? オラのワンコロだづを連れでんのは…? ああ、あいづらがぁ。つが、あの恰好…地球人の兵士だべがや? 」

「そのようですね。キメラ素体にした者らの同族かと。しかし、犬どもは何故にあのような下等な脆弱種に懐柔させられているのやら?」


「知ゃあねっつの。それより、逃げねで何すっぺってこっちに向がってんのや? はい、バガちた(バカが来た)。なんも知ゃあねで、バガでねぇのすか?──つうが……」


 無数の兇悪な生命体が根城にしている危険エリアに、意気揚々と足を踏み入れるトールらを無知な愚か者と(あざけ)り呆れていると、ドゥルナスはその中の一人に目を奪われ、歪な双眸を大きく見開く。


「あいや、あったげめんこい(めっちゃ可愛い)おなご(女子)だべっちゃ!! って、あれエルフがや!? あの恰好…地球にもエルフって居だんだべがや?」

「それは知りませんが、地球の兵士と同様の装いですね。地球産のエルフでしょうかね?」


 ドゥルナスとは、完全真逆の容姿。そのエルフ、リディの幻想的な美しさに心を奪われ涎を垂らし、下卑た笑みを零すと。 


「フへホヒヒヒ……よーす、チメだ(決めた)! あのエルフさぁ、オラの嫁ごさにゲットだべぇ! ──おい、ガリ夫!! あのおどご()はぶち殺すてもいいべや。エルフの方は、無傷で丁重にオラんどごさてで(連れて)来い!」

「了解しました。それで、犬どもの方は如何な処置を致しますか?」


「ああ~、適当だべや。優秀そうなやづは残すて、あどはキメラだづの餌にでもしとげや」

「了解です。では、直ちに処理に取り掛かります。そうお時間は取らせませんので、エルフの方はお寛ぎになってお待ちください」


 ドゥルナスは、リディ以外の対応は適当に指示し、了承したガリ夫は即座に踵を返し部屋を後にした。


「はぁ~堪んねぇべや。ついにオラも家庭持ぢがやぁ……フヘホヒヒヒヒ!オラ、何だがワグワグすてきたずぉおおお!!」


 

 と、言うような輩どもが蠢く拠点に、いざ進軍のウルフ旅団。監視の目がある事にトールは気づきつつ、まずの訪れた先で開けた空間にて。


「あー、マジか……何だこれ? 今度はSFかよ!」


「SFでも、バイオホラー方面のようね……」


 そこには縦横、無数に並ぶ、直径1.5m程の円柱型のアクリルガラス製水槽群。その翡翠色の培養液に(ひた)された各水槽には、多種多様の悍ましい異形生物らが眠っている。水槽下部には幾つもの黒い蛇腹パイプが繋がっており、床全体に複雑に張り巡らされていた。


 それらは、ドゥルナスが【ナコト写本】の秘術により精製したホムンクルスやキメラの幼生体。成長すれば、どれだけの巨体になるやも計り知れぬ幼生個体も幾つか見える。


『何とも醜い生体らで在りますね……。喰らう気にもならぬ面妖たる異形』

「あー、腹壊すからやめといた方がいい……こいつらは後で纏めて消去(デリート)だな」


 行軍先頭を歩く、朔夜の呻きの呟きに、胸クソ悪げにそう答えるトール。後方に続く大狼たちも無言ながらも共感し、険しい表情で頷いている。

 放置すれば、いずれ脅威となる事は確実。状況が片付いた後は、必須の戦後処理案件である。


 ここでの戦闘は避けたいのであろう、今のところは敵の攻勢は無く、静寂そのもの。だが、この先に大量に待ち構えているのはすでに感知済み。

 一行は、その反応に向け迷わず進軍を続け、臨戦態勢を維持したまま、このエリアを後にする。


 進んだ先は、六角形型の金属製通路。大型車両2台分は優に通れる車道トンネルサイズ。その造りは、青系色の照明が連なるSF映画宛らの近未来的な建造形式。

 これまで、進んで来た通路は全体的に幅が広い。その運用目的は平和利用ではない何らかの規模に合わせ建造した事が想像できる。

 

 この通路に於いては、激しい戦闘にも耐えうる強固な金属製の造りとなっている。つまりは──。


「あー、やっと動き出したか。奴らの迎撃防衛ラインに踏み込んだみてーだな。

──来るぞ!」


 ──ENGAGE!


