序章 半端なパナコ
いろいろあって、難産気味でしたが、とりあえず一段落したので投稿開始します。
割と緩~く進行見込みです。
昔から、半端な子と言われている。
半端な子、略してパナコだ。
最初にそう呼んだのは、姉の美里だった。
『ほんと、あんたって何でも中途半端な子だよね。
これじゃ、華子じゃなくてパナコだわ。』
程なく、両親まで、そう呼び始めた。
そのうち、家族だけでなく、友達も同じように呼ぶようになった。
正直なところ、あまりいい気はしなかったパナコだが、語感は悪くないし、耳に馴染んだ頃には、さほど気にならなくなっていた。
言い出しっぺの姉も含め、あからさまに悪意を持って呼ばれているようには思えなかったから。
(実際、半端モノだってことは身に染みてるし・・・)
中肉中背、身長も体重も胸囲も容姿も成績も体力も、どれも平均に少し足りないくらいだ。
明朗快活、容姿端麗、成績優秀・・・と言ったら誉めすぎかもしれないが、家事でも勉強でも遊びでも、色々なことをソツなくこなし、性格も明るくて社交性に富んだ姉を羨ましいとは思うけれども、妬ましいと思う程じゃない。
クラスの中で目立つ存在ではないけども、無性に生きづらいこともない。
友達がたくさん居るわけじゃないけど、孤立してのけ者にされることもない。
集団に埋没しながらも、極端に落ちこぼれることもなく、ひたすら無難に今まで過ごしてきたパナコだった。
このまま普通に学校を卒業して、どこか小さな事務所にでも就職して、結婚とかして、子供なんか産んでみたりなんかして・・・
赤ちゃんを抱いている自分の姿を想像してみようとしたけど、何だかぼんやりとしていて、恐ろしく現実味がない。
男性より女性の方が現実的だと言われたりもするけれど、そういう方面の能力が、自分には致命的に欠如しているような気がしてならないパナコだった。
綺麗な服とか、お洒落なバッグとか、まったく気にならないと言ったらウソになるけども、ショッピングセンターみたいなところを無闇やたらに歩き回るよりは、家でまったり読書でもしていた方がいい。
本ばかり読んでないで外に出なさいと母さんは言うけど、家にいる時ぐらいは、好きなことをしていてもいいんじゃないかと思う。
誰かに迷惑をかけているわけではないし、無駄遣いしてるわけでもない。
まぁ、問題と言えば、読書のし過ぎなのか、最近、少し視力が落ちてきた様な気がしてるけども・・・
今のところ、日常生活に支障をきたす程じゃないものの、そろそろ眼鏡とか必要になるのかもしれない。
(眼鏡って、メンドくさいかな?)
落としでもしたら壊れるだろうし、度が進めば買い替えも必要だ。
コンタクトやレーシックという手もあるけど、目の中に直接レンズを入れるとか、目玉の一部を切り取るとか、想像しただけでゾッとする。
市販の目薬でさえ、いまだにおっかなびっくりなパナコだった。
(お姉ちゃんだったら、絶対、眼鏡なんかしないよね。)
そう思いつつも、眼鏡をかけた姉の姿を想像してみたら、全然ダサくなくて、思わず苦笑いしてしまった。
曲がりなりにも姉妹なんだから、顔のパーツそのものは、そんなに大きな違いはない筈なのに、微妙な配列のズレなのか、パーツ単体の完成度に差があるのか、全体の印象となると、まるで違う。
花に例えるなら、太陽と真正面に向き合うヒマワリみたいな姉と、地べたに張り付いているタンポポみたいな自分。
同じ黄色い花だけど、そもそも比較対象にするのもおこがましい感じだ。
(わたしが、お姉ちゃんみたいだったら・・・)
こんなつまんないことで、いちいち悩んだりはしないのかもしれない。
取り留めのない思考の中で、いつしかパナコは、眠りの中に沈んでいって・・・
(!)
ドンと、背中を叩かれたようにして、目を覚ました。
「はっ!かはっ!」
あまりの衝撃に、思わず咽る。
上体を起こすと、ポタポタと涙が溢れ、零れ落ちた。
『ふむ。
子供か。』
頭の上の方から、男の人の声がした。
見上げた瞳に映った光景に、パナコは固まる。
鋭い視線の主は、明らかに人じゃない。
牙のある口元から放たれた言語は、馴染みのある日本語じゃなかった。
それでいて、言葉の意味だけは理解できる、摩訶不思議な状況だ。
でも、それよりも気になったのは、自分の足が、青黒い色で覆われていたことだ。
「えっ?」
胸元、両腕と視線を走らせるが、すべて同じ色合いだ。
いや、良く見てみると、手のひらは肌が露出しているけど、他の部分は密度の高い短い毛で覆われているようだ。
そして、黒く長く鋭く伸びた指の爪。
ふと気になって口の中を探ってみたら、全部の歯が尖っていた。
『戦力的には、期待はできぬか・・・』
顎の下に手をかけ、強引に上を向かされる。
息がかかる程近くに迫る、黒地に赤で隈取りされた顔立ちは、端正と言っても良い造形だったけど、野性味が溢れていた。
誉めてくれているわけじゃないという事がありありと分かったので、パナコは思わず睨んでしまう。
『俺を怖がらないとは、根性だけはありそうだ。』
威圧的過ぎる笑みを浮かべつつ、
『魔王城へ、ようこそ。
其方は今、この時より、我が配下となるのだ。』
やや遅れて、その言葉の意味を解したパナコは、返す言葉のないまま、思わず天を仰いでいた。
作者よりパナコへ一言:タンポポだって可愛い花だと思いますよ。