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公爵家の人々

「おー。早速洗礼受けて固まってるな」


 私が去りゆくジスの背中を呆然と眺めていると、背後からくつくつと笑い声が聞こえた。

 振り向くと、これまたジスに負けないくらいかっこいい男性がひとり。瑠璃色の髪に銀色の鋭い瞳。一見クールそうに見えるが、その笑顔は無邪気で可愛らしく思えた。


「婚約者に出会って数分で〝心に決めた人がいる〟なんて言われたら、固まるのも無理ないよな。これまでの奴らもみーんなお前みたいに口開けてぽかんとしてたぜ。数秒後には顔真っ赤にして怒り狂ってたけど」

「ふぅん……まぁ、あんなにダイレクトに言わなくてもいいかもとは思いますけど」


 政略結婚だとしても、相手の気持ちを配慮する言葉選びは大事だと思う。私の知るジスはそれができそうだと思っていたけど……この数年で変わったのだろう。


「! へぇ。冷静を保てるやつもいるのか。お前が初めてだ」


 三白眼気味の目をさっきより大きく開いて、物珍しそうに私を見つめている。


「あの、ところであなたはさっきからなんなんでしょう?」

「ああ。まだ名乗ってなかったな。俺はロイド。お前の婚約者の弟」


 ジスの弟――前世で何度か話題に上がったことがあり、すぐにピンときた。


「ロイド! ロイドね! 幼い頃から騎士の英才教育を受けていたって聞いたわ!」

「よ、よく知ってるな……ていうか誰から聞いたんだよ」


 ……あ、またやってしまった。油断するとニナが知っているはずの情報を、リアナとして口にしてしまう。


「え、ええっと、婚約相手のことを事前に調べるのは当たり前でしょう。その過程で弟のロイド様のことも聞いたんです」


 顔を引きつらせるロイドに、私は誤魔化すようにそう言った。


「へー。田舎の貧乏貴族の令嬢って聞いてたけど、情報収集は得意なんだな」


 わあ。ロイド、おもったより単純で助かる~。

 心の中でそう呟いていると、今度はジスに似た金髪で、ロイドと同じ瞳の色をした、優しそうな顔立ちのダンディな男性が近づいてきた。これはさすがにわかる。ふたりの父親、クラルティ公爵だ。


「リアナ。このたびははるばる我がクラルティ家まで来てくれてありがとう。そして……本っ当に我が息子ジスランがすまない!」

「えっ」


 公爵との挨拶に緊張していたのに、私が自己紹介するより前に公爵が全力謝罪をしてきた。名家クラルティ家の当主が格下の伯爵家のひとり娘に頭を下げるなど、この時代では普通なのだろうか。あまりに社会経験がないためよくわからないが、多分普通ではない気がする。


「クラルティ公爵! 顔を上げてください! 私、ジスラン様の態度はまったく気にしておりませんから!」


 一秒でも早く公爵から頭を下げられる状況をどうにかしたくて、私は必死に公爵に気にしていませんアピールをした。


「……本当かい?」

「はい。本当です」


 様子を窺うように私の顔を覗き込む公爵……めちゃくちゃ失礼だが、なんだか犬のように見えてくる。


「はあ。君が優しくて助かった。婚約相手が来てくれても、ずっとあの調子で私も困っていてね」


 優しいのはむしろ公爵のほうだ。政略婚の相手など、べつに気にする必要もないのに。公爵という高い地位にいながらこの腰の低さは尊敬にも値する。


「さっきのジスランの言葉は忘れてくれ。思い出しても不愉快になるだろうからね」

「? なぜですか。私はジスラン様のような一途な方、素敵だと思います」


 ああやってはっきり言える勇気は、私にはいっそ清々しく感じた。

 それに――ジスったら、知らないうちにちゃっかり恋をしていたのね。もう、私を好きな雰囲気出してたくせに! かと言ってショックではないし、ジスの恋バナにはすっごく興味がある。

 そう思うと、やっぱりこの世界でジスはニナとは出会ってないのかな? 前世の私が話していたのは、あくまでこの世界を舞台にしたジスってキャラクターに過ぎなくて、この世界のジスにはなんの影響も与えてなかったのかも。


「なんてできたお嬢様だ。君みたいなレディが縁談を受けてくれてよかった。なんたって、これまでの令嬢たちはひどかったからな……いや、元はすべてジスランの言動のせいなんだが」


 嫌な記憶を思い出したのか、常に柔らかい表情をしていた公爵の表情が僅かに曇る。


「ロイドも失礼をしてすまなかったね。うちの息子たちは、とにかく癖が強すぎて私もどうしたらよいか……」


 そういえば、ロイドはどこに行ったんだろう。

 私が公爵と話している間に、辺りを見渡してもロイドがいる気配はなかった。面倒な気配を感じて逃げたのかしら。


「ジスランがずっとあんな感じで婚約破棄を重ねるものだから、一時期次期公爵になるための教育を対して受けていないロイドを次期当主にするしかないかと悩んだんだが、あいつはあいつで〝俺の恋人は剣だけだ〟なんて言い出す始末だ。はぁ」


 そう言ってクラルティ公爵がついた大きなため息ひとつで、これまでの苦労がすべて伝わってきた。ロイドは騎士道を極めすぎてその領域まで達したのね……。


「息子がふたりとも結婚不適合者で困ったものだ。まったく。……リアナ。君には期待しているが、くれぐれも無理はしないでくれ」


 ごめんなさい公爵。私もこれまで恋愛というものを前世からサボってきた結婚不適合者です。声には出せなかったが、しっかりと心の中で公爵へ謝罪した。



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