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モータルワールド~現代チート?海兵隊超兵士の黙示録戦線~【修正版】  作者: うがの輝成
第5章 アビス ウォー 絶界の戦い
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第104話 調査報告



「ギュスターヴが民を虐殺し都市を滅ぼしただと!? どう言う事だ!?」


「おーの! まさか、あんなら英雄ちゅうがか!? げに、まっこと信じられんぜよ!」


 テッドから告げられた信じ難い言葉に衝撃が走る。武に携わる多くの者がギュスターヴに崇拝にも似た憧れを抱き、()く言うレオバルトとリョウガもその中に含まれていた。

 その英雄の大義の欠片も感じさせぬ非道なる蛮行は、それまで成し得た偉業も、築いてきた威信も根本から失墜させるもの。


「かの王は、超絶たる武勇と旧思想政権を討ち滅ぼした際の苛烈振りから、荒々しい印象に目が行きがちでありますが、王となってからは良政を築き、国の象徴として民からも厚い信頼を得ていたと記録が残っていましたが……」


「神を憎んでいたとは言え、こうして教会が取り壊されること無く現在まで残っているとなると、信仰も寛容に許し認めていたことになりますわね」


「そのようであるよのう。魔導殺しの異名を持ちながらも、王妃として(めと)ったのは魔術師(ソーサラー)。特に子を授かってからは、周囲が呆れるほどの寵愛振りであったと聞くのう」


「教会での教えでは、そのような穏やかな面の記述は一切記されておりませんでしたね……他国に傍若無人と戦を仕掛け、唯々、悪逆非道の蛮行を重ねてきた暴君であったと教えられてきました」


 レオバルトにリュミエル、ミシェル、ミゼーアら各々が知り得ていた情報から、ギュスターヴの人間像が片鱗ながらも語られた。

 クラリスの認識からは、偏見によるものなのか教会での教えは食い違っており、客観的な歴史書においては、寧ろ人間味溢れる大らかな人格者と言えよう。


 しかし、テッドの情報から見れば、教会側の教えの正当性を立証するかのような魔王の如き所業。一同は困惑と疑念で思考が右往左往、混乱模様が乱雑に描き殴られる。


「まぁ、混乱するのは当然さ。その人格…人間性を根幹から破壊していくのが、この──煉獄の仕様なんだよ」


「「「「「!!!!!!!!!」」」」」」


 テッドのその言葉に一同一様一斉に凝然と固まり、絶望に似た感覚が襲い掛かる。ここに辿り着くまでの経緯は、その仕様を立証するに十分の惨憺(さんたん)たる状況。

 そして、ギュスターヴほどの超越者でも抗えきれずに【亡者】と化したとは信じ難く、何らかの理由で事実が歪められたでは? と、疑念要素の一つを投げかけるレオバルト。


「それらの情報は確かな確証があってのものなのか…? その文献の著者によっては信憑性が不確かな可能性もあるぞ。いったい、どう言った場所で入手したのだ?」


 個人による状況見分であれば、その者の主観で如何様にも解釈できる。教会関係者であれば、組織ぐるみで偏見による記述や情報操作も考えられる。

 情報の正確さを立証するには、客観的視点に基づいた多数の確実な見解意見が必要であるが──。


「あるだろう。各分野のスペシャリストが集まり、各方面のその時々の最新情報が一手に集積される場所が。都市周辺の脅威の種類、戦闘記録も含め、正確な情報収集もその仕事に含まれている信頼できる組織機関──」



「冒険者ギルドか」



「ご名答! と言う訳で俺の得た情報元は、当時の冒険者たちの記録書からによるもので、脚色も着色も無いありのままの事実を語ったものさ」


 レオバルトを始め一同は納得の反応を見せ、その様子にテッドは二つ三つ頷き話を続ける。


「その内容は約2年分。この苛烈な環境の中を2年もよくぞと言うべきか、それとも2年だけしか持ち堪えられなかったと言うべきかは、各々の解釈に任せるが、結局その期間でこの都市は滅びたって事さ」


