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モータルワールド~現代チート?海兵隊超兵士の黙示録戦線~【修正版】  作者: うがの輝成
第5章 アビス ウォー 絶界の戦い
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第103話 黒兎人



「リョウガさん、お疲れ様でした……皆さんも…ハァしんどかった」 


 先陣で奮闘し、最終的には殿(しんがり)まで務めることになったリョウガと仲間全員に、リュミエルは労いの言葉を贈る。と言う自分もヘロヘロだ。


「あの化け物相手に、よく持ち堪えたわね……。救われた事にも素直に感謝するわ。ありがとう、リョウガ」


 メルヴィもリュミエルに(なら)い、リョウガに労いと感謝の言葉を重ねる。

 直接相対したからこそ分かる、貞椰子(サヤコ)の悍ましき巨大な力。あのまま戦闘が続けば、リョウガは間違いなく力尽きていただろう。


「ド、ドルゥハハハ! えいえい(良い良い)、当然ぜよ! まだまだ足りんゆうきに、これかルァ!!ブホッ!!ゲボッ!!ゴホッ!!」

「あーもう、そんな傷だらけで無理しないでください。むせ捲ってるじゃないですか…ハァ」


 いずれも疲労と負傷の傷痕が色濃く、息を荒げる者が多数見られる。しかし、まだ安心はできない。


「言われるままここに退避しましたけど、この聖堂は本当に安全ですの?」


 その疑心の言葉は、即座にミシェルから綴られた。


「まだ気を抜くのは早い。その真偽は、これからすぐ分かるであろうな──」


 そう言いながらレオバルトは、開け放たれたままの扉の向こう側を鋭い眼光を放ち見つめる。

 やがてその先では、遠くで炎上する戦火の明かりを背後に、ドス黒い霧が漂い始め集束し、骨格、内臓器官、血液、筋組織など各生体組織が構築。四つの異様存在が形造られていく。その光景は筆舌し難い悍ましいものである。


 そして、再生が完了し現れたのは、順にバニーマン、サイコドクター、レザーフェイス、サヤコ。早くも復活した不滅者(イモータル)四体であった。


「「「「「……………」」」」」


 再び迫りくる悪夢に、一同は戦慄を伴う驚愕の表情を露わにし、無言でその動向を注視する。

 言いようの無い緊張感が濁流のうねりと化し激しく襲いかかり、凍りつくような冷たい汗が背筋を伝う。

 いずれも身動き一つせず、呼吸をするのも忘れ、時が止まったかのような静寂が続いた。そして──。


 不滅者(イモータル)4体、サヤコは自らの影の中へ沈み込み、サイコドクターはバーンと雷鳴と共に雷速飛翔、バニーマンは黒霧化し霧散、レザーフェイスは空間に漆黒渦巻くゲートを顕現しその中へ、各々何処(いずこ)かへと消え去った。



