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第九十六話 向かう光と深まる闇

 洞窟ダンジョンの中をライトネス向井は駆ける。

 

「しまった。この俺としたことが、つい欲が出て噛みつき宝箱に捕まってしまうとはな。お陰様でパーティから一時離脱だぜ」


 噛みつき宝箱とは、冒険RPGなどで良く見る宝箱の見た目をしているだけで中にはアイテムでなく化け物が潜んでいるという例のアレである。宝箱に住み着く謎の化け物のことは詳しく分かっておらず、とにかく大きな口を広げて噛み付いてくるのだ。そう強いものでもないが、しばらくは冒険者から離れないのが困り物である。

 宝箱を見つけてラッキーと思ったライトネス向井はつい良くが出て宝箱を開けてしまった。そして開けたら最後。ガブリと行かれてしまったのだ。皆を待たせるのも悪いので、一行には先に進んでもらい、ライトネス向井は一人残ってしっかりとこの化け物を退治したのだった。


 そこまで長い時間寄り道は食わなかった。だからすぐにもパーティに追いついた。メンバーの一人の背中が見えた。


「おっ、ユイノ!」


 ライトネスに背中を向けたその男は、名をハジメ・ユイノ(唯野一)という。オンリーワンであることを行動理念のファーストプライオリティにして日々を生きる彼についた通り名が「オンリーワンの怪物」だった。


 ライトネスの呼びかけに対し、振り向くこともしなければ声を上げることもしない。ライトネスはユイノの様子がおかしい事に気づいた。


「どうしたユイノ?」

 ライトネスがユイノの肩に手を置くと、ユイノは地面に崩れ落ちた。


「おい!ユイノ!」

「……これが……唯一の……敗北」


 ライトネスはユイノの肩を掴んで抱き起こす。


「おい、何があった?それに他の皆は?」

 

 見える範囲に、ユイノ以外人の姿が見えない。他のパーティーメンバーはどこへ行ったのか。ライトネスの心に大きな不安と焦りが生まれる。


「ライトネス……お前は、唯一では……なかったのか……」

「何?何を言ってる?俺が唯一ではない?」


 謎のメッセージを残し、オンリーワンの怪物は唯一の命の終わりを迎えた。


「ユイノ!ユイノ!目を開けろ!ユイノぉぉ!」

 友の名を叫びながら、ライトネスは激しく遺体の肩を揺らした。


「うごぉほ!げほ、いや、死んでないって、死んでないけど、HPの限界だから、今はここに寝かせておいて」

 これは前述を訂正、なんとユイノは生きていた。


「ふぅ、良かった。しかし一体誰がこんなことを。オンリーワンの怪物に唯一の敗北を与えるような猛者がこの先に潜んでいるというのか」


 ライトネスはゆっくりとユイノの体を地面に寝かせた。大丈夫、呼吸はある。

 立ち上がるとライトネスはダンジョンの奥へと歩を進めた。


 おかしい。確かに暗い洞窟ではあるが、あるエリアから急に暗すぎる。何かの魔法効果が働いていると考えて間違いない。光魔法を得意とするライトネスは、場の明暗に関してかなり敏感に反応する。そうでなくとも彼は元々舞台の上で照明を操っていたのだ。


 また誰かが倒れている。ダンジョン内モンスターの「動き回る鮮度良き死体」が鮮度良き時代を終えて腐って静止したのか、その可能性もある。今度はユイノの時と違ってゆっくりと近づく。


「あっ、ノリコシ!」


 なんとモンスターぽく冷たい地面にうつ伏せで倒れ込んだ男は、あのワンフィンガーウィンドのノリコシだった。両手の人差し指から扇風機の弱風にも劣る微風を吹かせるという戦闘向きではない癒やしの風使いとして冒険者の間では有名な男だった。


「ノリコシ、大丈夫か。息は、いや、めっちゃあるな」

 細かい確認なくとも無事は分かった。大きないびきが聞こえる。


「こいつから得られる情報は無し。よし、先を急ごう」


 ライトネスはまだ奥を目指す。もっと辺りが暗くなってきた。

 ライトネスは指先から光の玉を出す。それを自分の右肩の少し上に浮かせる。電球のような効果があり、周りが良く見える。


「あっ次は誰だ」


 また人が倒れている。

 次なる人間は先の男連中よりもシルエットが小さく細い。女性だった。


「エミコ・ネクストシーズン!」

 そう、倒れていたのはエミコ・ネクストシーズンだった。もう人物説明が面倒なので、詳しいことは第五十七話を確認して欲しい。


「エミコ、何があった!教えるんだ」

「うう……ライトネス……あなた、どうして……どうして……」

「何、どうしてとは?どういうことだ?答えてくれ」

「く……」

 これ以上の情報を聞き出す前にエミコは意識を失ってしまった。確認したが死んではいない。


「なんだ。どういうことだ。俺を見て不思議なことを言う。ユイノとエミコの言葉が不可解だ……」

 そうは言っても、ライトネス向井の中では違和感が溶けつつあった。倒れた仲間の言葉を受け、何があったのか、この奥に何が待っているのか、その答えにある程度の予想がついていた。しかし、ライトネスは自身の予想が当たることを恐れていた。だから答えを口にするのを避けた。


「行くしかないか……」


 ライトネスはより暗い方へと足を向けた。

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