「当時最強の武力を所持していた国家が、たった2年で滅びたと云う事か……」


 ここからは、ヴィヨンヌ冒険者ギルドにあった煉獄における調査報告書類の中から、各状況を掻い摘んで語ろう。



 第七調査団 都市壁外南方 森林地帯 生態系調査報告。


 ここは、名称不明の原始的な生物が多数生息しており、原始大型肉食獣種の他、大小【原始竜(オリジンドラゴン)】を多数確認。

 草食種類でも気性が荒く、攻撃的な大型種が大多数。肉食種においては非常に狂暴であり、個体脅威度は最低でも中級。だが群を成しており且つ知能が高く、上級の位置づけ判定とする。

 大型肉食種では、下位級であるが【竜魔法(ドラゴニクスギア)】を発動させる種も見られ、通常竜種と同様に上級確定。

 エリア危険度判定はS。下位冒険者の探索には不適格であり、上位冒険者の複数パーティでの探索を推奨とする。



 第八調査団 東方 森林及び山岳地帯 調査報告。


 このエリアでは、兇悪鬼種の群を多数確認。尚、山岳地域では古代期に人類種との大戦にて滅びたとされる【帝國小鬼(インペリアルゴブリン)】の大群と拠点要塞を確認。

 その他にも、ヒュペルボリア現存種とは異なる【獣鬼(オーガ)】【醜鬼(オーク)】【巨鬼(トロール)】の姿も見られ、いずれも絶滅したはずの古代上位種。それらが共存し軍規模の勢力を形成している。

 よってこれらの討伐には軍規模部隊が必要となる為、エリア危険度はSS。


 

 第九調査団 西方 森林及び丘陵地帯 調査報告。


 このエリアは、亜熱帯原生林地帯と草木の生えぬ不毛な丘陵地域。主な生息生物は異形の大型昆蟲種と移動可能な肉食植物種。

 いずれも獰猛で好戦的。特に注意すべきは、植物種の中で種子を高速で射出する原生生物。

 その種子は寄生生物の卵であり、植え付けられた者は体内にて孵化し、やがて胴体から昆蟲のような鋭利な脚が生え、頭部が破砕。そこから多関節形状の首が長く伸び、頭部は脚の長い【ガザミ(カニ)】のような異形へと変容。これには多くの犠牲者が発生。エリア危険度はS。

 


 第十調査団 北方 山岳地帯 調査報告。


 このエリアは内部が広範囲のダンジョンとなっている。希少鉱石の宝庫ではあるが生態系は極めて危険。

 いずれも悍ましき未知の異形生物、戦闘能力も非常に強力であり、交戦は極力避けるべき厄災級を複数確認。エリア危険度SS。



 以上の周辺調査から、ヴィヨンヌは非常に危険な生態系の中に転移させられたと見なされ、都市外への他出は適切な人員、人数と装備が必須条件であると定められる。

 

 各調査団 多数の目撃報告。


 上空を飛翔する超巨大竜を確認。その全長は数千メトルに達し、浮遊島の如き巨大さである。

 各記述を基に推察するに、【原始竜(オリジンドラゴン)】から進化派生し、現存竜種の起源であり超生命体でもある【古代龍(エンシェントドラゴン)】の始まりの【祖龍(イニティウムドラゴン)】の可能性が高い。

 更に遠征調査団、第一から第六調査団報告では、数百メトル級の武装した【超大型巨人(スーパーティターン)】や【巨大(インマニス)怪獣(ディザスター)】の姿も多数確認されており、規格外(EX)級エリアが無数に点在していると予測される。



 人類の生存及び健在国の調査報告。


 幾多の都市、街、集落等の建物跡は在るものの正常な生存者は皆無。人工物跡にはいずれも【屍人(アンデッド)】や 異形が徘徊しており、この煉獄では人類居住圏の維持が非常に困難と判断。


 尚、この各調査で数多く犠牲になった戦死者の英霊たちに、哀悼の意を捧げその冥福を祈る……。



 都市壁内 市街地 脅威発生報告。


 市街に狂化した市民、飼われていた動物が他の市民を襲う被害が多発。それらは容姿が変容し強化され、通常【屍人】とは異なる【亡者】【亡獣】である可能性が高い。更に被害者が『屍人化』する二次被害まで発生。