「「「「「ぶはぁあああああああああ!!」」」」」


 時が動き出し、止めていた息を盛大に吐く一同。嘗て無い最大の危機が去り、悪夢から解放された瞬間であった。とりあえず、そそくさと扉は閉めておく。


 ようやく訪れた安堵感。張り詰めていた気が抜け、その場にへたり座り込む者、大の字に倒れる者、互いに労う者など、いずれも久方の笑顔を取り戻す。


「なんやねん!! あのエグイ化け物どもは!?」

「ガイガーの顔もエグイにゃら」

「やかましいわい!!」


「あげん、ヤバかもんは初かばい。 はぁ、えず(恐ろし)かったったい……」

「あれらはEX級ですわ。全滅していても、おかしくなかった状況でしたわね……」


「このセーフティエリアが、わりと近くでまだ良かったかもしれないな……」

「ああ、ここがもう少し遠い場所であったら、バッドエンドコースだったな。ホラー映画宛らのな……」


「あ奴ら同士ではやり合わんのかいのう? ふん、つまらん」

「戦い合っても無益。互いにキリが無さそうですからな……」


「皆さん、とりあえず負傷の治癒と体力回復をしますね! 治癒班(ヒーラー)の方々、お手伝いよろしくお願いします!」

「「「了解!!」」」


 各々あーだこーだと語り合い、クラリスの陣頭指揮で治癒術師らによって、全員の回復作業が行われる。

 そんな中、教会内部を見渡せば、経年劣化は一切見られず非常に綺麗な状態。

 厳かで静謐(せいひつ)。全ての穢れを祓うかのような、神聖な空気に満たされていた。


 入口から主祭壇に向かう中央通路は約60m。尖塔アーチ型の天井までの高さは約18m。その身廊、祭壇に沿って両脇を八角形の柱列が並び、側廊も含めて全幅は約12m。ゴシック、ルネサンス建築のかなり広めの聖堂だ。


 祭壇にはこの都市で信仰していた神像が祭られており、クラリスが感謝と一時の滞在を求める祈りを捧げている。

 その身廊中央付近に冒険者たちは移動し、各々自由に(くつろ)ぎ始めた。


 現在の人数を確認すれば、米軍チームも含め34名と大狼2頭。ここまでの戦闘で、当初の約半数近くの戦死者が出ていた。

 米軍チームはイナバを含めレンジャー4名、海兵隊2名までに減っていた。


 その現状に大きく肩を落とす一同。戦友、親友を失い嘆き悲しみ、泣きじゃくる者も少なからずいたことは言うまでもなかろう。

 だが、いつまでも悲哀に暮れているわけにはいかない。生きる為の指針を示すべく、今後の事を論議するべきである。


 まずは、未知なる情報の整理である。それを知る者、この愁傷の空気に沈黙していたコールサイン「ラビット」。

 黒ずくめのレザー製、軽装備の黒兎人。髪型は肩より長めのドレッドヘアーにうさ耳。


 その黒兎人は、何やら米兵たちを挙動不審で何度もチラチラと伺い見ており、海兵隊のジョブスと目が合う。

 ジョブスも気になっていたようで、そんな不審さに何かを感じ取り、意を決してついに問いてみる。


「お前、‶テッド〟だろ? 髪型が変わり…()()()で気付かなかったが‶元米海兵隊テッド.オルセン二等軍曹〟。イラクで戦死し……おま、異世界転生していたのか…?」


「「「「!!!!!」」」」


 これにはイナバを始め、米兵らは驚愕する。


「何? おい‶テッド〟! お前、元は地球の兵士であったのか!? コールサインもだが、これまでの謎の知識やアイディアは、地球からのものであったか!」


 と、それに続くレオバルト。決定のようだ。異世界で地球知識を活かし、何やら色々と行っていたようである。


「あーい!とぅいまてぇえええん!! ハハ! バレてしまったか! そうです! わたすが変なテッドでしゅ! あ、噛んでもた!」


「なぜこの獣人は‶ですよ〟と‶志村氏〟のネタを……」


 当時、動画で観ていた日本のお笑いネタを噛みながら挟みつつ、素直に白状するテッド。そのネタ元を知る、アメリカ国籍でも純血の日本人アキト イナバ。


 ここで情報を整理しよう。ジョブスとテッドは、トールがイラクで初任務時に配属された『フォックストロット』チームの隊員たちであった。

 トールの初陣戦、ジョブスは負傷で本国に帰還。テッドは頭部に被弾し戦死。イラク米軍基地にて弔いの際に、トールの祈りによって霊体として現れ、別れの挨拶も交わしていた。


 それから【天界門(ヘブンズゲート)】をくぐり、成仏の道へと歩んだはず。ジョブスにおいては、母国にてテッドの葬儀にも参列していた。

 それが何の因果かテッドは異世界転生し、兎獣人へと変容していたことにジョブスは混乱困惑する。


「どういう事だ? テッド…?」


「ハハ、いや~クレインが顕現した例の門から先の階段を上っていたんだが、途中でムラムラして踊っていたら、足を踏み外して落ちてしまってさ。気が付いたらこんな姿で異世界の森の中で目覚めたってわけさハハ、分かるだろう?」

