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一握りの親切から

作者: 杜神

ふと思いついたエピソード系ストーリー。物語を読む感覚でどうぞお楽しみください。

小説 一握りの親切から



「すみません・・・水を一杯頂けませんでしょうか・・・。」

女性が一人、我が家を訪れてそう言ってきた。ぱっと見て旅人だとはすぐ分かる。服装から見て冒険者か何かのように見えた。

外見から判断して真っ当な人間ではなかった。冒険者といえばやくざな商売だからである。俺たちの村でもそれが冒険者に対する認識だった。

父さんが言う。

「そんな奴にやる水はここにはない。出て行って貰え。」

そう冷たく言い放つ。俺は居ても居られず、自分の部屋にあった水筒を取りすぐさま井戸のある裏手に繰り出した。

そして井戸の桶を下に下ろして一生懸命に引き上げる。日頃は手伝いで水汲みなんてしたくもないのになぜかその時は一生懸命に出来た。

急いで水筒に水を入れ、蓋をしっかり閉めてから表に走り出す。女性は追い出された筈だ。とはいえ体力のない状態ならそんなに遠くまで歩けるはずがない。

この村は隣までが異常に遠く歩いて数分かかることもある。

居た、道端で倒れこんでいる。俺は女性に話しかけた。

「えっと、さっきうちに来た人だよな。」

ちょっと、変な質問だったかな。でも、その女性はすぐさまこちらに振り向いた。そして、かすれた声で返事をする。

「は、はい・・・そうですが・・・先ほどのおうちの方ですね・・・。」

すごいな、あの一瞬で俺の顔まで覚えてるのか。っと、そんな事に関心をするのは後だ。

「この水筒に水がある、これを飲んでくれ。」

そう言って俺は水筒を開けながら手渡した。女性はごくごくとすごい勢いで飲みだしあっという間に空にしてしまった。

「すごいな・・・。」

飲み方に吃驚して、俺は見入ってしまっていた。はたと気づく、

「あ、御代わりが欲しいのでは?」

俺がそう言うと女性は静かに頷いた。俺はすぐ水筒を受け取って井戸まで走っていった。

女性は何度も水を飲んでいた。そのたびに俺は井戸に汲みに行く羽目になったが不思議と嫌ではなかった。



「有難う御座います。助かりました。」

女性はそう言って俺に深々とお辞儀をした。結局俺は数十回、結局正確な数は忘れるほどに井戸に汲みに行くほどだった。

しかし、不思議と嫌ではなかった。俺は答えて言う。

「いや、大した事じゃないさ。」

実際は日頃しない事をこれだけした事すら自分的には驚異的なのだがついつい女性の手前強がりを言ってしまった。

女性は微笑みながら俺を見ていた。その後、俺にこう言って来た。

「あの、御願いがあります。是非聞いて頂きたいのですが。」

みすぼらしい格好とはいえ見た目の年の若い女性の言う事である。つい、俺は、

「なんだ?」

と言ってしまった。まさかそれによりこんな事に為るとは思いもよらなかった。



「私を貰って頂きたいのです。」

女性はそう言った。え?今なんて?貰ってくれ?

俺が返事をしないので女性はもう一度言って来た。

「御願いします。私を貰って下さい。」

間違いない。俺に言っている。自分を貰ってくれと。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。いきなり貰ってくれと言われても・・・。俺には生活基盤もないし。いきなり、そんな事を言われても、はいそうですかとは言えないぞ。」

俺はそう言った。それに対し女性は答えて言った。

「それに関しては問題ありません。私は水だけ飲めば宜しいのです。」

「へ?って事はつまり・・・どういう事なんだ?。」

俺は良く分からずにそう言う言い方をしてしまった。女性は答えて言う。

「私は人ではありません。ある方に創られた特殊な生命体なのです。水があれば生命維持が出来る特殊な生き物なのです。」

「は、はぁ・・・」

俺はつい、そうやって間抜けに答えてしまった。人じゃない・・・いや、どう見ても人に見えるんですが。そこの胸だって・・・。

「ぷに。」

あ、柔らかい。いい触り心地だな。つい触ってしまった。彼女は顔を赤らめてしまう。それに気づいて俺は焦りつつ言った。

「あ、すまない。はっきり答えもしないでこんな事を・・・。」

俺がそう言うと、彼女は笑顔でこう言った。

「で、では、私を貰って下さるのですね。」

「え?あ、いや、そうなっちゃうのかな?でも君は其れで良いのかい?」

俺は心配してそう言う。彼女は答えて言った。

「是非御願い致します。マスターが寿命で亡くなられて辺りを放浪していたのです。それで、マスターの遺言で私の新たなマスターを探していたのですが中々見つからないので困っていたのです。」

