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第八十一話 俺たちの舞台で声を上げろ!

 勇とみっちゃんは楽しい未来を約束したが、そこに行き着くにはもう一仕事終えなければならない。

 文化祭一日目の勇達のクラスの出し物は、謎のサッカー文化伝授教室だった。そして二日目には、趣向を大きく変えてお届けするもうひとつの出し物、舞台演劇が待っていたのだ。

 本日は皆の文化祭第二日目である。


「諸君!今日まで良く頑張ってくれた!」

 舞台に臨む諸君を前にゴライアスが偉そうに声掛けを行う。

「我らが『劇団ダークネス』の旗揚げからだいたい半月が経った。本日が我々の晴れ舞台であり、同時に解散の時でもある。短い間だが、各々が魂に炎を灯してこの舞台に向かうべく準備を進めてきたはずだ。我々の想いは一つだ。今日の良き日を明日から誇れる青春の回帰点にすべく、全力を出してこの舞台を戦い抜こう。そして大いに楽しもう。青春は楽しんだ者こそが真の勝者だ!」

 ゴライアスの言葉を受けて皆の闘志が湧き立った。歓声が上がる。多くの者に何か呼びかけて熱い反応が返ってくる。そのことがとても嬉しいゴライアスだった。


「ゼロ、いや素人だらけでもはやマイナスからの出発となったこのプロジェクトを人様に見せられるだけのものへと昇華させた立役者が、諸君それぞれの師であるこの方、ダークネス向井講師だ。さぁ、舞台に臨む前最後の師の言葉をありがたく聞こうではないか。では、どうぞ」

 ゴライアスは自分の言葉を終えると、劇団のレベルを加速的に底上げした立役者にバトンタッチした。 

 ゴライアスが出した異世界を映すモニタにダークネス向井が映る。


「短い間ではあったが、私はこの期間中で与えられるものなら惜しむこと無く与えたつもりだ。そして皆も短い間に吸収出来るだけのことを精一杯吸収したものだと信じている。はっきり言おう。たったこれだけの期間にここまでのレベルアップが出来たなら上出来。正直言えば最初はここまでのことは期待していなかった。君達は劇団として悪くない力を持っている。このダークネス向井が太鼓判を押す。恐れることなく舞台に上がり戦うがいい。そしてゴライアス氏も言ったように、楽しむことを忘れないでくれ。演劇は娯楽の頂点に輝くコンテンツの一つでもある。念頭に置くのは『楽しむこと』だ。十分に楽しみ抜いた末にカーテンコールを迎えてくれ。以上だ」

 師の熱い言葉を受けて皆はまたもや活気づく。歓声が上がっている。


「ウォォぉぉお!ダークネス!ダークネス先生バンザイ!」

 思いを叫んだ後、一世はダークネス向井コールを始める。

「ダークネス!ダークネス!ダークネス!ダークネス!それ、むっかい!」

 一世がこれを何度と言う内に皆も声を合わせる。


「では、舞台で見せる素晴らしき物語を考案した二人にもちょっとだけお言葉をもらおう。ささっ、二人共どうぞ」

 ゴライアスはみっちゃんと一世から言葉をもらおうとした。


「皆ぁ、輝いてるぞ!もちろん私もだ!というわけで楽しく行こうね!」

 シンプルにまとめたみっちゃんの思いが弾けた。

「うぉ~~!」

「やってるぜぇぇ!」

「かわいい~!」

「好きだ~」

 みっちゃんは人気者だったので、愛情表現が籠もったものも含んだ歓声があちこちから飛んだ。


「みんなぁぁ!」

 一世が声をかける。

「みんなぁ!俺は前田一世だ!」

 誰もが知ってる事を叫ぶ。切り口が斬新なので皆は気になって一世に注目する。


「俺はこの舞台を成功させたい。皆も同じ気持ちでいると信じている。皆にとって人生最高の日が今日とならなくても良い。今日以降、各々の人生の中で今日という日を追い越す最高の日をどんどん作り、楽しい記録更新をどんどん果たせば良い!いや、むしろそれを願う!俺が考えた舞台に関わった皆には、今後もきっと笑っていて欲しい。だがしかし、俺たちが今のところ生きて来た17、18年の段階では、ひとまずここが人生第一のピークとなって欲しい。そんで人生の最後には、あの日前田一世とかいうヤツが考えた芝居をやって楽しかったなぁ~とか思い出しながら笑って死んで行って欲しい。俺はそんな思いをこめてこれを書いた!」

 これを受け、皆からまたもや「うおぉぉぉ!」という歓声が上がる。


「ノーベル平和賞やるぞ!!」

「変態だけど格好いいぞ!」

「よっ!令和のシェイクスピア!」

「本当は二十四世のくせに!」

 こんな声も皆の中から聞こえた。


 前田一世とは、クラスの中ではもちろん浮いた存在だった。悪いヤツではないものの、変人なのは明らか。だからキモい、怖い、不気味などと思われることで、皆からなんとなく距離を置かれていた。しかし、この演劇に向けての一世の態度については、誰もが熱くて真っ直ぐなものを見たのだった。純粋に舞台を良き物にしようとする一世の熱を前に、皆はそれまで引きまくっていた距離感をぐっと縮めて一世を身近に感じるようになった。これまで一世に気軽に口を効けなかった者達も今は何でも声をかけるようになったのだ。良い変化だ。


「それじゃ皆、時間だよ。今にも幕が上がる。再び下りるまでの間、しっかり楽しもう!」

 ゴライアスは皆を送り出す。


 観客が集まった体育館にアナウンスが響き渡る。

「それでは今より3年A組の舞台演劇『サンデレオ~ガラスの靴を履くのは女子だって誰が決めた?~』を開始します」


「しゃあ!行くぞい!俺たちの舞台じゃい!皆声出せや!楽しむぞい!」

「うるせぇよバカ!もう始まってんだよ!」

 幕が半分上がった段階でまだ叫ぶ一世を勇が叱りつける。二つの声は体育館の隅々まで響く。それを受け場内観客はくすくすと笑って返す。

 まだ何も始まらない前から、劇団ダークネスは観客のウケを取ることに成功した。

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