「分からねーよ! 何だよムラムラって!? なんで踊ってんだよ! あれからお前の葬儀にも出席したんだぞ! お前の婚約者、クソ泣いていたぞ!」


「ああー、ペケミョンには辛い思いをさせてしまったようだね……。まぁ、それはこんな状態ではどうしようも無い事だよ。テヘペロ」

「テヘペロじゃねーよ! なんだよペケミョンって、どんな呼び方だよ!? そんな名前じゃなかったぞ!」

「ペケミョン、ゲットだぜー!!」

「うるせーよ!! ポケモンみたいなに言うなよ!!」

「今はリリースしたぜぇい! ワイルドだろぉお?」

「黙れクソ兎!! お前の方が地球からリリースされてるじゃねーか!!」


「ああー待て待てお前たち、そこで漫才をおっ始めるな! 何だお前たちはクレインの関係者だったのか? いや、そんな事より状況の説明だ!」


 突然始まったジョブスとテッドの珍妙なやり取りに、呆気にとられる一同であったがイナバの制止が入る。トールを知る者と聞き、気になったがそれは後の話だ。

 この一連の寸劇で、幸いにも重苦しい空気の入れ替えに功を奏し、話し合いの場が整えられたようである。


「ふむ、テッドとやら。そろそろ語ってもらおうぞ。まぁ、この地が何処かであるかは凡その推察はできておるがな」

「流石、お気づきになられたようですわね、ミゼーア様。この混沌の在りように、4体もの不滅者(イモータル)。この世界は──‶煉獄〟では?」


「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」


 聡明、慧眼たるミゼーアとミシェルは、すでにこの地のことを察しており、その告げられた恐るべき名称に、一同は最大級の衝撃を受ける。


「その通りさ。俺たちは転移トラップで、遥か煉獄の世界まで飛ばされたってことだよ。そして、この都市の名は──救世都市ヴィヨンヌ」


「「「!!!!!」」」

「「「「「??????」」」」」


 と、その都市名を知る者は三割ほどと反応が分かれた。


「なんやねん、そのヴィヨンヌって都市は? 知っとるもんもおるようやな」


「その都市の名は、教会の聖書や歴史書にも記されておりますね。忌み地で有名な『アヴェロワーニュ』に嘗てあった首都と云われております」


「英雄記にもその名は記されていたな……『救世の魔人伝』か。アヴェロワーニュは遥か昔に栄えた、当時最強の武力を誇っていた国家の名であったな」


「その統治者は──真魔人王 ギュスターヴ。【魔法術(ギアコード)式無効化キャンセラー】の力で全ての魔導(マギア)をねじ伏せ、世界(ヒュペルボリア)を制した超越たる覇者であったよのう」


「【魔法術(ギアコード)式無効化キャンセラー】……究極の対魔法(アンチマギア)。わたくしたち、魔術師(ソーサラー)にとっては最悪の天敵ですわね」

「アヴェロワーニュは、エルフ戦士の修行の地であり狩場でもあったから、その歴史は周知のことね」

「なんちゃあ、ワシもあの地には、修練で何度も足を運んだぜよ。ギュスターヴは武人の間では、げに有名やちゅう。憧れるもんも多いちや」

「アヴェロワーニュは、ほんな危なかけんねー。ばってんその分、希少な素材の宝庫とね」


「ギュスターヴ……あれはヤバイにゃら。勇者も大賢者も敵わなかったにゃらら」

「なんや、ギュスターヴなら俺も知っとるがな。 ガキのころに聞かされたエグごっつい魔人やな」 

「教会では、その者は主神に反旗を翻し、都市ごと審判の裁きを下されたと教えられてきました。故に、忌まわしき真の『異端者(レネゲード)』として、その名を語ることも禁忌とされております。それが煉獄送りにされていたとは……」


「まぁ、教会では当然の扱いだろう。偏見からの教えも多分に含まれているようだな……というわけで、リュミエル! 知らん者もいるようだし、お前の方から客観的視点で『魔人伝』の記述内容を語ってもらおうか」

