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半端なパナコの異世界転生  作者: 金剛マエストロ
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-04-

謎の男の訪問を受けたパナコだが・・・

「ファムードか。」

 背後に気配を感じて、リーグはわずかに振り返った。

 口調は普段と変わらないが、傍らの剣の柄に、手を添えていた。

 リーグが、いつでも自分を斬れる状態にあることを確認したファムードは、むしろホッとして表情を緩めた。

 たとえ付き合いの長い相手であっても、油断という言葉とは無縁なリーグだ。

「残念ながら、振られてしまったよ。」

「振られた?

 そうか・・・」

 おどけた表情もほんのひと時で、ファムードは真顔に戻る。

「魅惑のいざないは、ことごとくかわされた。

 意図してのことであれば感嘆すべきことだが、どうもそうではないらしい。」

「ふむ。

 お前の呪術まじないが効かないとは、厄介なことだ。」

 リーグの言葉と表情が、見事なまでに一致していない。

「今一つ、試してみるべきか?」

「何をだい?」

 ファムードの問いに、リーグは深みのある笑みで応えた。


 昼食の時間、パナコの姿は、リーグとともに食堂の中にあった。

 配膳が終わると、リーグが口を開く。

『顔合わせ済みだが、正式な紹介は、まだだったな。

 こちらがギニーネ、そしてファムードだ。』

 お誕生席のリーグから見て右斜めにギニーネ、その向かいにファムードが座っている。

 そのファムードの隣が、パナコの席だ。

 パナコは二人を交互に見やりながら、ペコリと頭を下げた。

『わたくしの魔弓を初見で回避できた方は、そう多くはおりませんのよ。』

 相変わらずフェロモン満々という感じで、ギニーネが微笑む。

 同性ながら見事な双丘に思わず視線を惹かれてしまい、俯いたパナコは、小さくため息をついた。

『先刻は寝所に忍び入り、失礼いたしました。』

 いきなりとんでもないことを口走り、穏やかな笑みを浮かべた男の顔に、ハッとしてパナコは自分の身体を抱きしめる。

 リーグも、ギニーネも、ファムードも表情は柔らかいが、パナコの反応の一つ一つを吟味している気配だ。

 ものすごく、居心地が悪い。

 そんなパナコの表情の変化には無頓着に、

『そして今一人、そちらがリリジュだ。

 これからしばらくの間、お前を預かってもらう予定だ。』

 パナコの正面の席に座っているのは、パナコより年下にしか見えない少女だった。

 リリジュは、満面の笑みを浮かべた。

 真っ赤な唇の間に覗くのは、艶めかしく輝く犬歯、そしてその瞳は、真紅の輝きを帯びていた。

『貴女の命は、美味しいかしら?』

 鈴を転がすような可憐な声音なのに、その言葉の意味は剣呑だ。

 思わずリーグに目をやるパナコだが、リーグはそんなパナコの反応さえ観察対象と決め込んでいるようだ。

「あ、あの、わたしの・・・」

 命なんて、おいしくないと思います・・・と、語りかけようとした時には、リリジュの端正な顔立ちが、目前に迫っていた。

『怖がらなくって、いいの。

 なるべく痛くはしない積もりだから・・・』

 いつの間に移動していたのか、パナコにお姫様抱っこされている格好のリリジュだが、膝の上には確かに柔らかな感触があると言うのに、ほとんど重さを感じていない。

「で、でも・・・」

『いただきまぁ~すッ!』

 リリジュにぎゅッと抱きしめられたと思った瞬間、首筋の横にチクリと痛みを感じた。

 じゅるッと音をたてて、柔らかいものが肌を撫でる。

 痛みよりも、心地よさが上回った。

 ひどく長い時間にも、ほんの瞬き程の時間にも感じられる時の流れの後、ようやくリリジュの抱擁が緩んだ。

 知らず閉じていた瞼を上げると、恍惚の笑みを浮かべたリリジュと目が合った。

『美、味・・・』

 鮮血に濡れる唇を、ペロリと舐める。

『あぁ・・・』

 膝の上に腰かけたまま、リリジュは仰け反る。

 転げ落ちそうなのに、絶妙なバランスを保ったまま、ビクビクと身体を震わせる。

 リリジュの身体が触れている部分が、やたらに熱い。

『あ、あ、あぁ~ッ!』

 ひと際悩まし気な声を放った瞬間、リリジュは少女から美女へと変化した。

「へっ?」

 淫靡いんびな眼差しが、すッと近づく。

 とろけるように柔らかく、滑らかな抱擁。

 予期した痛みの代わりに、チロリと首筋を滑る、リリジュの口づけ。

『こんなご馳走、いったい、何百年ぶりかしら?』

 怖ろしくも心地よい温もりに包まれながら、パナコの意識は暗転した。

作者より一言:大きさだけが女性の価値のすべてやないんやで。

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