 亡者の数は日々増加を続け、同時に屍人も多数増加。冒険者や近衛兵の中からも発生。これらの対処に動員された兵らの犠牲者も屍人化。それらが更に犠牲者を生みだす三次、四次と数珠繋ぎで被害拡大。大勢の市民が恐慌状態に陥る。


 

 安全域及び 指定緊急避難場所 認定報告。


 市街各所の教会聖堂、修道院、礼拝堂は亡者、屍人、有害生物が進入不可である事を確認。その理由として考えられるは、都市の煉獄転移後に赦しと救いを求め、祈りを捧げに訪れる者が増加したことにより、神聖力が増し聖域化したとの見解である。

 これにより、正常な市民の指定緊急避難場所としての安全域が確立された。



 異常現象及び 市街地にて未知の脅威出現報告。


 空が臓物のように赤黒に染まった時、突如天空より獣の咆哮のような怪音が鳴り響き、その後一帯は漆黒の闇に覆われ悍ましき様相に変化する。この現象にて亡者、屍人の変異強化と活発暴走化が見られ、危険脅威度が格段に上がる。

 尚、この現象は不定期に発生する天災と推測され、夕刻から早朝未明まで続き、煉獄の『裏世界側』であると見なされている。後に【裏返り現象(リバースフェノメノン)】と呼ばれた。


 この現象時に最も脅威であるのは、神出鬼没の不滅者(イモータル)の存在。討伐不可能と判断され、その数は‶十三体〟。これらは、神の裁きを最も悍ましき形で具現化されたものと推定。

 以後は【執行者(エグゼクター)】と呼ばれ、総じて【十三(トレデキム)執行者(エグゼクター)】と呼称されるようになった。

 

 驚くべきは、この討伐不可と思われた【執行者(エグゼクター)】三体をギュスターヴ王が消滅させ討伐に成功。以後は【十執行者(デケムエグゼクター)】と呼ばれた。

 壮年期後半にしてこの武勇は、おそらく魔導殺し(ギアブレイカー)の力から齎された成果と見ていいだろう。それと、長年肌身離さず携えていたあの大剣(ウルスラグナ)にも、その力が蓄積されていると思われる。



 ギュスターヴ王 亡者化報告。


 これは討伐した【執行者(エグゼクター)】の呪詛によるものか。王妃が病で倒れ、第一王子が戦死。続く第二、第三王子も戦死と事故死。第一王女も病死。

 続け様の妻子たちの悲報に、ギュスターヴ王は激しく慟哭。やがてこと切れたかのように精神が壊れ亡者と化し、同時に国の統制が完全に崩壊した。


 亡者と化したギュスターヴ王は、イルーニュ城にいた執政者たち王侯貴族、親衛隊、近衛兵士に家族に至るまで虐殺を繰り返し、その兇刃は城の外、民たちにも襲い掛かる。


 これに対抗した上位冒険者、兵士らであったが全て亡き者にされた。正に地獄の光景。否、これが煉獄の真の姿である事をまざまざと思い知らされた瞬間であった。


 

 生存者 状況確認報告。


 現在、各教会聖堂に生き残った市民たちが立て籠っている状態であるが、食料が底をつき次々と餓死者が続発している状況。

 外は亡者や屍人で賑わっているが、冒険者ギルドはすっかり閑散とし静かになったものだ。幸いにも簡易礼拝堂がここギルド施設に設けられており、聖域化効果で脅威の進入を阻めているが限界が近い。

 このまま我々は滅びの道を歩むことになるのか、最早絶望的と言えよう──。


 ヴィヨンヌ冒険者ギルドマスター チンスコウ・ズンズラ ・カメムシ。



「と言う訳で、各報告書の要点だけ纏めたが、ここから先の記述が途絶えたと云う事は……」


 それを意味するのは言うまでもなかろう。この衝撃的な記述内容に一同は押し黙り、いずれも綴る言葉を失う。

 