「で、俺だと?でも、俺がマスターになるような資格がどこにあるんだ?」

俺は心配に為りそう言う。そう言うのって結構重要なものじゃないのかな?俺はそう思った。彼女は笑顔で答えて言った。

「十分すぎます。私の為に沢山の水を汲んできて下さいました。それは十分な資格になります。」

ふむ、まあ確かにあれだけの水を汲むのは確かに大変だが、しかし、それだけで資格と言われても・・・。

「本当に構わないのか?俺で。」

俺はそう言っていた。彼女は頷く。俺は溜息混じりに言った。

「単に俺は困ってる人に一握りの親切をしただけのはずなんだがなぁ。」

「マスター、宜しく御願い致します。今後貴方をどう呼べば宜しいでしょうか?」

彼女はそう言った。俺は顔に手を当てながら言う。

「マスター・・・か。そうだな、俺のことは名前で呼んでもらおう。俺の名前は綾小路竜あやのこうじ とおるだ。とおると呼んでくれ。」

「畏まりました。とおる様。私の事はフィムとお呼び下さい。」

フィムはそう言った。フィムを見ながら俺が言う。

「しかし、その薄汚れた格好のままでは可哀想だな。俺の服になるが家に帰れば換えの服があるから暫くはそれを着てもらおうか、というか、先に水浴びだよな、身体が汚れているし。」

そう、俺が言うとフィムは喜びつつ答えて言った。

「有難う御座います、とおる様。フィムは丁度それがしたかった所なのです。」

そう喜んでる姿を見て俺は嬉しくなった。なんだかマスターになるのも悪くはないな、そう思った。



「気持ちいいです。」

フィムは小川で水浴びをしていた。俺は家から自分の着替えを幾つか持ってきたがフィムが水浴びをしだしたので慌てて樹の陰に来ていた。

とおる様?」

フィムはそう言いながら俺のほうに来る。ち、ちょっと待て・・・お前裸のはずじゃあ・・・。

「どうされました?とおる様、気持ちがいいので良ければ御一緒に如何です?」

フィムはそう言って俺の手を引っ張る。焦りつつ俺は言った。

「ちょっと待て、フィム。お前裸だろう?」

「はい。」

「いや・・・はいって、俺が見てるんだぞ?」

「はい。ですからとおる様しか見ておりません。ですからフィムには問題はないのです。」

「いや、俺的にはすごく問題なのだが・・・。その・・・フィムはすごく素敵だしそれに俺の息子が・・・。」

はっ、しまった!何と言うことを俺は・・・。フィムの姿を見て俺の息子は元気に起き上がっていた。フィムは喜びつつ言う。

「まあまあ。以前のマスターもお元気でしたがとおる様もお元気ですね。お相手が必要なら何時でも私が致しますわ。」

い、いや、そう言う問題じゃあ・・・。ええい!分かった。とりあえず水浴びだ。

「分かった、水浴びに行こう。息子の件は今は後回しだ。」

俺はそう言い逃れつつ、服を脱ぎだした。フィムはくすりと笑って俺の後についていった。



「ふう・・・。」

水浴びが終わって部屋に戻ると俺はベットに座って一息をついた。

「楽しんだのでお疲れですか?」

フィムがそんな事を聞いてくる。いや、そうじゃなくて・・・。いきなりこんな状況になって俺は焦ってるのだが・・・。まあ、こんな事をフィムに言うのは失礼と言うものだ。

しかし、問題があるな。幾ら維持に水だけでよいとはいえ、はたから見た目女の子を自分の部屋に置くわけだどう考えても怪しすぎる。どうするかな。

そう考えていると、フィムが俺のほうに顔を近づけて言ってきた。

とおる様?何をお考えですか?」

「うお!いきなり顔を近づけたら吃驚するって。いや、えっとだな。お前の事をどう説明するか悩んでるんだがな。」

俺がそう言うとフィムはあっけらかんと答えてこう言った。

「それでしたら問題はありません。マスターとしての契約が成立した時点でフィムはとおる様の忠実な僕として皆さんに認識されていますよ。」

はい??つまり、マスターとなる契約って、そこまで含まれてる大仰なものだったのか・・・。おいおい、いいのか俺?いや、そりゃ、フィムは可愛いし無下には出来ないけどさ。だからと言って素直に受け入れるってのもなぁ。いや、もちろん嫌な訳じゃないんだが。

