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再会した君と僕は恋人のふりをする

作者: 池神 慧

「レッツプレイ、マサーキ」

 金髪の少女がゲーム機を持って僕を呼ぶ。アメリカに住んでる同い年のいとこ、絵里。物心がつく前からの付き合いで毎年、1ヶ月だけ夏に日本にやってきて僕の家にホームステイしていた。

「エリィ、待ってよ」

 僕は9歳でエリィは8歳。子供のうちは2月生まれと5月生まれ、10ヶ月ほどの差でも大きく出る。絵里は僕にとってはずっと妹みたいな存在だった。

「じゃあ通信対戦するね」

 ポチモン。正式名はポーチモンスターズ。モンスターを集めて図鑑を作ったり対戦する当時流行りの最新ゲームだ。

 ゲーム機の画面が光りコードを通じて僕のゴーストと絵里のユンケラーが交換される。

「あっ」

 それぞれの画面に現れたポチモンは更に進化してパワーアップした。

「本当に進化した!マサーキはスゴイね。ユノーエブリシン。何でも知ってる」

「やった! これでポチモン図鑑完成だぜ! 早速対戦しよう!」

 ゲームや昆虫採集、水遊び等で日が暮れるまで一緒に遊んだ。そんなある日。

「マサーキ。151番目のポチモンって知ってる?」

「そんなのいるわけないだろ」

「これ見て」

 絵里の画面を見ると確かに僕の図鑑に登録されてるない知らないポチモンがいる。

「何これ⁉」

「裏ワザなんだって友達が教えてくれた。貸してみて」

 彼女に僕のゲームを渡すと何やら操作しだした。

「……あれ? 上手くいかない。おかしいな」

 画面が真っ暗になってしまった。

「返して!」

 慌ててゲーム機を奪い取り再起動すると……。

「なんてこったい!」

 主人公が変な数列だらけのマップで壁にハマって一歩も動けない。図鑑を開こうとすると消えている。どうやら完全に壊れてしまったようだ。

「頑張って集めたのに! エリィのバカ! 絶交だ!」

 子供は感情を抑えるのが苦手だ。僕は絵里に怒鳴ってしまった

「ふぇぇぇん! ごめん!」

 少女は泣きじゃくっていた。

「これじゃあまるで僕がイジメたみたいじゃねえか」

 僕も涙を浮かべていた。喧嘩別れした少女は翌年以降は日本に来なくなり会う事はなかった。

 

 


「皆さんこの2年B組に新しいお友達が入ります」

 金髪でスラっとしたスーパーモデルの様な美少女が入ってきて俺は目を奪われた。

「ハーイ、エブリワン! アイム 絵里 ブルックス。よろしくね」

 黒板にローマ字で書いて自己紹介したその名前は。

「まさか……エリィ?」

 5年前の記憶と思い出が目の前の少女とおぼろげに重なる。あの泣き虫で人見知りでいつも僕についてきてた小さな従妹。

「おーっ別嬪さんだ。おっぱいデカいな!」

 俺の悪友、大野が呻く。

「ではブルックスさんは山中君の隣の席で」

 照れのないひまわりを思わせる眩しい笑顔。

「マサーキ! 久しぶり! 元気してた?」

「エリィ。本当に君なのか! 俺は元気だったよ」

「おいおいお前ら知り合いかよ。ひょっとして幼馴染みだとか?」

 大野が茶かす。

「ああ、うん。従妹なんだ。エリィ、こいつは大野。俺の友達でサッカー部」

「よろしく大野くん」

 絵里は大野と握手をした。

 スラっとした長身は170cm以上ありそうで158cmの僕は見上げる形になる。

「エリィ、変わったね。見違えたよ」

「ふふふ。マサーキは変わらないね」


 

「きゃーっ可愛い! 肌も白くてまるでお人形さんみたい」

「スタイルもよくて憧れちゃう。お姉さまって呼ばせて!」

「アメリカってどんな所?」

 お昼休み。絵里は女子に囲まれていた。

「うむ。私が住んでたロサンゼルスはね……」

 朗らかに流暢な日本語で受け答えする絵里。キラキラとしていて本当に自分が知ってるあの気弱な少女なのか、と思う。

「あの、好きです! 良かったらコレ読んでください!」

 気が付いたら大野が絵里の前で花束に手紙を添えてを手渡そうとしてた。

「キャーッ! 告白⁉」

 周りが浮き立つ中、絵里は一瞬目を逸らしてから答えた。

「……ゴメンナサイ。受け取れません」

「そっか……」

 大野はトボトボと帰ってきた。



「大野、結構いいやつなんだぞ。スケベだけど」

 下校途中。僕は絵里と同じ方向に帰ってた。彼女の家は近所ですぐ行ける距離らしい。

「そんなに私とあいつが付き合ってほしかったの?」

「いや……その」

 想像したら何故かイラっとしてしまった。

「……マサーキになら言ってもいいかな? 実はね。本当は男の人が恐いんだ」

「え?」

 絵里が真剣な顔になった。

「去年、クラスメイトからデートを断ったんだ。ソイツがやな奴で次の日から私、クラスメイト達にイジメられてね。本当はそれで転校したんだ。だから今は告白されるのが恐い」