「え、ええ!? 何故に僕が!?」

「お前は以前、英雄記は全巻読破したと言っていただろう? 王城の書庫でその手の文献は、腐るほど読み漁っていただろうし適任であろう?」


「それは、興味深い! 地球では知りようも無い歴史的偉人の話とは垂涎(すいぜん)もの。俺からも頼みます! 王子殿下!」


 レオバルトからの申し出を、リュミエルは面倒だと渋るが、その話を黙って聞いていた歴史好きのイナバも、堪らず頼み入る。


「ハァ、分かりましたよ。それとイナバさん、王子殿下は止めてください。呼び捨てで構いませんし敬語も必要ありません。あ、僕のは地の口調なので気にせずに」


「分かったよ、リュミエル。改めて頼む!」


 やれやれとリュミエルは承諾し、地下水路休憩所でリディが語っていた、ギュスターヴの記述『救世の魔人伝』の内容を雄弁と謳い語った──。


 イナバら米兵たちと、その記述を知り得てなかった冒険者たちは身を乗り出し、驚愕の表情を露わに聞き入っていた。



「……凄まじいな。架空の物語の話であろうと言いたいところだが、現実に魔術や異形を目にした身としては、信じざるを得ないな」


 地球であれば、当然ファンタジーの物語だと聞き流すところであるが、そのファンタジーの世界に足を踏み入れたイナバらは、事実として受け入れざるを得ない状況。


「サンキュー、リュミエル! ハハ、話の手間が省けたよ。では、そこからの続きの話を俺からしよう」


「「「「「「!!!!!!!!!!!」」」」」」


 前置き話は全て冒険者リーダーたちが語り、揚々とテッドは、他では知り得ない情報をひっ()げドヤ顔でべしゃり出した。


「それは、ここの調査で得た情報というわけだな、テッド? それと他にも聴きたい事が多分にあるぞ。これまでの状況と──この煉獄世界の事をな」


「ああ、勿論さ。俺たちはとんでもない状況の中で孤立している。生き残れるかどうかはこの世界と法則を知る事が最重要。それによって上がる生存率は雲泥の差だよ」 


「勿体振らんでええから、とっとと話せや黒兎。喰われたいんかい!」

「ガイガーは黙るにゃら! 脳ミソが筋肉に喰われているのに、何でしゃべっているのか不思議にゃら!」

「やかましいわい!!」


「ハハ! 勿体振ってるわけではないさ。その各記述は【高速読スキル(ファストリーディング)】が無かったら、結構な日数を要する内容だったからさ。要点を纏めるのに、うんちょこちょこちょこぴーなんだよ」

「どういうことやねん!」


「……なぁ、ジョブス。彼は海兵隊時代からあんな感じなのか…?」

「はぁ、まぁ…あいつはジャパニーズのオワライが好きみたいで、偶に妙なことを言っていたよ……」


 そんな軽いやり取りもそこそこに、テッドはこれまでの陽気な雰囲気から一転、ガチ顔へと変容し語り始めた。


「すでに分かっていると思うが、街で遭遇したアンデッドたちは元はこの都市の民で、その成れの果てさ。【亡者】と言われていたようだよ」


「亡者……? ヒュペルボリアでは聞かぬ種だな。通常のアンデッドとは違うのか?」


「大昔の禍々しき存在よのう。死してアンデッド化したのではなく、生きた状態で精神崩壊時に下級の魔が宿り、その瘴気汚染により身体が不死強化された禁忌の存在であったな」


「よく知っているなミゼーア……。しかし、あれほどの数の民を精神崩壊に至らせ、その【亡者】にさせるとは、いったい……」


「ああ、全くさ。レオバルト……。その精神崩壊するほどの所業を民に及ぼし、ここ煉獄でヴィヨンヌを最終的に滅ぼしたのは──」


 テッドは、険しい表情で躊躇(ためら)いつつ次なる言葉を綴る。周囲に重くひりつく空気が圧し掛かってきた。



「──王であるギュスターヴ自身。自らの手で民を大虐殺(ジェノサイド)だよ……」



「「「なっ!!!???」」」



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