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第九十三話 何でもかんでもに意味を求めるものではない

 バンサク・トミノをトップに立てた冒険者軍団がガメ・オベイラの地を旅立って約二週間が経過した。


「嘘だろ……」

 号外を手にした街人Aは、そこに記載された内容に衝撃を受けた。

「冒険者協会進軍なるも魔王軍勢を崩せず」

 街人は記事の見出しを声にした。


「おい、お前、これどう思うよ?」と街人BがAに声をかける。

「俄には信じられない。魔王軍勢だってそりゃ強いだろうさ。でも天下のホメコヌス発の冒険者軍団だぜ。それがあっさり壊滅するとも思えん」

「だよなぁ。しかし、真実はやはり戦場にしかないよな。まぁ苦戦はするだろうけど、きっと勝ってくれるよな」

「ああ、そう願うよ」


 街人達がそうだったように、王宮の人々もまたこの報道を受けて心を乱すのだった。

 今日も王様をはじめとした御歴々が王宮の会議室に集まっていた。


「王様、困りました。あの猛者共が半月かけてまだ倒せないとは……まさかバンサク達は全滅したとは考えられませんか?」大臣はオロオロして尋ねる。

「分からぬ。そんな考えならいくらでも膨らませることが出来る。だが、真実は……いや、あのバンサクを信じようぞ」王様は何とか冷静の範疇にある。だが、安心はまるで出来ない。

「王様、もう王宮の騎士隊から派遣できる者がありません。こちらも勢力のほとんどを出しています。これが倒されていたとしたら……我々も覚悟を決める段階に入るしか……」騎士団運営管理を任された大臣もオロオロして報告する。

「情けない。一国の王といえど、こうなれば何も出来ず怯えて待つだけだ。肝心な戦はバンサク達頼みだ」王様は己の非力を恥じるのだった。


「しかし王様、そう悲観することもないですよ。バンサクだけではない。あの軍団の中には、光魔法の天才ライトネス向井、占い師上がりの女流格闘家エミコネクストシーズンらもいるのですよ」

「そうだそうだ。まだ他にはオンリーワンの怪物ハジメ・ユイノ、両手の人差し指から風を発生させるワンフィンガーウィンドのノリコシもいます。いくら魔王が強くとも、あの連中を簡単に打ち負かすなんて出来っこないですよ。現在出回っている情報はデマで、実はもう彼らは魔王の首を取って宴でも行っているのかもしれませんよ」

 本当は心に怯えを持つ中、まずは自分達、そして王様の心も鼓舞するため、男達は陽気にそんなことを言うのだった。


「うむ、そう考えることも出来る。そうであれば良いのだが……」

 王様はただ祈ることしか出来ない自分を恥じながらも、それしか出来ないのでもっと強く祈るのだった。


 ここで会議室壁から怪しげな光が発せられた。一同は何事かと驚いて壁を見る。

 壁にあるもの、それは四角い形をした異世界モニタだった。四角い画面に映し出されたのは、魔王ドブジルその人だった。魔王城からの映像を王宮に届けているのだ。


「え~あ~諸君、王様いるのか?聞こえるか?」

「……ああ、聞こえておる。お主はもしや……」

「そのもしやで多分当たりだ。俺は魔王ドブジル。諸君が絶賛手を焼いているこの世界の侵略者。その親玉だ」

 遠隔とはいえど、魔王自らが乗り込んで来た。このことに一同は驚愕する。そして図々しい出方に憤慨もするのだ。


「親玉がズケズケと国の中心の王宮に顔を出すとは何事だ!」アゴヒゲの議員は魔王に対して怒りを顕にする。

「はっはっ。その王の座ってのが入れ替わるかもって話をしてるのだ」

「何!何を言ってるんだこの魔王は!」アゴヒゲには魔王の言う意味が分からない。


「ご覧頂こう。これが我が城の捕虜のくつろぎ部屋だ」

 魔王は画角から消える。するとその後ろには、勢いよく王宮を旅立った戦士達の姿があった。もちろん皆元気な姿ではない。疲弊し切っている。倒され、捕まったのだ。


「ああ!あれは戦士達!」

 国を守る戦士達が倒された事を知った者達は一斉に取り乱す。

 そして、アゴヒゲの議員は捕らえられた者達の中にとある有名人を見つける。

「ああ!あれは、ペペペペペペ、ペインターイソロク!」

 そう、ペイントマジックとポップコーンを融合させることで新時代の波を運んだあのペインターイソロクだった。

「なんと!ペインターまで捕まったのか」

 今やペインターの中でもイソロクは時の人。その腕っぷしとは別にネームバリューだけは加速的に大きくなっていた。なので皆は新時代のシンボル的存在の彼が敗北したことで一気に気落ちしてしまう。


「王様、言っておくぞ。我が魔王軍団をナメるな。これしきの軍勢で挑んで不動の魔王軍団の名を返上させることが叶うと想うなよ。不動とは、なかなか動かんからこその栄誉だぞ」

「それは……初めて聞いたぞい」

 王様は不動の魔王軍の通称をまるで知らなかった。魔王は一瞬怯むが、そんな態度を長く見せれば魔王の風格が廃るので、気を取り直して強気な発言に出る。


「ザコでボスを狩れると想うな。出し惜しみする余裕はお前達にはないのだ。俺を何とかしたかったら最初からジョーカーを切れ」

「というと?」

「王様、とぼけるなよ。その者はまず王宮から伝説の出発となるはずだ。そう、勇者のことだ」

「勇者……勇者はまだ来ていない」

「え?」

「だから勇者はまだ降臨なさらないと言ってるのだ」

「いいのかそれで?いつまでも勇者を出さないと世界が終わってしまうぞ」

「良くはない。だが、来ないものは来ないからなんともし難い」


 勇者が来ない。この事実を受け、ドブジルも王様も困ってしまう。魔王は勇者を迎え撃つものであり、王様は勇者が気持ちよく伝説の冒険を出発できるよう後押しする役でもある。勇者が来ないのでそれぞれ本来の役どころを見せることが出来ない。


「ふん、そんなに簡単にいってもつまらんな……まぁ良い。待ってやる」

「なんと?」

「待ってやる。イージーモードよりもハードモードでクリアしてこそ、真にゲーム踏破と言えよう」

「何、それは本当か魔王」

「ああ、勇者の抵抗無くして世界征服してもつまらん。さっさと勇者を探して連れてこい」

 これは意外な展開になった。王宮の一同はひとまずホッとする。


「だが魔王、問いたいことがある」

「なんだ、答えてやろう王様」

「お主はなぜ世界征服など考える」

「ふん、魔王とはそうするべくして降臨するもの。人は生まれたなら理由なく勝手に歩く、鳥はピヨと鳴いて生まれたなら大体が空を目指す。同じこと、魔王は世界を闇で覆い隠す」

「何?では刷り込みのようなものと?理由はそんなものか?」

「うるさい。何がどうなって悪に染まったっていうそんな詳しい設定を考える暇なかったんだよ。いいか、もう設定なんだよ。そうじゃなきゃ魔王じゃないんだよ。じゃあな、早く勇者を探せよ」早口でそう言うと、魔王との通信は切れてしまった。


 魔王がなぜ魔王たる悪行に手を染めるのか、それは理屈を噛み砕いての説明不要なもので、ただ設定であるとだけ認識してもらえるとありがたい。

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