 そこにいたのは僕の良く知る気弱な従妹だった。

「ごめん、辛い事を思い出させて」

 僕だけに見せる絵里の一面。胸が締め付けられる。絵里は魅力的な美少女だ。きっとこれからも告白を受けるだろう。

「じゃ、じゃあエリィが僕と付き合ってる事にしよう。そうすれば誰も告白してこないから」

「あ……そういえば日本だとイトコと恋愛や結婚をして良いんだっけ」

「アメリカは違うの?」

「州ごとに違うけど基本的には恋愛しない、かな? 結婚出来る州は3分の1くらい。カリフォルニアは出来なくはないけど」

 少し考えると。

「サンクス。そういう事にしておいて」

 

 翌日から俺達はカップルだという事にした。

「そっか。お似合いだよ、お幸せに」

 大野が祝福してくれた。嘘なのが少々後ろめたい。

「今は神代植物公園のバラ園がキレイらしいぞ」


 僕達は植物公園にデートに来てた。

 生い茂る木々にはほのかな甘い香りがする派手な色の花々が咲いている。外と比べて湿気が高く蒸し暑い部屋には太陽光が燦燦と降り注いでいる。まるでジャングルの中に迷い込んだかのようだ。ここは大温室。熱帯のスイレンや乾燥地のサボテンなどの世界中の様々な植物が集められている。絵里はその一角の小さな専用コーナーを目をキラキラさせて見つめている。

「モンキーカップ、ビーナスフライトラップにサンドゥまで! すごいすごい!」

 ウツボカズラ、ハエトリソウ、モウセンゴケの英名。

 僕の従妹はバラよりも食虫植物の方がお気に入りだ。

「ポチモンでもウツポッド好きだったよね」

 互いにいて安心する距離感に懐かしくなる。

「あれが私の原点。ポチモンは今でも大好きで本物の植物や動物にも興味が出て勉強したの。将来は植物の研究をするのが私の夢……あの時は本当にごめんね。データ消しちゃって」

 覚えてくれた。

「こっちこそごめん。エリィは悪気があったわけじゃなかったのに。エリィ、君が好きだ」

「うん。私もマサーキが大好きだよ」

「そうじゃなくて1人の女の子として好きなんだ」

 絵里の表情が凍り付く。

「じゃ、じゃあまた明日ね」

 そう言って絵里は逃げる様に帰った。

 

 絵里は3日間学校を休んでた。

「僕のせいだ。傷付けると分かってたのに告白して。僕って自分勝手だ……」

 落ち込んでたらエリィからメールがきた。

「放課後うちに来て」 


「いらっしゃい。正明君。どうぞあがって。お見舞いありがとう」

 絵里の母が家に上げてくれた。そのまま絵里の部屋に通される。初めて入る女の子の部屋にドキドキする

「マサーキ、来てくれた。良かった」

 パジャマ姿でベッドで横になっている絵里の様子は痛々しかった。

「エリィごめん! 僕自分勝手だった。無理に自分の気持ちをぶつけちゃって押し付けて。恐がることが分かってたのに。好きな人を悲しませるなんて僕は最低だ」

 絵里は微笑んだ。

「そんな事はないよ。マサーキは良い子だよ、私が保証する。昔と変わらないよ」

「エリィ……」

 絵里は真剣な顔で僕の眼を真っ直ぐに見つめてきた。

「私ね、マサーキの事をさ。今まで異性として意識した事がなかったんだ。昔は一緒にお風呂にも一緒に入っていたし。だから、ちょっとビックリしちゃった。そうだよね、私たち、もう大人になったんだもんね」

 絵里は手を伸ばして僕の指に触れた。

「私、この3日間ずっと考えてたの。どうしたらいいのか。なんて答えようか。時間はあったからゆっくりとマサーキとの事を考えていた」

「自分勝手なのは私の方。マサーキと一緒にいると楽しい、嬉しい、心地いい。今まで感じた事がなかった気持ち。この関係が心地よ過ぎて、壊れるのが恐かった。嫌われて二度と会わない、って言われたら? マサーキがいなくなったら、そう考えていたら急に怖くなったの。もし、そうなったら私、悲しい。悔しい。胸が空っぽになったみたいに切なくなった」

「僕はいなくなったりしないよ」

 僕は絵里の手をそっと握る。女の子らしい細い指。

「私もマサーキが好き。ライクじゃなくてラブの好き。こうやって手を繋ぐとドキドキする。I love you so much」

 絵里は顔を赤めらた。 

「何度でも言うよ。エリィが好きだ。一人の女の子として。ずっと一ずっと緒にいたい。エリィ、僕と付き合ってくれ」

「はい……私、マサーキの彼女になるよ」

 絵里はそっと瞼を閉じた。

「ねえ……キス、しよ」

「エリィ……」

 従妹から恋人になったエリィの髪を撫でながら唇に僕は自分の唇をそっと重ねた。

 マシュマロみたいにやわらかな感触に全身から痺れる様な感覚。

「ふふふ。おとぎ話の白雪姫みたい。これで私たち、恋人同士だね」

「これからも君を誰よりも大切に幸せにするよ」

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