{{{{{{GUROROROAAAAAAAAIEEEEN!!}}}}}}

 

 接敵状況ながらも静寂が続いたが、ようやくの近接会敵(エンゲージ)。悍ましい咆哮を上げ、来るわ来るわと現れ攻め入って来る異形のホムンクルスと、様々な謎生物が融合したキメラ軍勢。

 

 だが敵側では少々面倒な指令を受け、攻め手に若干躊躇の色が見える上に、戦略性が感じられぬ。各自暴徒の如く自由気まま、数に頼った混沌わちゃわちゃ無陣形。

 トールら陣営では一切の加減は不必要。完全殲滅目的の布陣。当然、躊躇などの足枷(あしかせ)は一欠けらも皆無。目の前の敵をただ屠るのみ。この意識の差は果てしなく大きい。


「──狩れ」


 トールの静かながらも重厚かつ威厳に満ちた、(ただ)一言の攻撃開始命令。


『『『『『『イエッサー!!!』』』』』』』


 通信機から言語化された揺るぎなき快活な呼応と共に、解き放たれた獰猛な狩人(ハンター)の群。

 

 トールら総指揮『ウルフリーダー』チームを後に、朔夜率いるガルムチームを先陣に続く大狼各チーム。敵地攻撃に向け次々と戦闘発進(スクランブル)していく戦闘機(イエーガー)たち。


 ここからは、陣頭指揮権は朔夜に移行。先陣ガルムチームは、朔夜をトップとした菱形陣形ランバスフォーメション。続く大狼チームは、通路幅に合わせ4チーム並列に広がり、先の尖った杭状の布陣隊列に切り替わる。


『──鳳翼陣!!』 

 

 朔夜の号令により、移動陣形から戦闘陣形への移行指揮。だが、通路幅により、ここから布陣の切り替えをするには難があると思われるが、大狼たちの機動は常識論を打ち破るもの。

 後列の各チームが、左右の壁面へと移り駆け出し、重力を無視して流れるように天井にまで広がる。その光景は朔夜チームを頭部とした、鳳凰が翼を広げるかのような美しき陣形。

 

 その同調した機動線はまるで集団演技。壮観な群舞によるアート絵図が、通路内のブルーのライトアップにて壮美に描かれていった。


 対する異形キメラ群の絵図は、何だかよく分からん前衛アートにもならぬ、ぐっちゃぐっちゃの子供の落書き。


 そして、先頭朔夜と同サイズの敵先頭が接触し、切先を交え──れなかったキメラ。


『──冥哭雷』


 ヒュィイイイイイイイイン バァアアアアン!!!


 敵キメラと接触の寸前、朔夜は超速スクリュー、ジャイロ回転。その回転速度は音速を超え、その際の爆発音と共に速度衝撃波(ソニックブーム)が発生。

 そのキメラは、木端微塵に弾け飛び、更に黒き対艦ミサイル(ハープーン)は、ホムンクルスやキメラを粉々にしながら突き進む。それにフォローで追従する、ガルムチームの大狼たちは──。


『『『──餓狼火炎輪(ヴォルローエン)』』』


 ギュルルルルルルルルルル ゴォオオオオオオ!!!

 

 二本の犬歯が曲刀のように長く伸び、超速縦回転。大気との摩擦で発火。魔力(マナ)で火力を上げ爆炎の車輪と化す。

 単独で朔夜が敵に囲まれぬよう、爆炎三車輪は異形生命らを轢き撥ね、切り刻み、燃やしながら朔夜に続く。


『『『──餓狼牙刀(ヴォルシュベルト)』』』

『『『──餓狼爪刃(ヴォルデーゲン)』』』


 更にアントン、ベルタ、チェーザー、ドーラチームの、大狼たちの牙と爪が刀剣の如く鋭利に伸び、攻撃モードに移行。交戦状態に入る。

 対するホムンクルス、キメラらも刀剣のような斬撃系の他、槍のような刺突系、戦槌のような打撃系に多数の触手を鞭剣(ウルミ)ように振りまくるなど、多種多様な殺傷スタイルにて迎撃モード。敵側は、いずれも力に任せ、武どころか知性も感じられぬ、狂った乱雑な在りよう。


 大狼たちは、それらの攻撃を紙一重で全て躱し、牙、爪刀で華麗に受け流す。その動きは洗練された武技によるもの。

 その傍でフォロー役が牽制。敵は翻弄され次々と切り刻み屠られる。攻撃とフォロー役が流れるように入れ替わり、しっかりとトールの指示を反映させている。非常に優秀なチームだ。


『──流星嵐舞陣!!』


 朔夜の次なる号令。壁面、天井を駆ける大狼チームの中から一筋の流星。その落下点周辺がキメラたちの血肉色に弾け飛ぶ。それは、魔術で全身硬質化した大狼による、空対地ミサイル(ヘルファイア)の如き特攻空爆。攻撃後は留まらず、即座に飛び去っていく。

 更に次から次へと大狼ヘルファイアは無慈悲に降り注ぎ、縦横無尽に飛び交う。


 状況の理解もできず、成すすべも無く異形生命らは爆散していく。それは、戦闘とは言えぬ烏合の衆への圧倒的な戦力による蹂躙(ジェノサイド)


「マジか……こいつらエグいな……」


「想定以上ね。しかも、まだ拳を合わせた程度で全然本気じゃないわよね……この子たち──戦略兵器に相当するわ」



            

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