「兎にも角にも、気をしっかり保つことがこの世界で生き残る第一ルールだ。じゃなければ、俺たちも【亡者】【屍人】の仲間入りってことさ」


「「「「「「!!!!!!!!!!!」」」」」」


「これは、煉獄における流行り病のようなもの。地球風に言えば突発性感染(アウトブレイク)、状況的に正にバイオハザードさ。地球と異なる点はその感染経緯。云わば精神感染。ネガティブ思考に支配された時点でも亡者化するってことらしい……」


「マジかよ……バイオハザードに加え、スラッシャー系に日本ホラーにと盛り沢山過ぎるだろう…確かに頭がおかしくなりそうな状況だな。と言うか、そのギルドマスターの名が……」

「なるほど。地球風の言葉は分からんが、そういう事であったか……しかし、あの化け物(イモータル)たち【執行者(エグゼクター)】と言ったか? 十三体もおりギュスターヴはその三体も屠ったのか……」


「察するに、あれらは超位の高密度魔力(マナ)生命体。しかし、最終的にこの都市が滅びた元凶はその呪いによるものであったのか……正に厄災そのものよのう」


「それと、その亡者化したギュスターヴが、今もこの街のどこかで剣を振るっているかもしれないですね……新たな【執行者(エグゼクター)】として」

「それは最も懸念すべき不安材料だな。仮に遭遇したら全力で退却の方針でいこう」


 殺戮魔人と化したギュスターヴ。最早歩く自然大災害である超越者には、戦っても成すすべもなく全滅が確定。逃げの一択は当然だと総意に至る。


「それと、あの悍ましき状況。現在この煉獄は【裏返り現象(リバースフェノメノン)】により裏世界と言う事ですわね? 大分街を破壊しましたけど、再び表世界に戻った時にはもしや?」


「ああ、外壁をレオバルトが破壊してしまったが元に戻るらしい。南は原始竜(オリジンドラゴン)の生息地域。地球では【恐竜】と呼ばれるが、街に入り込まれたら面倒だからな」


「な!? 恐竜だと!? ハハ…マジか。ディノクライシス系要素もあるのか……」


 それと、懸念すべきは上空からの飛翔系生物の進入であるが、都市を全て囲う結界術式がドーム状に張られている為に、外壁が内部から破壊されない限りはその心配は無いと言う事だ。



「状況は理解したが、都市内部も危険であることには変わらない。この裏返った夜が明けたら周囲の脅威の排除。水は魔術で何とかなるが、食料調達は南方壁外でだな」


 周辺の生態系情報により食料に適しているのは、獣類、原始竜のいる南方森林地域であろう事は当然。蟲や鬼にわけの分からぬキモ生物など勘弁である。


「あと、ミゼーア様の御子息たちの捜索もしないと!」

「うむ、そうであったな。その心遣い感謝しようぞメルヴィ!」

「いえいえ、とんでもございませんよ、ミゼーア様! 当然ですよ当然!!」


 この裏世界煉獄の状況にてミゼーアは不安を抱いていたが、幸いにも二人のその死した感覚が感知されてはいない。だが、その無事な姿を確認するまでは安心には至らない現状。


「そげんと、鍛冶工房も必要かばい探さんとね。武器装備の整備に……地球人たちのそげん銃の弾も作らんといかんけんねー」


「「「!!!!!」」」」


「おおー!! ドーレス殿!! 銃の弾薬を作れるのか!?」


「ブォホホ! まぁ、大丈夫かろうもん。もっと強力なもんを作るたい。なんならそげん銃も改造するかとね」


「うおお!! それは有難い!! ほぼ弾切れ状態であったからな! おまけに改造強化までしてくれるとは感謝極み入るよ!」


 米兵たちにとって銃はメインウエポン。それも弾薬があってこその武器であるが、イナバはともかく、最悪の場合はナイフを銃に取りつけ銃剣にて戦うしかない。

 それでは、この冒険者らと比較して戦力には至らず、足手纏いになってしまうところであったが、これにて問題解決の万々歳だ。


「ガハハハ! よし! とりあえずはメシにしよう! アイテムボックス所持者は用意の方を頼む!」


「やっとにゃら……危うく亡者になるところだったにゃら」




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