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二度目の初めましては同じ世界で 1


「あのお方が、リアナ様の婚約者となるジスラン様です」


 目の前に颯爽と現れた人物を見て、時が止まった。

 金色に輝くサラサラの髪の毛、こちらを見据える太陽みたいなオレンジの瞳……いや、太陽と例えるには、瞳の輝きが足りないような。だけど私は、この瞳がキラキラと輝いているところを見たことがある。


「……ジスラン・クラルティだ」


 彼の声を聞くと、私は無意識に目を見開いていた。

 懐かしい。低すぎず、高すぎず、耳ざわりのいいこの声。名前を名乗っただけなのに、私の耳が喜んでいるのがわかる。


「ジス……大人になったのね!」


 感極まって、おもわず前のめりになってそう言うと、ジスランは怪訝そうに眉をひそめた。


「……は?」


 彼の反応を見て、私は咄嗟に自分の手で口を塞ぐ。


「い、いえ。なんでも。婚約だなんて、私も大人になったなぁなんて。ふふふ」


 失言を誤魔化すように、適当な言い訳を述べて笑ってみせる。

 ジスランはふぅ、と小さなため息を吐くと、面倒くさそうに斜め下に視線を落とした。

 ――あれ? ジスランって、こんな人だったっけ。


 周りから見ると、私たちは初対面同士の婚約者で間違いない。

 だけど私は彼のことを知っている。

 それも今の私、〝リアナ・メルシエ〟になるずっと前から――。



***


 前世の私〝佐藤仁南さとう にな〟は日本に住むオタク女子。

 小さい頃少女漫画のヒーローに恋をしてから、ずっと理想が二次元の男という、れっきとした拗らせオタク。

 夢見る夢子だった私は現実には絶対に存在しない〝イケメン、優しい、一途、モテモテ、それなのに冴えない自分を気にかけてくれる〟という少女漫画に出てくるような男が理想だったためずっと彼氏もできず、二十歳になってからやっと現実を見ようと恋活を始めた。


 流行りのマッチングアプリに登録してみるも、超絶面倒くさがりやの私はメッセージのやり取り段階で断念。

 もうこのまま一生ひとり孤独に生きていくんだと思った時、自分のスマホにインストールした覚えのないアプリを見つけた。


『……異世界マッチング?』


 マッチングアプリを調べていた時に、うっかりインストールしたのだろうか。

 説明もなにも書かれていないが、見た感じ新感覚乙女ゲームのようなものだろう。

 とりあえずSNSで情報を集めてみる。だが、どれだけ検索をかけてもこのアプリについて知っている人はいなかった。おまけに、アプリ自体もいくら検索したとて出てこない。

 なにかのウイルスだろうか。危ないアプリ? 悩んだけれど、馬鹿な私は好奇心に抗えず、そのアプリを起動してしまった。


 すると、スマホ画面に中世ヨーロッパ風な見た目の金髪イケメンが現れた。


『えっ!』


 誰だろう。このかっこよすぎるイケメンは。

 おもわず声を上げると、向こうも私を見て驚いたような反応を見せる。


『あ、あの? もしかして、私の姿が見えてたり声が聞こえたりしますか……?』


 そんなことありえないと思いつつ、驚くタイミングがあまりにベストすぎたので半信半疑で聞いてみた。


『う、うん。聞こえてるし見えてる。……君も? 君にも、俺のことが見えているの?』


 ありえてしまった。

 画面にばっちり姿は映っているし、スピーカーを通して声も聞こえる。起動したのが自室でよかったとほっとした。


『見えてます』

『! すごい。こんなことあるんだ』


 私も画面に映る彼とまったく同じことを思った。

 こんなの、まるでリアルタイムでビデオ通話してるみたいだ。最近の乙女ゲームはここまで進化していたとは知らなかった。それとも、背後に誰かべつの人がついていたり? ほら、最近Vチューバー?みたいなの流行ってるし。


『とりあえず、自己紹介でもしようか。俺はジスラン。君は?』

『私は仁南』

『ニナ……えっと、よかったらこうやって、時々話せたら嬉しいな』


 ジスランが照れくさそうに人差し指で頬を掻きながら言う。タイプのイケメンにそんなことを言われて、頷かないオタク……いや、女がどこにいるというのか。

 こうして私はこのアプリのクオリティに感動しつつ、ジスランと名乗る遠いどこかの令息と、スマホ画面を通して話すようになった。


 ジスランと話すようになって一週間、気づいたことがある。

 ジスランとは好きな時にいつでも話せることはなく、アプリを起動してもジスランが不在の時は画面は真っ暗なままなにも映らない。

 たまにスマホ画面がピカリと光ることがあり、そのタイミングでアプリを開くとジスランに会える仕組みだ。それも、私が寝ていたり気づかなければ会えないのだが。そのへんの作り込みも凄すぎて感動した。