そんな感じで堂々巡りをしていた。フィムがまた心配になったのか俺を覗き込んでくる。

とおる様?どうされたのです?」

「ああ、すまん、フィムと一緒になるという状況を理解するのにちょっと整理が要ってね。」

俺がそう言うとフィムは納得した様に頷きながら言った。

「無理もありませんよ。私が無理やり押しかけたようなものですし。」

そう言って俺に微笑む。ああ・・・可愛いな。いや、そう言う問題じゃなくって。

「押しかけか。まあ確かにそうだよなぁ入ってきていきなり「水を下さい。」だもんな。」

俺が少し嫌味っぽく言う。フィムは顔を赤面させつつ言う。

とおる様・・・酷いですわ。」

お、可愛いな。う~ん、なんだかマスターってのもいいかも。って!それで俺はいいのか?いや、まぁなった以上やめるとかは出来ないんだろうなぁ。とりあえず聞いてみよう。

「フィム、聞きたいんだが。」

俺はそうフィムに切り出した。フィムが真顔になって答える。

「はい?何でしょうか、とおる様。」

「俺とのマスターとしての契約を破棄することは出来るのか?」

俺がそう言うとフィムはかなり悲しげな様子で俯きながら答えた。

「フィムはやはり要らないのでしょうか・・・。」

「あ、いや、そうじゃないんだ。俺はそんな事は思わない。そうじゃなくて契約としてそう言うものがあるか聞きたかっただけなんだ。うん。フィムにはずっと居て欲しいぞ。」

あれ?なんか俺ってすごいこと言っていないか?フィムは顔をほころばせつつ答えて言った。

「そうですか。申し訳ありません。とおる様を疑ってしまいました。罰は幾らでも受けますので後で思う存分与えて下さいませ。えっと、マスターとして解約できるか、ですね。それは可能です。もし必要であればいつでもおっしゃってください。あ、でもとおる様はもうおっしゃられないんですよね?」

そう笑顔で言われて、俺は、

「ああ、そうだな。」

と答えてしまった。しかし・・・罰って何だよ・・・(^^ゞ。以前のマスターは何をフィムに教え込んだんだか・・・。あまり考えるのは止そう。

さて、とりあえずはどうするかな。今は急いでする事がないし。

「今は急いでする事がないからどうするかな。」

と言ってみた。フィムがそれに答えて言う。

「それならば、外に出て色々見ておきたいのですが宜しいでしょうか?特に水のある場所を確認したいのです。」

なるほど、水が必須のフィムにとっては当然の考えだな。

「分かった、じゃあ行くか。」

そう言って、俺はフィムの手を取った。彼女は少し顔を赤らめつつ俺についていった。



「とまあ、そんな感じだったよな。」

俺は昔話として話しをしていた。そこには沢山の子供たちが話を聞いていた。

「へぇ。フィムさんとはそうやって知り合ったんだね~。」

子供の一人がそう言う。それに答えてフィムが言った。

「懐かしいですね。とおる様との出会いだなんて。」

「そうだろう。もう50年近く前の話だからな。懐かしい思い出さ。」

俺はそう答えた。そう、俺は近所にいる子供たちを相手に昔起きた事を語っている所だった。

俺はすでに年老いたがフィムは相変わらず若い姿を維持していた。彼女を創ったマスターという人物は相当な腕の持ち主だったのだろう。

そして俺はその事に非常に感謝している。彼女と出会えて良かったと。

「懐かしいが、尊い大切な思い出だ。あの俺の決断で運命は変わりお前と出会えたんだからな。フィム。」

俺はフィムにそう言った。フィムは何時もと変わらない笑みを俺に見せてくれていた。

「あれ?お爺ちゃん静かになっちゃった。」

子供が言う。フィムが答えて言う。

「お爺ちゃんは休んじゃったのよ。ゆっくり寝てるから起こさない様に向こうに行きましょうね。」

「はあい。」

子供はそう言って向こうの部屋へと移動した。フィムは俺に毛布を掛けながら言う。

「お疲れ様でした、とおる様。フィムは一緒に居られた時間貴方に十分愛されました。」

そう言って、フィムは部屋を後にしたのだった。



後にはゆっくりと眠る老人の姿がそこにはあった。

今回の文章は如何でしたでしょうか?ご感想や評価が頂けますと幸いですm(__)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 淡々としているようで世界観というか雰囲気が出せている。 [一言] どうも、かもっちです。 ありがちな設定ではあるものの、ほんわかと読ませていただきました。 常にマスターに残されていく彼女の…
2009/10/28 20:34 退会済み
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