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第八十九話 始まって終わってが文化の形

 夕陽射す校舎の二階窓から見える景色は愛しくも寂しいものだった。

 数時間前まで賑やかだった学内のあちこちから声が減って行く。もう観客の姿はない。残ったのは片付けを行う生徒達ばかりだった。

 文化祭はとても楽しい時間だった。生徒達は、楽しい時間を自らの手で終わせる準備に入る。楽しかった祭りの後はいつだってちょっぴりの寂しさがつきまとう。こうして皆は心ときめく今を最新の過去にして行く。これが積もりに積もって一人の人間の人生の記憶となる。学生達は現在進行系で大人への階段を登っていた。それぞれが小さいながらも、止まっていられない若さあふれる命なのである。


 そんな光景を窓越しに見ている若き命が3つ並んでいた。校庭を向く二階廊下の窓には、勇、一世、権之内の姿が見えた。


「いや~終わったなぁ~めでたく無事に全プログラム完了だ」一世は夕陽を浴びながら遠い目をして言った。

「本当な。俺はこれで肩の荷が下りたよ。実行委員って思った以上に忙しいのな。併せて一世の考えた台本を覚える苦労もあったし」

「勇、あれすごく良かったってさ。評判良いぜ、特に女子から。まぁお前のお姫様衣装のことだけな」

「はぁ~、しばらくお姫様ネタでいじられるなこりゃ」

 ため息交じりに言う勇に、権之内は透かさず返す。

「俺はもうしっかりばっちり覚えたぜ。しばらくどころなもんか。何十年後かに同窓会をやった時にもそれを会話ネタに上げてやるよ」

「権之内……お前の鳥頭なら、数十年後も記憶に残っているのか怪しいな」

「ははっ、大丈夫だ。お勉強はここで」と言って権之内は自分の頭を指差す。

「そんで青春の記憶はこっちで覚えてる」と言うと次には自分の左胸をトントンと叩いた。

 頭よりも心で覚える記憶の方が長持ちするというのが権之内の持論だった。


「お前、そんなに器用に記憶スペースを分けているんだな」

「ははっ、まぁな。勇、お前本当に疲れた顔してるな。でも、充実感も見えるな。ほら、カロリー補給しろよ」

 権之内は屋台で購入したリンゴ飴を勇に勧めた。

「遠慮しとくよ。こっちもたくさん食った後だしな」


 ここで一世がニヤつきながら次の話題を振る。

「ぷすす……勇、そういやお前ぷすす……劇の後は予てから楽しい時間を過ごす約束があったとかなかったとか、ぷすす!」

「おい止めろそのムカつく笑い。……なんで?」

「いや~今朝みっちゃんが言ってたんだよ。嬉しそ~にさっ」

「なんだよ勇、それで姿が見えなかったのか。まぁそうしてお前が青春のお楽しみタイムにある中だから、まなみさんと妹は俺がナビゲートしておいたぜ!ふふっ、美魔女と美魔女予備軍との楽しい祭りになったぜ」

「おい権之内、お前も色々止めろ。この際だから言っとくけど、お前は家の親父から危険人物扱いされているからな」

「ふふっ、俺のような者が旦那さんの目に留まるなんて光栄なことじゃないか」


「でさでさ、どうだったんだよ。何したんだよ勇」一世は興味津々で二人の時間について聞き出す。

「いや何って、普通に焼きぞば食って、焼きそばを皮切りに……あとは食い物の屋台全部回って、全部食って……そんだけ」

「おいおい勇よぉ、仮にも幼馴染ヒロインと二人して祭りを回ってその想い出が食って飲んでだけとか、お前どんだけ色気ない青春なんだよ?」そんなことを言って来る権之内の上から下までを見て勇は返す。

「いやお前、どの口でそんなこと言ってんだ?」

 権之内は片手にイカ焼き、もう片手にフランクフルトを持っている。そして床に並べたビニル袋にはたこ焼きやお好み焼きなどの食べ物がたくさん入っていた。全部自分で食うつもりなのだ。

「へへっ、同級生だからお前だって知ってるだろ?青春ってのはとにかく腹が減るんだ。まずは食ってからでないと色気だ何だに気を回す余裕も無いよな」


「はぁ~勇、余裕無いんだよな~この手のことになると」

「何だって一世?」

「何だってないさ。いつもの仲良しな二人で安心したって話さ」


 ここで異世界組の追加である。

「お~い、三人衆。サボりかい?」

「ゴライアスか、サボってるわけないだろ。俺達の片付けは終わったの」

「勇ぅ~。どこ行ってたの?」セピアも駆け寄ってきた。

「お前がどこ行ってたんだ?実行委員の役割サボって放送で呼ばれてただろうが」

「へへっ、大福の大食い大会をしてたから、ちょこっと優勝しようと思って顔出してたの」

「優勝するようなヤツはちょこっとの顔出しで済まないの、ガッツリ顔出してんだよ」



「勇、黄昏れているね。時刻としてもそんなところだね」

「そりゃ黄昏れたくもなる。忙しかったからな」

「ははっそうかい。それよりどうだったかな、僕のニンデレオ役」

「お前らしくムカつく兄貴の役だったな」

「私の魔女の役は?」

「お前のも同じ感想だ」

「え~私兄貴の役じゃないのに~」

 一同は集まって談笑する。


 ゴライアスは窓の外を見る勇の横顔に向かって話しかける。

「文化祭ってのも楽しいものだったね。勇がこちらの世界のことが好きなのもちょっと分かったよ」

「別に好きとか嫌いとかじゃないけど。まぁ嫌いじゃないわな」

「君には異世界の救いなど必要ないようだね……」

「は?何だ?」

「いいや別に。それよりホラ、あそこを見て」

 勇はゴライアスの指差す先を見た。

「屋台の売れ残り商品をガツガツ食ってる君の幼馴染の姿が見えるよ。迎えに行った方が良いんじゃない?このままじゃ太ってしまうよ」

「だな。まったく、よく食うよな」

 みっちゃんは他のクラスの屋台の片付けの手伝いをしていた。と言っても余ったのを食べるだけだが。


 こうして平和な文化祭が終わって行く。今日という日が、勇達の最新の想い出になるのだった。

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