 ほかのイケメンと出会えることはないみたいだが、私はそれでよかった。

 だってジスラン――仲良くなって今はジスって呼んでいるけど、ジスがいてくれればじゅうぶんだったから。


 ジスはすごく優しくて、いろんな話をしてくれた

 最初は口数が少なかったが、私が日本のことを教えると、彼は興味深そうに聞いてくれて、次第に向こうの話もしてくれるようになったのだ。

 ジスの世界には魔法が存在して、ジスは魔法が使えること。瘴気というものがあり、そこから魔物が溢れてきて、この前弟のロイドと駆除へ向かったこと。

 他愛もない互いの世界の常識が互いに新鮮で、何時間でも聞いていられた。


 そんなある日、長い間ジスが姿を見せないことがあった。

 二週間ほど経ってやっと会えたジスはひどく疲れた顔をしていて、あきらかに様子がおかしかった。


『今後は俺が頑張らないといけない』

『俺が……家族を引き離したんだ』


 震える声でそう言うジスは、泣くのを我慢しているように見えた。もしかして、ジスはいつもこうやって気を張っているのだろうか。その癖で、泣くことを無意識に制御してしまっているのでは……?


『ジス、辛かったなら泣いていんだよ。せめて、私の前だけでも』

『……え?』


 私に泣いていいと言われた瞬間、ジスの瞳が大きく揺れたのが画面越しでもわかった。


『私の前で泣いたって私しか見てないし、共通の知り合いもいないんだからバレることもないでしょう? 私は、ジスがなにかを我慢していることのほうが辛いから。私の前では無理しないで。なんでも受け止めるし、どんなジスも私は好きよ』


 偽善と思われるかもしれないが、紛れもない本心だった。これが架空のキャラクターだったとしても、ジスに元気になってほしかった。


『……ニナ、ありがとう』

 ――この日を境に、私たちの関係はさらに深まっていった。


『ニナって、絶対モテるよね』


 ある日、突然ジスがそんなことを言い出した。驚いて、飲んでいたアイスティーが変なところに入って咽る。


『ないない! それはジスのほうでしょう! 私はそもそも……恋愛経験なんてほとんどないし。というか、どうしてそんなことを聞くの?』

『俺と会っていない間、ニナがなにしてるのか気になって。男といたらどうしようとか、不安になるんだ』


 あれ。これ、いつの間にかジスと恋愛モードに突入しちゃってる?

 仲を深めていくと攻略対象がデレてくるのって、乙女ゲームの醍醐味だものね。


『ふふ。大丈夫よ。私、ジスと話してるのがいちばん楽しいもの。今はそれ以上の楽しいことなんてない』

『そっか。よかった。俺も同じだよ』


 ふわりと花が咲くような笑みを浮かべるジスを見て、私の胸が高鳴る。


『ニナ、どうやったら君に会えるんだろう』

『うーん……奇跡が起これば? いや、強く願えば必ず会えると思うわ』


 無理だとわかっているが、ここは願望を口にしてみた。実際にジスみたいな人が現実にいたらどれだけ幸せか。ああ、液晶が邪魔すぎる。飛び越えて会えたらいいのに。神様、どうかお願いします。


『強く願えば……か。そうだね。俺は、必ずニナのことを見つける。そしてようやく会えたら、言いたいことがある。……その日まで、毎日君を想ってるよ』

『ジス……』


 これってもう、告白みたいなものでは?


『……それで、ニナに聞きたいことがあるんだけど』


 真剣な顔をして、画面越しにジスが熱い眼差しを向けてくる。

 なんだろう。私がジスをどう想ってるかの確認、とか? えっ! ついに、私とジスは結ばれるの!?

 意識した途端、急に顔が熱くなってきた。いい大人になって全力で乙女ゲームを楽しんでいる私。ジスからの告白なら、たとえゲーム上のセリフでも嬉しい。


『ニナの誕生日っていつ?』

『へ?』


 いい雰囲気で盛り上がっていたのに、ジスの質問は私の想像とは全然違うもので、この日はそれ以上甘い雰囲気になることはなかった。とほほ。


 それから私はいつジスに告白されるのかを待ち望んでいた――が、このアプリのゴールはなんなのかとふと考える。

 もしジスと結ばれたらエンディングになって、もうジスと会えなくなったりして……。

 そんなことを考えると、急に不安になった。普段なら何日かで攻略できるゲームだが、ジスとは一年近く時間を共に過ごしていた。そのため、私はかなりジスに思い入れがあったのだ。恋というか、最愛の推しみたいな……人生の活力になる存在。これまで何度も推しキャラを作ってきたけれど、ジスほどときめきや笑顔を与えてくれる推しはいなかった。私の人生の最推しは間違いなくジスで、それは今後も変わらないだろう。


 もはや生活の一部。お別れなんてしたくない。

 勝手な想像でアプリをしばらく開けなくなった矢先に悲劇は起こる。なんと交通事故に遭い、佐藤仁南はそのまま目を覚ますことはなかった。


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