第九十七話 激突!光と闇
進むほどに先は暗い。ライトネス向井は、深まる闇に対抗して光魔法の効力を強め辺りを照らす。
進む内に遂に洞窟ダンジョンの天上が無くなった。ダンジョンを抜けて出口に辿り着いたのだ。ここはもう外だ。しかし、出口でライトネスを待っていたのは降り注ぐ太陽の光ではなく、更なる深き闇だった。
「やはりか……」
ライトネスは、やはりその未来が待っていたことを確認した。
洞窟を抜けた先の道は少ししか無かった。出口から10メートルも進まない内に高い崖が待っている。下には木々の緑が見えるはずが、今では魔法効果で下は真っ黒な闇しか見えない。
「ライトネス!無事だったか!」
出口でライトネスを待っていた一人は、パーティーのリーダーにして冒険者ギルドの長でもある男バンサク・トミノだった。バンサクは構えを解かず、目線だけをライトネスに向けて声をかけた。バンサクの体勢、声からも、この場には大きな緊張が走っていることが分かる。
トミノは槍を構え、そこにいたもう一人の人物と対峙している。
そのもう一人とは、ライトネスが最も良く知る顔を持つ男だった。
「兄さん……」
バンサクの槍が向いた先にいた男は、黒き闇を覆って浮遊していた。その男こそ、ライトネス向井の双子の兄であり、魔王四天王の一人であり、もひとつオマケを加えると勇や一世達の文化祭の芝居に稽古をつけた師匠でもあるダークネス向井だった。
「久しいな、弟よ」
「兄さん!そんなところで何をしているんだ!」
「お前こそ。私以上に何をしてるんだと問われて仕方ない場にいるだろう。お前が踏むのはこんな闇の大地か?光照らす舞台ではなくて?」
次には兄弟が対峙することになる。
「いや、最初に見た時には驚いたが、こうしてそっくりな二人が揃うと改めて驚く、そっくりだ」
バンサクは双子の兄弟を一度に視界にに写したことで新鮮な驚きを得た。
「団長、ここに来るまでに倒れていた連中は兄にやられたのですね?」
「ああ、ヤツの闇魔法の前に皆倒れた」
「己、よくも三人を!」
ライトネスは倒れた仲間の無念を想って拳を握る。
ユイノは自分を見て唯一ではなかったのかと言った。それは、ライトネス向井と同じ顔をした敵が現れたから。
エミコはただ「どうして」と尋ねた。仲間だったはずの自分と同じ顔をした者と戦うことになったので、自分が裏切ったのかもと考えたのだろう。
全てが繋がり、ライトネスの中で仲間たちの言動に合点がいった。
「あ、でもノリコシのアレは違う。あいつが悪い。また例のスケベ癖が出てエミコのスカートを微風でめくったためにエミコから手痛い報復にあい、そんであの通りだ」
「え?」
バンサクからまさかの報告を聞き、怒りを込めて固く握ったライトネスの拳から力が抜けた。
「ふふっ、そういうことだ弟よ。ノリコシなどという者をこの手にかけた覚えはない」
「そうか、兄さん……」
ライトネスの怒りは三分の一OFFになった。だがそれでも友二人をやったことに変わりはない。
「しかしライトネス。お前の兄は強い。さすが四天王。だが、いくら四天王でも一人でここまでやるとは予想外だ」
バンサクは地面に片膝をついていた。既に疲弊が見られる。
「団長、ここは俺に任せて退いてくれませんか?」
「何?四天王を前にして尻尾を巻いて逃げろというのか?」
「尻尾なら巻いてもらって構いません。ただ、逃げるのではなく、倒れた仲間達の救助をお願いしたい。あなたは既に疲弊している。あの闇のパワーをまとった兄を、いえダークネス向井を相手に無事で済むわけがない」
「しかし……お前を置いていくなど」
「置いていくなどと考えて下さるな。俺の旅の目的は今まさにこの瞬間のため。急に失踪した末魔王軍についたあの兄を見つけるため。そして連れ帰るためです。置いていくのではなく、あなたはココに俺を届けたのだ。そう考えて次の行動に出て下さい」
兄を睨むライトネスの目に、男の強い覚悟を見た。だからバンサクは迷いを打ち消した。
普段は温厚で冷静で甘い物が好きな男、そんな一面が目立つライトネス向井が、熱い心を持ってして目上の者に意見するのは意外でしかなかった。
「分かった。ここは任せる。……俺は死地へとお前を届けたつもりはない。結果がどうだろうが帰って来い。甘いココアをご馳走してやる」
「ええ、おかわりも用意して待っていて下さい」
バンサクは仲間を回収するため、再び洞窟の暗闇に消えて行った。
「ふふっ、仲間を逃したつもりか?どこまで逃げても魔王軍団から逃れることは出来んぞ」
「兄さんこそ、俺から逃げるなよ」
ライトネスの全身が白く発光する。辺り一面の真っ黒が少しずつ白んで行く。
「兄さん、こうも暗いと鬱陶しくてかなわない。少し明るくさせてもらうよ」
「お前の光で闇を打ち消すというのか。お前も力をつけたものだな」
辺りの景色を見ると、白と黒の紙を張り合わせたごとく、向かって右と左ではっきりと色が別れている。異常な景色が完成していた。
「舞台役者上がりごときが、このダークネス向井に対抗出来ると想うなよ」
「それなら兄さんも同じだろう。俺が極めた光の力、思い知るがいい」
ダークネスからは黒き線が伸び、ライトネスからは白き線が伸びる。二人が立っている間の地点で闇と光がぶつかり合う。二つの強い衝撃は、ぶつかったことでもっと大きな衝撃を生む。突風が吹き荒れ、地面が崩れる中、二人の兄弟は目に痛い程の光と闇を見た。




