黒髪清楚で容姿端麗、品行方正で才色兼備な学園の女神が……目の前でコンドーム落とした。
「見ろ山市! オレが所有する数々の至宝を!」
俺の悪友──二宮が大きな布を取り払うと、そこには美少女フィギュアやブルーレイボックス、ギャルゲーらしきゲームパッケージに同人誌、キーホルダ―、ペンケース、ポスター、タペストリーなど、様々なグッズが祀られていた。
「あのなあ二宮……お前ここどこだと思ってんだ?」
「どこって──楽園だろう?」
「そういう意味じゃねーよ」
「じゃあ天国か?」
「地獄なんだが?」
なるほど。
どちらにせよ、死んでいるという認識は一致しているようでなによりだ。
「ああ……妹たちの姿を見ていると、心が浄化されていくのを感じる」
「裸の美少女見て、落ち着けたらおしまいだ……」
……こいつの脳内は妹ヒロイン系作品に侵食されているらしい。
「学校ん中で、18禁を堂々飾ってんじゃねーよ……」
──ここは旧校舎の放送室。
放送室といっても旧校舎の旧放送室であり、すでにもう放送で使われることはない。
そのため、唯一の旧放送部員である俺たち二人が好き勝手に使っても特に怒られることもないわけだが……。
「こんなの学校側にバレたら廃部だぞまじで……やばいからすぐ隠そうぜ」
「貴様! オレの信仰を馬鹿にするのは許さんぞ! ご利益もあるんだぞ!!」
「妹グッズ飾って何を願ってんだよ……」
「オレに妹ができますように」
「ただの安産祈願じゃねーか。両親に頼め」
──ガラッ。
その時、突然放送室の扉が開いた。
「生徒会の柊木です」
放送室に入ってきたのは──人外美少女。
華奢な身体に、吸い込まれるような大きな瞳。きめ細やかな白い肌と艶やかな長い黒髪。
おしとやかな雰囲気を纏う彼女の名は柊木。
"生徒会の女神"や"学園の女神"なんて呼ばれていたりするほどだが、お世辞抜きで人間とは思えないほど麗しい美少女だ。
おまけに名家の令嬢らしく、品行方正で本当に非の打ち所がない。
だがその深窓の令嬢も──タイミングが悪すぎた。
「本日は部活動の抜き打ち監査で──」
そこで言葉は途切れて、ぱらぱら……と、彼女が持っていた書類がその白い指からすり抜けていく。
そして──みるみるうちに彼女の真っ白な頬が赤く染まっていく。
「あ、やっべ……」
彼女の揺れる視線の先には、信徒二宮が信仰を捧げる18禁グッズがあった。
「せ、生徒会で緊急会議をしないと……!」
──このまま柊木を返したらやべえ!! 廃部だけは避けねーと!!
俺と二宮の視線が交差して旧放送部秘伝のテレパシースキルが発動する。
(おい二宮!)
(任された!)
「待て柊木、結論を急ぐな! これは誤解だ!」
と、二宮が叫びながら急いで柊木の背後に回り、放送室の扉を閉めて閉じ込める。
「ど、どいてください!」
「待て、オレの話を聞いてくれ!」
「ちょっと、手を掴まないでください!」
「だから落ち着いてくれ! 話し合えば分かるはずだ!」
よし作戦通りだな。罪を重ねるのはあいつでいい。
そんな扉際の攻防のさなか──どちらかのポケットから落ちたのか、小さな個包装が宙を舞った。
「おーい二人とも一旦ストップなー。なんかポケットから落ちt」
と、俺が床から拾い上げたのは、人工的な円形極薄ゴム──コンドームだった。
……。
「二宮……てめーなんてもん部室に持ち込んでんだよ……」
ついにこいつの頭はそこまでイカれてしまったのか。
「待て山市! 話し合おう。話せば分かる」
「分かってたまるか」
「確かに対妹用避妊具という限定グッズは存在するが、それはオレのじゃないぞ」
「今すぐそのグッズを差し押さえろ。そして購入者を捕らえろ」
一体どんな狙いでそんなグッズを開発しているの──
「え? 待って──これまじでお前のじゃないの?」
「当たり前だろう?」
……二宮が嘘をついているようには見えない。
「むしろ見損なったぞ山市。つまらない見栄を張るために、そんなものを持ち歩くようになったとはな!」
「いや俺じゃねーだろ!? 現物見るの初めてだし、そもそもお前らから全然遠かったぞ!?」
「貴様、失態のあまり、気が童貞しているようだな」
「“動転”な! なんだ”気が童貞している”って! まあ実際童貞だし何か絶妙にニュアンス伝わるけども!──って何のやり取りだよこれ!」
「いやお前が始めたんだが」
こいつの巧みな術中に嵌められてしまった。
「じゃあそれは山市のものではないんだな?」
「ああ。お前のでもねーってことだな?」
「その通りだ」
「なるほどな! じゃあ──」
……。
…………。
………………。
──沈黙に包まれる旧放送室。
「……え? 何ですかこの微妙な間は!?」
柊木の悲鳴にも似た叫びが沈黙を破った。
「い、いや別に……」
「オレたち、何も言っていないぞ……」
「ち、ちち違いますよ! 誤解ですっ!! 私の話を聞いてください!」
綺麗な白い肌が途端に真っ赤に染まっていく。
──なんか、めちゃめちゃ育ちが良い人の……そういう話って、聞きたくなるというか、嗜虐心がそそられるよなあ……。
(なあ二宮……)
(うむ……)
「なんつーか、その……そういう用意、女子側がちゃんとしてるって、全然良いと思うし」
「むしろ、一見守備的に見えてよく考えればアグレッシブ、という絶妙な姿勢は高く評価されるであろう……」
「ああ、攻守のバランスも完璧だし、万が一のカウンターケアもばっちりで申し分──」
「──何ですかそのサッカーみたいな話!? わ、私は! その……gムなんで持ち歩いてませんから!!」
淑女であろう柊木は、その言葉を口にするのも憚られるようだ。
「ま、まあ……柊木ってめちゃ綺麗で大人に見えるし、全然、ね? もう、してても、違和感ないし、変に否定しなくても……」
「う、うむ! 一度否定した手前、もう引っ込みがつかなくなってしまう気持ちも分かるというもので……」
「だから誤解ですっ!! 私の話を聞いてくださいっ!!」
(……二宮、ここは俺に合わせろ!)
(ま、任せた!)
とにかく、女神様の失態を、何とか俺たちの手でリカバリーしてあげなくては……。
俺が逆の立場だったら、羞恥のあまり今すぐ逃げ出しているだろう。
彼女の強靭なメンタルに報いるためにも!
──この膠着状態を、無理やりにでも打開する必要がある!
一旦落ち着いて、深呼吸をする。
そして俺は──快刀乱麻を断つ如く、この場における鮮やかな解答を叩き出した。
「一旦さあ、これ──なかったことにしよう」
「承知」
とりあえず、避妊具を制服のポケットに突っ込む。
「やはり、妹はいいよな。山市もそう思わないか?」
「いや全然」
「オレに妹はいないが、生まれ変われるなら──妹がいる家庭に生まれたい!」
「……そうか」
「なんだ? 歯切れ悪いな。言いたいことがあるなら言うがいい」
「じゃ、言わせてもらうけど……」
「ほう? オレの妹への甘く見てもらっては──」
「妹がいる家庭に生まれたら──普通にそれ姉になるぞ?」
「なん……だと……!?」
「──いや待ってください!! さっきの話はどうしたんですかっ!?」
柊木が無理やり俺たちの会話に割って入ってくる。
(なんでこの人、振り出しに戻す真似を!?)
(オレたちが気を利かせてやっているというのに!)
「なあなあにしないでください! 全然誤解が解けてませんっ!」
(プランBだ!)
(承知!)
「──え、誤解? 一体何のことっすか?」
「何をそんなに騒いでいるんだ?」
「え、いや、だから……その……」
黙りこくる柊木。
「……どした? 急にそんな黙って」
「具合でも悪いのか?」
「ち、違いますからっ!」
「え? じゃ、何の話っすか?」
「別に無理をする必要はないが?」
「だから、その…………goムの……話です……」
柊木は身体をもじもじさせながら言う。
「なんて?」
「だから……ゴムですっ!」
「おい山市? ゴムってなんだ?」
「さあ? 俺には何が何だかさっぱり……」
「その……だから……避妊具のことですっ!」
顔を真っ赤に染め上げて悶えながら言う柊木。
「おい山市──察してやらないか、彼女が言いたいことを……」
「へ? ……あっ!」
「えっ、えっ!? 何です!?」
「そ……そういうことか!! だから柊木は!」
確かにそこに気が回っていなかった!
「えっと、これ──職員室前の落とし物ボックスに置いとくから」
「別にオレたち──後で回収したか確認しないと誓うぞ?」
「返してほしいわけじゃありませんっ!! それはそもそも私のものじゃなくて──」
(山市、ここはもう強制的に終わらせるのが吉と見た)
(だな。その方が彼女のためだ)
「了解です。この件は追って連絡するんで」
「今日のところはこれでお開きだな」
「ええっ!? どうして急に私を追い出そうと……」
無理やり柊木を廊下に追い出す。
「ま、待ってください! 私を帰らせて「あいつって実は……」って絶対話すつもりですよね!? 本当の本当に誤解で、これは生徒から没収──」
「では、また会おう」
「そんな話、絶対しないって。じゃ、お疲れっした」
──バタンッ!
……。
「あー疲れた。なんか色々解決してねーけど……まあ何とかなんだろ」
「それよりも、妹談義の続きをしようではないか!」
「ええ……お前妹好きすぎだろ。つかお前の妹の定義って何?」
「そうだな……まあ自分より年下ならいけるが?」
「頼むからいかないでくれ」
「同い年でも、オレより誕生日が後ならいけるが……オレにできる譲歩はこれぐらいだ……!」
「どこに歩み寄ったんだよ……」
「オレは、この世界にいる妹に会うために生まれてきたからな!」
その時妹は一人もいねーんだよなあ……時系列的に。
「つーか……そろそろよくね?」
「ああ、そろそろ頃合いだろう」
「…………柊木って、清楚に見えて実はやらしい、清楚系ビッ──」
「──(ガラッ)やっぱりその話、してるじゃないですかっ!!」
いつまでいんだよ。
この作品は、izumiの拙作である後書き小説、
『so cube!!! ~放送室で誰にも聞かせられないようなバカ話で盛り上がってたらマイクがオンになってることにたった今気づいたんだけど、どうすればいい?~』
のとある場面を短編用にリメイクしたものです。
このバカなノリが好きな方は是非!